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プロローグ2

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再投稿です。

「つまんない」


 草原の遥か上空にある雲から、可愛らしい声が聞こえてくる。

 そこには、年齢にして15.6ほどの少女が、空に漂うように浮遊していた。

 艶々しい紅い髪は肩で綺麗に切り揃えられ、どこか妖艶な魅力を感じさせる瞳は紫に輝いている。未だ、あどけなさを残すその顔は、美しいと表現するよりも、可愛らしいと言った方がしっくりとくる。しかし、それが少女の女性としての魅力を、より一段と惹き立てていた。

 紅髪の少女は視線を下へと向け、なにかを観察するように眺めている。

 その遥か下方では、魔物から逃げ惑う人間たちの生死をかけた逃走劇が繰り広げられているが、そんなことを気にした様子もなく、のんびりとした表情をしていた。


「あの屋敷の人間は、楽しませてくれるのかな……」


 顔を魔物が進む先へと向けると、そこにある豪華な屋敷を眺める。

 屋敷と言うよりも、要塞に近いその造りは、周りを正方形の分厚い防壁で囲っており、角の位置にはそれぞれ監視塔がそびえ立っている。

 そして、4つの塔には兵士が屋敷を中心に全方角へ、監視の目を向け警戒していた。


「まっ……どうでもいいか。今回は、人間の戦力を確認するだけだし」


 屋敷への興味を無くしたのか、再び視線を戻すと、下方での逃走劇を眺める。

 少女が視線を戻すと、馬車が前を走る2人に追いつくまでに、距離が縮まっていた。


「ハイ・オーガ1体で人間と、どのぐらい戦えるのかな。あの屋敷の持ち主は、国でも有力な貴族だっていうから、それなりにやり合ってくれるとは思うんだけど…。」


 疑問を口にしながら、少女は片頬に手を当て、可愛らしく首を傾げる。


「うん。2人を馬車に乗せたみたいね。もうすぐ屋敷の兵士も馬車に気付くだろうし、楽しみだなぁ。あははっ」


 馬車が先を行く2人を追い抜くと速度を落とし前につく、メイドが抱えている女の子を荷台に乗せると、自身も飛び乗った。

 行者が荷台へ乗ったのを確認したのか、馬車は再び速度を上げ、草原を疾走していく。


 必死の思いで凶悪な魔物から逃げる人間たちを、どこか冷めた目で眺めていた少女は、これから起こるであろう出来事に期待を膨らませいるのか、本当に愉しそうな笑みを浮かべていた。







「……なんだ?」


 監視塔にて、前方に視線を送らせる兵士が声を上げる。その視線の先には、逃げるようにこちら側へと向かってくる、1台の馬車が映った。普段見かける馬車とは、比較にならない程の速度を出して草原を走行する様子に、訝しげな表情を浮かべる。

