豚まんとイカ焼き。
「来てもうた……」
大阪駅から地下を通って阪神百貨店へ。
デパ地下にはぎょうさんの人がひしめいている。行列並ぶのが嫌いな県民性やとはよく言われるけど、ほんまに美味しいものなら並んでしまうんよ?
人に押されながら狭い通路を歩いていると、赤い看板でおなじみの中華総菜の店の前に長蛇の列が出来ていた。
「これは何?」
係長が目敏くそれを捉えた。
「豚まんを買いに来てる列ちゃいますかね」
中には餃子や肉団子を求める客もいるだろうけど、そんな客のほとんどが一緒に豚まんも買っていると言われているとか言われていないとか。
「ふぅーーん」
気の無い風を装ってますけど、その視線は外れない。
係長、食べたいんですね。
「食べてみます?」
ハフハフと口の中で冷ましながら、係長が豚まんを食べている。さすがに熱いからいつものように大口でバクバクと豪快には食べられないらしく、悪戦苦闘している姿も可愛い……。
「で、どうですか?」
「皮が厚くてフワフワしていて、中の肉がどっしりしていて美味い」
そうでしょ、そうでしょ。
「でも、肉まんと変わらないな? どうしてわざわざ豚まんなんだ。商品名なのか?」
「え~~、関西じゃ、コンビニで売ってるのも、スーパーで売ってるのも、中華屋さんでも豚まんって言いますけど。あんまん、豚まん、ピザまん、カレーまんって言いません?」
「あんまん、肉まん、ピザまん、カレーまんだろ? ちなみに俺はあんまんが好きだ」
「係長、甘いもん好きですもんね」
クスッと笑ったら、係長が面映ゆそうに笑った。
「実はあのゴマ団子も食べてみたいんだが」
「係長お腹が空いているんですか? それやったら一度食べて貰いたいのがあるんですよ」
勢いに任せて係長の袖を引っ張った。
向かったのは食品街の中を通り抜けた先にあるフードコート。
食品街よりさらに狭い通路に面した場所にその店はあった。
重いガラスの扉は開けられて、お客さんが並んでいる。
粉もんの匂いと魚介系が焼ける匂い、それとソースの香ばしい匂いがその一角に漂っている。
「これは?」
「大阪名物イカ焼きです」
ちょっと得意そうにそう言う。
他のお客さんが手にしたイカ焼きを見て、係長が目を丸くしたのが分かった。
「どうしました?」
「イカ焼きっていうからてっきり……」
イカの丸焼きの事だと思ったらしい。
イカ焼きは小麦粉の溶いたのに、ぶつ切りのイカがプレスされてるねんよ。
それにソースを塗って二つ折りにして、小さい小皿の上に乗せられて供される。
それをハフハフしながら食べるんが美味しいねん。
二つ注文して代金を払うと、熱々のイカ焼きが手渡された。通行の邪魔にならないところに避難してぱくり。
モチモチ、コリコリしてやっぱり美味しい。
まだらになった卵にソースが絡んでるのも美味しいねん。
「係長どうですか」
「うん、美味いよ」
にこぉと係長の頬が緩むのを見て、何だか嬉しくなる。
ばくばくっと大口でも食べられるのに、何だか恥ずかしくて小さくかじって食べた。
先に食べ終わっていた係長は、そんなうちのことを待ってくれていて……。
「じゃ、行こうか」
うちの分のイカ焼きのプラ皿を受け取ると、まとめてゴミ箱に入れて、それから指を絡めるみたいに手を繋いだ。
プレスされたイカみたいに、「キュー!」と叫び出しそうになったのは言うまでもない。
係長はそんなうちの様子を見て、クックッと笑う。
ええもん、いっちゃん高いやつ買ってもらお。