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上級魔物3

短いです。

 リータが抱擁に満足してから、ティルスの屋敷に向かうため森を抜けていく。

 途中、森の中で見つけた貴重な鉱石・薬草・花などを、リータが採取して袋に詰めている。シンリアスに土産として持って行くらしい。

 森の中の様子を聞かれることはわかっているので、周りを観察しつつ、どう伝えるか考える。中級魔物が現れる区画までの事は話しても良いだろう。しかし、上級魔物の区画までは伏せておいた方が得策だ。その区画まで行き、生きて帰ってきたことに喜ばれもされるだろうが、疑われれもされるかもしれん。その為、リータが集めている物も、中級魔物の区画で採れるものだけだ。


「あまり採り過ぎるなよ。量がありすぎると、撃退して必死に逃げ帰ったという嘘が疑われる」


「はい、これぐらいにしておきます」


 採っている草を袋に詰めながら答えるリータに、少し違和感を覚える。それについて考えていると、マノリとリータを比較した時の反応の違いだと、気づいた。


 マノリは私の言葉に素直に従う時と、そうでない時がある。有事の際では、護衛である私の指示に必ず従うが、そうではない日常では何かとわがままを言われる。

 しかし、リータは違う。今の反応にしても、必ずと言っていいほど私の言葉に従う。マノリであれば、「もう少し採らせてください」と、聞く耳を持たないはずだ。


『リータが私の言葉に従い過ぎるのは、不自然に思われるか?』


 そういった素振りを見せたことはないが、身近なシンリアスやマノリであれば、違和感を感じていてもおかしくない。全面的に信頼を寄せて、意見を違える事がないほど、私に従うリータの姿は家族というよりも、主従に見られるかもしれない。

 そうなれば、疑いの目を向けられ関係性を怪しまれる。


「リータ、少し話がある」


「はい、なんですか?」


「リータの態度についてだ」


「えっ…?何か不快でしたか!?」


 不安気にそう聞いてくると、怯えた表情をさせた。それに、首を振りながら否定の言葉を出す。


「いや、そうではない。少し、私の言うことを聞きすぎていると思ってな」


「聞きすぎている、ですか?」


「そうだ。今の私たちは家族だ、主従ではない。私の言葉に異を唱える事があってもおかしくないのだ」


「た、たしかにそうですけど…。ご主人様に逆らうなんて出来ません!」


 慌てた様子で言うリータの姿に、『やはり良くない』と改めて思った。

 その気持は、私としても嬉しい。自身に忠誠を誓っているのがよく分かる。

 しかし、家族としてのガドウィンとリータでは駄目だ。わがままを言い合えるからこそ家族であり、少し相手を不快にさせる程度の態度ならば、笑って許せるぐらいにはならなければいけない。


「リータの気持ちは嬉しい。しかし、それではシンリアス達に疑われるやもしれん。少しは自身の意見を言え。多少のわがままや、すれ違いでリータを見限る事などありはしない」


「ほ、本当ですか…?」


 眉をハの字にさせながらも、どこか嬉しさを滲ませた表情で聞いてくる。その表情から、『やはり、自身を押し殺して居たのだな』と、感じた。

 今まで当たり前だと考えていたが、リータ達はかけがえのない存在だ。主従関係ではあっても、互いに仲間として接することが出来るまで、距離を縮めていきたいと思う。演技とはいえ、リータと家族として振る舞ってきた経験から、自身の中でそういった考えが芽生え始めていた。

 家族であれば、時にはぶつかり、すれ違い、そしてまた、何事もなかったかのように寄り添い合う。そういった関係であっても、不思議には見られないはずだ。


「本当だ。リータは私にとって、かけがえのない存在だからな」


 微笑みながら自身が思っていることを伝える。

 それを聞くと、リータは感極まった表情になり、飛びついてくる。


「嬉しいです!」


 胸に顔を埋めながらそう言うリータの頭を、ゆっくりと撫でた。







「遅いですね…」


 窓から外を見ながら、独り言のように呟く。

 リータ達が出ていったのは昼前。もうすでに日が暮れ、夜になっているというのに未だに帰ってこない。


「はい…。ですけど、大丈夫です!もうすぐ、帰ってきます!」


 嫌な予感が頭を過る中、マノリが笑顔で言ってくるのに、微笑みながら頷いた。


「そうね。きっと、あの2人なら大丈夫だわ」


 自分にそう言い聞かせるように返事をする。しかし、そのまま会話が途切れてしまい、なんとも言えない空気がわたくし達の間に流れる。


 何か話題を変えようと必死に頭を働かせていると、ふとマノリの顔が目に入る。わたくしと同じ思いだったのか、必死の表情で話題を探そうと考えている様子だ。そして、わたくしの視線に気づいて、こちらを向くと、笑い合う。


