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キツネの耳ちゃいますか?

 被害届受理数が日本一多い大阪府警に勤めるものにとって、週に1回休めたらええほう。



 そんなうちらやけど、今日は久し振りの週休です。

 うちも係長も当直には当たってなくて、つまり久し振りのお泊まりってわけですよ、奥さん!!

 ああもう、テンション高いの分かってるけど、どうにもできません。


 今うちは係長の部屋でそれぞれ昇任試験のテスト勉強をしている。いやもう、暇を見てずっとしてるねんけど、さすがにもうすぐ試験も近いし。


 これで合格したら、うちは巡査部長。係長は警部かぁ。

 

「う~~~~~~ん」

「……何で悩んでるんだ」

「いや、この場合……ちゃいますか」

「いや、この場合……だろ」

「え? なんで?」

「この場合、刑法○条○項の……って、ここに解説書いてるだろ」

「あ、そっか」

「疲れた?」

「はあ、まあ、ちょっと」


 いえ、かなり、結構。


 時計を見たら、時間はもう13時。

 腹時計も鳴いてますよぅ、係長~。


「休憩にしようか」


 その言葉を待ってましたとばかりに、トートバッグから大ぶりの弁当箱を取り出す。

 さあさ、参考書は横に積み重ねて片付けましょう♪


 パカリと開けた弁当箱には、整然と並んだおいなりさん♪

 昨日頑張って作ってみました♪

 ご飯は混ぜるだけのちらしずしの素使用でごめんやけど。


「お、美味しそうだね」


 そうやろ、そうやろ?


「今お茶淹れますね~♪」


 いそいそとほうじ茶を入れる為にやかんを温め始めた。



★ ★ ★



 係長がうちの作ったおいなりさんをパクパクと食べてくれてる。

 その様子を見てたらなんでこう、きゅんきゅんって胸が苦しくなるんやろう。


「美味しいですか?」


 思わずそう聞くと、係長はにっこり笑って答える。あの、子どもみたいな顔で。

 真剣な仕事してる顔もええけど、美味しいもの食べてる時の子どもみたいな可愛い顔も好き。

 これが俗にいうギャップ萌えっていうやつなんかな??


「美味しいよ。この三角の形、どう作ってるの?」

「あ……正方形のあげを斜めに切って、ご飯を詰めるだけですけど。なんでも稲荷神社の使いのキツネさんの好物があげやからって聞いた事あります。三角なんはキツネの耳の形ちゃいますかね」


 頭の上で掌でぴょこぴょこキツネの耳の真似をしてみた。


「へぇ、可愛いね」


 ボッ!


 なんなん、今の?

 アゲの形のことやんな?

 うちの事ちゃうのに、なんで照れるん、うちのアホ~~~!!


「あ、あ、あの。関東では三角ちゃうんですか?」

「うん、俵型っていうのかな。それに色ももう少し黒っぽい」

「そうなんですか」

「祥子が作ってくれるものはどれも美味しいよ」

「はひゃ?」


 係長の手がうちの頬を撫でて、耳にかかる髪を梳く。耳の傍でサラッと音がして、耳が露わになったのが分かった。


「可愛いイヤリングだね」

「ありがとうございます……。リングとネックレスとイヤリングと同じシリーズで阪神百貨店で売ってて……誕生石やし、一目で気に入って……」

「あ。本当だ。ネックレスもお揃いだね」


 嘘吐き。

 ネックレスの方が最初っから見えてるはずやのに。


 

 小さなダイヤモンドの付いた花の形のペンダントトップが、つんと係長の指先に弾かれて小さく揺れた。


「指輪も買ったの?」


 左手を取られて、指で薬指の第二関節の下。指輪を嵌める辺りを擦られる。


「え……やぁ、そこまでは予算が……」

「そっか」


 擦っていた場所にそっと唇を押し当てられ、ドギマギしているウチに余裕しゃくしゃくの笑顔を向ける係長。なんかムカつくわぁ。


「今度の休みは阪神百貨店に案内してもらおうかな」

「え……応援グッズ買うんですか?」


 言葉の真意を測りかねて……いや、でも、まさかちゃうやろ?

 とりあえず逃げの一手でボケてみた。


「さあね」


 とぼける係長の目は明らかにイタズラを企んでいる目で、ウチの左手は係長の手の中のまま、背中はゆっくりと床に近づいていった。







 もうっ、勉強どないなったん!

 ウチ、まだおいなりさん食べてへんのにぃ~!!!






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