お別れ…そして諌の本音
ちょっと長めです。活動報告にこれからの予定を載せました。
時間が経つのは早い。
それは楽しい時間であればある程に…。
それはどこでも同じらしい。
今俺達は夢を見ている状態だからか現実とは時間の流れが違うみたいで、現実はもうすぐ朝らしい。
起床時間だ。
こちらに来てから、体感ではもう既に1日くらい経っているが…。
その為時間がもう余り残っていないらしい。
「っと、そろそろ時間だな。…母さん」
「…残念だけど。そうみたいだわ~」
唐突に親父がそう告げる。
もう、終わりなのか。
「え!?もう?も、もうちょっとだけ良いでしょ?」
恣意がもうちょっと、と言う。
気持ちは分かる。
俺だってもう少し話したい。
だけど……
「いや、残念だがもう俺たちに許された時間は残り僅かだ」
「これでも神様に無理言って延ばして貰っているのよ~?」
それは初耳だ。神様も大変だっただろうに……改めて感謝の念が止まらない。
「まあ、その前にお前たちに言って置く事がある。まずは恣意」
「うん」
そう言って親父が話し出した。
「恣意は少し背伸びしすぎだな」
「……え?」
「お前はまだ中学生だ。もっと素直になれ。遠慮なんかしていないで他人に頼る事を覚えなさい」
「そんなこと……!」
「心当たりあるでしょう~?」
そうやって母さんも話し出す。
確かにそれはそうだ。
家ではそうでもないが、友達や先輩後輩に頼らない…いや、頼る必要が無いのだ。
あいつは他人に頼らないで自分で何でもこなしてしまう。
そこら辺は母さんの血だな。
寧ろ頼りにされているみたいだし。
そこらは辺は親父か?
その血を俺も引いている筈なんだが、俺の場合は不器用で他人より人一倍やらないと出来ないし、こなせないしで頼ってばかりだ。
恣意は黙って俯いてしまう。
「先にそういう事は済ませとかないとね~?」
そう母さんは言って微笑んだ。
「え?」
俯いていた恣意は顔を上げる。
「先にこういう話を済ませただけだ。でもそこは直せよ?」
親父もそう言って笑い、がしがしと乱暴に恣意を撫でた。
「部活は剣道部だったか?」
「…うん」
「レギュラーまで後少し何だろう?頑張れよ!」
「むうぅ、先に言われちゃった。……頑張ってね?一度決めた事は最後までやり遂げる事。約束よ?」
二人は恣意にそう告げた。
「うん!私、張るね!」
恣意はそう言って二人に花が咲く様な満面の笑みを見せた。
「次に諌」
俺か。
緊張するな。
「お前は何でも自分で抱え込みすぎだ」
……え?
「何を驚いてる?上手く隠している様だったが、俺達はちゃんと分かっているぞ?人に迷惑を掛けない様に自分の本音を隠して相手を気遣う。お前は長男だが、その前に一人の男だ。自分の為に、自分が本当にやりたい事をしなさい」
……そうなのか?自分でも良く分からない。
「はあ、その顔は分かってないようだな」
「あのね?じゃあ聞くけど。諌ちゃんは神様にお願いされたでしょう?お仕事云々――――って形だったでしょうけど」
……なんで母さんが知っているんだ?
「え?」
恣意が目を丸くしている。これが普通の反応だ。
でもいきなりなんだ?
「諌ちゃんは高校も止めて働く事にしたんでしょう?その事に対して文句がある訳じゃないわよ~?諌ちゃんが決めた事だもの。応援するわ~?でも、仕事が見つからない。半端物を雇ってくれる所がない。そう言っていたでしょう?」
「そうだけど。それが……?」
何だっていうんだ?
「もう。相変わらず鈍いわねえ~。誰に似たのかしら~?」
そう言って親父をちらっとみた。親父は目を逸らしている。
「まあそれは良いのよ~。それで、神様が理由はどうであれ、仕事を……諌ちゃんを雇いたいって言ったんでしょう?なんて返事したの~?」
「その話は断った。原因が神様の失敗が―――云々はある程度聞いた。内容は詳しく聞いていないけど」
そうだ。あの話は断った筈だ。
理由はどうであれ、終わった話をどうこう言っても仕方ないだろう?
「どうして断ったの?」
「どうしてって。それは――――」
「恣意ちゃんの為?」
「っ!?」
「私?」
なんで分かったんだ?
恣意が?と首を傾げていた。
「…そうだよ。何で分かっているのに聞くんだ?」
「……分からない?」
「分からない」
素直にそう言う。見栄を張っても意味がないし。
「はあ。つまりね?……断ったのは誰の為?」
「それは今言ったじゃ―――」
「いいから」
母さんが有無を言わせず先を促して来た。
「恣意」
「そう。恣意ちゃんの為。じゃあ、あなたは何故学校を辞めてまで働く事にしたの?」
「それはお金が無くなら無い様に―――」
「それはそうね。言い方が悪かったわ~。でも、お金だって私達の保険で諌ちゃん達が自立できる位までは持った筈よ?少なくとも、諌ちゃんが卒業してからでも遅くはなかった。違う?」
「それはそうだけど。でも―――」
「でも?」
「恣意を―――」
「ほら、また恣意ちゃん」
「っ」
「大方、俺は義務教育終了しているし学費が勿体無い。それなら俺が辞めてその分を恣意の学費に回そう。恣意だけでもちゃんと高校や大学に行って欲しい―――大体こんな所かしら。…違う?」
ニュー〇イプか?何で分かるんだ?
