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勇者なんていない世界で  作者: あかい 葵
一章 ハンターの勇者
8/11

第三話 ナイフ

 


 ヒカルはまどろみながら8回の鐘の音を聞く。

 立派な引きニートの朝は遅い、というより彼は起きた時間を「朝」と呼ぶ。

 差し込む光でまだ早朝と判断したヒカルは、当然のように二度寝を決め込もうとして、軽快なノックの音に阻まれる。


「やっべ。今日から仕事なんだった」


 慌てて飛び起きたヒカルは昨日着替えもせずに寝てしまった事を思い出す。

 まあ、着替えすら持っていないだけなのだが。

 これ幸いと顔をゴシゴシ擦っただけで準備完了。

 もう起きてましたと言うような顔をしてドアを出る。

 ハンター初日からニートらしく起きる気もないなんて、恥ずかしい姿を晒さずに済んだ。実に幸先がいいとヒカルは満面の笑みを浮かべる。


「おはよう」


「ああ。おはよう」


 そんな他愛のない挨拶も、サザナミの可憐な唇から紡ぎだされたというだけでヒカルには心地よい。

 これから毎日、こうやって挨拶するのだろうか? 

 ベッドから出てすぐにサザナミと二人っきりで朝の挨拶を交わす――。

 字面だけ並べてやや卑猥な妄想に結び付け、ニマニマとしながらサザナミと共に食堂に降りるヒカルは、派手な寝癖が色々と物語ってしまっていることを知る由もなかった。




「見習いなのに余裕だねぇ」


 朝食を運んできてくれたおかみさんの皮肉めいた言葉に、ヒカルは意味が分からずただ彼女を見上げる。

 見習いと分かったのは、クラスカードのレベルを見たからだろう。

 しかし、おかみさんのお腹のような余裕なんてヒカルにはこれっぽっちも無い。

 しっかり「余裕」のあるサザナミの胸元にチラリと視線を送り、うんうんと頷いて心の余裕を取り戻す勇者。

 もしかして、昨日はお楽しみでしたね的な勘違いをされているのだろうか?

