第一話 歪な私は悪魔の彼に掴まった
「おい、そろそろ行こうぜ。見つかったらヤバい」
「だな。もう十分楽しんだし。ひひっ」
「...でも、こいつどうする?一応写真撮ったけど」
「あ?大丈夫だろそいつなら。だってこいつ、ここらじゃ有名なSEXマシンだしよ」
「えっ?こいつがあのっ?へぇ~、それなら確かに安心だな。はははっ」
「実際俺も、これでもう2回目だしよ。だから気にすんなって」
「おいっ!まずいぞっ!人が来た。さっさと行くぞ!」
「お、おうっ!」
「おい!お前もさっさと来いって!」
「大丈夫だって。気にしすぎなんだよお前ら。っと、そんじゃな~、まぁたよろしくぅ~。はははははっ!」
などというやり取りがあって、ようやくその不快な笑い声が私から遠ざかって行った
けれど私は、その場に起き上がることすら出来ずに、ただ正面にある歪んだ空を見続けていた
手には力が入らず、足腰も言うことを聞かない
膣の中は、今もドロドロとした精液が蠢き、たった今まで入っていた奴らの肉の塊の感触が残っている気がした
つい、思い出していしまう
私はこれで、もう何度犯されたことになるのだろうか?
もうこれで、何人の屑をこの体に受け入れてしまったのだろうかと...
考えるまでも無い
何故なら私は、その答えを知っている
いつどこで何時何分に、どこの誰に何度射精されたのかも分かっている
全部の回答を、私は覚えているのだ
覚えていたくなくても...覚えてしまっているのだ
前に読んだ本に、サヴァン症候群のことが書かれていた
もしかしたら、私もその部類に属している人間なのかもしれない
ある一点の能力が特質している代わりに、何か人としての大事なものを失っている、どこか壊れてしまったような人達と...
犯された草むらを出て家路に着く
今日は幸い、制服へのダメージは少なく、ブレザーとブラウスのボタンが無くなってしまっただけだった
おかげでそんなに目立つことなく、家まで帰り着くことが出来るだろう
確かに、ブラの紐が引きちぎれてしまったのはどうにもならないが、それくらいなら代えはあるし、見た目的に問題ないなら、さほど気にするようなことでもない
2回目と4回目と5回目以外は完全に服が破られてしまっていたし、3回目と7回目に至っては下着さえ持っていかれた
その時はさすがに困り果てて、結局携帯で親に連絡して事なきを得たわけだけど、それらに比べれば今回のはまだマシと言えるだろう
それにしても、何とも困った噂が広まっているらしい
どうやら私の知らないところでは、私はすでにSEX中毒のような扱いになっているみたいだ
この分だと、近いうちにまた襲われてしまうかもしれない
昔から襲われたことなんてザラだったけれど、さすがに頻繁になり過ぎるのは耐え切れない
何度も何度も自分の体を汚されるのは、やはり堪える
もういい加減、何か手を講じた方がいいかもしれない
「はっ...でも他にできるって言うのよ...」
これでも今まで、私に出来る限りの手は尽くしてきているのだ
親にも警察に先生にも内容は伝えてある
それなりの信用のある人にも相談はした
時には街全体に向かって泣き叫んだこともある
それなのに、私は一向に助けられる気配はないようだった
「腐った街がっ...」
思わず、レイプ犯にすら言った事がないような呪詛が漏れ出る
それは、もしも私が言葉だけで人を殺せるのなら、少なくとも約5千人の人間が確実に死に至るくらいの恨みを込められているに違いない
でも、それも当然
私はこの町では、もうとっくに人間ではなくなっているのだから...
この町は、閉鎖されている
それはもちとん物理的な意味ではなく、人間のあり方がとことんまで閉じられているということ
例えば、10分前にあった出来事が10分後には町内全てに行き渡り、仮に誰かが一般的には重大な犯罪を犯しても、それが街の信用を汚すことになるのなら、街中で問題をにじり潰し、警察の手が及ぶ前に事を処理してしまう
いやそれどころか、仮に警察が問題を取り上げても、それすらも警察内部で不問にされてしまうなんて有様なのだ
これを腐っていると言わず何と言う
排他的で自衛的
問題を問題とせず、全てを内々に封じ込めてしまおうというゴミ社会
誰もが幸せで、誰もが糞以下であることを望んでいる、歪み切った死人世界
だから私から見てしまえば、それは全く比喩的な意味でなく、あたかも町の周囲には数十メートルの壁によって覆われているのと何も変わらない
結局私は、この街からは逃げ出せないし、他の誰の助けも期待できない
いつだって世界は私の敵で、どうなっても私は世界に疎んじられているのだ
なら、もう他にどうしようもないじゃないか...
「本当、どうしようも...ない...」
「何がどうしようもない?」
え?
その声に、定まっていなかった焦点が急速に世界を映し出す
すると私の目の前には、一人の男子が、悠然と立ち塞がっていた
「...どうした?」
恐らく、私のボロボロの恰好を見て言っているのだろう
その男子は、一瞬だけ私の制服に目をやった
「...別に」
私は答えない
だって、意味が無い
仮に今あったことを包み隠さず言ったところで、それは何の解決にもならないのだ
だから私は、最初から他人の助けなんて求めない
「そうか」
その男子は淡々とした口調で言葉を返してくる
何の哀れみも同情も、怒りも喜びも感じさせずに、言葉を使っていた
...少しだけ気になった
何故なら私は、その人の声と表情を見れば、その人物の考えていることが大抵読めるからだ
今までだってそれが通用しないことなんて殆どなかったし、私自身この無駄な素養には自信を持っている
にも関わらず、私にはこの男子の考えていることが読めなかったのだ
私は、微妙な悔しさと共に改めて男子の姿を確認する
「............」
その顔には、何となく見覚えがあった
確か前に一度、どこかの不良グループと対立していた二人組みの一人
よくは知らないが、確かこの周辺の街ではそれなりに顔が通っている高校生だったはずだ
制服、襟章から判断するに今は新宮高校の3年生か
そう言えば前に馴染みの定食屋で2回ほど見かけたことがあったかもしれない
その時は何人かの仲間と一緒に来ていて、何の職に就くかで話していたような気がする
うる覚えだが、食べていたのはナポリタン
そんな幾つかの記憶が、芋づる式に蘇ってきた
なのに...
