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 少年は浅い息を数回繰り返していた。

 少年の手には腰ほどまである長剣が握られており、剣を握る手は汗を掻いている。

 若緑色の髪は薄汚れ、体のあちこちには擦り傷がある。

 これと対峙しているのは少年よりも遙かに大きい生き物だった。栗色の肌を持ち体は岩のように頑丈だ。目は血走り、半開きの口からはよだれが筋をつくって垂れている。姿勢を低くして今にも獲物に噛みつきそうだ。

 ひんやりと冷たい壁に背を預け、少年は剣を握り直し地面を蹴り上げた。

 少年が頭上に飛び跳ねるのと、彼がいた場所にクレーターができたのはほぼ同時だった。視界を覆う砂埃から出てきたのは少年が対峙していた生き物だ。

 頑丈な作りの壁にはひびが入り、地面は陥没(かんぼつ)している。

 少年は頭上を見上げる生き物の頭めがけて剣を振り下ろし、あたりには断末魔が響いた。

「You win」

 機械の声が少年の勝利を伝えた。

 手の甲で額の汗を拭い、剣を鞘に収めた少年は広々とした丸いドーム状の部屋から出た。すぐ側の壁の収納箱に剣を収め、さきほどの実技を見ていただろう教師の下へ足を向けた。

 教師は二十代半ばくらいの男だ。袖無しの上着に身を包み、両腕にはアームガードをしている。金の髪を首の後ろで束ねている。女生徒の間ではそれなりに人気のある教師だ。

「ラザエル先生」

「ああ、ジル。少し待っていてくれ」

 手元のボードをいじる男の指は(せわ)しなく動いている。少年の成績を記録しているのだろう。

 すべてを記録し終えた男――ラザエルは顔を上げた。

「さすがだよ、ジル。相変わらず優秀だな」

「お褒めに預かり光栄です」

「あれはおまえらの学年じゃ最高レベルの奴なんだ。中々どうして。あいつにも見習ってほしいもんだ」

 あいつとは誰を指しているのか二人の間でわざわざ名指しをする必要がなかった。

 若緑色の髪の少年――ジルは、どこかで油を売っているだろうあいつを、この場にいるはずもないのにぐるりと周りを見渡して探した。

「ったく、あいつに言っといてくれ。このままだと単位をやらないってな。数日中に俺のところに来るように言っとけ」

 ラザエルは体の向きを変え、大声を張り上げて次の生徒の名前を呼んだ。

 ジルはバッグから無造作に取り出したタオルで掻いた汗を拭いていく。瞬く間に土埃と汗と血で、真っ白だったタオルは汚れた。

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