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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

シンデレラには、もうなれない

作者: ハープ


 少女漫画を読むのが好きだった。


 中でも、家庭や学校で悩みを抱えている主人公の少女がかっこいいヒーローに出会い、恋して両思いになって救われる……そんな所謂シンデレラストーリーが好きだった。主人公に自分を重ね、フィクション越しに幸福を得ていた。


 私は親との仲が上手くいっていないし、通っていた高校でも友達がいなかった。だからより、そういったインスタントの救いを求めていたのかもしれない。


 そして現実の私の前にもヒーローは現れた。今ではそんな人、現れなければ良かったと思うけれど。


 ある日、担任の男性教師から放課後空き教室に呼び出され、生徒である私がクラスで孤立していることを心配しているという意味のことを言われた。私は自分のような目立たない生徒のことを心配してくれる担任をいい人だと思った。冷静に考えれば仕事なのだから当たり前だが当時の私は子どもだったのだ。その後も定期的に同じ教室で面談があり、私は優しい言葉をかけてくれる担任に惹かれていった。


 ここまでは良かった。子どもが大人に惹かれ、恋のような感情を抱くなんてよくあることだ。私の感情は担任にばれていたと思う。これもよくあることだ。


 ある日、私は担任に告白をした。返事を期待していたわけではなく、自分なりに自分の気持ちがどうにもならなくなってしたことだった。しかし、その言葉を聞いた担任は、私を怒ることも気を遣いながらやんわりと拒絶することもしなかった。


「分かった。拾ってやるわ」と、ただそう言った。


 それから、放課後の呼び出しは面談ではなく性行為の真似事になった。流石に学校で最後までしてしまうのはできなかったから真似事だったのだけれど、私にとってはそれは未知の領域だったし、何かおかしいなと感じてはいた。その鈍い痛みは担任と同じようなことを何度も繰り返すうちに麻痺していき、その頃になると場所は空き教室から担任が一人で暮らしているアパートの一室になった。学校ではなくなったので真似事という文字が取れ、担任と私がしていることはただの性行為になっていった。


 恐らく担任が自室に私を入れるようになったのは、最後までするためというのもあると思うけれど他の先生たちの目が届きにくいようにだろう。この頃になるともう担任は他の先生たちから疑われ始めていた。何故私がそのことを知っているかというと、他の先生が遠回しに私に大丈夫なのかと聞いてきたからだ。その時にはもう、私は担任に依存しきってしまっていて他の人の意見を聞き入れる隙間がなかった。私とその先生は口論になり、私は走ってその場から逃げ出した。


 そんなことをしたのは生まれて初めてだった。もう後戻りできないのだと思うと同時に、また何かがおかしいなという鈍痛を感じたような気がしたけれど無視した。


 ある日、担任と私は遠くに向かっていた。ついに担任が学校をクビになるらしく、一緒に担任の運転する車で逃げていたのだ。私は何故担任がクビになるのかよく分からなかった。理不尽だとすら思っていた。その一方でいつかこうなると思っていた、という感情もあった。全ての感覚が遠かった。


 ラブホテルに入り、行為をした。どうせ同じことをするなら担任のアパートでしたほうがお金がかからなくていいのにな、と私はぼんやり考え、大人である担任の財布の心配をしていた。自分が何故ここにいるのか忘れそうになっていて、でも時々担任のスマホが鳴るから、それでああ逃げなきゃいけないんだと思い出した。恐らく他の先生たちなどから電話がかかってきていたのだろう。


 行為の後、担任に何故かまたシャワーを浴びてくるように言われ、その通りにしてからベッドのある部屋に戻ると担任が死んでいた。首を吊っていたのだ。慌てて駆け寄ったがとうに手遅れで、近くにメモが落ちていた。拾ってみるとそこには「今までありがとう」と書いてあった。それだけだった。


 私は少女漫画を読むのが好きだった。


 シンデレラストーリーに憧れていた。


 でも現実の、インスタントの幸福のような訳のわからない何かの先にあったのは虚無と永遠だけだった。


 担任は、死ぬことで私の中で永遠になってしまった。最初からそのつもりだったのかは分からないけれどそうなってしまった。


 私はどうすれば良かったのだろう?


 私はどうしたらいいのだろう?


 これは死ねってことなんだろうか?


 私は目を閉じて考えた。希死念慮は確かにあった。あったけれど、それは実際に私が行動に移せるような大きさではなくて、それよりも担任の醜い死体を見て感じた死への恐怖のほうが大きかった。


 だからこそ私は悔しかった。こんな状況でも死を選べない自分の中途半端な強さが許せなかった。


 ヒーローなんて、現れなければ良かったのだ。

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