 その原因を探ろうと、視線を馬車の後方へと向けると、黒く巨大な魔物がゆっくりとした歩調で馬車を追っていた。


「っ…! 魔物だ!」


 異常に気付くと、瞬時に別の方角を監視する仲間に伝える為、絞りだすように声を出し、危険を伝える。


「南西の方角から、魔物が馬車を追いながらこちらへ向かってきている! すぐに伝令を!」


「なにっ?! 警報を鳴らせ! 敵襲だ!」


 事態を聞いた兵士は、下の仲間へと指示を出すと、自身も塔を降りていく。


「敵襲! 敵襲!!」


 上からの報告を受けた兵士が、すぐさま緊急を知らせる鐘を全力で叩き、声を張り上げながら甲高い音を響かせた。







「何事だ!」


 豪勢な衣服を身に纏った、貫禄を感じさせる壮年の男の耳に警報が届いてくる。そのことに、顔を驚愕の表情へと変えると、机を叩きながら椅子を蹴るように立ち上がった。

 それから間を置かずに、執務室の扉が開くと、兵士が転がり込むように入ってくる。


「南西の方角より、こちらへ侵攻してくる巨大な魔物が!」


「南西に魔物だと!? マノリが、遊びへ出た方角ではないか!」


「はっ! 馬車が追われながら、こちらへと逃げてきております! おそらくは到着が遅れていた商人だと思われます!」


「くっ、ガウドめ…! 余計なものを引き連れて来おって!」


 兵士からの報告を聞くと、苦虫を噛み潰すような表情を浮かべ、贔屓にしている商人の名を呪うような口調で吐き捨てた。



「すぐに騎士たちを討伐に向かわせろ!」


「はっ! すでに、ソリウス騎士長が一個小隊を引き連れ、撃退に向かっております!」


「わかった! 私も状況確認に行く!」


「はっ!」


 そう言うと、手に持っていた書類を放り投げ、執務室から飛び出すように通路へと踊り出た。







「ハァ、ハァ、ハァ、ゲホッゲホッ、うっ…ハァ、ハァ」


 マノリを抱えたまま草原を全力疾走していたエリスは、馬車に乗ると全身の力が抜け落ちたように座り込んだ。激しく息を切らせ、必死に酸素を取り込もうと呼吸する姿は、痛々しく映る。時折、息を詰まらせては咳き込み、座っている事さえ辛いのか、手と額を床に付けて倒れ込もうとする身体を支えている。

 そんな姿を心配そうな表情で見つめるマノリは、激しく揺れ動く荷台で、身体を振られているエリスを支えるように寄り添っていた。


「エリス…」


「だい…じょうぶ、です。はぁはぁ……お嬢…様」


「ごめんなさい……私のせいで」


 安心させようと言葉を詰まらせながらも微笑みかけるエリスに、マノリは顔を歪めて謝罪する。


「あ、謝らないで、はぁはぁ…、ください。お嬢様が無事で…げほっげほっ、なによりです」


「エリス…」


 魔物から必死に守ってくれたメイドの名を、憂いを含んだ声で呟く。そして、恐怖心からただただ、抱きかかえられている事しか出来なかった自分の不甲斐さに、唇を噛み締めていた。



「騎士様がこちらへ向かってきます!!」


 御者台から、ガウドが嬉しさの混じった声で叫ぶ。

 その声にマノリは弾かれたように顔を上げた。


「エリス! 騎士たちが来てくれたわ! もう安心よ!」


「はい、はぁはぁ…。私の役目を果たせ、けほっ、ました」


 マノリの嬉々とした表情を見て、使命を果たせた達成感から弱々しいながらも、本当に嬉しそうに綺麗な微笑みを浮かべた。







 全身を騎士鎧で覆い、小さき主人を守るため愛馬を鼓舞し草原を駆けさせるソリウスは、馬車を視界に捉えると御者台にいるガウドへと声を張り上げる。


「お嬢様とエリスは!?」


「中にいらっしゃいます!」


「そのまま屋敷に向かえ!」


「わかりました!!」


 マノリとエリスが無事であることに安堵するが、すぐに気を引き締め前方に見える魔物へと視線を向ける。


『あれは……ハイ・オーガ? こんな草原に出現する魔物ではないぞ?!』


 近づくにつれて、段々と魔物が鮮明になり、その見覚えのある姿に驚愕した。

 暗闇のように深く黒い肌をし、7メートルを越える巨大な体は見るものを震え上がらせる禍々しいオーラを発している。その身体から伸びる太い丸太のような腕には、3メートル程ある鉄の棍棒を握っていた。


「このまま魔物へと突撃する!」


 後ろから追従する部下たちに指示を出すと、腰から長剣を抜き放ち上段に構えそのままハイ・オーガへと突き進む。

 部下たちも自身の武器を構え、前を行くソリウスに遅れまいと愛馬を鼓舞し駆けさせた。

 前方に見えるハイ・オーガだけに視線を定めていたが、荷台の窓から身を乗り出す者の姿が映った。それがマノリであると気づき、視線を向けると、すれ違う瞬間に叫んだ。


――お願いします!!――


 今にも泣き出しそうな顔で、縋るような表情を騎士たちに向けている。目には涙が溜まり、声を出した拍子で零れると、風に乗って飛んでいった。

 そんなマノリの姿を見たソリウスは、自身の奥底から勇気が湧き上がる感覚を覚える。剣を握る腕には、無意識に力が入っており、呼吸も荒くなっていた。


「お任せを!!」


 湧き上がる勇気を一気に爆発させ、マノリの恐怖を吹き飛ばさんと吠えるように叫ぶ。


 恐怖に顔を歪めている姿など、一度も見たことがない。常に笑顔を絶やさず、騎士・兵士・メイドと誰にでも別け隔てなく接する姿を見て、この方が自分の主人である事にどれほど感謝しただろう。

