邂逅
第二話投下
両親が死んで1周間が経った。
葬式をして(勿論、空の棺だ)親戚が集まり誰が俺達を引き取るかなどと押し付け合いを見せられ、それに嫌気がさした俺は二人で暮らしますから心配いりませんと啖呵を切ってしまった。
勿論後悔はしていない。
別に全ての人がそんな争いをしていた訳では無い。
中には、家で引き取ると言ってくれる大人もいた。
しかし、その場合一人が限界で俺達兄妹はバラバラになる。
今は不景気、自分達だけでも精いっぱいなんだろうな。
そんな中一人増えても養えるってだけマシな物だろう。
だけど別れて暮らすのを俺よりも恣意の方が嫌がった。
まあ、いつもみたいに背伸びをして大人っぽく振舞っていても、恣意はまだ中学生。まだまだ子供だ。いきなり両親が死んで心細いんだろう。
俺よりもショックが大きいんだと思う。
まあそんな訳で今は広く感じるようになった家で恣意と二人で暮らしている。
幸い死んだ両親二人の保険と少しの貯金でお金はある。
しばらくは大丈夫だ。
しかし、だからと言っていつまでもあるわけではない。
心配いりませんと言った以上俺がしっかり働いて生活費を稼がないと。
幸い義務教育は終了している。
学校は金が掛かる為、これからの事を考えると辞めてどっかに就職した方がいいだろう。
恣意には猛反対され、「兄さんが辞める必要はないよ!私が働いて兄さんを養うから!」等と言われた。
この時点で中学生なのににすごい発言だ。
そんなの駄目に決まっているが。
だいたい中学生は義務教育だ。
大人しく勉強していろ。
挙句の果てに高校行かないで私も働く!等と言い出す始末。
丸1日もかけて説得した。
恣意に「お金の心配はしなくて良い。俺が稼ぐ。お前には家の事を任せたぞ」と約束させた。
私も働くと言い張っていたが、「中学生は義務教育だ。勉強が仕事だ」と言ったら納得はしていないだろうが渋々と了承してくれた。
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学校を辞めて1週間が経った。
仕事が見つからない。
甘く見ていた……。
なんとかなるだろう、なんて世の中を舐め切っていたあの時の自分を叱ってやりたい。
……しかしよく考えたら当たり前だ。
まず、時期が悪いだろう。
こんな時期に募集している会社なんてバイトならいざ知らず、まず少ないだろう。
それと俺は高校中退だ。そんな半端物を雇ってくれる会社なんてないと思う。
あったとしても少数だろう。
「大丈夫だよ。きっとあるから。ね?」
そんな俺を恣意は気遣ってくれる。
我ながら良く出来た妹だ。
あんなに自分本位で動いていた妹だったのに。
環境があいつを変えたのか?いや、あいつの本質はいい子だったのかもな。
兄としては嬉しい限りだ。
こんな状況で知るなんて、皮肉なもんだが……。
……自分が情けなかった。
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なんだ?
ここはどこだ?
俺は執務室?みたいな目の前に簡素な木製テーブルとその端に本棚、後は真っ黒の見るからに高級そうなソファがある。
誰もいない、余計な飾り付けの無いシンプルな部屋の中に居た。
「やっと起きたか。」
声を掛けられて初めて気が付く。
簡素な木製テーブルのさらに後ろ、俺から見て右斜め後ろ辺りにちゃぶ台があり、その場所にお茶を啜る老人がいた。
って、あんな処にちゃぶ台なんてあったか!?
この部屋にあんなのあったら気が付くぞ普通!というか人が居たよ!
「こんな所にちゃぶ台とワシが居たか?とか思ったじゃろうが、ワシは居たぞ最初から、な」
「え?でも確かに……」
「誰も居なかった…か?」
「っ!?」
そうだ!確かに誰も居なかったはずだ!最初から居ただって?
人がいないと思っていたのは俺の見落としだとしても、ちゃぶ台には気が付く筈だ。
しかもあんな所でちゃぶ台とセットでいたら余計に気付くぞ普通。
場違いにも程がある。
ていうかここどこ!?
