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勇者なんていない世界で  作者: あかい 葵
一章 ハンターの勇者
6/11

第一話 新たな始まり

 ヒカルとサザナミは大きな街壁の前に立っていた。

 新たな街を前にして、二人の瞳は希望に満ち溢れている、ハズなのだが、正直言って濁り切っている。

 というのも、別に勇者というクラスが期待外れのクラスだったからではない。


 原因は馬車である。

 村からガドゥに連れ出され、すぐに馬車に押し込められたのだ。

 ヒカルの馬車のイメージは馬が山型の食パンを一斤まるごと引いているような形状の幌馬車だったのだが、異世界の馬車はやたらと金属の部分が多く高さも低かった。

 皮らしきものを巻いた金属製の車輪と大きなバネの付いた車輪受けを備え、小さな装甲車といった風体。

 しかも、ロープで馬車を引くのではなく、やたらと大きな二頭の馬に金属製の部品でがっちりと固定してあった。

 中は御者席と別に座席が2列あり、席の前には安全棒と思われる金属の棒が渡してある。透明度がさほど高くないものの窓ガラスも付いていて、ちょっとした車の中のようで。


「しっかり摑まっとけよ」


「ああ」


「はい」


 ガドゥの声に二人が安全棒を握れば、ゆっくり馬車が滑りだす。

 初めて乗った馬車にはしゃいだ歓声を上げて、濁ったガラス越しに流れる景色を子供のように覗き込む二人。


 ……最初は良かった、最初だけは。

 次第に無言になり、引き攣った顔で目を見合わせても、止まらない加速。

 後ろへと飛んでゆく景色を見る限り原付より早い。時速30キロどころではない。

 道路がアスファルトで舗装されているというなんてこともあるはずもなく、当然、揺れに揺れ。

 二人は知らぬ事だが、二頭の馬は魔馬と呼ばれる魔獣と馬との混血種で、その能力は馬などとは比べ物にならないのだ。

 まぁ、知っていた所で結果は何も変わらない。


「きゃぁあああああああああああ!!」


「止めてくれぇええええええええええええ!!」


 ガドゥは二人の叫びに面倒臭そうに首を回し、チラリと二人に視線を送るのみ。

 その程度で叫ぶなんて大げさだと思われるかもしれないが、決してそんな事はない。

 現代の自動車や遊園地の乗り物とは明らかに違う点があるのだ。

 例えば、ジェットコースターに乗って楽しいと思えるのは、心のどこかに安全だという意識があるから。

 そう、安全性というただの一点。

 この馬車にはその最も重要な一点が抜けているのだ。

 言わば、コースを飛び出すかもしれないジェットコースターに無理やり乗せられたようなモノ。

 そんな物が曲がりくねった道を走り、大木が窓を掠めていくのだ――。



 笑えないアトラクション、真・絶叫マシーンは30分ほどで静かにはなった。

 とは言っても、馬車が止まったわけではなく、単に二人の気力が尽きただけ。

 ただ無言で安全棒を力の限り固く強く握りしめている二人は、青い顔と据わった瞳という新たな装備を手に入れている。

 叫び続けるのには意外と体力と気力が必要なのだ。


 しかし、そんなある種異常な静寂は、嵐の前の静けさと言う言葉の通りそう長くは保たない。

 具体的に言えば、視界が開けてきた、と言うだけの事なのだが。

 しかし、ふたりの異世界人にとってはその程度のことで済まない。

 そう、この馬車には、RPGのボスの如くさらなる秘めた力が存在するのだ。


 ――村から離れ整備の追いつかない長い街道、そして御者の命令。

 この二つの条件を満たせば魔馬の引く馬車は、最終形態に進化する――。


 ガドゥの振るう鞭がパシンと軽い音を立て、巨大な魔馬が軽いいななきで応えれば、馬車は最後の進化に向かい飛ぶ如く――実際は飛び跳ねているのだが――爆走する。