「相変わらず分かりやすい子ね~。まあ、いいわ~。それで、今言った事について共通点は?」
分かりやすいのか…。
ちょっとショックだ。
共通点ねぇー……
「恣意の為?」
「そう、恣意ちゃんの為。諌ちゃんあのね?さっきあなた……嵩さんが言ったわよね?」
「さっき?」
「うん。’自分の為に’’自分が本当にやりたい事を’しなさいって。さっきから諌ちゃんは、恣意ちゃんが~ってそればっかり。別にそれが悪いなんて言わないわよ~?寧ろ凄い事よ?……でも、それは恣意ちゃんの為であって諌ちゃんの為じゃないわ~」
母さんはそう言ってこっちをじっと見つめる。
「だからね。さっき嵩さんはそう言ったのよ?分かった?」
……確かにそう言われてみればそうだ。
俺は恣意の為に学校を辞めて働くと言っていた部分もあったし、何より神様の話も断った理由は何か?と問われればそれは恣意の為であって俺の為ではない。
さっきの親父の発言も……なるほど、確かにな。
一人で考え込みすぎていたのかもな。
でも、だからと言って―――
「俺が学校を辞めたのは取り消せないし、神様の話を断るのは変わらない。恣意を一人ぼっちにするのは可哀想だ」
「諌ちゃん……」
「なあ、諌」
唐突に親父がそう切り出した。
「それは誰が決めたんだ?」
「…何を言ってるんだ?」
「つまりだ。恣意が寂しがるからお前は仕事を断った。そうだろ?」
「ああ」
「それは恣意がお前に言ったのか?」
あいつには聞いていない。
でも普通そうだろ?
両親が死んで、その上俺までいなくなったら寂しいだろう。
一緒に居て欲しい筈だ。
「言ってないけど―――」
「けど、なんだ?はっきり言ってやる。それはお前の考えであって恣意の考えじゃない。唯の自己満足だ」
その言い方にカチンと来た。
好き勝手言いやがって。
「あんたに恣意の何が分かるんだよ!」
「知らん」
「だったら――――!」
「同じ事を言ってやる。お前こそ恣意の何が分かる」
なんだと?
「お前が言っている言い分は分からなくもない。その行動力は誰にでも出来る訳では無い。素直に凄いと思う」
「なら――――」
「だが、それはお前の考えであって恣意の考えではない」
その言葉に冷水を浴びせられた様に怒りが静まって行く。
「落ち着いたみたいだな」
「……ああ」
「では続けるが―――お前は恣意に、言っては何だが、理想を押し付けているだけだ」
「……そう…なのか?」
「ああ、そうだ。お前の話はさっきから、恣意の為に云々と言っているが、そこに恣意の意思は入っていない。だから一人で考え込むな。もしそれが恣意と二人で決めたのであれば何も言わない。個人的に賛成はしないがな」
「……どういう意味だ?」
「お前は今仕事を探しているんだろう?仕事を貰えるチャンスを捨ててまで恣意と共に居る事を選んだ。だが、世の中そんなに甘くはないぞ?昔ならまだしも、今は不景気だ。お前みたいな半端物に成り下がった奴は、安定した収入なんて得られはしない。恣意どころかお前一人で精いっぱいだろうな」
「それは、バイトを増やせば―――」
「バイトだって、雇って貰えるのは若い内だけだ。厳しい様に聞こえるだろが、それが今の世の中だ」
……言っている事は理解できる。
多分、自分の感情は別としてそれが正しいのは分かっている。
だけど―――
「兄さん」
「?…なんだ?」
「全部は分からなかったけど、兄さんはさっきから、私の事を考えてくれているんだよね?」
恣意が話し掛けて来た。
「……恣意だって俺までいなくなったら嫌だよな?」
「うん!それはそうだよ!悲しいけど、もう家族は兄さん…ただ一人だし。
居なくなったら寂しいよ。それに、私の我が儘で離れ離れになるけど、引き取ってくれるという人の話を断ってまで兄さんが何とかする。そう言ってくれたのは分かってる。感謝してるし、し足りないよ」
「なら、やっぱり―――」
「でも!それ以上に、兄さんがこれ以上私の事で自分の気持ちを隠してまで一緒に居る方がもっと嫌だよ?」
「恣意…何を言って……?」
「…いつもそうだよ。兄さんは他人を優先する。それでいっつも損してる。これ以上私の我が儘に付き合わないでいいから、自分の意見を言ってよ」
…俺の意見?
