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第4話 夢の声

あの後にぐっすり眠る事なんて出来なかった。

けど少し考えはまとまったと言うべきか。

何をすべきなのか、自分で判断しなきゃ行けない。

これは1人で生きて来た時に散々やってきた。

なら、僕はやれる。



「空、行けそう?」

鏡の前で髪をカシャカシャ掻き立てる神楽さんの声がしてきた。

「おはよう」や「空」と僕を呼ぶ声がすると朝が来たのを感じる。

「行けますよ」

「なら行こうか」


僕達はエントランスに向かった。

昨日の話が本当なら、下にいるはず。

あの人が。

「よう、神楽。いい目覚めか?」

「…?」

やっぱり居た。

愉快そうな顔をしながらホテルの入口に佇みスーツケースを持っている赤髪の女性が1人。

「だれ?」

「今日の対戦相手だ」

「え?」

そう神楽さんが反応するのも無理ないだろう。

僕も同じ様な気持ちにはなった。

「お前の戦闘を見て俺は気に入った。それと…少し神楽、お前こっち来い」

「え?」

「あ、空…お前にはこれをやる」

「なんで僕の名前を知っているんですか」

そう言うと彼女はスーツケースを蹴って鍵を外し、僕の前まで蹴り飛ばしてきた。

なんと雑な仕草…ガサツな神楽さんでもしない。

ホテルの端…僕と波流さんが話していた席で2人は談笑している。

なんだか難しそうな話をしていた。

それにしてもなぜ彼女は対戦相手の僕達に好意を抱いているんだろう?