 悪路を高速で走れば揺れるだけでは済まない。車が跳ね、身体が浮く。

 浮いた物は落ちる。すなわち、座席に叩きつけられる。

 絶叫から悲鳴、恐怖から苦痛へ。

 痛みのせいで気絶する事すら叶わない鬼畜仕様。


「のぁあ゛っがぁあ゛あ゛あ゛っ!!」


 絶叫マシーンから拷問マシーンへ――。

 叫ぶ気力すら失った筈の二人の口からさらなる魂の叫びを絞り出す。


 後にヒカルが命名した廃人作成機に乗せられ移動することおよそ3時間。

 二人の生ける屍と元気な大男が3メートルほどの街壁を見上げる中、4つの死んだサバの目があるのはこういう理由である。



 ◆■◆


「さっさと行くぞ」


 太陽が傾き影を引き延ばしつつあるが、まだ赤くは染まっていないそんな時刻。

 魂の戻り切らない二人は、街門の入口に立つ兵士に請われるままにクラスカードを提示していた。


「あんたはいいが、残りのふたりは下民か」


「ああ。こいつら納税してハンターになるんでな。俺が付き添いってわけだ」


 慣れた様子で進むガドゥに、死んだ魚の目がついた金魚のフンがノタノタとつき従う。

 街の入口から続く大通りを取り巻くのは木造と石造りの建物が半々といったところだ。

 道なりに進めば、すぐに一際大きな建物に辿りつく。


 ヒカルは道中色々と聞くつもりでいたのだが、拷問マシーンの中ではそれすら叶わず。

 結局、何の予備知識も無いままに、ファートギルドと書かれた両開きの扉を潜る。

 正面に大きなカウンターがふたつと小さなカウンターがひとつ。酒場のようなところを想像していたが、ギルドはむしろ役所の風体で受付のカウンターにいくつかの列を抱えていた。

 天井からぶら下がった看板によると、一番左側の大きい方のカウンターが目的のハンターギルドで、順に商業ギルド、魔術ギルドと並んでいるようだ。

 ヒカルは不意に感違和感を覚え、立ち止まって首を傾げてみるが、どことなく感じた気持ち悪さの正体が見当たらない。

 とにかく納税が先だと、さっさと左側のカウンターに向かうガドゥに慌てて付いて行く。




「初年度の納税と登録が二人だ」


「クラスカード出しな」


 ガドゥがぶっきらぼうに声を掛けると、応じるかのように愛想の無い声が返る。

 カウンター嬢、いや、カウンターのおばちゃんの視線に反応し、ヒカルは微かな期待とともに一歩踏み出した。


(あんな田舎の村じゃなくて、ここなら『勇者』を分かってくれるかもしれない――)


 そう、ヒカルはまだ『勇者』としてチヤホヤされる生活を完全には諦めてはいない。

 小さな村の教会などでは無く、しっかりした所で調べたいと思っていたのだ。

 結果がどうあれ、ガドゥが税金を払ってくれれば下民を脱出してハンターにはなれる。

 ヒカルは小さく頷くと、振り返りサザナミを一瞥する。

 胸を張り、覚悟を決めてクラスカードを突き出した。


 ニートから新たな道へと臨む彼はひとまわり大きく見えた。

 身長が伸びた訳ではない。

 カウンターを覆う様に胸を張り、不自然につま先立ちでプルプルしている必死なその姿。


(見えちゃダメだ。見えちゃダメだ! カード見えちゃ、ダメなんだからねッ!)


 ――単にサザナミにカードが見えないようにしているだけだ。ニートは基本的に恥ずかしがり屋さんなのだ。

 そう、サザナミはヒカルがニートだとは知らない。


「あんた職業があるのに所属もないのかい」


「……スミマセン」


 所属が無いのは税金を納めていないから。

 この中年の女性の言葉に険があるのは職があるなら納税ぐらいしろということだ。

 残念ながらヒカルのクラスカードには『職業:にーと』の文字が輝きを放っているのだ。おウチを無駄に警備する崇高なる職業について詳しく説明してやりたくなるヒカルだが、後ろにサザナミがいる以上そんな事は出来るわけがない。