 閑散とした食堂を見渡して、ヒカルはようやくおかみさんの言わんとする所を理解した。


「そうよね。夜に蝋燭を使ったりする世界だと、夜明けぐらいから動かないとダメよね……」


「だな。まあ、今は焦らないで余裕を持って行動する方がいいって」


 予想出来たとはいえ考えなければ、やはり予想外。油断大敵と言ってしまえばそれまでだが、たかが数時間の事だし、とヒカルはあっさり割り切ったのだが。

 下くちびるに人差指を当てて、ため息混じりなサザナミは優等生だけあって完璧主義なのだろう。

 慌ただしく食事を始めたサザナミに、ヒカルは苦笑する。


「大丈夫。今日は昼まで情報収集の予定なんだし」


「……そうね」


 ヒカルはゆっくりパンを手に取ると、昨晩決まった事を思い出し咀嚼する。


『しばらく二人だけでハンターとして活動し、この世界に慣れながらお金を貯めること』


 ありきたりだが、これでも分かる範囲で死なないことを懸命に考えた結果だ。


 生きる為の金を得る方法、すなわち職業。

 結論ありきのようだが、現状でハンター以外の選択肢は選びにくい。

 まず週給制や月給制の職は除外。

 ぶっちゃけ給料日まで耐えれるだけの金がない。身寄りがない、家が無い、給料日まであと1カ月では間違いなく飢えて死ねる。


 宿屋で暮らす事を前提にすれば、すぐ手元に金の入る日雇いの仕事しか選べないし、運良く仕事が見つかっても今度は税金が払いきれるのかという問題があるのだ。

 そう、ハンターは税金が安いのだ。

 加えて、依頼や討伐さえこなせば毎日が給料日と、貧乏人にはピッタリの職。

 結局、職探しをする暇があるなら、さっさとハンターをやろうと言う事だ。


 確かに魔獣と戦う危険を背負うが、それは見方を変えればいいだけで。

 戦えばレベルが上がる――。

 当然レベルが上がれば死に難くなるわけだ。

 お金を稼ぎつつレベルも上げれると思えば悪くはない。


 タイムリミットまで1ヶ月半、目標金額は26万ゴールド。

 クリアできなければ、奴隷コースが待っているが――。


 朝食と現状確認を終えたヒカルは軽く髪を掻きあげて、

 派手な寝癖にようやく気付くのだった。



 ◆■◆



「じゃあ、11時にここで」


「分かった」


 アルフェリアの一日は24時間であり、2時間ごとに鳴る教会の鐘を目安に行動すればいいとはサザナミの言だ。

 いつのまに調べたのかはヒカルには分からないが、T大A判定の彼女の言う事に間違いなんてないだろう。


 ギルドに入って行くサザナミを見送って、ヒカルは街中をぶらぶらと歩いてゆく。

 大通りに目を遣れば、食料を扱う店に次いで武器防具を扱っている店が目立つのはこの世界の事情か。

 日本では武器を売っている店なんて見た事がなかったが、雑貨屋にも武器が置かれていたりするのはなかなかシュールな光景だ。

 ほうきの横にこっそり槍が立ててあるのはまだ良いとしても、焼き菓子の隣に細剣や短剣が並んでいるのは日本人としては首を捻らざるを得ないのだが。


 寄ってくる店員をうざったいな、と思いながらも、ヒカルは商品を指差し説明を聞いていく。

 熱心に解説してくれる店員さんに引きつり気味の笑顔でうんうんと分かったように頷きつつ、心の中では「ごめん。俺、金持ってない」とペコペコ謝る小市民。

 そもそもお金を持たせてもらっていない彼には買う気なんて全くない。


(正直、店員が無駄に近づいてくるのって疲れるんだよな)


 苦手意識と申し訳なさに逃げ出したくなるのをグッと堪え、また次の商品に指を向ける。

 ヒカルのミッションは店に対する軽い嫌がらせ、ではなく情報収集。

 ヒカルはファンタジーの定番として酒場や教会なんかでこの世界アルフェリアや魔法について聞くつもりだったのだが、昨日の話し合いでサザナミに却下されたのだ。


『ヒカル。地球だったらどうか考えてみて?』


 ヒカルは考えた。

 酒場は居酒屋で、教会は神社もしくはお寺。

 魔法は……、電気でいいか、と脳内変換をクリックすれば、妄想世界のヒカル君が動き出す。


 居酒屋で「地球ってどういう世界ですか?」と口走る真剣な眼差しの男。


 お寺で「電気ってどういうモノなんですかね?」と爽やかに微笑んでみる……。


『不審者』


『……そうよね。当面、この街で暮らすんだから、変な目立ち方はしたくないでしょ』


 素直に聞けばアウトオブベース認定間違いない。

 かといって、見知らぬ他人から巧みな話術で自然に聞き出すなんて、この世界の常識が無い二人には荷が重い。間違いなくどこかでボロが出てしまう。

 しかし、売り手と買い手と言う属性さえ付けば話は別になる。

 商品について色々と尋ねても不自然さは極めて薄いし、多少おかしな事を口走ったとしても、機嫌を損ねた振りをして店を出ればいいだけ。「客」という相対的な立場の強さも与えてくれるのだ。

 加えて、売っている物を見るだけでもお金の価値や、文明の進み具合まで把握できると良い事ずくめ。

 確かに店で情報を集めると言うサザナミの提案は金もかからず安全で文句のつけようも無い。


(確かにサザナミのアイデアは理に適っているんだけど……)


