三国同盟2
「お手数をお掛けします……」
そう、馬車の中から顔を出したシンリアスが声をかけてくる。
「気にするな」
申し訳無さそうにこちらを見ている表情を変えさせようと、なるべく穏やかな表情を作って返事をした。
行きの際もそうであったが、同行するリータとシンリアスはやたらと私に気を遣ってくる。私に馬車を引かせている事に恐縮しているらしく、どこか居心地悪げに中で静かに座っているだけだ。雑談などの話し声も、殆ど聞こえてこない。
リータとシンリアスが2人っきりになると、いつもこんな感じなのだろうかと思いもしたが、すぐにその考えを否定する。どう考えても、いつものふたりの様子を見ていれば、喧嘩をしている訳でもないのに、こんな沈痛な面持ちで馬車の中で過ごしているはずがない。
では、どうしてしまったのか。
出発した当初は、訳が分からず困惑していたが、ふたりの私を気遣う素振りを見てきて、過剰なぐらい私に気を遣っているのだと察しがついた。ただ単に、雑用を任せて申し訳ないと感じている程度だったら良かったのだが、まるで何もせずに馬車に座っていることが罪であるかのように黙って俯いている。
しかし、そのふたりの雰囲気を変えたくても、なぜそこまで気を遣うのかがわからない。この馬車を引く御者の役目も、強要されたわけでもなくむしろ自ら立候補してやっている。
今回の遠征は、私とリータ、シンリアスの3人だけとなっており、3人でなるべく役割を分担して滞りなく旅を続けてきている。聖地とされる地に、あまり部外者を入れたがない教会が、今回の協議の場所を通達してきた際に、各国護衛を含め3人までだと指定してきた。そのため、普段は使用人に任せるような役割も、全て自分たちだけでやらなければならなくなってしまった。だが、今のところ問題らしい問題は起こっていない。適材適所であり、私は御者をやっているが食事の用意はリータとシンリアスでしてくれている。ふたりが何もせず、全てがこちら任せになっているなら気を遣う理由もわかるが、そうではない。
百歩譲って、リータが気を遣うのはまだわかる。
主人である私に雑用をさせることを心苦しく感じてしまうだろうが、それは今の状況を考えれば割り切ってもらうしかない。人間に紛れる以前のように、甲斐甲斐しく私の世話を焼かせてしまっては、シンリアスに不審に思われてしまう。
だが、シンリアスまで気を遣うのがわからない。
たしかに、私はシンリアスの直接の配下ではない。
サルディニア家が所有する私兵であり、国の意志で自由に動かせる戦力ではない為、客分にあたる戦力だ。他とは違った対応をする必要もあるだろう。
しかし、不躾な振る舞いをされているわけではなく、むしろ敬意を払った振る舞いをしてくれている。それだけでも、十分すぎる対応なのだが、どうやらシンリアスはそれでは足りないと考えているらしい。
今回、私が同行する事になったのは、王族からサルディニア家に要請が出されたからだ。
三国協議が行われる場所までの護衛として、私を借り受けたいとシンリアスが赴いてきた。
「ご迷惑を承知で要請を出させていただきました。一応ですが、ヴォルガ様からは許可をいただいています。ですが、ガドウィン様のご都合が付かないのであれば、諦めますので……」
と、言われたので、
「問題ない。私でよければ力になろう。むしろ、三国協議がどういったものになるのか興味もある。なので、どちらかと言えば連れて行って欲しい」
と、答えた。
強制的に連れて来られた訳ではなく、拒否する事も可能であると、あくまで要請を受けただけだ。むしろ、何かと理由をつけて同行したかった私からすれば、是非とも受けたい好都合な誘いである。
