ところてんは甘味やで。
「あーーーー、あかん、暑い」
省エネ対策であんまり冷房のかかっていない帳場(生活安全課の事務室)でぐたりと机に突っ伏した。
暇なんちゃう、忙しすぎるねん。
そやけど、食欲がなくて力が出えへん……。
「おい、安西大丈夫か?」
「はあ、大丈夫ですぅ」
係長が心配そうに見てくれている。心配させたらあかんな。
「しっかり朝メシ食べているのか?」
「うぅ~ん、実はあんまり食欲なくて……」
「茶碗に2杯しかお代り出来へんのです」
「あほっ! 3杯しかお代りしてへん」
ボケてくる佐々木主任にツッコミ入れる気にもならへんくて、更にボケ返した。
「悪いが、防犯係の応援行ってくれるか?」
「はい、了解です」
★ ★ ★
暑くてバテてるのに更に地獄や……。
そやけど、小さい子は可愛いなぁ……。
イテッ! こらっ、蹴るな!!
「あらあら、フーちゃん蹴らないでね~」
介助に入ってくれている女性警察官が着ぐるみを蹴ろうとしてるやんちゃなお子様を注意してくれる。着ぐるみは声が出せへんのが辛いな。
防犯係の応援は、夏休みで賑わっているショッピングモールの広場で防犯教室のお手伝いだった。今うちは大阪府警のマスコットキャラの中に入っている。
女性警察官の制服姿でマイクを握っている同期が羨ましいわ。
こんなん体力のある男が入るもんやと思っていたけど、身長の関係で“フーちゃん”には女性しか入れへんらしい。
子ども向けに“いかのおすし”を説明する同期。
つまり、知らん人に付いて行かない、知らん人の車に乗らない、大きな声で助けを呼ぶ……といった事や。烏賊のお寿司を投げつけることちゃうで。
大人向けには、ひったくり防止の心得や、非行防止に子どもの様子を良く見て……など。
どんだけの人が聴いてくれてるんかは分からへんけど、そこそこ足を止めてくれている。
啓発用の無料配布グッズをしっかり受け取って、ニコニコしながら親に見せる少年の姿を着ぐるみの中から見守った。
★ ★ ★
「帰って早々悪いけど、今晩大規模未成年買春の現場押さえに行くぞ」
帳場に戻って早々知らされる。
「了解です」
「それと……これなら食べられるか?」
係長が給湯室の冷蔵庫から出したコンビニの袋を手に押し付けた。
ひんやりとしたカップのようなものが入っている。
中を覗いてみると……ところてん。
「ありがとうございます。ご馳走になります」
ほくほくと机に戻って、カップを開ける。
ん?
中には三杯酢のタレと刻み海苔と切りゴマの小袋が入っていた。
……期待した目で見られてると、要らんって言えへんしなぁ……。
酸っぱいところてんは苦手なんやけど。
三杯酢と海苔とゴマを掛けたところてんを啜る。
まあ、夏バテした身体にお酢はいいんやろうけど、さっぱりして食べやすいけど……。
黒蜜ときな粉のが良かったな……。
なんで関西に三杯酢のも売ってるねん。
「どうした?」
「いえ、なんでも。美味しいです」
「不満気に見えるが?」
……気ぃ使ってるんやから、察して~な。
「何だったら食べられるんだ? 言ってみろ」
「何でもいいんですか?」
「ああ」
「……肉とビールしかノド通らへん気がします」
係長が絶句した。
あ~あ、今日はスベりまくりや。