15.食欲の魔王ベーゼ
魔王城の前までたどり着いたシン達が城の中に入ろうとするとライアスが引き止めた
「ちょっと待ってくれこの城に入る前には少し準備をしないといけない」
「準備?何を?」
「『俺たちは腹が減る』これでオッケーだ」
するとライアスが能力をシン達にかけた
「お腹が減らないようにするのか、そう言えば宿屋の主人も魔界に挑んだ人達は空腹で倒れるって言ってたね」
「欲望の魔王達はそれぞれの持つ欲望を刺激する力を持つ、食欲の魔王に挑んで倒れてる奴らは食欲を急に上げられ、腹が減ったと勘違いして空腹で倒れる、思い込みで身に及ぼす影響は大きいからな」
「それで僕たちのお腹が空かないようにしたのか」
「でも、何かを食べたいって欲求は抑えれないけどな、欲望の魔王が担当するものの影響までは嘘にできない、あいつの影響かは城に入ってからだ」
そしてライアスの能力によって城に入る準備を終えた一同は食欲の魔王ベーゼの城に入っていくのだった
城の中に入ると大きな通路が続きその奥には上へと昇る階段があり通路の左右にはいくつかの部屋があった。そしてシンはひとつ不思議に思ったことがあった
「魔王城って警備の兵とかって配置したりしないのライアスのところもそうだったし」
「俺の場合は嘘で誤魔化せるし、ベーゼの場合はあいつのところまでたどり着く前にほとんどが空腹で倒れるから配置する必要がないからな、魔王それぞれって感じだ」
「なるほどね、確かに今何か食べたい気持ちが込み上げてくる、これが続いてたら空腹になりそうな気分だ」
「だろ、だけど村で買ってきた食料は定期的に食べといた方がいいぞ、欲は我慢するのはきつい、それのせいで集中とかも失うからな」
そうして、城を進んでいく中で時々、城の魔族を見かけているがどの魔族達もシン達のことは気にもせずに自分達の仕事をしていた、服装を見る限りこの城のコック達だろう
「彼らはどうして僕たちのことを無視しているんだ」
「相手をする必要がないからだろうな、ベーゼがそういう指示をしてるんだろう自分達の仕事だけに集中すればいいって、まーだとしても俺らが襲いかかったら流石に反撃はしてくるだろうけど」
「にしても全くのスルーってのもすごいな、仮にも城に来てるてことは魔王に挑みに聞きてるのが大半なはずなのに」
「それだけベーゼを信用してるんだろうよ、魔王に挑んでも勝つのは魔王だって、と言ってもほとんどがまともな状態で戦えないのが現実だからな」
そんな話をしばらくしてさらに進むと一番大きな扉の王の間へとやってきた
「それじゃあ入るよ」
シンが扉を開こうと手を置くとライアスが引き止める
「待った、ベーゼがいるのはそこじゃなくこっちのはずだ」
そう言ってライアスは隣の部屋を指差した、その部屋からはお肉が少しこげたような良い匂いがした
「でも扉からしてこっちが明らかに玉座がある王の間だと思うけど」
「そうだろうな、だけどあいつがいるのはほぼほぼこっちで間違いないと思うぜ、食べ物の匂いがしてるのが何よりの証拠だ、あいつにとっては玉座が置いてあるよりも食事用のテーブルがある方がよっぽど王の間なんだよ」
ライアスはそう言いながら扉を開いた、するとその扉の先には大きな角の生えた頭に長い黒髪の地上人でいうなら15から16歳程度の少年と青年の間のような見た目の魔族がご飯を食べていた
「あれ、すごく久々にここまで辿り着いた人が来たな〜、僕は食欲の魔王ベーゼ、よくぞ玉座の間とひっかからずに来たね、勇者君よ〜ってあれ〜?」
その魔族はすごくおっとりした口調で喋り最後には何かに気づいたようだ
「久しぶりだなベーゼ」
「ライアス君〜久しぶり、元気してた〜、でもなんで地上人といるの〜?」