 何より『勇者』についての言及がないことに、未だつま先立ちのヒカルはプルプルを加速させる。


「えっと、『勇者』ってクラスは……?」


「ただのレアクラスだね。聞いた事がないから、新しく生まれたクラスだろうね」


『勇者』はヒカルの小さな希望とともにあっさりぶった切られた。

 いかにスペックが高くても、新しいクラスと断じられれば『勇者』に価値は無い。

 今求められているのは『勇者』というだけで優遇されるほどのネームバリューであり、新しく生まれた『勇者』というクラスにそんな伝説的な付加価値があるわけがないからだ。

 後々、勇者と言うクラスが優遇されることになっても、今の金欠状態には何の足しにもならないのだ。

 まぁ、勇者を否定されるのも二度目なので、少しは上手に受け身が取れたヒカル。

 さほど精神的には堪えていない。


「とりあえず初年度の税が、ふたりで4万ゴールド。あと、ここで変更したらセントランド所属になるけどいいかい?」


「流石に、よその国まで連れてく気はねえよ」


 素直に会話を受け止めれば、セントランドというのはこの国の名前だろう。ガドゥが金色の四角い硬貨を1枚受付に渡すと、また教会で見たような黒い金属の箱がヒカルの手に当てられた。

 マーニさんの時の素晴らしい感動を思い出し、うっかり目線を上げれば、不機嫌そうなおばちゃんの顔がヒカルの視界に映る。

 ショッキングな映像にがっくりと肩を落としつつも、今は職業がハンターに変わるのが先決だとヒカルはため息を呑み込んだ――。


「刻みし理を解き放て、【クラスカード変更】」



 ヒカル ヒビノ

 職業:ハンター

 職種:勇者 Lv2 

 種族:人族 17歳

 称号:なし

 所属:セントランド、ハンターギルド


 浮かび上がった人生、いやクラスカードからついに消えたニートの文字にヒカルの頬も緩む。下民から脱出したことを喜ぶべきなのだろうが、湧き上がる感情はお付き合いの長さにどうしても比例してしまうものだ。

 言うなれば、国家権力の力を借りても抑止しきれないストーカー。職安という力を持ってしても、未練タラタラの恋人の如くヒカルに付き纏い、重苦しい溜息を彼に強いてきたのだから。


 ヒカルは更新されたカードをにんまり眺め、ひとり悦に入る。村では作成してすぐに消してしまったが、もう見られて困る物は何もない。

 カードの文字を一文字ずつ確認して、不意に先ほどの違和感の正体に思い当たる。


(知らない文字だ……)


 あまりに自然に読めていたせいで、今まで気づかなかったのだ。

 そういえばギルドの中の色んな文字が普通に読めていた。気付くの遅すぎっ、と小声で突っ込みを入れると、ヒカルは脳内のデータを最初から気付いていた事にすべく改竄し始めた。愛想のない受付のおばちゃんにぺこりと頭を下げ、プルプルに疲れた足を休めるべくサザナミに立ち位置を譲る。


