everything is my guitar
即興で書きました。良かった感想お願いします。
「あっ、この曲いいな」
ちみちゃんは、僕の部屋でかけたインディーズバンドの新曲を聴いてそう言った。
ゆっくり、しっかりと聴けるようにぎゅっ、と目を閉じて、ときには頷きながらそのバンドの曲に耳を傾けている。僕はその様子をちみちゃんの隣でコーヒーを飲みながら見つめた。
ちみちゃんは特にバンドが好き、っていうことではない。でも、僕がバンドを好きで部屋にいるときはたいがい曲をかけているので一緒に聴いている。そして、今みたく勝手に評価して、好きな曲は聴き入っている。自分が嫌いな曲には……。
「あっ、この曲は嫌い」
さっきの曲が終わり、次の曲が始まった瞬間そう言った。これもいつものことだ。そして今日もいつもと同じようにコンポの巻き戻しボタンを勝手に押してさっきの曲に戻した。
僕は椅子に深く座り直してからため息をついた。ちみちゃんは僕のため息にも気がつかずにさっきと同じように目を閉じて頷きながら曲に聴き入っている。
タバコに火をつけた。だから好きなバンドの新譜を聴くときはちみちゃんと一緒は嫌なんだよ、と心の中で思って煙りを吐いた。
曲が終わり、ちみちゃんは目を開いてリモコンの停止ボタンを押して、曲の再生を止めた。まだ聴いてない曲があるんだけど。
「やっぱり二回聴いちゃうと感動が半減だね」と笑って舌をぺろっと出した。
ちみちゃんは満足したようにそれまで読んでいた漫画の続きを読みはじめた。それを見て僕がまた曲を再生させようと思ってリモコンに手を伸ばしたが、ちみちゃんに止められた。
「ごめん、音楽かけられると漫画に集中できないんだよ」
漫画なんて自分の家で読めばいいんだよ、と思いながら椅子から立ち上がって、タバコを灰皿に押し付けた。そしてまだコーヒーが入っているカップを持って台所に向かった。
こんな女好きにならなければ良かった、と思う。今まで付き合っていた三年半を返せ、とも思う。自分と趣味が合う人を好きになりたかった。それでも別れようとは思わない。
カップを水に浸して壁にもたれかかった。漫画を真剣な眼差しで読むちみちゃんを見つめた。ときには笑いながら、ときには眉をひそめながら漫画を読んでいる。
自分が好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、とはっきりしている。もしかしたら僕はちみちゃんのそういうところに惚れたのかもしれない。
でも、ちょっとだけ自分の嫌いなものにも興味を持ってほしいと思うし耳を傾けてほしい。そう思ってしまった僕は、だから、だからこそ……。
ちみちゃんから漫画を取り上げた。
「なにすんのよ」
上目遣いで僕を睨みつけたちみちゃんはそう言った。それを怖いよな、って思う。でもここで萎縮しちゃだめだ、と自分に言い聞かして、ちみちゃんを睨みつけかえした。
「な、なによ?」
自分勝手な気持ちだとわかっている。それでも僕は言いたい。いや、言わなくてはいけないんだ。
「ちゃんとオレのことにも興味持てよ。オレだって好きなものあるんだから」
「はあ? なに言ってんの?」
自分でもよくわからない。言いたいことがよく固まっていない。
「ちみちゃんは自分勝手って言いたいの」
「だからそれの意味がわからんないよ!」
ちみちゃんはそう言って椅子から立ち上がった。急に目線が同じになって僕が一歩後ずさってしまった。こういうところがダメなんだよ。
「だったらもうちょっとちゃんと聴けよ! あいつらだって頑張ってれんだから!」
そうだ、僕が言いたかったのはこのことなんだろうな、って今思った。
ありがとうございます。