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種族対抗闘技大会1

 サナトリア王国の王都がざわめき立つ。


 数百年もの間、表立った交流のなかった種族が今日、王都へと足を踏み入れた。

 それぞれの国の象徴である国旗を掲げた団体が、列を為して侵入してくる。

 エルフ族と獣人族。数にすれば、各20人ずつと少ない。だが、王都の人々にとってそんなものは関係なかった。自分達とは異なる種族が、化け物と恐れられる種族が、王都へと入ってきたという事態に動揺を隠しきれないのだ。

 大通りを進む一団を、集まった人々は多種多様な表情を浮かべて見つめている。必要以上に恐ろしい話を聞かされているのか、母親の後ろに怯えた様子で隠れている少女も居れば、その姿を焼き付けようと最前列で眺めている好奇心旺盛な少年もいる。そんな子供達の表情とは裏腹に、大人たちの表情は一様に硬いものだ。怯えや恐怖によって顔が強ばり固唾を呑んで一団を見つめている。



 そんな、恐怖心が色濃く出ている表情をした王国民を馬車の窓から横目に見ていたティリは、苦笑いを浮かべる。


「やっぱり、怖がられているみたいだね……」


 困ったようにため息をつきながらそう呟く。


「予想通り」


 ティリの隣に座るジェシカは、気にした様子もなく無表情で淡々と答えた。


「確かにそうだけど、あまりいい気はしない」


 ティリを挟むようにジェシカの逆側に座るミュラーは、大通りに群がる人間たちを見て難しげに顔を顰めた。

 人間たちがエルフや獣人を畏怖の感情を持っている事は、予め知っている。しかし、その感情は魔物に向けるものと同等かそれ以上である事に、理解は出来ても納得は出来ない。それは、自分達が魔物のように知性が低く、無闇矢鱈に同族以外の種族を襲う野蛮な輩だと言われているようなものだからだ。エルフも獣人も、人間よりも個としては優れた能力を有している。それにより、恐怖心を抱かれても仕方がない。だが、自分達は魔物とは違い知性を持っているのだ。その力を制御し、抑制することが出来る。魔物のように傍若無人の限りを尽くすわけではない。


「怖いから恐れる。当然の事」


 人間たちの反応に不満を漏らすふたりを諭すように、ジェシカが言う。先と変わらず淡々と発した言葉ではあったが、怒りや哀しみ、憂いや諦めの感情が見え隠れしているようにも感じる。もう慣れてしまっているが、幾度と無くその感情に晒されてきた者が持つ独特の雰囲気を抱かせた。


「ジェシカのお兄様も、最初はそうだったの?」


 先日出会ったジェシカの兄だと紹介された人間を思い出しながら、ティリが尋ねる。話していた様子から、もうひとり居た少女とその男はジェシカと親しい間柄であると思わせた。しかし、ふたりとも人間だ。エルフであるジェシカを見て、最初は恐怖したのではないのか。

 そう疑問を抱いたティリであったが、ジェシカは否定するように軽く首を振った。


「兄様は違う。ウチよりも強いから、恐れる必要がない」


 そう言ったジェシカに、ティリとミュラーは驚愕の表情を向けた。なまじジェシカの力を知っているからこその驚きだ。人間でありながら、エルフでも指折りの実力者であるジェシカよりも強い。今の状況とは真逆に、こちらが人間に恐怖を抱いてしまいそうな事実である。


「そんなに強いのか?」


「兄様は確実にウチより強い。リータはウチと同じぐらい」


「それが本当なら……一筋縄ではいかないようだな」


「甘く見ないほうがいい。一応、忠告」


「ああ、感謝する」


 ミュラーはジェシカからの情報に、引き締まった表情で頷く。侮っていた訳ではないが、やはり人間だ。獣人よりも警戒心は下がってしまっていた。しかし、今のジェシカの言葉を聞いて、その気持ちを改めばならない。ジェシカ以上の実力者ともなれば、手を抜けるような相手ではない。