しかし、そんな私の内心を知らないシンリアスは、「……本当に、お優しいのですね……」と、憂うように呟いてから、すぐさまその表情を消し、笑みを浮かべて感謝を伝えてきた。優しくしたつもりなど、毛頭ないのだが、変に気を遣っていると勘違いされても面倒なので、小さく呟かれた言葉に気づかなかったフリをしておいた。
だが、そのせいで今の状況になってしまっているのだろう。
どういった理解の仕方をしたのかは知らないが、あの時のシンリアスの呟きに無反応だったことが、原因かもしれない。
「リータ! 少しよいか?」
「どうしたの!?」
馬車の中へと振り向き呼びかける。
そして、すぐさま返事を返してきたリータが、馬車から慌てるようにして出てきた。幕が開いた際に見えた馬車の中で、シンリアスが不安そうな表情を向けていたので、遠くに魔物の気配と思しきものがあると、嘘をついておく。私の行動に過敏になっているせいで、リータだけを呼んだことを変に勘ぐられても困る。その為、不自然が無いよう呼んだ理由を中にいるシンリアスにも聞こえるように伝えた。
「どっちの方角?」
目を細めて辺りを見回しているリータが、不思議そうに聞いてくる。
魔物と思しき面影なはなく、気配すらしないので戸惑っているのだろう。
当たり前だな、魔物など居ないのだから。
「すまん。聞きたいことがあったのでな、嘘をついた。取り敢えず、そこに座ってくれ」
リータだけに聞こえるよう、なるべく声を落として話しかける。
「ど、どうしたの?」
促されるまま隣りに座ったリータは、若干怯えを含ませた表情で聞いてくる。
やはり、おかしい……。いつもであれば、何がそんなにも嬉しいのだと思わせるぐらいの表情で隣に来るが、全然違った対応だ。
「なぜ、ふたりして過剰なほど気を遣っている?」
「き……、気なんか遣ってないよ! いつもどおりだってば!」
変に探りを入れるような事はせず、直球に疑問に思っていたことを聞きいた。
その事で、ビクッと身体を震わせたリータはわかりやすく動揺し始める。必死に平常を装っているのだろうが、誰が見てもおかしいと気づくだろう態度だ。
なので、今度は問いかけるのをやめる。
「リータ……答えろ」
命ずるように低い声で言うと、リータは背筋を伸ばして真っ直ぐにこちらを向く。僅かにだが、恐怖で身体が震えており、額には汗が滲んでいた。
少し可哀想な気もするが、あとでフォローすれば問題ないだろう。
今は、このままでよい。
「は、はい! 実は、ご主人様がお怒りではないかと思っていまして!」
「何故だ?」
「はい! ご主人様は現在、サルディニア家の護衛です! いくら国からの要請とは言え、頼りすぎているのではないかと、常々考えていました!」
「なるほど。しかし、ここまで気を遣う程のことか?」
「確かに過剰かもしれません! ですけど、今回は護衛の任務だけでなく、雑務までお手をわずらわせてしまっています! その事を心苦しく感じ、このような態度になってしまいました!」
演技のことなど頭の中から抜け落ちてしまっているのか、キビキビとした態度で受け答えをしてくる。声もそれなりに張っている為、中にいるシンリアスに届いてしまう恐れがある。なので、リータが答えるより早く、風魔法を使って音を遮断させておいた。
「そうか、わかった。取り敢えず怒ってなどいないから、しっかりと演技をしろ」
「ご、ごめん! でも、ガウィの優しさに漬け込んで、無理を言って連れて来たってシンリアスが……」
やはり、そう思い込んでいたのか……。
そんなにも、私は自分の意見を主張しない性格だと思われているのか?
別に、面倒だと感じれば断りもする。今まで、これといって断る理由がなかった為、シンリアスからの要請を断った事がなかっただけだ。それに、今回は要請を受けた際に答えた通り、同行したいと考えていた。
その理由が、嘘くさかったのであろうか?