「ふふ、同じ気持ちだったのですね」


「はい。姉妹ですから!」


 わたくしの言葉に、笑顔でそう返してくれるマノリを、愛おしく感じる。

 ずっと欲しいと思っていた妹。末っ子のわたくしは、いつも面倒を掛ける側だった。大姉様はわたくしの母のように。お姉様は姉としては勿論、見本となる淑女のように、わたくしにたくさんの愛情を捧げてくれた。

 その受けた愛情を、少しでもマノリに捧げていきたいと思っている。妹としてならば経験豊富だ。何をされたら嬉しいのか、どう叱りつければ淑女として導いていけるのか、わたくしの経験からたくさんの愛情を注いでいきたい。


 決意を新たにしていると、扉が叩かれる。


「どうぞ!」


 それに、マノリが元気の良い声で応えた。その姿に微笑んでいると、リータ達が部屋へと入ってくる。


「おかえりなさい」


 リータの姿を見て、安心感から涙腺が緩む。しかし、大仕事を終えて帰ってきた2人に、そんな姿は見せられない。出来る限りの笑顔を向けて、声を掛けた。


 2人は、あちこちに傷をつくっており、腕や足には包帯が巻かれている。それが、今回の魔物が強敵であったことを物語っていた。中級魔物ですら、かすり傷程度で仕留めてしまう2人に、痛々しく見える程の傷をつくらせてしまったのは自分だ。王である父の決定とはいえ、そんな魔物の討伐に赴かせてしまった事に罪悪感が心を占める。


「ただいまぁ~。はぁ~、疲れた」


 そう言いながらこちらに寄ってくるリータは、わたくしの前で後ろ向きに立ち止まると、膝に座ってきた。


「リータ?!」


 突然のリータの行動に驚いていると、いたずらが成功した子供のような顔を向けてくる。


「いいじゃない!ご褒美ってことで」


 そうは言うが、リータにこんな形で甘えられた事は一度もない。こういう事をリータがする相手は、ガドウィン様だけだ。どうしてその相手が、わたくしに変わったのか分からないで戸惑っていると、ガドウィン様が呆れた表情で声をかける。


「リータ、失礼だぞ」


「いいの!シンリアスもいいよね?」


 無邪気な顔で聞いてくるリータの態度に、またも驚いた。

 リータがガドウィン様の言葉に背いて、自分の意見を主張する姿を初めて見たからだ。

 今までなら、その言葉に従っていたはずだ、2人の間に何があったのだろうか…?


 疑問を感じていると、リータの表情が不安気なものに変わっていくのが分かり、慌てて頷きながら答える。


「え、ええ…。たまにはいいわ」


「やった!そんな優しいシンリアスに、お土産があるよ!」


 嬉しそうに言うと、持っていた袋を前の机に置いて、中を見せてくる。


「こ、これ…!」


「凄いでしょ~、帰りにちょっと採ってきたんだ!」


 自慢気に言うリータの言葉を聞きながらも、袋の中身から目を離せないでいる。

 中には、薬草・花・鉱石・魔力石と、様々な物が入っていた。しかし、その辺で採取できる物とはワケが違う。

 性能の高い回復薬を造るのに必要な、ドウリケ草にラゾグア草。煎じて服用すれば、一時的に身体能力の向上を得られる、ヤバブフリ花。王族で管理している鉱山ですら、稀にしか発掘されない、ヴェノム鉱石。極めつけは、一目で高純度であると判断できる、色濃く淡い光を放った魔力石。

 魔力石は、色の濃さや輝きから石の性能を判断する。薄く輝きのない石は、王国の魔導師達が生成できるが、これ程までの高純度の物は滅多に目にできない。内に秘める魔力量の膨大さを感じさせる魔力石の数々に、しばらくの間見入ってしまっていた。


「結構奥の方まで誘導してから、木に隠れながら戦ったんだけど、やっぱり強いわ。さすがに今回は死ぬと思ったね」


 腕を組みながら、『うんうん』と頷きつつ、リータが報告してくる。


「だけど、そこは私とガウィ!私が矢で両目を潰してやると、ガウィが制限を外した大剣で、腕と足を1本ずつ斬り落とした!そのまま、呻きながら転がってたから、多分血の匂いにつられて寄ってくる魔物の餌になってると思う」