「ほぉ。学生さんかい? セントランドで登録になるけどいいのかい?」


「はい。お願いします」


 ニートを知らないのならやはり正義が可愛いのだろうか。

 急に優しくなったおばちゃんの声にヒカルは世の不条理を嘆くが、不条理にだって現象としてきちんと原因と結果があるのだ。

 本人が納得いかない条理が不条理と呼ばれているだけ、一々八つ当たりされたくは無いだろう。

 カウンターに手を伸ばしたサザナミをチラチラ盗み見てニヤけているヒカルが現状を嘆いているようには見えない事こそ、不条理と呼ぶべきだろう。



 サザナミ ミドウ

 職業:ハンター

 職種:聖女 Lv1 

 種族:人族 17歳

 称号:なし

 所属:セントランド、ハンターギルド


「6万ゴールドの釣りだよ」


「もらっとけ」


「いいんですか?」


 ガドゥに差し出された小さめの金貨を見つめながら逡巡するサザナミ。

 この状況でも見知らぬ他人にお金を貰う事に抵抗を感じているのだろう。

 透けて見える人柄を好ましく思いながらもヒカルは気が気ではない。

 今、金があるか無いか――。

 下手をすればこの先、生きるか死ぬかということにまで繋がりかねないからだ。


 ――どれだけ生き汚く見えようとも自分が手を伸ばそう。

 そんなヒカルの決意を感じたのか、助けを求めるような視線を送ってきたサザナミに頷いて返す。


「あんときゃ、本気で殺すつもりだったからな。ま、詫び代わりと餞別だな。そんだけありゃ二人で何日かは食えるだろ」


「……ありがとうございます。今は無理ですけど、いつか必ずお金はお返ししますから」


 そのうち返すという事でなんとか納得できたのか、ようやくサザナミの手に収まった硬貨にヒカルはホッと息を吐く。


「オレは急いでるから行くぞ。あとは説明聞いて頑張るんだな」


 深々と頭を下げるサザナミに軽く手を挙げて答えると、ガドゥは急ぎ足でギルドの出口へと向かう。

 紆余曲折あれど、森からここまでとりあえず無事に連れてきてくれた上にお金までくれた恩人。ヒカルは少しだけガドゥの評価を上方修正しつつ、その後ろ姿に軽く頭を下げた。


 ――パンツを捲られた件は4割だけ許そう。


 そんな暖かい気持ちに包まれるちょっとしつこい勇者ヒカルだった――。



 ◆■◆


「じゃあ、説明するよ――」


 お決まりであろう説明を黒髪の美少女は真剣に頷きながら聞いているが、ヒカルは軽く聞き流している。

 依頼を受けたり、魔獣を倒す、といった活動をすること――よくある冒険者とほぼ変わらないからだ。

 見習いハンターから始まりAからFまでのランクがあるのもよくある設定なのだが、変わった点も少々存在あった。


 まず挙げられるのがハンターに対する税の優遇措置だろうか。

 そもそもアルフェリアには危険な魔獣が数多く棲息し、国の兵士や騎士だけでは対応しきれていない。

 当然、この世界を治める国々としては魔獣を狩るハンターの数を増やしたいわけだが、命がけの自由業なんて強要できないし、好き好んでやる人間も多くはなかった。

 その結果が、「いくら稼いでもお値段変わらず1か月たったの1万ゴールド」という低税額なのだ。

 もちろんハンターとして稼いだ分に関しては、という注釈が付くのだが。

 ぶっちゃけ、金が無いヤツは命がけで働けや、ということだ。


 ハンターランクについても少々趣が違う。AからFまでのランクで示されるのは実績や信用だけでなく、その専業性も含んでいるのだ。

 A~Cの上位ランクは基本的に専業ハンターであり、逆にD~Fの下位ランクは兼業、もしくは駆け出しのハンターとみなされる。

 ランクが上がるごとにノルマも増えるのだが、下位ランクはDまで上がっても兼業でも消化できる程度のノルマ設定で抑えられている。


 兼業でもいいからハンターやってよねっ! なんて聞こえるのは空耳では無いのだ。


 しかも、「やっべ、俺、Fランクなのにめっちゃ強い魔獣倒しちったよ!」となってもきちんと報酬は出る。

 依頼に関しては受諾できるランクがきちんと設定されていても、通常の魔獣討伐にそんな決まりは無いのは頑張って魔獣を倒すのがハンターのお仕事だから。

 確かに分不相応の魔獣を倒した時に、低ランクを理由に報酬が出なければモチベーションも下がるのだろうが……。

 つい調子に乗って死んだハンターが何人いるかなんて考えるのは野暮だ。

 自己責任の上に与えられた「自由」なのだから。


