世界樹決定戦! あるいは、失言で審査することになった私の話。
微妙に加筆修正しました。中身的には変わってません。
ある世界のある時代、世界樹が存在した。
世界樹とは、この世界で一番と言われる樹とそれに宿る精霊の総称である。ニコイチというやつである。
今代の世界樹は齢5000歳。老害などと言われている。後進に譲れと言われながら、後進をぶち倒し君臨するまさに暴君である。
世界樹は植物たちの王であり、栄華をほしいままにしている。同種の植物をめっちゃ増やしたりして支持者を増やし、盤石な王国を築いていたりする。
それに意外と人族をはじめとしたファンタジー種族たちは気がついてない。植物なので、意思の疎通が結構難しい。精霊も樹に引きこもりなので会うのも困難。そもそも山奥の山奥に住んでいる。現地に行くのもむずい。
この一極集中しつつある植物界の窮地を救えるものはいない。(そもそも、窮地なのかい? というところは置いておこう)
という状況をぶち破る魔法使いが、爆誕した。
私だ!
……はい? そうお思いでしょう。私もそう思う。
目のまえに並んだ植物系の精霊たちを見渡してため息をつく。
イケオジ、ショタ、イケオジ、イケメンと続いて、ぷにぷにがいる。可愛い。
はっ! そうじゃなくて。彼ら(性別があるんだかないんだかな種族ため便宜上彼らと称す)が次期世界樹候補である。
期待の眼差しとじっとりとした怨の視線が痛い。逃げようにもがっちりと両手足椅子に拘束済みである。植物ってべんりぃ!
事の起こりというのは、私の失言である。
だが、一般人が言った一言で、なんでこうなるんだ! と喚く権利はあると思うのだ。
私はこの世の絶滅危惧種にして、役に立たないと言われる草魔法の使い手として生まれた。前世付きで。
残念ながら、前世の私というのは、植物に興味がなく、一般的知識しか持ち合わせてない。ミントは爆増するよねとか、竹も爆増するとか、葛もやべぇし、芝桜に埋もれかけた知人の庭を半笑いで見ていたくらいである。
それでも最初は私やればできる子! と万能薬の元になる草は作った。草魔法、新しい草を作って養育できるので。順調にすくすく育って即行枯れた。あたり一面を道連れに。こえぇよともう二度としなかった。いや、微妙な断末魔の声聞いた気がしてな……。精霊付きの草がいたのかもしれんと思うと罪悪感が。そうでなくても庭師が、泣いてたから……。
他にもちょっと性能が良い草などを作ってみたのだが、一代限りで増えない。残念過ぎる能力だ。ただ、品種改良だのの知識は薄っすらあったのは助かって、地味に改良しておいしい草とかを作ることに成功した。甘い蜜の花とかな。酪農家と養蜂家さんたちには感謝されている。
さて、役立たずと言われて久しい草魔法。役に立たぬと私も思っていた。ところがどっこい、実は、とっても、有用でした。でも有効活用すると焼却処分されます。もちろん、私が、である。
そんなことを知ったのは、ちょっとしたお小遣い稼ぎにと植物の栄養剤を開発した後だった。植物精霊に大好評だった。それが悪かったらしい。
……後出し反対。と言ったところで、無意味である。
滅却処分を下す暴虐な魔女には普通の理論が通らん。
さっすが、世界の支配者その1である。
この世界の支配者というのは、多重である。
法則やら進化、文明レベルを規定しているのは魔女と言われる一族である。
実際の土地を采配しているのは、人族と言われるファンタジー種族を含む者たち。
植生を支配しているのは植物たち。
動物たちは今のところ国家的なものを築き、支配するまでは至っていないのでその方面は保留されている。
で、この進化とか法則とかにがっつり引っかかった、ということらしい。
というか、私自身が監視対象だったっぽい。草魔法ほんとはやばいけど、やばいって知らせてひゃっはーされても困るし、と放置されておった。やらかしたから尋問しようねと魔女集会に呼び出しである。
知らんよ!
なお、一緒に呼ばれたのは養育者兼師匠の魔女も一緒だ。
ご一緒に怒られてきた、というのがまあこの間の話。
そこからは、雑務とやばい性能の栄養剤の使用制限についての説明行脚である。
今までもう打ち止め、伸びないと思っていた老齢の樹に与えたところ、びっくり! なんと成長が再開しました! めきょめきょ伸びて若返っちゃって! ということ、らしい……。
あまりにも急成長されるとこの世界の大気濃度のバランスが崩れるとか何とかで、やめてほしいらしい。濃厚な酸素に殺されるよ? というのは怖い話である。
行脚もそれなりにおちつき、その日の私は魔女の住処でのんびりまったり家庭菜園をしていた。
私は、私のおうちはあるものの住んでいない。訳アリの貴族のお嬢様の生まれであるのだが、不遇で不幸な幼少期があり、その時に魔女と出会った。で、それからほぼ魔女の住処に住んでる。押しかけたとは、言わない。うん、草を持って、肉くれと言った幼児を多少は憐れんでくれたんだよね。きっとそう! いたいけでかわいかったから!