「そ、そう…。本当に凄いわね、あなた達」


 まるで子供に聞かせる童話のように、上級魔物との戦いを語ってくる姿に、尊敬を通り越して呆れがやってきた。


「とどめは刺さなかったのですか?」


「さすがにこっちも満身創痍だったからね…。倒れながらでも、残ってる腕と足をブンブン振り回してたし、近づきたくなかった」


 マノリの問いかけに、リータは苦い表情で答える。「しぶとくて嫌になったよ」と、戦闘を思い出しているのか、顔を歪ませた。

 それでも、やはりこの2人は凄い。上級魔物をそこまで追い詰められるとは、正直思ってもいなかった。出来たとしても、森の奥まで誘導して軽く傷を負わせ、身を隠しながら戻ってくるのだと考えていたからだ。


「やりあってからの判断になったが、思ったよりも戦えてな。後の憂いを残さぬために、放っておいても死ぬ程度には傷めつけておいた」


「は、はい、素晴らしい判断です。これで、上級魔物に怯える事なく開拓が進められそうです」


 ガドウィン様が、わたくしの表情から気持ちを読み取ったように伝えてくる事は、こちらとしても助かる。森に追いやっただけとなれば、再び戻ってくる可能性があるからだ。報告の通りなら、その場で身動きが取れず血を大量に流し、絶命するだろう。


「でも、ちょっと気になることがあるんだよ」


 開拓に支障が出なくなった事に、安堵の表情を浮かべていると、リータがガドウィン様と顔を見合わせながら、そう言ってくる。


「あぁ。詳しい距離などは分からないのだが、相当奥まで引き連れていったのだ。そこまでは良かったのだが、周りの魔物が下級から中級に変わってな。それもちらほら見える程度ではなく、全てが中級魔物だった。まるでゴルディシア山近くの森のようだったな」


「そ、そんな…!あの森の奥にも中級魔物が!?」


「あぁ、このまま開拓を進めていけば、いずれ奴らの縄張りに入るだろう」


「そうですか…」


 ガドウィン様の言葉に頭を抱える。

 これではいずれ、開拓が困難になってしまう。下級魔物ですら、相当の戦力が必要となるのに、中級魔物が頻繁に現れるようになってしまっては、本当に開拓を中止しなければならない事態になる。

 そうなれば、上級魔物の討伐に失敗した際の案を、進めていく他ない。せっかく、リータが奥で採れるであろう採取物を持ってきて、森の中の可能性を示してくれたのに…。


「そう、落ち込むな。本当に奥の方まで行ったからな。それこそ、数時間は走ることに費やしていた」


 わたくしの落ち込む姿をみかねたのか、ガドウィン様が声をかけてくる。それに、マノリが驚いた様子で聞き返した。


「そ、そんなにですか!?」


「あぁ。だが、もうやりたくはない。戦う前から体力が切れかかっていたからな。回復薬を持って行かなければ死んでいた…。まぁ、そういう事だ。今の開拓の速度から考えて、数年で進むような場所ではないはずだから、猶予があるだろう。それまでに、私たち以外でも中級魔物を対処できるよう、戦力強化を図った方がよいな」


「そうですね…、父に報告をして、様々な面から対策を考えます」


 励ましの言葉に頷き、表情を引き締めて見つめ返す。それにガドウィン様は大きく頷いて、「苦悩する顔より、そちらの顔の方が良いぞ」と、茶化してくる。意外な返しに少し頬が染まってしまうが、気を引き締め直して今後について思考を巡らせる。

 すると、膝に座っているリータが、「こんな感じかな?」と、わたくしの顔の真似をしているのか表情を引き締めていた。もしや、と思いマノリを見ると、同じく引き締めた表情をしている。

 そんな2人を、わたくしと同じように見ていたガドウィン様と目が合う。そして、呆れた様子で肩を竦めた。

 その動作で笑みが浮かび、そのまま2人で笑い合ってしまう。その様子が面白くなかったのか、リータとマノリが嫉妬を含めた顔でこちらを見てきた。

 こんな事で嫉妬してしまう2人が可愛らしくて、今の状況が温かく楽しくて、心の底から込み上げてくる笑みを抑えきれなかった。







 白を基調として、艶やかな金と銀の見事な刺繍が施されている椅子に、真っ白なドレスを纏った、成人の女性が座っていた。


 背筋を凛と伸ばしながらも、椅子に毛先が届く程、長く美しい黒髪を首の辺りで結っている。髪の色とは真逆の白い滑らかな肌。宝石のような黒く大きい瞳に、薄く朱い果実のような潤った唇。非の打ち所のない端正なその顔立ちは、どんな種族であれ男女問わず、見惚れさせてしまう魅力を持っていた。そして、その美しい顔を支える華奢な肢体は、ふくよかな胸に、妖美な曲線を描く腰。洗練かつ繊細に細工を施した、美しすぎる顔を支えるに相応しい最高傑作であると、誰も納得する身体であった。