 店を回るヒカルを予想外に苦しめるのは、この世界の店員たちの攻撃力の高さだ。

 無限コンボの如く続く商品解説に、覇王の如く発せられる「買うよな?」オーラ。

 ハメ技と分かっていても、情報収集中の身としてはノーガードで飛び込むしかないわけで。

 多彩なスキルと連携技が、勇者ヒカルの精神をガリガリと削るのだ。

 押しの強い強敵たちのセールスを涙目で耐え凌ぎ、フラフラになりつつも次なる強敵を求めて街を彷徨うその姿は正に勇者と言えよう。

 ――ただし、豆腐メンタル。


 そもそも、豆腐勇者が店の調査を買って出たのは、安全なギルドでの情報収集をサザナミに任せるためで、【鑑定】がある自分の方が商品調査にも向いているだろうと踏んでいたから。

 正直ここまで店員たちの攻撃を受けることになるとは思っていなかったのだ。


 ようやく10の鐘を聞けたヒカルは、小奇麗な商店の前で深呼吸をひとつ、その扉を潜る。

 店内には数人の客。

 いらっしゃいませ、と声を掛けられてビクリとするが、年配の店員はにこやかな視線を送ってくるだけだ。

 落ち着いた雰囲気にホッと一息つきながら、店内を見渡せば、様々な物がきちんと陳列され、武器防具の数も多かった。

 ぶら下がった値札から、ここが高級店だと分かるようになったのは、何度も修羅場をくぐった成果といえよう。


 鋼の剣+2:通常

 鋼製の片手剣


 武器や防具を鑑定していけば、高級店だけあって品質の高い物が多い。

 手にとって確認すれば、装飾もまた素晴らしい。

 ヒカルにとって何より素晴らしいのは未だに店員が近づいてこない事なのだが。


(ここまで落ち着いて鑑定できた店は初めてなんだけど……)


 棚に並んだ金属製の小箱を見てヒカルは溜息を吐く。

 まだ彼が見た事がない魔法陣と思われる紋様が描かれた商品だ。

 鑑定すれば、それで済むハズなのだが――


 水法具:通常

 水の魔法具


 ――こんな感じで、わけの分からない物が多いのだ。

 不親切な鑑定さんにヒカルがぶーたれてもデレてくれる訳もない。

 結果、商品の説明を求めれば、売る気満々の店員に精神を削られ、ストレスがマッハで溜まるという既定路線。

 それでもヒカルは義務感から店員に声を掛ける。


「これって何ですかね?」


「はい。魔晶を使って水を出す魔法具で、ハンターの方が使いやすいように小型化されたものですね」


 当然続く筈のセールストークにヒカルが身構えていると、おじさんはにこやかに答えるとすぐにカウンターへと戻ってゆく。


(売りつけようとしない、だと……?)


 ヒカルが何度か質問をしてみても、店員サマは実に心地良い距離感を保って接してくれるのだ。

 ようやく見つけたオアシス――。

 ヒカルは柱時計が置いてあるからと言い訳ひとつ、時間が来るまでシルビー商店で粘り倒す事を決める。








「ごめん。待った?」


「大丈夫。アタシも今終わったところ」


 思いのほか情報収集のはかどったヒカルがギルドに駆けこめば、フードを被ったサザナミがすでに掲示板の前で待っていた。

 ちょっとデートの待ち合わせの台詞っぽいな、なんて思いながらも、お互い何事もなかったことにホッと一安心するヒカル。


「これを受けようと思うんだけど」


 サザナミが指差す用紙に書かれた依頼は薬草採取。10本で5千ゴールドの常時依頼だ。

 宿代は二人で1万ゴールドと考えれば明らかにマイナスだが、ハンターの初仕事としては無難だろうとヒカルは首を縦に振る。

 気が急く様子のサザナミに連れられて、彼は少々悩みながらもカウンターへと向かう。


(確か常時依頼って、受付不要だったと思うんだけどな)