「楽しみになってきたな」


 ミュラーが笑みを浮かべながらそう言う。大会に出場する選手が、漏れることなく想像以上の実力者だと分かりと感情が込み上がってきているらしい。

 その様子を感じ取りつつ、ジェシカが応えるように小さく頷いた。


「リータには、負けない」


 ライバル視している友人の名前を出して、宣言するように言う。

 同じ主に仕える者として、対戦相手になるであろう参加者の中で最も勝ちたい相手だ。あっちもそう思っているだろうが、今回の条件ならこちらの方が有利。ガドウィンから熱くなり過ぎないよう、釘を刺されているので冷静で居るつもりだが、少し自信がなかった。あとで怒られてしまうかもしれないが、それでもリータだけには負けたくない。

 そんな内心を秘めているジェシカの眼は、いつになく鋭い光が宿っていた。









 エルフ族同様、王都の大通りを進む獣人達も人間からの好奇の目に晒されている事に不快感を感じていた。しかし、王であるグルテニラだけは気にした様子を見せず、闘技大会が愉しみで仕方がないといった表情で頬を緩ませている。


「ようやく、この時が来たな。まったく、待ちくたびれたぞ……。

 しかし! 優勝はオレ達で決まりだ! ……そうだろ?」


 そう言うと、馬車に同乗している護衛のふたりに視線を向ける。


「さて、どうかな? やってみなければ分からない」


 グルテニラと向かい合うように座っているラウオが曖昧な返事をする。


「相変わらずだな……。慎重なのはいいが、もう少し強気になってもいいだろ」


 その答えが気に入らなかったのか、グルテニラは不満気な表情で返す。飛び抜けた実力を持っているにもかかわらず、ラウオは謙虚だ。それが悪いとは言わないが、豪傑者が多い獣人の中では異質である。獣人族と言う枠組みの中では、その性格では損をすることが多い。明らかに実力が下な獣人から、嘗められた態度を取られる事も多々ある。本人は気にしていないようだが、グルテニラは自慢の護衛を馬鹿にされているようで面白くない。


「その通り、兄さんは弱気でいけない。三国協議の時、他の種族の護衛を見たけど大したこと無さそうだったじゃない」


 グルテニラの隣に座っているエナは、賛同するように頷いてそう言った。

 初協議の際に、他国の護衛を観察したがどうもパッとしなかった。エルフ族の男の方は少し出来る感じがしたが、なんとなく気になる程度だ。それよりも、教会のトイノという男の方がよっぽど気になる。明らかに、こちらよりも格上の存在だと思わせる雰囲気を纏っていた。


「さすがはエナだ! 期待しているぞ!」


 心底嬉しそうに笑いながらそう言ったグルテニラは、エナの肩を抱いて引き寄せる。


「はいはい、任せて」


 胸に抱かれた状態になったエナはそう言うと、素早くグルテニラの腕をすり抜けて元の位置に戻る。いや、先程よりもほんの僅かに距離をとったようだ。引き寄せられて驚いたようだったが、『またか』といった表情で逃げていた。対応を見るからに、グルテニラのこのような行動には慣れているらしい。


「相変わらず、つれないな」


 エナが離れてしまったのを見て、グルテニラは残念そうな表情を向ける。


「そっちこそ、相変わらずの鳥頭ね。嫌だって言ってるんだからやめてよ」


 ムッとした表情でそう言うと、ジト目を向ける。

 何かにつけて、こうやってスキンシップを取ってこようとする事にエナはうんざりしていた。はっきりと嫌だということを示しているが、長所でも短所でもあるめげない心で押してくる。はた迷惑な事だ。


「何故、オレの愛が伝わらない!」


「いや、伝えなくていいよ。いらないから」


 グルテニラは愛の告白をするかのように叫ぶが、エナはどうでも良さそうに手をヒラヒラ振りながら答える。

 その態度にガックリとうなだれたグルテニラは、先程とは打って変わって沈んだ表情で力なく座っている。


「……少しは緊張感持てよ」


 黙って成り行きを見守っていたラウオは、ため息混じりに呟いた。

 人間の王都に足を運ぶという前代未聞の日だというのに、馬車の中ではいつもの光景が繰り広げられている事に脱力していた。


 あまり口出しする事では無いのだが、兄としては王でもあり親友でもあるグルテニラと妹が恋愛関係になるのは悪く無いと思っている。むしろ、強く望んでいる。

 しかし、どういう訳かエナは全くそういった感情を抱いていないらしい。恋愛という難儀な感情なので、どういう訳かも何もないのだが、幼い頃から行動を共にしてきた幼馴染である3人は、立場の違いはあれど本当に仲が良い。そんな関係だからこそ、グルテニラがエナを好きになったのも頷ける。