 その側には、ひっそりと、それでいて、見落とすことなどありえないと思わせる雰囲気を持つ、初老の男が立っている。髪は白髪で染まり、顔には深いシワが目立っている。しかし、そんな外見とは裏腹に、引き締まった身体は年齢による弊害など一切感じさせない。視界に入れさえすれば、必ずと言って良いほど、隣に座る女性が大部分を占める。しかし、その中で、視界の端に映る――映ってしまう程の存在感がその男にはあった。




「マウカタイ森に放ったサイクロプスが、殺されたようです」


 男が女の耳に口を近づけ、耳打ちするように声をかける。 


「とうとう人間どもすら、サイクロプスを殺せるようになったのね…」


 それを聞いた女は、憂いを含ませた声色で呟いた。


「そのようです。また――滅ぼしますか?」


「そうね…。だけど、パシクルゥがやっかいだわ」


 男の物騒な質問に戸惑う事無く返すと、女は美しい顔を少し歪めながら口にした。


「龍族の王ですか…、確かに彼女は我々にとっても脅威なります」


 そういうと、深いシワの目立つ眉間を顰め、より一層濃くなる。


「でも、パシクルゥさえ消してしまえば、憂いは無くなる」


「はい。しかし、彼女に対抗出来るのは、エトゥカンナ様だけです」


「トイノでは無理?」


「お戯れを…。我などでは相手になりません」


「そう…、妾もパシクルゥの相手をするのは骨が折れるわ」


 首を振ると、頬に手を当て、小さくため息をついた。

 そんなエトゥカンナを安心させるように微笑むと、トイノが口を開く。


「それについては、策があります」


「聞かせて」


 エトゥカンナは嬉々とした表情で、どこか期待していたかのように、素早く先を促す言葉を出す。


「彼女…いいえ、龍族を孤立させましょう」


「孤立?」


「はい、人間・エルフ・獣人族対龍族の戦争を起こします」


「出来るの?」


「勿論です。その為に、龍族以外の貴族に複数のパイプを持っていますから」


 トイノはニヤリと笑みを浮かべて、大きく頷く。


「頼もしいわ。では、あとはトイノに任せる」


 満足したように微笑みながら、エトゥカンナが答えると、トイノは恭しく頭を下げた。


「かしこまりました。お任せあれ」







 馬車に揺られながら、王都へと引き返していく。

 また、ご主人様と離れ離れ。せっかく会えたと思っても、いつもこうだ。早く仕事を済ませても、一緒にいられる時間は長くならない。せめて、1日でもいいから、ご主人様とゆっくり過ごせる時間が欲しい。


「はぁ…」


「拗ねないでよ」


 私がため息をつくと、前に座ってるシンリアスが呆れた表情で言ってくる。


「拗ねてない!せっかく、ガウィと会えたのになぁ~、って思っただけ」 


「また会えるわよ」


「そうだけど…。もっと、一緒に居たいの!」


「それは我慢して」


「ええー。……そうだ!」


 どうにかご主人様と長く一緒に過ごせないか、考えて名案を思いついた。


「シンリアス!休暇頂戴!」


「休暇…?」


「そう!4年間ずっと働いたんだから、1ヶ月ぐらい休暇もらってもいいでしょ?!」


 ご主人様も、私と一緒に休暇を取ればいい!