 しかし、前日の説明を真剣に聞いていなかったヒカルは、T大A判定に口出しなんて大それた事と、大人しくカウンターに並ぶ。


「薬草採取を受けたいんですが、注意する事ってありますか?」


「……そうですね。数人で活動する場合、報酬の分配についてはギルドは関与しませんが、必ずパーティを組むという決まりは守ってください」


 パーティとは単に行動を共にする仲間を指す言葉ではなく、クラスカードの機能により接続された集団という意味らしい。クラスカードを重ねて誘えば、5名までのパーティが組め、経験値の共有なんかができるらしい。


「クラスカード、オープン」


「クラスカード接続」


 さっそく言われた通りにヒカルはパーティを組んでみる。

 なんとなくサザナミを近くに感じる気がするのだが、実際に近いからだろうか。

 二人で目を見合わせても答えは出ない。


 ヒカル ヒビノ

 職業:ハンター

 職種:勇者 Lv2

 種族:人族 17歳

 称号:なし

 所属:セントランド、ハンターギルド

 接続:サザナミ ミドウ


 クラスカードの新しい項目「接続」がパーティと言う事だ。

 当然ヒカルは「今、俺はサザナミと繋がっている!」などと心の中でほざくのを忘れたりしない。


「あと、持ち物は揃ってますか?」


 受付の男性が持ち物について丁寧に説明をしてくれているのを脳内に刻み込みながら、横目でサザナミを見やるヒカル。


(やっぱ上手い……、よな)


 サザナミがわざわざカウンターに寄ったのは、初心者アピールをしてアドバイスを貰うためだ。

 理解はできても、こういう情報の集め方は自分には出来ないとヒカルは自覚している。

 隣の商業ギルドのカウンターで買えば安いですよ、という言葉に頭を下げて、隣に並んだ商業ギルドのカウンターへ素直に回る。


 回復剤、毒消し薬をふたつずつ。

 リュックに水筒、採取用のナイフ。

 周囲の大雑把な地図が千ゴールド

 しめてお値段1万4千ゴールド。

 所持金は残り3万6千ゴールド也。


 サザナミがお金を払う度に、ヒカルの心臓がキュッと詰まる。

 お金がないと間違いなく寿命が縮む。

 準備が進めば否応も無く緊張感も高まる。

 ギルドから街の出口はすぐだ――。



 ◆■◆


 薬草採取の目的地は駆け出しの森。

 街を出て南へ30分少々歩けば辿りつく名の通りレベルの低い「狩場」だが、薬草採取と言えど戦闘はある。


 初めての戦いを思い出し、ヒカルの身体の動きは固い。

 例えゲームの様な世界でもここは明らかに現実。

 犬との戦いはなんとか乗り越えたとはいえ、そうあっさりと恐怖が無くなるわけではないのだ。

 二人が自然と並んで歩けているのはその緊張によるもの。


「ヒカル。敵に会ったら、最初に名前を教えて欲しいんだけど大丈夫?」


「鑑定しろってこと?」


「うん。もし時間がかかったりするようならいいんだけど」


 来るべき戦闘の事で頭が一杯だったヒカルは、話しかけられた事により少し弛緩する。

 鑑定は一瞬で済む。

 結果を声に出す余裕があるかどうかだが、ヒカルは恐らくいけると判断する。


「いや、大丈夫だと思うけど、何で?」


「この辺りで出る敵の事はギルドで調べて来たんだけど……」


 サザナミはギルドの資料室でこの辺りに出没する魔獣の情報を一通り調べて来たらしい。

 対して、「戦う」という行為の事しか頭に無かったヒカルは、戦う「相手」の事なんてすっかり失念していたわけで。


(サザナミに助けられてばかりだな……)