「だから、俺は恣意と一緒に―――」
「そうじゃない。私の事なんか今は考えなくていい。今自分が本当にしたい事を、気持ちを言葉にしてよ」
……本当にしたい事?でもそれを言ったら――――――
「兄さん。今は人の事なんか気にしないで。考えないでよ…」
……いいのか?そんな事を言ってしまったら―――
もう戻れないぞ?
「怖がらないでよ。私たちに位、本音をぶつけてよ。だって―――――」
次の言葉で、俺の心は決まった。
「私たち、家族でしょう?」
「俺は……本当は―――」
躊躇するな。言え。ここまでみんなに言わせたんだ――――
俺だけ言わないなんて選択肢はない。
「…っ異世界に……行きたい。行って…みたい」
言った。
言ってしまった。
もう取り返しが付かないぞ。
恐る恐るみんなの反応を伺う。
「そっか。それが兄さんの本音何だね…」
沈黙が痛い。
やっぱり言わなかった方が―――
そう後悔しかけた俺に返答が返ってくる。
「あら~。良いんじゃない?楽しそうだし~。ねえ、あなた?」
「ああ。こんな事、誰にでも出来る事じゃないしな。貴重な経験だぞ?俺達の分も楽しんで来い!」
「うん。それが兄さんの気持ちなら、何も言わないよ」
みんなに賛成されてしまった。
「……良いのか?」
「もちろん。私になんか縛られていないで楽しんできてよ。あ、お土産期待してるよ♪」
どうやら考え過ぎていただけだったようだ。
「ああ。それは任せておけ!」
「さて、最後は親らしい事が出来たかな?」
「ああ。その言葉忘れないよ」
「うん。ありがとう!お父さん、お母さん」
「もう!二人とも良い子ちゃんねえ~。可愛いわ~!やっぱ未練タラタラね。取りついちゃおうかしら~」
母さんが、サラッととんでも無い事を言い出した。
割と真剣に悩んでいるみたいだ。
「それは、勘弁してくれ」
「う、うん」
俺たちの頬が若干引きつるのは許してほしい。
そんな事を考えていると、親父から助け舟が出る。
「母さん。二人とも困っているだろう。それに時間ももう無いぞ?」
「そうね~。残念だわ~。後は~……最後に言って置かないと。あなた」
「ああ、そうだな。でだ、最後にお前たちに言って置く。諌、恣意、事故とはいえ、最後まで側に居てやれなくてすまない」
「本当に……本当にごめんなさい。あなた達二人だけにしてしまう。何もしてやれなかった最低な親…で…ごめんなさい」
そう言って二人は俺達に頭を下げる。
止めてくれよ。
「違う!何もしてやれなかった、なんて言わないでくれ!頭を上げてくれ」
「そうだよ!…そんな事無い、私こそ、我が儘ばっか言う親不幸な娘でごめんなさい」
そう言って頭を下げる恣意。
「何を言っているんだ。我が儘を言うのは悪い事ではないぞ?迷惑を掛けて、それに答えてやるのが親の義務だ。謝る必要なんてない」
「そうよ~?それに家の子供は我が儘なんて滅多に言わないじゃない。寧ろもっと言って欲しかったわ~」
そう言って恣意を優しく撫でる母さん。
「でもっ…でもっ!」
そう言って恣意は泣き出してしまった。
ここは俺がしっかりしないとな。
「確かに先に逝ってしまった事は残念だよ?でもさ、俺は―――いや…俺達は今までの生活が不満だなんて思った事は無い。幸せだった」
「諌ちゃん……」
母さんまで泣き出してしまった。
駄目だ。ここで俺まで泣いてしまったら、話が出来なくなってしまう。
最後なのに。
「そうか……。そう言ってくれるだけでも、俺達は嬉しい。救われたよ、ありがとう」
「私達も、あなた達と共に過ごせて幸せだったわ~。ありがとう」
ああ、これが、本当に最後なんだな……。
「恣意。これが本当に最後だ。泣くのは後でいくらでも出来る。最後に言う事はあるか?」
「っ…ぐすっ…。うん、ある…」
「そうか。じゃあ言うぞ」
「分かってるよ」
「じゃあ、最後に俺達からだ」
「うん」
「ああ」
「俺達を生んでくれて、ありがとう。母さん」
「私達を育ててくれてありがとう。お母さん」
「……うん」
「俺達家族を養う為に、毎日遅くまで働いてくれてありがとう。親父」
「毎日忙しくて疲れているのに、休日は私達の為に家族サービスをしてくれてありがとう」
「……ああ」
「「俺(私)達に愛情をいっぱい注いでくれてありがとう!」」
俺達は最後に家族にそう告げた。
その瞬間、母さんと親父の姿が薄れ始める。
「「諌、恣意。俺(私)達の元に生まれて来てくれてありがとう。お前達に出会えて…一緒に過ごせて幸せだった」」
二人が最後にそう言った瞬間、二人の姿は虚空に消えていった。
遂に、家族とお別れです。いつ何が起こるか分からないんですから、家族は大切にしましょうね?
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