 ランクの決定方法もある意味「自由」だ。

 実績に見合ったランクをギルドから提示され、その中からハンター本人がランクを選択出来るのだ。

 例えば、Bランクを提示されたハンターはB~Fまでの好きなランクを選べる――。

 ここでおかしいと考える人は、頭が良い。

 税金が一律なのだから、ランクの上昇はノルマを増やすだけの馬鹿げた行動になりかねない――のだが、国家やギルドはそこまで甘くはない。

 きっちりニンジンをぶら下げてある。


 ニンジンの名はアイテムポーチ。

 想像通りの異次元ポケットで、憎らしい事にランクが上がれば借りれるポーチの容量も増えるという特典付きなのだ。

 持ち運べる荷物の増加がハンターの収入の増加に直結するのは説明の必要もない事。

 そして当然の如くそんな素敵アイテムは諸国家に管理されていて、ギルドで借りる以外に一般人が入手する方法はほぼ無い訳で。

 ポーチの為だけに兼業ハンターになる者がいるのも頷ける話だろう。


 結局、より大きなニンジンを求めて専業者はAランクを、兼業者はDランクを目指す事になる、と。

 人間なんてそんなものである。

 もちろんランクが上がれば住居を紹介してもらえたり、入手の難しい物品の優先購入権――ガドゥの拷問マシーンはAランクにあった――といった特典や様々なサポートも存在するのだが、せいぜい食玩のウエハース程度の扱いだ。

 そんな魅惑のアイテムポーチも見習いではまだ借りれないのだが。



『お金がないならハンターやればいいと思うよ?』


『いいアイテムポーチ貸してあげるから、たくさん魔獣を狩ってね!』


『死んじゃっても、アタシには全然関係ないんだからねっ!』


 ヒカルがハンターについて纏めてみた結果がこれだ。

 ……ちょっと萎えた。ひどい職業もあったもんだ。


 得意の脳内変換が弾き出した結果を溜息としてアウトプットしていたヒカルに、受付のおばちゃんが追撃のデータを投下する。


「あと来月の月末までに、13万ゴールド収めるように」


「え!?」


「月1万ゴールドで合計13万ゴールドだよ。ハンターの税の納期限は6月末日だから遅れるんじゃないよ」


 一瞬自分に対するイジメかと考えたヒカルだが、納期限があることでそれは違うと判断する。イジメでなくても、決して救いにはならなかったが。

 年度ごとの税なら17歳の年の分が必要ということだろうと判断したヒカルは、1年分の税金を纏めて支払うのは厳しいんじゃないだろうかと思い当たる。

 そもそも、お金の価値すら分かっていない。

 とりあえず、ヒカルの口は現状の打破へと向かう。


「ぶ、分割でお願いしまっす!」


「……払いたくないなら、払わなくても結構」


 半ば本気のちょっとした冗談だったが、返ってきたのは絶対零度の視線。

 やはり職があるのに納税してなかったヒカルに対して、おばちゃんはとことん冷たいらしい。

 その証拠にサザナミに対してはおばちゃんは優しい。


「今日は何月何日なんでしょうか?」


「今日は5月の14日だから、なんとか頑張るんだよ?」


 本日の日付なんてくだらないサザナミの質問にも、丁寧に答えている。


「払えなかったら、どうなります?」


「自動的にクラスカードの所属が消えちまうからねぇ……」


 言葉を濁したところで、下民に逆戻りという結果は変わらない。

 下民に戻るという事は、何かあったらすぐに奴隷に落ちてしまうということ。

 寒暖を器用に使い分けるおばちゃんの目と口に、小さなショックを積み重ねながら、それでも必要な事を聞き出していく――。


(まぁ、しかし……)


 ヒカルは一通りの質問を終えると、急に人が増えて来たギルドを見渡した。

 男も女も、若者も壮年の者もいる。恐らくは今日の仕事を終えたハンター達だろう。

 カウンターに続く曲がった人の列が伸びてゆく。

 ヒカルの後ろにもすでに5,6人が並び、今日の戦果を満足げに語っている。

 ざわめきが騒々しさに、さらに熱を帯び活気に変わってゆく――。


(ハンターも案外悪くないかもな。きっと、やっていけるさ!)


 伝わる熱がヒカルを高揚させ、溢れた活気が希望を灯す。

 新たな始まりにサザナミと目を見合わせて。


 そして唐突に――


「ああ、そうだ、アンタ。ちなみに『にーと』ってどんな職業なんだい?」


 ――オワタ。


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