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簒奪

クレオン来たる。クレオンがつくやいなや、オイディプスは思いつく限りの罵詈雑言を彼にあびせる。


オ「クレオン、貴様の薄汚いたくらみは露見したぞ。貴様のその罪はすぐに白日のもとにさらされることになる」

ク「王よ、何をおっしゃっておいでなのですか」

オ「白を切るな、この裏切り者が。貴様があの腐れ預言者テイレシアスと結んで、ライオス王殺しの犯人を私に仕立て上げようとしたことはわかっている。この恥知らずの不忠者めが、そんなに王になりたいか、そうまでして私を破滅させたいのか」

オ「貴様の考えはわかっている。ずっと前から機会をうかがっていたのだろうが。ああそうだ、そうに違いない。貴様がライオス王を殺したのだ。貴様は王になりたかった。だから子供のいないライオス王を殺したのだ。そうすれば王妃の弟であるお前に王の座が転がり込んでくる」

オ「だがそうはいかなかった。私だ、この私がスフィンクスの謎をといたのだ。それでお前の計画はとん挫した。怪物の謎をとけるものなどいないと思ったのだろう。あたまの悪いお前の考えそうなことだ。今回の計画といい、あまりにもずさんだな。本当にバカが考えることは笑えてしょうがない」

オ「怪物退治の英雄、知恵者、偉大な王。この私の才能に嫉妬したんだろう、そうなんなだろう、この俗物が。ほんとうに、ほんっとうに嫌になる、優れた者はいつだってねたまれる。何も持っていないお前たちはただ私に従ってさえいればいいものを」

オ「前々からお前のことは気に食わないとおもっていたんだ、お前がイオカステの身内だからよくしてやっていたものを。この恩知らずが。」

オ「くくく、ああそうか、そうだったのか、わかった、わかったぞ。今すべてがつながった」

オ「貴様が本当にほしいのはイオカステだな、そのために玉座をほっしたのだな。醜い劣情をこともあろうに実の姉に向けるとは。まるで獣だな。イオカステがしったらどう思うだろうな。実の弟が姉弟の交わりを望む獣だったとしったら。貴様はその醜い劣情で夜ごと自分を慰めていたんだろう。


そしてそれも我慢できず獣のごとく浅はかな考えで私を追い落とそうとした。あの時貴様が被っていた月桂冠は、己が前途を祝したものだったんだな。そうなんだろう、いいやそうに決まっている」


 暴言を並び立てるオイディプス。クレオンには、目の前にいるオイディプスが、人の姿をした人ではない、何かおぞましいもののようにおもえた。

 長い沈黙ののち、クレオンは口を開く。口調はまるで子をあやしつけるよう。


ク「王よ、あなたのおっしゃっていることが私には理解できません」

オ「まだいうか、獣同然の貴様なんぞに崇高なこの私の考えが理解できぬのは当然だ」

ク「お聞きください、王よ。今現在、私はこの国で王であるあなた様、王妃である姉と同等の権力を有しているのです。わざわざ王になり、責任が増えるようなことをしても、私には何の得もございません。それになにより、スフィンクスの謎を解いた者に国王の位を与える、これを立案したのは私です。


私が国王になりたいのなら、その時点でなっているはずです。何も謎をといた者に国を渡す必要などないのですから。あなた様が一番よくご存じのはず。姉上のことだってそうです。姉上との結婚を長老たちに無理をいって承諾させたのは、だれでもない私です。王よ、あなた様ならよくご存じでしょう」

オ「黙れ、だまれ、だまれ、だまれ、だまれ、だまれ、だまれーーー

もうよい、お前の意見などききたくもない。誰かこの者をクレオンをとらえよ。」

イ「二人とも、なにをしているのです」


そこにあらわれたのは事態を聞きつけたイオカステであった。


 クレオンには退出してもらい、イオカステは興奮状態のオイディプスをなだめる。それでもなかなか収まらないオイディプスにイオカステは語りきかせる。


イ「預言者のことばなど真に受ける必要はありません。その昔、先代のライオス王が生きていたころ、わたしはある予言を受けました。これがアポロン神より授かった神託とはいいません。デルフォイの神殿に使える巫女より伝え聞いた話です。いわくライオスとの間に授かった子供にライオスは殺されるであろう、と」