 どんな事があろうと、笑顔を絶やさずに居て欲しかった。騎士である自分たちは、その笑顔を護るのだと誓い合った。貴女の騎士はこんなにも強いのだと、そう感じて欲しくて己を鍛え続けた。


 ――しかし、その信念は、今この時、踏みにじられた――


 ―恐怖に、怯えさせてしまった。

 ―恐怖に、顔を歪めてしまった。

 ―恐怖に、身体を震わせてしまった。


 何故、護衛としてついていかなかったのか。何故、屋敷の周辺を安全にして置かなかったのか。何故……。


 後悔の念が、頭の中から次々と湧いてくる。屋敷の周辺であれば安全だと考えていた、自分の慢心に怒りが込み上げ、頭に血が上る。


「ォォォ……オオオオオォォッッ!!」


 怒りから声が漏れ出す。血が沸騰して、身体が熱くなる。そうなると、もう止まらない。それはすぐに雄叫びとなって、腹の底から口を通過して吐き出てきた。それに呼応し、追従する部下たちも勇ましい叫び声を上げ始めると、魔物へを向かっていく。


「この地に踏み入った、己の愚かさを呪え……」


 ソリウスは眼前へと迫る魔物に全身から殺気を放ちながら呟くと、ハイ・オーガの脚へと狙いを定める。


 ソリウス達に気付いたハイ・オーガは棍棒を大きく振るう。それを、紙一重のところで避けると、長剣を握る腕に力を込め、渾身の一撃を脚へと打ち込んだ。

 長剣の半分程を食い込ませ、斬り落とさんと一閃しすれ違うと、それに倣うように部下たちも次々と脚へと狙いを集中させる。槍で突かれ、矢が刺さり、炎が弾け、ハイ・オーガの脚は一瞬にして、どす黒い青い血を噴出させた。

 脚への激痛にハイ・オーガは苦痛の叫び声を上げるが、足元に目を落とすと棍棒を振り上げ騎士たちへと叩きつける。棍棒が地面へと食い込む程の衝撃に、砂煙が辺りを舞い視界が悪くなった。しかし、すぐに砂煙を振り払うように棍棒が横薙ぎされ、砂煙により視界を奪われていた騎士の2人が鈍い音を立てながら数メートル吹き飛ばされる。


「ちぃっ!」


 棍棒の強撃に晒された部下たちが地面を数回弾み、その場で動かなくなるのを目端に捉えた。そのことに、ソリウスは苛立ったように短く舌打ちする。仲間の無残な姿に、魔物へと飛び掛りたくなる気持ちを必死に堪え、冷静に状況を見極めると叫ぶ。


「動き回り撹乱しつつ、隙をついて攻撃しろ!!」


 部下に指示を出すと、再びハイ・オーガへ愛馬を駆けさせ脚を斬りつけ距離を取る。ハイ・オーガがソリウスに目を向けた隙をつき、部下たちの攻撃がハイ・オーガの脚へと向けられた。