確か俺はいつも通りにベッドに入って就寝した筈だ。
前後の記憶もちゃんとある。
「混乱しているだろうから質問に答えてやろうぞ」
無駄に偉そうな感じで老人は俺にそういった。
不思議な事にその偉そうな感じに不快感はない。
むしろその老人の外見と合っていて似合っている。
それに、この人の言葉はどこか威厳を感じさせ、畏怖と恐怖を与えるのに、この人の声音は不思議と安心感と優しさに包まれている。
この人には逆らえない。
そんな絶対的な存在だと本能で感じる。
そんな、何とも言えない気分になり、気が付けば俺は冷静さを取り戻していた。
「ここは、何処ですか?確か俺は家に居て、ベッドに入って寝た筈何ですが……」
まずは、この人に聞いて現状の確認だな。
改めて周りを見渡しながら老人に訪ねる。
「ほう。もう落ち着いたか。速いの」
「ええ、まあ大分って所ですが」
やっぱり、この人の声を聞くとなぜか安心する。
この人は悪い人ではないって気がする。
「ほう。なぜ、そんなすぐに落ち着けたか理由を聞こうかの」
自覚ないのか?
「強いて言うならあなたの声音ですかね」
うん。これしかないな。
「ほう。ワシの声音?」
「はい」
「なぜ?」
「えーと、あなたの声音には不思議と安心感と優しさに包まれています。聞いている内に落ち着いて来ました」
「ほう。安心感と優しさ、のう…。照れるのう。そう言われたのは初めてじゃしな」
そう言って老人はポリポリと頬を掻いていた。
初めて?そうなのか?
ていうか今そう言われたのはーって言ったよな。
他にも此処に来た人がいるのか?そしてその人は違う感想を言ったと。
ちょっと気になるな。
この発言で夢かなあと云う線は消えたな。
疑問が一つ減って一つ増えた、プラマイゼロだな。
「では、他にもここに来た人が?」
「理解が早くて助かるのう。説明が楽だわい」
「はあ」
そう言って老人は笑っている。俺は答えを待つ。
「では、その事を含めた上で説明しよう」
「お願いします」
「まず、お主はワシを老人だと思っているじゃろう?」
「ええ、まあ」
違うのか?
「そこからじゃな。まず、自己紹介が遅れたが、ワシはお主達で言う所の地球を管理している神様と云う存在じゃ。人ではない」
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「………は?」
ボケているのかこの人は。
思わず固まってしまった。
「信じとらんじゃろ」
当たり前だ。
突然何言いだすんだ?新しい宗教勧誘か?
残念ながら俺は無神論者だ。
そんな非現実な存在居る訳がない。
「それはもう。これっぽっちも」
だから良い笑顔で答えてやった。
「まあ、最初はみんな信じない。そんな者居る訳ない、とな。だが、これから嫌でも、少なからず信じると思うぞ?」
それはどういう意味だ?
「ワシも口だけで信じてもらおうだなんて、最初から思っとらんぞ?まあ、論より証拠。見せてやろう」
自称神様はそう言ってニカっと笑うと指をパチンとならす。
一瞬光ったかと思うと俺と自称神様は(ちゃぶ台ごと)地球の上にいた。
って、え!?
地球?どうなってんの!?
…じゃあ此処は、宇宙!?ちょっと待て息が、慌てて口と鼻を押さえる。
「はっはっは。大丈夫じゃよ、ワシの力で包み込んでおる。息はできるぞ?」
「っ!……え?」
…本当だ。
苦しくない。息ができる。
それに重力が地球と変わらなくてバランスを崩さないし、何よりも温かい。最適な温度だ。
「すごい」
改めて見た宇宙は……凄かった。
ただそれだけに尽きる。
上手く言い表せないが、言いたい事はある。
やっぱりこれだろう。
「地球は、青かった」
てな。
一度言って見たかったんだ、このセリフ。
まあ、本気にはしていなかったが。
「お主にも聞きたいのじゃが、そのセリフはロマンなのかの?」
何を言う。
その答えに対する返答は決まっていた。
「ええ、ロマンです」
というか、他の人も同じ事言ったのか。
考える事が似ているな。
「どうだ?ワシが神様だって信じる気になったかの?」
言われて思い出す。
…まあ、普通の人がこんな事出来る訳ないわな。
「まあ、あなたが普通の人ではないのは理解できました」
神様だって言うのはまだ半信半疑だが。
本人の口から聞いただけだし。
「うむ。まあ最初から完全に信用しろなんて無茶だしな。こんなものじゃろう」
こっちの内心をちゃんと察してくれているみたいだ。
まあ、一応神様だと信じよう。
話を進めたいし。
「とりあえず、説明を続けようかのう」
そう言って神様はまたパチンと指をならす。
一瞬の輝きの後、また元の執務室に戻って来た。
便利そうだな。
移動用に欲しい。
戻って来た時、俺はそんな事を考えていた。
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