「今は、俺こいつらの勇者パーティの一員なんだぜ、地上の世界を見てまわるために入ってんだ」
「そうなんだ〜勇者パーティに、魔王がいるなんて、すごくびっくりだね〜」
おっとりとした口調で話すからベーゼからはあまり驚いたような感じはしなかった
「んでよベーゼ勇者であるシンが魔王のお前と話したいんだってよ」
ライアスがシンの目的が魔王との対話であると伝えシンと交代した
「お初目にかかる、シンだよろしく頼む」
「こんにちは〜さっきも言ったように、僕は食欲の魔王ベーゼ〜」
シンがベーゼに挨拶をすると後ろからコソコソ話が聞こえる
「シンって初めて魔王に会うと少し硬くなるな、俺の時も最初の方そうだったし」
「格好つけたいんだろうよ、そういうお年頃だ」
「それがまたシンのいいところなのよー」
「格好、つけ、シン」
みんながコソコソしているとシンの表情筋がピクピクと動いていた
「聞こえてるよみんなー、っとあの人達はほっといて魔王ベーゼ、あなたは、僕たち地上人をどう思っている」
みんなのコソコソ話は一旦置いておいてシンが目的をはたすための質問をベーゼにした
「地上人〜?別になんとも思わないよ〜、ちなみに、このなんともってのはー、魔族と変わらないってことね〜、この城に挑んできたら魔族でも同じ〜見た目がちがうだけで、生きてるってことは一緒だから僕にとっては地上人もまぞくとかは、何にも変わらないよ〜」
「地上人も魔族も変わらないかありがとう魔王ベーゼ君の思いを聞かせてくれて」
「うん、どうも〜、こんなんでよかったの〜」
するとまた後ろでコソコソと聞こえた
「なんか少し柔らかくしたな」
「人の意見に流されるお年頃なんだろう」
「そういうところも可愛いいいのよシンは」
「流される、シン、可愛い」
シンはまた顔ピクピクとさせた
「だから聞こえてるって、うん君のところに挑んでる勇者は空腹で倒れてるだけで怪我をしてる人はいないからね、時々身ぐるみ剥がされてる人はいるらしいけど、貴方が人に自ら危害を与える人じゃないのは大体分かった」
「でも、僕の言ってることが、嘘だったらどうするの〜」
「貴方からは嘘を言ってるような気がしないから信じてみようと思う、ライアスみたいなのも実際にいるわけだから」
「魔族に対して、理解がある地上人って、不思議な子だねライアス君〜」
「だろ、だから魔王の俺をパーティに入れてる」
「それじゃあこの城での目的は果たしたから地上界に戻ろうか、この食欲もなんとかしたいし」
目的を果たしたシンがみんなに城を出ようというとベーゼがシン達に忠告をする
「そう言えば、最近ここら辺で野良の子達が出るみたいだから、気をつけてね〜」
「野良ってなんのこと?」
シンが聞くとライアスが答える
「どの城にも属さないで村どこかにも滞在しない上位魔族達だよ、まー結構いるんだがそれがどうしたんだベーゼ」
「うん、さっきシン君が言ってた身包み剥がしてるのは〜その子達なんだよ〜基本的に僕たちは、城に入って倒れた人達は城から出して外に放置だけど、それを狙って金品やら物をとってるみたい〜」
「分かった気をつけるよ」
ベーゼからの忠告を聞いてシン達は食欲の魔王城を後にした、魔王城を出るとさっきまで感じてた食欲がおさまってきた
「欲を刺激されるなんか不思議な感覚だったな」
シンはライアスの持つ力とは別の魔王の力を体験して他の魔王はどうなのだろうと興味が湧いてきた
魔王城を出てから少しすると何やら声が聞こえてきた
「そこのあなた達、お待ちなさい!」
そう声がすると森の木の影から魔族が飛び出してきた、飛び出してきたのは3に組の魔族で明らかに獲物を狙っている感じだった
シンはこれが先ほどベーゼが言っていた野良の上位魔族だなと思った