寒い夜にはやっぱりおでんでしょ。
もともと女性警察官の採用が少ない上に刑事の中で女性警察官の割合はさらに少ない。
昔はミニパトに乗って交通違反、それも主に駐車違反を取り締まる交通課で女性警察官の活躍が目を引いていたが、今は民間委託されてしまったが故にその姿を見ることはできない。
男と同じように柔剣道に逮捕術と訓練を重ねていても、同じようには働けないのが現実なのだ。
女性警察官は男勝りな性格のものが多いとはいえ、やはり女性であることを忘れてはいけない。
女性特有の細やかさや目端が利くところなどを買われているところもあるのだから。
生活安全課は刑法以外の法律を扱う。
例えば少年が起こす様々な犯罪に対応する少年係。パチンコ屋や風俗店の許認可係。迷惑防止条例違反とかの刑法以外の事件を扱う事件係。防犯教室とかを開いて防犯への意識を高める防犯係。
そして府民の相談を受け付け、他の係と連携をとる相談係。
全ての取り扱いをひとつの部署でするのではなく、細かく分かれた班で更に専門に分かれるけども横の連携も忘れない……。
「きゃあ、このケーキ! 中のチョコレートムースが濃厚でめっちゃ美味しい~!!」
「え? ほんま? 私も食べよ~」
普段の係のコミュニケーションといったら飲み会ばかりだけど、今日は少し違う。
生活安全課の女子5人で、ビアホール……ではなくケーキバイキングに来ていた。
一緒に行く相手のいないもの同士、つるんで遊びに行くのだが、結婚しては一人一人と抜けていく。
「あんなぁ、うち今度結婚すんねん」
仲間のひとりが照れながら打ち明けた。
「相手はどんな人?」
相談係のマリア様と異名高い、紗香さんによる取り調べが始まった。
「一般の会社の人。合コンで知り合って……」
ふんふん、とみんなで相槌を打つ。
「ほんで? 仕事はどうすんの?」
「続けるよー、もちろん」
幸せそうに彼女は笑った。
「ところで……」
紗香さんがうちの方を向いて、キラリと目を光らせる。隙のない刑事の目で。
「祥子ちゃんは東條係長と何処までいってるん」
それまで傍観を決め込んでたうちに捜査のメスが入って、グッとケーキを喉に詰まらせた。
慌てて紅茶で飲み下す。
「な、なんでそれ知って……!」
動揺丸出しで聞き返したら、紗香さんは黒だと確信した刑事の微笑みを浮かべた。
「知らんわけないやん。東條係長の家に誘われて何舐めてきたって?」
な! な! 舐め……!?
「ちょお! 何も!! ちゃうし!!」
むしろ舐められ……って! いやああ!!
色々思い出してしもて真っ赤になる。
ムキになって反論しても無駄な抵抗やって分かってるけど。
「あれ? おかしいなぁ。ソース舐めに行ったって聞いてんけど、ちゃうもんも舐めたん?」
あ、ああ!!
それか、そうやった!!
「舐めてへんよ。コロッケにソースつけて食べただけ」
ああ、もう。
オシャレなホテルのレストランで何言わすんかと思った!
「んで、返り討ちに逢って喰われたと」
トドメの一手に撃沈した。
「はい……。供述内容に相違ありません」
★★★
グツグツとかつおと昆布ベースのおつゆの中で具が踊っている。
この頃寒くなってきたからな~。
本当は手作りのおでんを一緒に食べれたらって思うけど、週休の前日。仕事が終わってからのうちには、そんな手間のかけた料理を作る時間がなかった。
コンビニおでんをお鍋に移して温め直してるだけなんやけど。
玉子に大根、こんにゃく、ちくわ、ゴボウ天。
それに忘れたらあかんのが、牛すじ串。
ああ……! 美味しそう。
手伝う言うて背後から腰に抱きついている係長、何してんねん。首筋こそばいって!!
「ちくわぶとはんぺんがない……」
鍋を覗き込んで、悲しそうに感想を漏らした。
「ああ、テレビで見たことありますねぇ。けど、関西では手に入らへん幻のおでん種ですよ、それは。幻のポケ○ンも一緒」
「そうなの?」
「……今まで関西にいて食べたことありました?」
「そういえば無いな」
「でしょ? コンビニおでんは結構地域色出してるらしいですから、お隣の姫路じゃまた違うらしいです」
テレビの受け売りやけどね。
「温まりましたから、食べましょう♪」