もし仮に、無理矢理連れて来た格好であったとしても、上に立つ者として揃えたその者達を最大限に活かし使えばよいものを……。
なんとも、損な性格をしているな。
「完全にシンリアスの思い込みだな。言葉通り、私は初めから同行したいと考えていた。無理矢理引っ張ってこられた訳ではない」
「そ、そうなんだ……よかったぁ~。シンリアスってば大げさに言うから、こっちまでびくびくしてたよ!」
一気に脱力した様子のリータは、いつものように笑みを浮かべる。
それに満足げに頷き、そのままリータに御者を任せ、中にいるシンリアスと話をしに入っていく。
リータではなく、私が入ってきたことで驚いた表情を見せるシンリアスの前に腰掛け、話があると短く伝える。
私から話があるということに、またも変な勘ぐりをしているのか、引き締まった表情をさせた。その事に内心ため息を吐きたくなるが、取り敢えず伝えておきたい要件を優先しようと手短に内容を伝える。
内容は、シンリアスが誤解しているという事。
今回の遠征に、私は自らの意志で同行したいと考えた。その為、シンリアスが罪悪感を抱くのは勘違い甚だしく、気を遣われる言われもない。
勿論、先に要請があったので自分の方から同行したいと伝えてはいないが、それはその内護衛の要請が来るだろうと考えていた為だ。
リータだけでも問題はないだろうが、それでも初めて赴く地に向かうのだ、用心するに越したことはない。護衛として連れて行ける人間が2人までだとも聞いていたので、必然的に私に声が掛かるだろうと思っていた。なので、こちらとしては要請が掛かる前から、そういった心持ちでいた。
同行したいと考えた理由は、エブングランド教会の聖地を見てみたいと思ったこと。各国の代表で集まる者達の顔を見たいと思ったこと。そして、私たちのように同行してくる護衛の実力を把握しておきたいと思ったことの、3つだ。
実際に実力をはかる戦闘をするわけではないが、ある程度の実力はその存在感から把握できる。強者には強者の風格が存在し、各国の戦力をはかる上でもその者達の放つ雰囲気を肌で感じたいと思った。そして、今回の協議にうちと同様、他の国も選りすぐりの実力者を護衛として引き連れてくると推測していた。
「そ、それで、どうでしたか……?」
話を聞いている内に、胸のつかえが取れた表情をし始めたシンリアスは、私の話を真剣に聞き入っている。
シンリアスからしても、各国の戦力を把握することは必要事項だ。これからエルフ・獣人族とは交流を深めていく。何も心配せずに、ただ友人として仲良くするわけではない。裏で様々な探り合いをしながら、表面上で仲を取り繕うだけだろう。数百年もほぼ不干渉を決めていたのだ、突然交流を始めろと言われたところで、すんなりと弊害なく話が進むわけがない。
そして、それぞれの国が最も優先するであろう事が、各国の戦力の把握。どこかの国が飛び抜けて国力を有する事になれば、仮に龍族との戦争が無事に終わったとしても、その後が問題になる。
今は共通の敵がいることで手を取り合うだろう。しかし、その敵がいなくなれば、今度は自分達に牙を向けてくるのではないかと考える。今回の事で、各国の戦力を把握し、侵略が可能である程、他国と膨大な戦力を有していると確信すれば、良からぬ考えを持つ者が出てくるからも知れない。お互いが不干渉を決め込み、他国が不可視であったからこそ、今の状況が維持されている。見えない敵ほど怖いものはなく、鮮明になってしまい猛獣だと思い込んでいたものが、ただの小動物であると知った時、その対応も違ってくるだろう。
それを、どの国も問題の種として考えている筈だ。
他国に弱小国だと思わせてはならない。虚勢を張ってでも、強国であることを示しておきたいだろう。
だが、そんな心配も杞憂に終わりそうだ。
それを伝えるように、シンリアスから受けた質問に答える。
「ほぼ、私たちと変わらない実力だろうな。獣族に関してははっきりとはわからないが、あのトイノから感じる強者の風格より幾分か脅威は劣る。
エルフに関してはジェシカが居たのでな、こちらは自信がある。私たちと同程度だろう。ジェシカは私とリータよりも肉弾戦に劣る代わりに、魔法に長けている。それを差し引いて五分五分と言った感じだな」
