火薬入りちゃうし!
あー、お腹減った。
新しい事案が入ったのが、出勤して間もなくの午前8時。
それから現場に行って、事実関係を確認して、被疑者を押さえにいって、家宅捜索。
取調べした後、被疑者を留置所にご案内してから、ようやくの昼ごはん。
今16時ですけど、それが何か?
お昼ごはんを10分で食べたら、次は起訴のための書類作りが待っている。
拘留できる時間が決まっているから被疑者を逮捕してからは時間勝負。
うちも係長も甘い雰囲気なんて、作ってる暇はあらへん。
机の下から、ピンクのクロスに包まれたお弁当箱を取り出した。ぱかりと蓋を開ければ、中にはかやくごはんのおにぎりとおこうこ。
最近の半調理レトルトパックってすごいねんで。
米を洗って、かやくごはんの素と水を入れて炊くだけ。
野菜とか沢山買っても単身者かつ忙しい身の上には使いきれず腐らすこともしばしば。
ほんまありがたいわ。
ぽりぽりとおこうこを噛みながら、かやくごはんのおにぎりをぱくり。
ん?
係長、そんなもの欲しそうな目で見んといてくださいよ。
ええ、分かってますって。
係長の分も作って来てますから。
もし食べへんのやったら夜食にしようかと思っていた水色のクロスに包まれたお弁当箱。
握っているときは、係長の分も……と珍しく乙女入ってましたけど、職場に着いたらそれどころじゃなくて。やっと一息ついてみれば、倉敷さんや佐々木さんの見てる前で、どんな顔で渡したらええの、って気がついた。
どうする、うち。
なんか、いかにも食べて下さいな感じで渡すの……恥ずかしない?
とりあえず、水色のクロスのを渡すのは諦めて、自分のお弁当箱からラップに包まれたおにぎりを3つ手に持って席を立った。
「係長、ようけ作ったんですけど、よかったら召し上がりませんか?」
「いいのか?」
大人な対応で遠慮がちに聞かれるが、係長、言葉と顔が一致してへんで。
なんなんその嬉しそうな顔、可愛すぎる。
「まだありますから、どうぞ」
係長が啜っているカップラーメンの脇に3つのおにぎりを置いた。
「お、炊き込みご飯か」
「ええ、かやくごはんです」
「……」
「かやく、ごはんのおにぎりですってば」
かやくごはん、意味通じてる?
なんか変な顔しとるけど。
「言うときますけど、かやく言うてもドーン、パチパチの火薬とちゃいますよ?」
あ、係長の耳が少し赤くなってる。
ラップを剥がして、齧りつくタイミングを見計らう。
「ドカーン!! ……なんちゃって」
「安西さん、面白いね」
いや、クスッって。
「うん、美味しいね。この前の肉じゃがも美味しかったし、安西さんお料理上手なんだね」
「あ、いや、ありがとうございます」
いや、ごめんなさい。
それ、レトルトですから。
今度、ちゃんと作って来ます。っていうか、作りに行ってええですか?
…………。
はっ、こんなんしてる場合ちゃうし!!
いつしか見つめ合ってしまった目線を強引に剥がして、自分の席に戻る。
急いでおにぎりを頬張って食事を終えると、パソコンの電源を入れた。