 なので、エナの方もグルテニラに恋愛感情を持ったとしても不思議ではないのだが、そうはならなかったようだ。近すぎた為か、はたまた単純に好みと合わなかったのかわからないが、聞いたところ本当にグルテニラは大切な友人だとしか思っていないらしい。では、他に好きな男でも居るのかと聞いたところ、それも居ないようだ。なんでも、自分より強い男でなければ認められないらしく、「このままだと、兄さんしか候補が居ない」と、笑えない冗談を言ってきた。

 その言葉に意表を突かれて引きつった表情をしてしまったらしく、それを見た妹は可笑しそうに笑いながら「安心して、兄さんにも間違いなく親愛しか持ってないから」と、変な勘ぐりをしないよう言われた。表情からも嘘を言っているようではなかったので安心したが、このままでは一生結婚しないのではないかと新たな不安が広がった。エナがそれでも構わないと言うのであれば、無理強いはしたくないが本人の意志と関係なく周りが黙っていない。エナ程の実力者ともなれば、その子供にも大きな期待が寄せられる。獣人族の未来の為にも、子孫を残して欲しいと考えている者も多い。身勝手な期待だが、今後のことを考えればそれも仕方がない事である。人間とエルフとの交流が活発化すれば、相手と同等である為に国力を衰えさせる事は出来ないというのが上層部の見解だ。「兄さんと義姉さんが残すんだから、あたしが残さなくても問題ないよ」と、楽観視しているようだがこの先どうなるか分からない。最悪、上層部の強制により変な男を押し付けられるような事態になれば、兄として許せないのだ。だからこそ、気心の知れたグルテニラに何とか頑張って欲しいのだが、望みは薄そうである。


「村とは全然違うね!」


 そんな兄の心配を他所に、初めて訪れた人間の王都を窓から嬉々として眺めている妹の姿を見て、思わず大きなため息が漏れてしまった。









 大会が開催される一週間前に王都へと赴き、王城に用意された客室にて過ごすことになった。大会までの一週間、リータが集中特訓をしたいと言い出したのでそれに付き合う形で早くから王都に滞在していた。


「ふっふっふっ……ジェシカには悪いけど、負ける気がしないよ」


 不気味な笑い声を上げているリータは、人相の悪い顔で余裕を見せている。一週間訓練をしたぐらいで大して変わりはないのだが、それなりに魔力の扱いが巧くなっていた。氣の扱いが苦手なリータでは、ジェシカに身体能力で劣ってしまう。それを補うため、リータの長所である膨大な魔力を制御する訓練をしてきた。

 趣味なのかは知らないが、リータの戦い方は派手なのだ。込められる限界まで魔力を注ぎ込んだ魔法を放って、地形を変えてしまうほどの威力で敵を殲滅する。そんな威力の魔法を連発したとしても魔力切れを起こすこと無く、平然としていられる。それほど馬鹿げた魔力量の持ち主である弊害か、魔力の制御が下手である。

 もちろん、手加減が出来ない訳ではない。少量の魔力を注ぎ込んで下級魔法を使えば、一般的な魔導師が使う下級魔法と同じ威力になる。しかし、今回訓練してきたのはそういった制御ではなく、いかに込める魔力の密度を高められるかといった訓練だ。同じ魔力量であっても、密度の違いによって大きく威力に差が出てくる。木に向かって同じ大きさの【ファイアーボール】を放った場合、密度の薄い方では僅かに焦げ目を付けるだけだが、密度が高ければ焼き切って火の玉が木を貫通するぐらいは簡単に出来てしまう。

 そういった密度の制御が下手であるリータは、威力を上げるとどうしても派手になってしまう。私やジェシカ以外の相手であれば、それで全く問題は無いのでこんな訓練の必要はない。だが、私やジェシカが相手になると、威力を抑えた魔法では全く効果が無い。そうなってしまうと、氣の達人であるジェシカに何も出来ず負けてしまう。それが、涙を流すほどに嫌だったらしく、大会前の集中特訓となった。