 それにより、幾つもの斬り傷と矢が刺さり、炎魔法による焦げが目立つ右足の動きが鈍る。それに気付いたソリウスは、右足に狙いを定め、突撃した。

 またも近づいてくるソリウスを迎撃しようとハイ・オーガは腕を高く持ち上げるが、背後から数発の火の玉が飛来し、吸い込まれるように棍棒を握る腕へと炸裂した。

 それによって、急な腕への衝撃に耐え切れず、ハイ・オーガは棍棒を地面に落とす。


『よし!』


 部下の魔法による援護に感嘆し、そのままハイ・オーガへ突き進むと脚へと長剣を突き刺した。

 柄頭まで食い込ませる程の一撃に、激痛を感じたハイ・オーガは苦痛の声を上げる。それにより、脚に力が入らなくなったのか、身体が傾いていった。

 だが、とっさに血を吹き出しながらも刺された脚を振り抜くと、ソリウスの身体へと叩き込み蹴り上げる。


「ゴフッ!?」


 突如、巨大な脚が身体へと叩きこまれ、身体から鈍い音が響いてきた。

 愛馬と共に上空へ数メートル打ち上げれ、そのまま数秒滞空すると、重力に逆らうことなく地面へと叩きつけられた。

 蹴られた部分の鎧が凹み、全身がきしみ、背中から落ちたことによって一時的な呼吸困難に陥る。


『鎧を着ていなければ死んでいた!』


 ハイ・オーガの桁違いの力に驚愕し、攻撃を終え油断していた自身を叱咤した。呼吸が上手く出来ず、意識が霞んでいく。しかし、全身から感じる激痛に意識を合わせ、気絶することをなんとか防いだ。

 そして、言うことを聞かない身体を必死に動かし顔を上げると、音を立てて倒れ込んだハイ・オーガが目に映った。


「頭を狙え!!」


 仰向けに倒れ込んで事に、好機と悟るとすぐに叫ぶように指示を出す。同時にソリウスも無理矢理身体を起き上がれせると、ハイ・オーガへ走り出した。

 隊長の指示に、部下たちは次々に頭へと攻撃を命中させていく。炎が顔を覆い、矢が降り注ぎ、槍を眼球へと突き立てられているハイ・オーガは、苦痛を振り払うように手を顔の前でバタつかせる。

 その様を冷静に見つめながら近づくと、右足に突き刺さったままの長剣を抜き取り、ハイ・オーガの身体をつたって腹まで進むと、高く跳躍する。


「ハアァァ!!!」


 上空で抱え込むように剣を下に向け、無造作に振るわれる手を掻い潜る。自然と漏れだした気迫の篭った雄叫びを上げながら、全体重を乗せた一撃を倒れているハイ・オーガの額へ突き落とした。

 長剣の全てが頭の中にめり込む程の衝撃に、ハイ・オーガの身体が大きく跳ねる。そして、空気が震える程の絶叫が耳を荒むと、力が抜けたように動かなくなった。


「やった…か?」


 頭の中にまでめり込んだ長剣を引き抜きながらソリウスは呟く。ぴくりとも動かないハイ・オーガを一瞥すると、全身の力が抜けるような感覚に襲われ身体がふらついた。踏ん張ろうとするが、脚に力が入らず、そのままハイ・オーガの頭から地面へと転がるように落下する。



「「「隊長!」」」


 気を失う瞬間、慌ててソリウスへと向かってくる部下たちに顔を向けると、笑みを浮かべた。







「う~ん……。ここの貴族の騎士たちは弱いのかな?」


 下での戦闘を眺めていた少女は、ハイ・オーガが倒されたことに、なにも感じていない様子で口にした。


「ハイ・オーガ相手に6人掛かりで、死者が2人に重傷が1人……。雑魚?」


 あの程度の魔物なら、虫を払うかのように消滅させられる。そんな少女にとって、ここの騎士たちが決死の思いでハイ・オーガを討伐する姿は新鮮に映った。


「うん、多分そうね。今度はもう少し強い人間を探して、実験してみましょ」


 そう結論付けると大きく頷き、顔を上げる。


「今日はこれでおしまい! 帰ってご主人様に抱きしめてもらって、熱いキスを……」


 何事かを考えているのか恍惚の表情を浮かべると、自分の身体を抱き締めるように腕を回し、唇を突き出し始めた。


「よし! 待っていてください、ご主人様! 貴方の……貴方だけのリータが、今参ります!!」


 言い終わると同時に、リータの姿が空から消えた。

編集するつもりが削除してしまいました。

バックアップを取っておらず、記憶からサルベージして書いたので、前回と少々文章が変わっていると思います。

今回のことで急激にやる気が無くなりましたが、完結まで頑張りたいと思っているので、長い目で見てやってください。

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