 1ヶ月あれば、ご主人様と買い物に行ったり、旅行に行ったり出来る!それで、夜は一緒に寝て、「リータ…、お前が欲しい」とか言われたら…。


「……えへへぇ~、さいっこうぉ~…!」


「妄想してるところ悪いけれど、それ無理」


 ご主人様との甘い時間を想像してると、シンリアスが夢を壊してきた。


「なんでよ!?」


「今、リータに休暇は出せない。それほど、貴女は王国にとって必要不可欠な存在なの。勿論、ガドウィン様もね」


「1ヶ月ぐらい、私たち抜きで頑張ってよ!」


「それが出来たら苦労しないわ…」


 私の夢を打ち砕いて、粉々に踏み潰してきたシンリアス――いや、悪魔を睨みつける。


「シンリアスの、けち!悪魔!牛胸!」


「…リータが、わたくしの事をどう思ってるか、よ~く分かったわ…!」


 引き攣った笑顔で、口の端をひくひく吊り上げる。その反応が面白くて、更にシンリアスを口撃する。


「ちゃんと運動しないから、お腹の周りにお肉が付いちゃうんだよ?…ぷっ」


「リィータァァ!!」


 常々、気にしていたお腹の肉を弄ってあげると、眉毛吊り上げて、怒り狂った様子で叫んできた。

 面白いからもう少し弄りたいけど、やり過ぎると後が怖いし、この辺でやめておこう。


「ごめんなさい」


 素直に、ペコリと頭を下げて謝罪する。

 それに、シンリアスは意表をつかれた顔をして、「わたくしも大人気なかったわ」と、あっさり引き下がった。


「ちょっと、わがままを言ってみただけだよ」


「それと、わたくしの悪口は関係ないでしょ…」


「シンリアスだから言えるんだよ。私、これでもシンリアスのこと、結構好きだよ」


「それは嬉しいけど…」


 巧く誤魔化そうとしてる事に気づいているのか、訝しげな表情で見てくる。それに、ニコニコと笑顔で返していると、シンリアスが何かを思い出したかのような顔をした。


「わがままと言えば、ガドウィン様への態度が変わったわよね?」


 窺うような視線で聞いてくるシンリアスに、内心焦った。

 やっぱり、シンリアスは私のご主人様への態度が、どこかおかいしと感じていたらしい。


「えへぇ~」


「…何よ、その顔?」


 森で言われたご主人様の言葉を思い出して、頬が緩んでしまう。ニヤニヤとご主人様の言葉を頭の中で繰り返してたら、シンリアスが脱力した様子で聞いてきた。


「サイクロプスを倒した帰りにね、ガウィが、「リータは私にとって、かけがえのない存在だ」って!もぉ~、うれしくってさぁ!思わず抱きついたよね!」


 興奮気味に話すと、惚気のろけられるのが面白くないみたいで、シンリアスは呆れた表情をする。


「それは良かったわね…。それで、何でそんな話になったの?」


「私にとってガウィは、ほんっっとぉ~~に、大切な人なの!!ガウィの為に何でもしたいって思うし、ガウィが一緒に居てくれれば、それだけで幸せな気持ちになれる!」


「それは十分に感じているわ。リータがガドウィン様の事を、好きで好きでたまらない、ってね」


「そうなの!だから、嫌われないように、困らせないように、ってガウィの言う事を素直に聞いてた。ガウィが私の側から離れていってしまうのが、怖かったから…」


 ずっと抱えてた不安を打ち明けると、呆れた表情から一転して、淋しげな表情で私を見てくる。


「リータ…」


「でも、その事にガウィが気づいてたみたいで、「もっと自分の意見を言え」って、「多少のわがままや、すれ違いでリータを見限る事などありはしない」って、言ってくれた。すごく嬉しかった…。今までの不安が、一気に吹き飛んだ!」


「…そう」


 言い終わると、シンリアスは頷きながら微笑みを返してくれた。

 その視線が、むず痒くて照れてしまう。恥ずかしさから、頬が赤く染まっていくのが分かった。


「やっぱり、思い違いだったのね…」


 何かシンリアスが呟いたみたいだけど、聞こえなくて聞き返す。


「うん?なにか言った?」


「いいえ、こっちのこと。気にしないで」


「そう」


 慌てて取り繕うシンリアスを怪しんで目を細めて見てると、目を泳がせ始めた。


「あやしい…。私のこと馬鹿にしたんでしょ!?」


「してないわよ!自己嫌悪していただけ…」


「自己嫌悪?」


「色々あるのよ。あんまり聞かないで」


「ふぅ~ん…。わかった」


 追求から逃げるのは気になるけど、深く考えずに頭の隅に追いやる。私が深く聞いてのに安心したのか、シンリアスは小さく安堵のため息をついた。


『多分、ご主人様の予想が当たったのかな?』


 ご主人様と私が主従関係ではないかと、疑っていたのかもしれない。

 だとすると、シンリアスの観察眼は侮れない。これからは、もっと気を引き締める。ご主人様との距離が縮まったのは嬉しいけど、それに浮かれてボロが出てしまえば、シンリアスはすぐに悟りそうだ。 そうなれば、せっかくご主人様との距離が縮まったのに、全部台無しになってしまう。


『私が一番警戒するのは、シンリアスだね』


 浮かれていた自分を叱咤して、決意を新たにした。

これから忙しくなるので、執筆時間があまり取れそうにありません。

申し訳ありませんが、次話は遅くなりそうです。


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