「まぁ、程々にな」


「大丈夫! 心配しないで!」


 取り敢えず忘れてないか声を掛けると、リータはいつも通りの活発的な笑顔を見せた

 ふたりには力を隠すよう何度も言っている。返事は良いのだが、どうも不安にさせられるのだ。出来れば、ジェシカに当たるのは私になって欲しい。特訓をしたところで、勝ち抜き戦の大会でリータとジェシカが当たらなければ、それほど意味は無い。あくまでも対ジェシカの為の特訓であるらしいので、他の対戦相手であればいつも通り巧くやってくれるだろう。

 私がジェシカと当たった場合は、それなりに善戦して辛うじて負ける、といった展開に持って行こうと考えている。もし仮に、人間族で優勝者を出すのであればリータで在らせたい。私はあくまでも、リータやクラウディウスよりも少し劣るといった立場でありたいのだ。

 だが、そうなると決勝でリータとジェシカが対戦する可能性がある。圧勝さえしなければ、どこまで勝ち進むか敢えて指示していないので、それぞれの自己判断に任せている。ふたりであれば、私の算段を無下にするようなことはしないであろう。まぁ、決勝であれば多少両者が熱くなった戦いをしても構わない。一回戦で今大会最高の試合をされるより、幾分マシであろう。



「決勝は、私とガウィにしようよ!」


 思い付いたように手を叩いたリータは、期待を込めた目で提案してくる。


「いや、あまり目立ちたくないからな。私は一回戦か準決勝で負けようと考えている」


 先ほど考えていたように勝ち進むつもりがないので、苦笑いで首を振りつつ答えた。

 今回の大会の参加者は8名。協議の場で顔を合わせた、6名と人間側から特別枠として2名が出場することになっている。特別枠として参加することになったのが、Aランク冒険者のヴィムス・リアスと騎士団期待の新人セグ・デュマリク。

 ヴィムスは現役冒険者の中でトップと名高い男である。まぁ、トップと言っても辛うじて中級魔物を狩れるといった程度だ。実力的には全く釣り合っていない。ヴェノム鉱石を使った装備の実験の際に役立ってくれたセグも、実力は伴っていない。要は、ただの人数合わせらしい。開催国と言う事で特別枠が設けられたらしいが、エルフと獣人からひとりずつ出した方が良かったように思える。


「えぇ~……、じゃぁ、私も一回戦ジェシカじゃなかったらわざと負けようかな……」


 残念そうに声を落としたリータは、俯いた表情でそう言う。


「ふむ……」


 そんなにも私と対戦したかったのか? 

 今のように訓練という名目で、模擬戦闘をするだけでは物足りないのだろう。しかし、闘技大会で当たったからといって本気で戦うわけではない。互いに力を隠して戦闘をするのだから、訓練と何ら変わりないようにも思えるが……。


「私と、勝負したいのか?」


 しょげた様子のリータにそう声を掛ける。


「あれ? そうだよ? 私、結構ガウィと戦いたいって思ってるし……言ったことなかったっけ?」


 顔を上げたリータは不思議そうな表情で、首を傾げている。


「全く聞いた覚えはない、初耳だ」


 どういう事だ? リータはこんなにも好戦的な性格であっただろうか?


「そ、そうだっけ? あ、あはは……だって、自分より強い相手ってガウィしか居ないんだもん。ジェシカも強いけど、それでも私と同じぐらい。でも、ガウィは私よりも格段に強いでしょ? 腕試ししたくなるよ!」


「腕試しは構わないが、本気で戦う訳ではないぞ?」


「重要なのはそこじゃないんだよ! 例え間違って本気を出したとしても簡単に弾かれる。そんな相手だからこそ、戦いに集中できるんじゃない!」


「まぁ、そうであろうが……」


「なんか最近、手加減ばっかりでストレス溜まってるんだよ! ちょっと手加減を間違えたらすぐに壊れちゃう! 割れ物相手にしてるみたいにさ! 叩きつければすぐに壊れるのに、それが出来ないからちょっとずつちょっとずつ壊していく……そんな戦い方に疲れてきちゃった……」


 そう言って、拗ねた表情を見せるリータ。

 確かにリータの気持ちも分かる。弱すぎる相手に手加減をして苦戦しているように見せるのは、精神がすり減らされる。大威力で殲滅する事を得意としているリータであれば、尚更であろう。その点だけで言えば、ジェシカは私達の中では一番気楽かもしれない。氣の扱いが巧みなのだ、加減を付けることも容易に出来そうだ。