いや、あの頃からおまえ、やべぇイキモノだったと呆れたようにいわれたのは忘却の海に投げ込んでいる。忘れたいのに、時々魔女が拾ってきてはほいと渡すからさぁ。
そんなやべぇイキモノを養育したんだから、魔女もお人よし……野に放つのが怖かった? またまたぁ、照れ隠し、照れ隠しだよねえ!? 煙草どこかなってーどこにいくのーっ!
めっちゃ面倒そうな顔をしていた魔女がはいはいと頭を撫でていった。そして、外に出ていく。
なんか、魔女の悲鳴が聞こえた。
なになに!?と慌てて外に出て見れば。
来客がいた。
二足歩行植物とか、緑のナマモノが。わらわらと。
各種植物様おそろいで。見たことない種族もいるな、二足歩行サボテン種いるのか。歌って踊るのか戦うのか、興味があ……。
あ、はい。
私にご用事。
なんでしょう?
なんて、聞く前に追い返すべきだった、というのは後の祭りである。
第一回、世界樹決定戦開催のお知らせ。
回りくどい言い方を要約すると審査員してね! 待ってるね! である。
「ほんとおまえは、飽きないな」
魔女がそういう。飽きないな、というのは、トラブルひっかけてくるのに飽きないな、であって、飽きなくて楽しいわ(はぁと)ではない。
なんならガチ説教の気配すらする。この間から各所からの説教でこってり絞られて、水分も出ないくらいなのでやめて欲しい。
私がひっかけてきたトラブル。ではない、向こうからやってきたんですのよ、師匠様、と言っても眦が吊り上がるだけなので黙っている。
なんで、こんな会が催されることになったのか。
世界樹というのは複合的に決められるもの。そう規定が変更になったからである。
巨大であることはもちろん、枝ぶりや根の強さ、眷属の多さや同居している動物たちの総数も加わる。ことになっちゃった、のである。
私がうっかり、世界樹って一番でっかいんですか? なんて聞いたことにより、らしい。ミリも覚えてない。
そもそも基本年功序列なんて知らなかったんだよっ!
それも話したの数年前の雑談だよ!? 覚えてないって!
その数年というのは植物にしてはものすっごい速度で、人間でいうなら一週間くらいとか知らんよ。爆速で議会提案されて、可決されてクーデターだと世界樹が喚いてるってなによっ! お前が元凶と襲われる可能性とかいらんわっ! そもそも議会とかあんの? 氏族で折り合いつけるためにある。あー、植生区域で揉めると出てくるとか、そういうのあるの……。人の手のないとこでそんなことが。
じゃなくって!
そうでなくても栄養剤の供給規定のお知らせに忙しいってのに! と言っておく。大物相手は終わったけど群体への告知にもいかなきゃならなくなってる。私に会いたい意味がわからない。会えるアイドルじゃないんだぞ!
え、ええ、各地の権力者とは面識あるし、いろんなネタを握ったけど。
そっから告知を流させてくれる。お、おぅ。言いわけが。
それを聞いていた魔女がやれやれと口出ししてくる。
いっそ、お前、植物の王になったら? だって?
ばかなの? ねぇ、魔女。バカなの?
私はただの人よ!
静まり返らないで! ちょっと草魔法使えるだけの人なのに!
今はな、とか怖いこと言わないでぇ!
行けばいいんでしょ! 行けば! 世界一のイケてる樹を見つけてやるわよっ!
という経緯を経て、私、審査員の一人として次期世界樹を選ぶことになったわけである。
皆が皆、味があってよいと思うんだけどなぁ。正直、どこ基準と思わなくもない。いいや、本人の趣味で選んでしまえ。
今後の成長を見込んでショタ! 君に決めた! いや、まあ、私の数倍以上の年上なのは知っているが。
厳正なる審査の結果。現世界樹は高さを抜かれ、第三位まで落ちることとなった。同列2位だったが、今後の成長を見込んで若いほう(と言ってももう1000歳)が選ばれるに至っては、喝采が起きた。
いやぁ、すごかったなと後方で腕組みしてたら、急に注目された。
王冠が手渡される。植物で編んでいる。器用だなと思ったが、目の前に今選んだはずの世界樹がいた。厳粛な雰囲気に早変わりしてる。なんで、私もマント着せられてる? 知らん間に花冠ふわって載せられてるよ?
あれ? そういう話? と疑問に思いながらもその頭に王冠を載せた。場の雰囲気を読み過ぎた過去の日本人的発想がさー。
え、二位にはトロフィー。あ、そう。三位は盾。はぁ。睨まんでくださいな。今まで楽しかったでしょう。今後のリベンジに期待してます。正々堂々やってください。はいはいはい。
渡されるままに授与し、十位分くらいはやった。皆楽しそうである。うん。よくわからんがよかった。
そこからは宴会となり、私は退散することにした。部外者なので。
ところが、酔っぱらいにつかまり、少々お付き合いすることになった。おいしいお酒だった。
その後、揉めることもなく帰れたのだが、数年に一度呼ばれることにもなった。おいしいお酒にホイホイされたわけではない。
その後、やけに老化が遅いとか、ぴちぴちしているとか気がついたのは、十年くらい後である……。
な、なにか、盛られたんですかねぇっ! と問いただしても誰も素知らぬ顔で忘れましたねぇと言われることになったのである。
後の植物女王である。
おっかしーでしょーっ! というのは、本人の弁である。