ふとスーツケースに目を落とすとそこにはブーツとマフラーが入っていた。

僕がじっとそれを眺めていると「それはガキンチョのもんだ。受け取れ」っと言う声と「明らかに困惑してるよ?」っと言う神楽さんの声が聞こえてくる。

僕はスーツケースの中に入っていたゆっくりとそれを身につけた。

すごく暖かい水色のマフラーと新品でどこか履きなれない白いブーツ。

話している2人に僕はその姿でゆっくり近付いた。

「お、似合ってるなガキンチョ」

最初に反応したのは波流さん。

「可愛い…」

目を見開いて何故か神楽さんは驚いている。

「ありがとうございました。暖かいです」

僕がマフラーに顔を埋めると…

「…ふふ」

いきなり波流さんがおかしなものを見たように小さく笑った。

「どうしたんですか?」

神楽さんは顔を手で覆って今にもひっくり返りそうなぐらい顔を背けている。

「え?」

「気にするなガキンチョ。神楽お前俺と同じ事思っただろ」

すると神楽さんは片手で顔を覆ったままゆっくりともう片方の手で親指を立てた。


よく分からないけどこれが大人のコミュニケーションなのだろうか。

どうやら話の中で神楽さんもコートを受け取った様だ。

彼女の動機としては「寒そうだから」らしい。

変わった人。


しばらく経つと彼女は一足先に会場に向かって行った。


神楽さんに何を話していたか尋ねると案外普通の会話をしていた様だ。

街に来た理由、参戦した理由、など。

それぐらいのことらしい。

僕達も彼女を追うように会場に向かった。

けどなんだろう、この胸騒ぎは。


会場に行く前に僕は街の空を眺めた。

青く、自由に広がるその姿にどこか懐かしさを覚える。

自由に飛びまわる鳥、気ままに流れる雲。

そして「空」…。

その全てか特別な物の様に。



________________


会場に着くと良い感じの時間となり神楽さんはリングへと上がって行った。

会場はがや付き、少しの暑さが僕の頬を撫でる。

眩しく、星の様に輝く照明は僕の目を差し込んで来た。

そして今日も始まる。

神楽さん曰くこれに勝てば優勝決定戦に進めるんだと言う。

僕はゆっくりと選手ベンチに腰を下ろした。




ここに来るのあの異形の神楽さんの姿が頭をよぎる。

フラッシュバックする様に目の裏に張り付くあの景色は僕の瞼では消せない物だった。

会場は賑わっているはずなのに何故か僕の耳にはその声が届かない。



どうしよう、心臓がうるさい。

頭が、うるさい。

何も、かもが。


耳鳴り、点滅する視界、神楽さんのあの姿。

どれもが今の状況を写すのを拒んでいる。

僕は人形を強く抱き締めた。

最後の作の様に、縋る様に。

「頭が…痛い」

嗚咽しそうになりながら僕は突き放す様にモヤモヤをかき消した。

「うるさい、うる…さい」

ダメだ、目を塞いでも何かを抱き締めても消えてくれない。

「おい、小僧大丈夫か?」

この騒がしい僕の体にメスを入れる様にどこからか声が飛んできた。

思わず目を見開き記憶を頼りに声のする方を振り向く。

「…驚かせたか?」

「大丈夫…です」

声の主は選手ベンチに居た従業員かな、若い男性だ。

「ほら、これでも飲め」

そう言うと彼は僕に紙コップに入った甘い匂いを放つジュースらしき物を渡してくれた。

僕はそれを一気飲みして壁によりかかった。

気付くと僕の腕からは人形が逃げている。

少し落ち着きを取り戻した僕だったが、試合の方に目を向けるとあまりいい状態じゃないように感じた。

試合はもう始まっており、神楽さんが追い込まれているようだ。

さすが過去の優勝者…なのだろう。

素早い動きでダガーを振り回し、もう片方の手には何やらおかしい容姿をした拳銃が握られていた。

どうやら…液体で出来て居るようだ。

神楽さんの氷の双剣と同じ様に水の武器。

青色の液体…と言ってもそれは固形の様にはっきりと形を持っている。


だが神楽さんの氷の双剣が当たる度に彼女の武器は凍結していた。

その度にはまた彼女も生成を繰り返している。

「使う能力の相性が悪いみたいだな!」

実況も同じ事を思っているようだ。

液体…おそらく水だろう。

水で出来た波流さんの武器は氷で出来た神楽さんの武器には弱い。

彼女の荒々しい水飛沫に合わせ赤い髪をなびく。

体力を持ってかれているのか、彼女にふらつきが見えてきた。

息を切らせた声で彼女は言う。

「神楽、いい加減終わりにしようぜ」

「おっと!波流が本気モードだ!気をつけるんだ」

その実況の声に合わせて彼女の両腕にあった武器はおもちゃだったのかと思う物に変わる。


液体になったダガーと拳銃が彼女の手のひらに集まり、次形を保った時に現れたのは大きな斧と大鎌だった。


ドン!

荒々しく波を打ち、地面に落ちた斧はリングの上に亀裂を走らせる。

「さぁ、行こうぜ神楽」

その時波流さんの片方の頬が大きく裂けて口と繋がり始めた。

目は溶け始め、爛れたような姿へと変える。

亜人の様なあの姿は彼女にとって殺意の表れと言っていいだろう。


彼女は斧に足をかけ、その大鎌を構えた。


それを見て聞いて神楽さんは氷の双剣を水を切るように振るいながら言った。

彼女の双剣の刃先が伸びる。

「ぇぇ、そうね」

戦闘態勢に入ったけど今回は何故か彼女の姿が変わらなかった。

元の神楽さん…?なんだろうか。

「その力を悪用すんなよ」

「さぁ?」

「お前も性格悪いな」

「うっさいわよ」

姉妹喧嘩の様な会話を交わした後、行動を移したのは神楽さんの方だった。


一瞬にして相手の懐まで入り込み、その大きな武器では対応出来ない距離まで彼女は双剣の持ち手を波流さんの体にねじ込んだ。

風が通り抜ける様なその速さはまるで矢の様。

そこからは彼女の手の内。


怯んだ所に容赦無く顔に蹴りが飛ぶ。

華麗に踊る様に神楽さんの足が交代交代に波流さんの体をしならせる。

「なんだあのスピード!あの波流が追い込まれるとな!」

予想外な戦況に困惑を持ちながらも観客は大喜びだ。

最後の1発、どんだけ抵抗しても神楽さんの攻撃を避ける事は出来なかった。

ドンと鈍い音の後に波流さんは吹き飛ぶ。

「…」

互いの無言の見つめあいが始まる。

不穏な空気が流れる中、神楽さんは彼女を茶化した。

双剣を垂らし、鼻で笑う様に。

「なーに?私に負けるのが悔しいの?そんな怖い顔しちゃって」

その言葉を聞いた波流さんは体をビクッと反応させ、戸惑う素振りを見せた。

「かもね」

そう彼女が言った次の瞬間。


キン!


