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メロンパンはあん入りですか?

「係長、戻りました」


 外回りの仕事を終えて生活安全課のデスクへ戻ってくると、まず係長に報告することになっている。ドアを開け、視線は自然に係長に向く。


 係長は菓子パンらしきものを食べているところだった。うちらが戻ってきたのを見ると、係長はパンの袋をデスクに置き、マグカップを手に取った。


 マグカップの中はブラックコーヒーと推測される。係長はアメリカンのような薄いコーヒーが好みなのだ。だから、一人用のドリップコーヒーを作るときは、なみなみとお湯を注ぐ癖がある。貧乏くさいところがあると思ってごめんなさい。ええ、女子って、そういうとこ見ちゃうんですよね。だからきっと、あのマグカップの中も薄いコーヒーが入っているはず。


「係長、お昼休憩中にすみません」

「いや、こんな時間までお疲れ様」


 係長は倉敷さんと、うちに労いの言葉をかけた。うちの方に目線があったときに、少し目が優しくなったのは、気のせいじゃないと思う。

 いや、気のせいかな。

 

 報告を済ませ、係長のデスクを再び見ると、係長の食べていたパンの袋が目に入った。


「メロンパン、白あんいり? なんですか、これ? 新発売?」


 じっくり包装を観察して印字されている文字を声に出して読むと、隣に並んでいた倉敷さんがさも意外そうな声をあげた。


「普通のメロンパンやろ。昔からあるやん」

「え!? ちょっと待って下さいよ。普通のメロンパンには白あんは入ってませんて」

「何言うてんねん! 白あんいりのこっちがメロンパンで、白あんの入ってない丸いほうはサンライズ言うねん」

「え~? メロンパンは丸いでしょ?」

「だから違うって。ほんまのメロンパンはラグビーボールみたいなかたちなん」

「……倉敷さんて(あま)(=尼崎)の方でしたっけ?」

「せやで」


 係長のデスク前で熾烈な舌戦を繰り返していたうちらに圧倒されたらしい係長は、ぽかんとうちらを見つめていた。


「おかしいな。うちの京都の親戚ん家のベーカリーでも白あんいりは普通にメロンパンって言うて売ってるのに、大阪の子は知らんのか」

「……少なくとも、うちは食べたことなかったです」

「そやなー。そういえば、大阪のベーカリーではあんまり見ぃひんわ」

「でしょ?」

「どういうことだ?」


 ええと、ですね……。


「つまり、白あんいりのメロンパンは、兵庫県と京都府じゃポピュラーらしいですが、同じ関西圏の大阪じゃ余り見ないって話です。係長、そのメロンパンどこで買ったんですか?」

「これか? これは下のコンビニで買ったんだ」


「ええ!!」

「ほら、売ってるやん!」


 倉敷さんとうちは、同時に叫んだ。


 下のコンビニとは、道を挟んで署の真ん前にあるコンビニの事だ。ここは2階だから、コンビニは『下』というわけ。署員が昼夜問わず利用するから、大阪で一二を争う強盗や万引き被害にあいにくいコンビニちゃうかな。


 とんだ盲点や!

 まさに灯台もと暗しとはこの事やねんな。

 あそこの店長さん、オモロイ商品を期間限定で仕入れるのが好きやからな~。

 当たりも外れもあるけど……。

 さもありなん。


「メロンパンも好きだし、あんぱんも好きだから一挙両得だと思ってね」


 あんこも付いてへんのに、ペロッと舌で唇を舐めると、幸せそうに係長が笑った。


 もう、このあんこ好きっ!!


 その後、遅い昼ごはんを買いに件のコンビニへと出向いた。パンコーナーをみるが、棚にはあんいりメロンパンの姿はない。



 一口くらい残しといて欲しかったなぁ……。

 

7/10あんを白あんに訂正しました。地域の方、勉強が足らず申し訳ありませんでした。

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