「なるほど……。では、そこまで飛躍した戦力を持つ国は無いのですね」
「だろうな。まぁ、他国がこちらのように最高戦力を引き連れてきたのではなかったら話は別だろうが、ジェシカは腕を買われて、私と同じようにエルフ族の有力貴族に仕えていると言っていた。エルフ族の中でも上位の実力を持つと自慢もしていので、エルフ族はこちらと同じ考えであったのだろうな」
さも、今日知ったであろう言い回しでシンリアスに情報を伝える。ジェシカの報告から、獣人族もそれ程脅威となる実力者が居ないことも知っているが、こちらは自信満々に伝えては不審がられるだろう。
本当の実力は刃を交えなければわからないがな、と付け加えておく。ただ見ただけで、寸分の狂いもなく実力を把握してしまっては、どんな能力だと疑いをかけられてしまう。
それに、本音を言ってしまえば、どいつもこいつも弱い。獣人族の護衛にしても、パシクルゥを相手に出来るような実力を持っているわけではない。それはトイノも同様で、相手にすらならないだろう。
だからこそ、今回の真の目的であったエトゥカンナを見ておきたかったのだが、その場に姿を現さなかった。
パシクルゥを相手にするのだ、トイノなど比較にならない程の力を持っているのだろう。その力を把握するのが、今回同行した最大の目的だ。しかし、運の悪いことに姿はおろか、気配すら感じ取れなかった。それと、カーラとクラウディスの気配も感じられなかった。教会側に囚われている筈だが、エトゥカンナと別の場所に居るのだろうか。
「ありがとうございます。やはり、ガドウィン様をお連れして助かりました」
しばし思考に耽っていると、シンリアスが笑みを浮かべて礼を言ってきた。
「役に立ったのであれば、こちらとしても本望だ。必要であれば、いつでも頼ってくれて構わない。私の出来る範囲で力になろう。
……まぁ、マノリの護衛もあるので、いつでもは無理だろうがな……」
「ふふ、そうですね。マノリからガドウィン様を取ってしまうと、怖いですから」
「今回も、随分駄々をこねられた。マノリにシンリアスの護衛に付くと伝えたら、「ガドウィンは、私の護衛なんですか!? それとも、お姉様の護衛なんですか!?」と言われたぞ」
その時の状況を思い出しながら、ため息を吐いて答える。
勿論、マノリの護衛であるつもりだが、自分の思惑があったとはいえ王族から要請が出されたのだから仕方がない。マノリが護衛を必要とする遠征の予定のない、比較的手持ち無沙汰な時期なのだから特に問題も無いだろうに。
当たり前の事だが、マノリの予定と重なればマノリの護衛を優先する。
屋敷にいる際でも護衛をするのが仕事のうちだと言われればそうなのだろうが、屋敷には警備の兵士や騎士達が多く駐屯している。外出さえしなければ、滅多なことなど起らないだろう。
「あとでマノリにも謝っておかなければいけませんね。大好きなガドウィン様を借り受けてごめんなさいって、ふふふ」
いたずらを思い付いたように笑うシンリアスは、そう言って私の顔を見ると、意味ありげな表情を向けてくる。
「なんだ?」
「いいえ、モテる男は辛いですわね、ガドウィン様?」
そう言って、ニコニコと微笑みかけてくるシンリアスに首を傾げる。
いつからそんな話になったのだろうか?
よくわからないが、そんな話を私にされても困る。
「そうか? 私のように、モテない男よりは辛くないだろう」
そう答えると、シンリアスは笑みを浮かべたまま固まった。
小さく呼吸する音は聞こえてくるが、突然魔法で凍らされたかのように動かない。
そのまましばらく停止していたが、徐々に表情が変化していき目を見開いてこちらを凝視してくる。
顔芸でもしているかのような浮かべていたものとは真逆の表情だなと思っていると、シンリアスは口をパクパクさせ始めた。声を発しようとしているのだが、驚きすぎてうまく言葉が出てこないようだ。
「…………本気で仰ってるのですか?」
生唾を飲み込んでから、ようやくそう口にする。
表情からも判断できるように相当驚いているらしいが、そんなにも意外な事を言ったであろうか?