「……すまんな」


 リータがそんなにも抑圧を感じてしまっているのは、元はといえば私が原因だ。

 そう責任を感じて謝罪をすると、リータは慌てて首を振った。


「ち、違うよ! 不満があるとかそういうのじゃないの! 単純にたまには気楽に戦ってみたいなって思っただけで……変なこと言ってごめんなさい……」


 申し訳なさそうにこちらを見上げてくるリータを見て、なんとか希望を叶えてやりたい気持ちになる。ジェシカとの対戦であったとしても希望が叶うのであろうが、勝てそうな相手にはどうしても欲が出てしまう。あともう少し力を込めれば……そう思って互いに少しずつ抑えている力を緩めていき、最終的に強大な力を見せるような事になれば、今までのことが水の泡になってしまう。その不安があるからこそ、私と戦いたいのであろう。今度は、どこまで自分が通用するか試してみたくなる衝動に駆られるだろうが、そこはこちらが巧く手綱を引いてやればよい。リータが暴走する前に決着を決めてしまえば、問題はないのだ。


 「わかった。ジェシカの事もあるので簡単には約束できないが、決勝でリータと当たるように行動しよう」


「い、いいの!?」


 頷いてリータの希望に添う形で大会を進むと伝えると、表情を輝かせて聞いてくる。


「うまく事が運べばな。だが、必ず他国の強者には苦戦しているように見せろ。それさえ守れれば、決勝まで進んでもよい。私も巧くやる」


「うん! ~~っやった!」


 相当嬉しいのか飛び跳ねて全身で喜びを表しているリータの姿に、苦笑が浮かんでくる。いろいろと不安もあるが、私もリータとの対戦が楽しみである。どうやら、ストレスが溜まっていたのは私も同じだったようだ。となると、ジェシカにも何かしてやりたいと思うが……あとで機会を見つけて聞いておくか。


「よっしゃ! 俄然やる気が出てきた……ガウィ! 首を洗って待っとけ!」


 ハイテンションからか、妙なテンションになってしまったリータは私を勢い良く指さすと、宣戦布告でもするように言ってくる。はっきり言って、下剋上とも取れる発言だ。先までの事は建前で、それが本来の目的なのか……?


「えへへぇ~、言ってくれれば私がガウィの首を洗ってあげるよ……? もちろん、お望みとあらば全身だって構わない!」


 こちらがあれこれと考えているうちに、変な方向に暴走しているリータは恥ずかしそうに身を揺らしながら訳の分からない事を言っている。このまま収まるまで放置しておいてもよいが、そろそろ訓練を切り上げて戻らなければならない。


「そうか……では、必要になったらリータに頼むとしよう」


「えっ……? ほ、本当!? 本当に頼んでくれるの!?」


「ああ、リータさえ良ければな」


「いつでもいいよ! 今日でもいいよ! むしろ、今日からずっとがいいよ!」


「いや、こちらもいろいろあるのでな。私の方から声をかける」


「そ、そっか……わかった! 待ってるね!」


「あぁ、では戻ろうか」


「うん!」


 嬉しそうに横を歩いているリータに、心の中で謝罪する。

 今のところ、リータにそんな事を頼むつもりは全くない。暴走したリータを止めるには、取り敢えず話に乗ってやり誘導していく事で鎮めるのが手っ取り早い為、そういった返しをしただけなのだ。まぁ、あとで拗ねられるかもしれないが、我儘を聞いてやり機嫌を取ってやれば問題ないだろう。そういった機嫌の取り方も、マノリで鍛えられている。

 それにしても、私の周りには扱いに困る女が多い。世話を焼いてくれる気持ちは嬉しいが、子供でも無いのでそんな必要もない。だからこそ、断るだけなのだが、断ったら断ったで機嫌が悪くなったり、寂しそうにしたりする。こちらとしても、どう対処するのが正解なのか分からない……が、構われているうちが華だろう。こんな私を慕ってくれているのだ、不満などあるはずもない。


 そう自分を納得させ、いずれしなければならない拗ねるリータの対処に、頭を悩ませた。

 

 

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