救い
テーバイを災厄がおそう。流行り病に干ばつ、それにより続く不作、民たちは飢えと渇きでどんどんと衰えていった。不幸はそれだけではない。生まれてくる子どもがみな、数日もしないうちに死んでしまうのである。このままでは国が滅んでしまう。そう思ったテーバイの長老たちはこの問題の解決を偉大なる王オイディプスに委ねることとした。
「王よ、お耳に入れたき儀がございます」
「そなたたちの言いたいことはわかっている、目下この国をおそう災厄のことであろう。すでに手はうってある。何せ未曽有のことゆえな、此度の一件、神に仰ぐこととした」
臣下たちの顔から不安の色が消えていく。
「さすがです王よ、ではデルフォイに」
「ああクレオンを送った、じきに戻るであろう」
果たして吉報を意味する月桂冠をかぶったクレオンがテーバイに到着する。
ク「穢れをはらえ、と神は仰せです。いわく先王ライオス王を殺めた者がテーバイにいる。その者らを見つけ、テーバイから追放せよ、さすれば災いはさるであろうと」
オ「国王殺しだと。なぜ、それほどの重罪を放置しておいたのだ」
ク「当時はスフィンクスの被害で国が混乱しておりました。スフィンクス退治に出たライオス王が亡くなったことで民たちに不安がいっそう広がってしまい、それらを抑えることで手いっぱいだったのです」
オ「そうだったのか、知らなかった。して、下手人の心あたりは」
ク「はい、それはついております。ライオス王には三人の護衛がついており、王含め二人は殺されたのですが、一人だけ生き残りがいまして。羊番の男です。その羊番が言うには、盗賊どもに襲われたのだと」
オ「なるほどな、その者たちが未だテーバイに残っていると」
オ「クレオンよ、民を集めるのだ」
「聞くのだ、テーバイの民よ。我が国は今滅亡の危機にひんしている。疫病が蔓延し、雨は降らず、作物は実らない。そして何より生まれてくる子どもたちが三日と経たず死んでしまう。このままいけばテーバイは滅びるであろう。だが案ずるでない。神は道をお示しになられた。
神はこう仰せだ。先代ライオス王を殺したものがテーバイにいる。その者らを探し出し、テーバイより追放するのだ。そうすれば我が国を襲う災いはさるであろう」
「本来ならば、国王殺しの罪は死罪だ。だがその者らによって災いから逃れることができるのだ。私は犯人たちをテーバイの追放のみでゆるすこととする。ここにいる皆が証人だ。犯人たちは即刻名乗り出るがよい。
だが民よ、犯人であることを知っていてかくまう者を私は許さない。犯人に心当たりがありながら、隠し立てする者もまた同じである。テーバイの民よ、一日でも早く犯人らをさがしだすのだ」
民たちの歓喜の声があげる。割れんばかりの拍手と喝采が鳴りやむと、オイディプス王はなおも続けた。
「テーバイの国王となり私は王妃イオカステと子供をもうけた。もしもライオス王が生きていたのなら、ライオス王の子供と絆をむすぶこともあったであろう。そう考えるとライオス王は私にとって父にも等しい存在である。父の無念をはらす思いで、私もみなとともに、国王殺しの犯人をさがすこととする」
だが民たちの、そしてほかならぬオイディプス王の思いもむなしく、なんの手がかりもつかめないまま、ひと月が経とうとしていた。