鷹が鳴く様な綺麗で素早い音が僕の耳を通り抜けた。

透き通って純粋な音色が木霊する。


それと同時に波流さんは神楽さんの後ろに立っていた。


「…え?」

「俺が遅いと思ったか?」


「きた!これだ!これでこそ波流だ!!」

実況の興奮する声と同時に神楽さんの右腕がゆっくりとちぎれ落ちてい行く。

神楽さんは…痛みが無いのだろうか。

痛がる素振りを見せない。

波流さんは切り裂き、血が滴る鎌を持ち替え神楽さんの方に振り向いた。

彼女の痛がる素振りも見せない不気味な顔が波流さんを迎える。

「何か言ったらどうだ?」

そう言うと神楽さんはこう言った。

「そうね、勝ち誇った気にならない事…かね」

「あ?」

「後ろをみなさいよ」

すると波流さんは驚いた表情で素早く後ろを向く。

僕もその言葉通り波流さんの後ろを見たが何も無い。

彼女はほぼリングの縁に居るのだ。

神楽さんが回り込んだ所で動きにくいだけだろう。

「なんだ?ハッタリか?」

呆れた彼女の声が響く。

「さぁね、目に映る物だけじゃないのよ」

その時波流さんの足元から大きな氷柱が瞬時に飛び出した。

グチャ!

「あ、…あ”…あ」

股から口へと完全に貫通した氷柱は会場の光を浴び、勝ち誇る様子で輝きを放つ。

肉をさき、骨を砕いた氷柱は自然の調理の様にも見える。


貫いた瞬間波流さんの手足が痙攣し、体が宙に浮かぶのを感じた。

「終わり。波流」

波流さんは抵抗すべくその大きく重そうな斧を一瞬持ち上げたが…。



「お疲れ様」

サク…っと、まるで刃物の様な音と共に彼女の言った通り「後ろから」氷柱がもう1本現れ、波流さんの背中を貫かれそれを境に波流さんの手から2本の武器が地に落ちた。


「勝者!神楽!!圧倒的な勝ちだな」


微かに動いていた指先は閉じて行く目と共に疲れ切る。

それを見た神楽さんは勝ちを確信し、双剣を収納した。


歓声が上がり、神楽さんがリングを降りようとした瞬間…。

バキン!

耳を劈く鋭い音が会場に響く。

「何?」

神楽さんが後ろを振り向くとさっき体を貫いた氷柱を波流さんはまさかの噛み砕いていたのだ。

「…は?」

ゴリゴリと音を立てながら氷を食べる波流さんは言った。

「大概によ、俺がそんな簡単に死んだらチャンピオンの名が廃るってもんじゃねぇか?それにな…俺とかみたいな亜人はな…と言っても今のは効いたぜ」

鼻で笑う様な口振りでそう言うと…。


彼女は一瞬にして液状化したのだ。

水へと姿を変えた彼女に神楽さんは困惑する事しか出来ない様。

「お前にこれを使うのはリスクがあるが今はこうしないとな。水になった瞬間凍結されたら俺は間違いなく死ぬからな」

液状化したそれは呆れた声色でこう言った。

「第2ラウンド…になっちまうか?」

川が氾濫した時のような勢いで強く宙に飛び上がった液は一瞬にして波流さんの姿を形成した。

警戒の目を向ける神楽さん。

2戦連続の敗者復活の光景で盛り上がる会場。

不気味であれど愉快な笑を零す波流さん。


第2ラウンドが幕を開ける。


今度は波流さんが最初に行動に出た。

大鎌と斧を取り出し神楽さん目掛けて一直線に振り落とす。

神楽さんはギリギリ避けたが微かにその長い髪が切れたのが伝わる。

一発一発が重く、早い彼女の攻撃は直撃後余韻を感じさせる。

下手げに攻撃させない牽制の意味も含めて彼女の豪快で荒々しい動きは神楽さんの足場を壊すという動きを封じるのにも充分だった。

「さぁ!何処へ行く神楽!」

ドン!グシャ…っと悲痛な音を立てながらリングが壊れて行く。

足場は割れ、リングを囲う鉄柵もどんどんへこんでいた。

「なかなかの強者両者の戦い…見物だな!波流の得意な距離を維持出来ている以上神楽の距離まで詰めることができない!小回りが効く小ぶりな武器は距離を離されてしまえば餌食になるだけ!」