確かに、異性に好かれ過ぎるのは色々と気苦労が絶えないだろう。
シンリアスは、端正な顔立ちをしている。それに加え、王族という地位まで持っているのだ、取り入ろうと声を掛けてくる男も多いだろう。その事で、常々煩わしい思いをしているのだろうから、その事に関しては同情する。
しかし、全く見向きもされないよりかは遥かにマシな筈だ。
異性との気苦労が絶えない側からすれば、私のようにそんな心配のない生活を送っている者を羨ましく感じるのかもしれない。
だが、無いなら無いでそれ相応に悩んだりはする。リータやジェシカなどは好意を向けてきてくれるが、あくまでも親愛であろう。私を異性として意識しているとは、到底思えない。
「……思ったことを言ったまでだが……何かおかしかったか?」
驚かせている原因がわからず、素直に問いかける。
だが、それにため息を吐いたシンリアスは、首を振って答えた。
「いえ……少し頭痛が……」
そう言うと、こめかみの辺りを押さえる。
憂うような表情で俯いて、また小さくため息を吐いていた。
「……やり過ぎだと思っていたけど、リータがああいった態度を取るのは、むしろ最善なのかもしれないわね……」
シンリアスは独り言を呟くように何か言ったが、それを聞き取ることが出来なかったので聞き返す。
だが、手を振って何でもないと答えると、おもむろに立ち上がってリータの様子を見てくると出て行った。私も付いて行こうとしたが、しばらく中で休むよう言われたので好意に甘えることにする。
そのまま帰りも滞りなく旅路を終え、王都まで辿り着く。リータとシンリアスの態度も行きの際とは全く違い、普段通りのものとなっていた。
それは良かったのだが、今度はリータがいつも以上に私に甘えてくるといった違いができてしまった。ちょうど誤解を解いたあと辺りからの変化だったので、それとなくシンリアスに探りを入れてみたが、分からないの一点張りだ。甘えたい年頃なのだろうとも言っていたが、それはどう考えても無い。人間が考えるような“甘えたい年頃”など、とっくに過ぎている。何かを知っていてわざと隠しているのだろうが、教えるつもりは無いのだろう。
釈然としない気持ちはあるが、変に気を遣われているよりは慕われていた方がよい。そう、自分を納得させリータの態度を受け入れるようにした。
三国協議の内容を国王に伝えるのは、シンリアスとリータだけでよいと考え、安全な王都付近まで着くと私はサルディニア家の屋敷に戻ると言ってふたりと別れた。
再度、正式に礼をしに来るというシンリアスに、そこまで恩を感じる必要は無いと答えるが、それでは自分の気が収まらないと言うので申し出を有難く受け取っておく。
屋敷に着くと、マノリが不機嫌そうな表情をしながらも出迎えをしてくる。
まだ、私がシンリアスの護衛として側を離れたことを根に持っているのだろう。最近は、側を離れることが多かったので、余計に機嫌の悪い期間が長引いているらしい。
だが、後日シンリアスが遊びに来ると伝えると、すぐに笑みを浮かべていたので特にシンリアスを恨んでいるという事は無さそうだ。
後日報告があるだろうが、特に口止めなどもされていないので、三国協議で決まった事をヴォルガの耳に入れておく。これから色々と問題が起こってくるだろうが、それは私の知った所ではない。王族や貴族たちに精々頭を使ってもらおう。
シンリアスとヴォルガも頭を抱える日々が続くだろうが、私の当面の問題は3ヶ国合同で開催される闘技大会だ。
4年前に参加した闘技大会とは、また違った意味で頭を悩ませなければならない。どこまで勝ち残るかも問題だが、どこまで力を見せるのか考える必要がある。エトゥカンナは分からないが、トイノは楽しみにしている、と言っていた。その事から、当然闘技大会を観戦しに来るだろう。
勿論、奴よりも力を持っている事をさらけ出すつもりはないが、あまり突出した実力を示してしまえば確実に警戒されるだろう。ただでさえ、人間の中では異常な力の持ち主だ。私とリータが王国を乗っ取るといった野心を見せていないからこそ好きにさせているが、王国にとって脅威になる存在であることに違いはない。それが、大陸でも指折りの力の持ち主となれば、更に眼の色が違ってくるだろう。
単純に人類を脅威から守る存在として認識されれば気が楽だが、国からすればそうはいかない。いつ自分達に刃を向けられるのかと疑心の心を持ちながら、私たちに接してくるようになる。
いずれまた、折を見てリータとジェシカと話し合わなければならないか……。
3人がどういった形でぶつかるか分からないが、私とリータは人間族代表になる事から早期での対決はないだろう。だが、早々にどちらかがジェシカとぶつかることになれば、どうするのか考えておかなければならない。
もし、リータとジェシカが戦うことになれば――
無いとは思うが、ふたりが熱くなってしまうとよくない。
私もそうだが、ふたりと同程度の力を持つ存在などそう滅多に居るものではない。だからこそ、本気を出して戦える状況になれば、抑えている闘争心に火がつく可能性がある。私と対峙すれば問題なく理性を保てるだろうが、あのふたりになればお互いに遠慮が無くなる。
どの程度効果を発揮するか分からないが、釘だけは刺しておく。
ふたりの事を考えると、不安だけが募ってくる。
これも異性関係の悩みと言うのだろうか? と、的外れな疑問が浮かんでくることに苦笑いが漏れた。
主人公鈍感回。
話を早く進めると言っておいて、この体たらく……申し訳ありません。
キリが良かったので少し短めですが、
いい加減、1話1万字が辛くなってまいりました……。




