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盲目

「クレオンだ、クレオンを連れてこい。いますぐに」

「ええい、クレオンは、預言者はまだ着かんのか」


 オイディプスはいらだっていた。ひと月の間なんの進展もなく、災いがやむ気配はない。延々とつづく苦しみはやがて怨嗟にかわり、その矛先は王であるオイディプスへと向かっていく。民たちを救ってやりたいと思う反面、心ない感情をぶつけてくる彼らもまた、王のいらだちのもとであった。

 

 盲目の預言者テイレシアス。神により、視力をうばわれた代償に真理を見抜く力を与えられし者。オイディプスはこの者をたよることとし、クレオンにいって、テーバイに連れてくるよう命じていた。だがこの預言者テイレシアスは一向に姿を見せなかったのだ。


「王よ、テイレシアス殿がまいられました」


オ「そなたがテイレシアス殿か」

テ「あぁ!私はなぜこんなところへ来てしまったのだ。げに恐ろしきは人の業。ライオス王よ、あなたが受けた呪いの結実を、まさかこんなかたちで見ることになろうとは」


男がまとう尋常ならざる気配は狂気じみており、オイディプスは身震いするのを感じた。


オ「呪いといったな、テイレシアス殿。そなたはライオス王の死について何か知っているのだろうか。知っていればお教え願いたい。ことは一刻をあらそう」

テ「気安くはなしかけないでいただきたい」

オ「私はこのテーバイの王であるぞ、不敬ではないかね」

テ「あなたこそが、このテーバイをおそう災いの元凶なのですよ」


テイレシアスの語る妄言はオイディプスの神経をさかなでするのに十分であった。


オ「テイレシアス殿、いいやテイレシアス、ふざけるのもいいかげんにしてもらおうか。私ほど民草のことを思い、この国の未来を憂いている者はいない。貴殿がここにいるのがよい証拠ではないか。それがわからぬほど貴殿は愚かなのかね」

テ「だとしたら本当に愚かなのは、王よ、あなただ。ライオス王の死から始まる呪いの物語はすべてあなたへと収束していく。災いの元凶、呪いの正体があなたであることを知れば、テーバイの民は、いったいどう思うであろう」

オ「貴様、いったい何が言いたい」

テ「ライオス王を殺したのは、王よ、あなただ」


聞き捨てならない暴言。オイディプスの頭には血が上っていき、理性はなかば消え失せてい

た。


オ「貴様、もう一度いってみろ」

テ「なんどだってもうしあげます。ただし王よ、自らが民に布告したこと、よくよく忘れることのないように。あなた様は以後二度とテーバイの民に話しかけることは許されない。なぜなら、ライオス王を殺し、この国に災いをまねいたのは、あなたなのだから」

オ「はなしにならんな、預言者がきいてあきれる。だいたい、めしいのお前に何がわかる。目もみえないお前にいったい何が見通せるというのだ。貴様など預言者ではない、ただの詐欺師だ。詐欺師・・詐欺・・・

オ「そうかわかったぞ。ライオス王殺しの犯人はクレオンだな。お前はクレオンと裏でつながっているんだろう。だからお前がここに来るまでに時間がかかったのだ。そうか、そうだったのか。つながる、すべてがつながる。すべては預言者である貴様をつかって、私をライオス王殺しの犯人に仕たて上げ、玉座につこうとするクレオンの陰謀だったのだ」

オ「貴様も同罪だ、テイレシアス。証拠がそろいしだい、お前にもしかるべき報いをうけてもらう」


自分が置かれた状況がわかっているのだろうか、テイレシアスはひとしきり高笑い、そしてオイディプスに向き直る。光をやどすはずのない彼の白い目は鈍い光を放っていた。


テ「ライオス王殺しの犯人はいまここにいる。その者はうまれついての呪われ者で、目が見えているのに盲目。光をやどしているのに、その目が真実をとらえることはない。父を殺したその身で、父と同じ寝所を使い、父が子種を注いだ母にその者も子種を注ぐだろう。殺しはいけない人を殺し、抱いてはいけない人を抱く。子にして兄妹、妻にして母。真実にたどり着いたとき、その者は光をうしなうであろう。」


 最後に予言めいたことを言い残し、テイレシアスはテーバイから去っていった。彼を追う者は誰もいない。

 仮にも神から力を与えられし者。即座に処刑するほどオイディプスは狂気に取りつかれてはいない。そんなことよりも。


「クレオンをつれてこい、今すぐに」

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