イ「ですが予言がかなうことはありませんでした。ライオスは三筋の道が交わるところで盗賊どもの手にかかって命を落としました。生まれた子供は羊番にまかせ、金具で足を留め、遠くの山の奥深くに捨てさせたのです。

その子供がライオスを殺すことなどあるでしょうか。預言者のかたることなどその程度のものなのですから、あなたが気にすることは何もありません」


雷が突きさすような衝撃が背筋を走る。


オ「王が命を落とした、三本の道が交わるところとはどこのことだ」

イ「その土地はたしか・・・ポキス、そうポキスです」

オ「王はひとりだったのか」

イ「いえ、護衛が三人いたと聞いております」

オ「誰に聞いたのだ」

イ「羊番です。三人いた護衛の一人でその者だけが盗賊どもの襲撃から逃れテーバイまで帰ってきたのです」

オ「盗賊ども、犯人は複数だったとその者はいったのだな」

イ「はい」

オ「その者は今どこにいる」

イ「ここより少し離れたところです。あなたが王に即位するとすぐ、私のところにきて、この国を離れることを許すようしつこくたのむものですから」

オ「わかった、今すぐその羊番とやらをここに連れてくるのだ」

イ「何をそんなにあわてていらっしゃるのですか」


 ずっと心に秘め、誰にも打ち明けられなかった苦悩をオイディプスはついに吐きだした。


オ「私はコリントスで生まれた。私の父はコリントスの王で母はその妃だった。私以外に子どもがいなかったこともあったのだろう。両親は私に愛情に注いでくれた。ある日宴の場で、お前は国王の実の子供ではないと、そういわれたんだ。気になった私は両親に尋ねた。両親は、お前は実の子供だと、そういった。


だが私はその言葉を信じることができなかった。私を実の子供ではないと、そういった男の目はうそを言っているようには見えなかった。それに噂そのものはずっとあったんだ。コリントス王の子は異国の地からもらいうけたのだと」


オ「私は確かめることにした。デルフォイの神託を受けたんだ。そこで言われたことは今でもよく覚えている。お前は実の父を殺し、実の母と交わり、子をもうけるだろう。私は怖くなった。コリントスにはもうもどれない。故郷をうしない、恐ろしい予言が頭から離れない。私は自暴自棄になっていた。そんなとき、三叉路ですれ違った集団を私は殺してしまったのだ。」


オ「今思えばどうしてあんなことをしてしまったのか。だがもし、すべては仕組まれていたのだとしたら。はじめからそうなることが神により決定されていたのだとしたら」

オ「私は・・私は王を、ライオス王を殺してしまったかもしれない」


 イオカステの顔をオイディプスは見ることができなかった。はじめて己の過去を語ったオイディプス、その手は震えている。オイディプスの手に温かい温もりがつたわっていく。


イ「お前の殺した者がライオスだと決まったわけではありません。それにさっきも言ったようにアポロン神が告げたことが絶対におこるかどうかなど、人の理解の及ぶところではないでしょう。」

イ「でもわかりました。お前が望むのなら、わたしはそれに従いましょう。例の羊番は人をやってすぐにでも、テーバイへ呼び寄せます。ですが、その羊飼いが前とちがうことを言ったとしても気にする必要はないのですよ」


 混乱していたのだろう。オイディプスはイオカステの口調の変化に気づかなかった。イオカステが語った内容が「神殿の巫女から伝え聞いた話」から「アポロン神のお告げ」、に変わっていたことにも。これらの変化にイオカステ自身、気付いていない。


地獄の門が口を開ける。真実が近づいている。




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