1/14
慈悲
頭を抱える二人の男と女。テ―バイの国王夫妻はいまやっと誕生した赤子を前に思案を巡らせていた。
国王夫妻には永らく世継ぎがいなかった。つくれなかったのではない。つくらなかったのだ。
テーバイの王ライオス、男はある予言を受けていた。いわく、「生まれてくるこどもによってそなたは殺されるであろう」、と。
ライオス王は言う、「この赤子は今ここで殺してしまおう」
「それはあんまりではありませんか」王妃イオカステはかさねて、
「何も殺さずともよいのです、そうです、この国の羊番に遠くの山に捨ててくるようお言いつけなさるのです。」
「そうだな、なにもこの手を血で汚す必要はあるまい」
呼びつけられた羊番は赤子を受け取る。腕の中で眠る赤ん坊の両のくるぶしは留め金によって結ばれ、赤く腫れあがっていた。
事情を聴かされた羊番。王国から遠くはなれた山脈の奥深く。彼が生まれて間もない赤子を哀れに思い、国王の命に背いたことを、誰が責められるだろう。