 確かに一度命を助けたかもしれないが、それすらお互い様なのだ。

 ニートがばれた後の話し合いにしても、魔獣のことにしても、どうにもサザナミに頼り切ってしまっている。

 自分の担当は街の調査だったなんて言い訳にもならない。

 精神年齢27歳が正真正銘の17歳におんぶに抱っこ。


 ニートで前世を終え、ハンターとしてサザナミに寄生して育てば、数年後にはクラスが「ヒモ」とかに変わってしまうかもしれない――。

 そんなある意味順当な未来を拒絶するべく頭を振るヒカルの視界の端を、ヒュンと白い波が掠める。


「……サザナミ?」


 やや項垂れ気味だったヒカルが視線を隣に移せば、大きく腕を振り下ろしたサザナミの姿。


「アタシも、戦う」


「っ――! 戦闘は、俺がやる」


 射抜くようなサザナミの凛とした視線と、彼女の手に固く握られたナイフ――。

 一瞬、気圧されたヒカルは彼女の意図を理解しつつも、混乱する。


「でもっ!」


「サザナミは回復に集中して欲しい」


「ヒカルだけに戦わせるなんて出来ないっ!」


 叫び出してしまいたいようなもどかしい気持ちと裏腹に、ヒカルの口を突いたのは単調な言葉。

 圧倒される程の彼女の決意は、自分と一緒に戦うという事。

 ――例え命を懸けても。


 ヒカルの胸で渦巻くのは歓喜と情けなさ。

 それでも、彼は溢れ出す歓びに頷く訳にはいかない。

 飛び出してしまう回復職を守りながら戦える程ヒカルは強くない。


 彼女の視線と決意を感じながら、続く言葉を選び切れないヒカル。

 サザナミを翻させるのは簡単だ。

「理解」してもらえばいいだけ。

 しかし、きっと「納得」はできないだろう。

 頭で理解するのと心が納得するのは全く違うのだとヒカルは良く知っている。

 それだけに、彼はそのジレンマに彼女を追いこんで傷つけてしまいたくは無いと思いつつも、現実を突き付ける。


「……これ、振ってみて」


 サザナミに渡した銅の剣は80センチ程度の長さでそれなりに重い。

 ヒカルが問題無く剣を振れるのは間違いなく「勇者」というクラスの力。

 昨日の山歩きの時に「聖女」はおそらく魔力型だろうとヒカルは判断している。

 やはりまともに剣を振るどころではないサザナミは、力の無さを考えても後衛で間違いない。

 涙目で必死で剣を振ろうとするその姿が痛々しい。


「やっぱり、足手まといよね……」


 うつむいて呟いたサザナミは、ヒーラー故の後ろめたさを感じているのだろう。

 身を呈して戦うことが正しいと思っているのは痛いほどにヒカルに伝わってくる。

 ヒーラーが暴走してパーティが破たんするなんてゲームでは良く聞く話だが、そんな説明で果たして、「納得」してくれるのか――。


 口下手な自分を呪いながら、ヒカルは自分ならどうすれば納得できるか? と必死に知恵を絞る。


「守って、欲しいんだ」


「え?」


 初めて戦った時、ヒカルは回復を貰える安心感に救われた。

 今ここに立てているのも、サザナミがいるから。

 自分の心情を晒すのは得意ではないが、敢えて素直に、正直に話す。


「情けないけどさ、正直、今でも逃げ出したい。俺は、その、怖がりだからさ、サザナミが回復してくれないときっと怖くて戦えない……。サザナミは足手まといなんかじゃないんだ」


「……ごめんなさい。ヒカルの、言うとおりにする」


 キュッと口元を引き結び目を落としたサザナミの心の内はヒカルには想像しきれない。

 少し卑怯な手だったと思いながらも、胸を刺す少しの痛みを抑え、ヒカルは静かに前に進む。


(サザナミはすごいと思ってたけど、そうじゃない……)


 幸せで、痛い。

 怖いけど、熱い。


(情けない……。だけどっ! やるんだ。俺がやる! 絶対に、俺が――)


 ――守りたい。


 初めての感情、入り混じる気持ちは。



 ヒカルには見えてしまったから。


 サザナミが戦うと言った時、


 握りしめたナイフが、


 小さく震えていたのが――。








 二人の目の前には、駆け出しの森。






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