結局、私にはその男子が何を考えているのか、まるで検討が付かなかった
こんなことは、初めてだ...
(...って、だからどうしたって言うのよ)
そんなことは私にとって何の関係もないし、意味もないじゃない
この人の思考が読めなくても別に私が困ったりなんてしないし、仮にこの人が腕が立ったとしても、それが結果として私にどう影響するわけでもない
だって所詮この人は、ただの一介の男子高校生なのだ
つまりそれは、私にとっての無関係ということ
なら、どうでもいいじゃないの
「用が無いなら、これで...」
私はその人の横を通り過ぎる
その間も彼は微動だにせず、ただ私が自分のすぐ右を通過するのを待っていただけだった
「はぁ...」
ようやく彼を後ろに出来て息を吐く
私は、何故だか妙に疲れた気分になって、気付けば歩みまで鈍くなっていた
まったく、一体何だって言うんだろう
正直、今日はもうこれ以上私を疲れさせないで欲しいのに、何でこの人は私を困らせるんだろう
そう思っていると不意にその男子は
「一つ答えろ。今お前をやった連中の一人に赤い髪のデブはいたか?」
そんな質問を私に向かって投げかけてきた
「は?」
自分でも思わずそんな疑問符を返しつつも、私の頭の中ではその問いの答えがYESであることが示されしまう
ああもうっ私も、何で答えなんて出してしまっているのか
「いたか?」
「知らないわよ。そんなこと」
振り返らずに答える
正直、これ以上こいつに関わりたくない気持ちで一杯だった
だってどうしてだが、こいつを見ているとイライラが募ってくる感じがしてくるのだ
もう思いっきり『いい加減私に構わないでよっ!』と叫びたい気持ちにさえなっているほどに
「そうか。分かった」
「え?」
その答えに、私は咄嗟に振り向いていた
自分でもよく分からないのだが、何となく振り向かずにはいられなかったのだ
本当、疑問符が絶えない
見ると、彼はすたすたとその場から離れていく
どこを目指しているのかは分からないが、何故だかその歩みが微かに急いでいるように思われた
同時に、私の心の中には、妙な恐怖感が込み上がってきていることに、私は気付いていた
翌日
その恐怖感が的中したことを知ることになった
学校が終わって、私が高校の外に出ようとすると、突然
「やる」
という声と共に、何かが入っているコンビニの袋を放られたのだ
「わっと!」
私はあまりの不意打ちに今まで余り出した事の無いような声を発しながらも、その袋を受け取ってしまう
そしてすぐに、私に袋を投げつけてきた輩が「中身は好きにしろ」と言葉を続けていた
私はもう何が何だか分からずに、けれどようやくその輩が昨日私を疲れさせた男子高校生であると気付く
すると男子高校生は、私が文句を言う前に顎でしゃくって「中を見ろ」と要求してきた
「くっ...」
本当に、何て気に障る奴なんだろうと腹立たしくなってくる
「な、何なのよもう...」
私は瞬間的に怒りと疲労感を覚えながらも、言われた通りにビニル袋の中を確認してみた
「...え?」
正直、驚くより他に無かった
いやもう見ただけで血の気が引いた
血の気が引く、というか恐怖感に身を震わされるほどだった
だって...
だってそこには...
「写真...と、ネガ...?」
そう...
そのただの白い袋には、私が今までに撮られたであろうレイプ中の写真とネガが『全て』
本当に『全部』が...入っていたのだ
「う、そ...」
理解できなかった
とにかく理解できなかった
ただ、どうしても意味が分からなかった
別に、私の醜態の全てがそこにあったからじゃない
どうやってそれらを集め切ったのか、などという疑問でももちろんない
ただ、理解できなかったこと...それは...
「...何で?」
何で、私を...
私なんかを...?
「一つ、覚えておけ」
彼は、私が聞きたいことを心の中で呟くより先に、私に向かって言葉を告げる
「お前は、俺の側にいろ。いいな」
「...はい」
瞬間的に、私は答えを出していた
殆ど無意識にとさえ言ってもいいくらいに、あっという間に答えを出していた
それはもはや本能と言ってもいいくらいのもので
それはもはや、私の人生における答えを見つけたと言ってしまってもいいもので
今まで私に起きていた全てが、どうでもよくなってしまうくらいに衝撃的なもので
安堵感に、満たされていて...
だから彼になら...
彼になら、私の全てを委ねられると、そう...理解していた...
その日から、私の本当の意味での地獄が始まった
今回初めて投稿することにしました
しかもろくに取材してない形での文章作成に我ながら冷や汗ダラダラ状態です(汗)
まだ全然話が練られてなくて、一話分しかかけておりませんが、どうぞ気長に待っていただけると幸いです
それではどうぞ『歪な私は悪魔の彼に掴まった』をよろしくお願いします!