実況も相当興奮している様だ。


実況の言う通り神楽さんの得意距離は蹴りや殴りが入る至近距離。

一方波流さんの得意距離は中近距離の様だ。

大鎌や大きな斧を投げたり振り回して当たるほどの距離。

そして自分の何倍もある大型の武器を素早く扱う…これが彼女が死神と言われる所以だろう。


神楽さんが反撃を行えたのは一瞬波流さんの動きが止まった時だった。

波流さんの最後の攻撃を跳ねて避けた後、神楽さんは地面を強く蹴りながらある言葉を叫んだ。

「薄氷桜・(はくひょうさくら・らい)!」

その瞬間彼女のその細く微かに包帯が巻かれているのが見える足から冷気を放ち、靴底から波流さんに向かって波のような氷の刃が地面から突き上げてきた。

それは段々に瞬時に広がり、対象に近づくに連れ大きくなり、大ぶりの武器を持ち替えるのに集中していた彼女の片腕を飲み込んだ。

「…うえ、まじかよ」

神楽さんのあの攻撃は見たことが無い。

両者本気だと言う事。


普通の人なら凍結される位で済むのだろう。

だが波流さんは液で形成された亜人。

悲惨にも飲み込まれ潰された様な形へと変貌を遂げる。

「どう?もう無理じゃない?」

「まだ…いける!」

そうと言うと容赦無く彼女は自分の腕を切り離した。

そしてまた傷口に渦巻く水から新しい体を…。

「はぁ?」

彼女を倒す事は出来ないのかもしれない。

「俺は水の亜人…水は何様にも成れる。そんなモノをお前は殺せるか?」

余裕ぶった口振りで彼女は最後の攻撃と言わんばかりの物を仕掛けてきた。

まるで水中に潜る様に地面に吸い込まれた波流さん。

「何処だ?!波流のこんな技見た事が無いぞ!」

一瞬、本当に一瞬…姿を消した波流さんは瞬きをして次目を開いた時には…。

バシャン!


「終わりだ」


シュン!


「…え?」


背中から針のような物を生成した波流さんは神楽さんの真ん前に出て来た。

地面から飛び出し飛び掛る寸前のその体制のまま何故か彼女は固まる。

何が…起きた?

よく彼女達を見てみると……


そういう事か。


憐れむような神楽さんの目は怯える波流さんを捉えていた。

そう、神楽さんのその刀身の無い黒い刀が波流さんの首を捕らえていたのだ。

あと少しでも前に出ていれば喉を貫き、もがき苦しんだ事だろう。

けどどうして彼女は死も恐れない様な不死身なのに…

それにどうしてそんな刀にそこまで…

「おま…え…」

狼狽える波流さんを刹那の間凝視した後、静かに目を瞑り神楽さんはその刀身の無い刀をしまった。

それと同時に波流さんはリングに崩れ落ちる。

「…神楽…お前」

「喋るな」


この世の物じゃない物を見た様な波流さん。

冷たく封じ込むように言葉を遮る高圧的な神楽さん。

波流さんにとって神楽さんはどう見えていたんだ…?


心臓を掴まれたような感覚が僕の中を掻き乱す。

「…俺の負けだ」

そう彼女は小さく呟いた。

「あ?波流お前自ら敗者になるのか?」

実況が興ざめした様子で波流さんに問う。

「俺には無理だ。勝てない」

「何言ってんだよ!あんな刀でお前が殺される訳無いだろ」

「ならお前がやってみろ!俺は…無理だ。負けを認める」

「はぁ”?」


何故か実況と喧嘩をしている。

何をしているんだあの人は。


リングに座り込む犬猫で言うなら耳が垂れ下がった状態の波流さんに神楽さんはそっと手を差し伸べた。

「立ちなさい」

「…あぁ」

「あんた…私の事何か知ってるでしょ」

…波流さんも何かに気付いたのかもしれない。

いや、知っていたのかもしれない。

どこかおかしい。

まただ、神楽さんが…おかしい…。

「強かったんじゃないか?あんたは」

「甘い慰めなんて要らねぇよ」

「違う。私はただあんたの実力を認めただけだ」

立ち上がるや否や手を振り払いまた揉めあいしている2人。

せめてリングを降りてからにして欲しい。


試合は神楽さんの勝利となり、最終決戦に進める事となった。


試合終了後、波流さんは負けた事をいじってくる観客達に何やら神楽さん曰くおしおき…と言うが明らかに殺して居そうな勢いでその水のテールやご自慢の速さで殴り合いをしたり等八つ当たりの様に蹴散らしている姿が見えた。


受付を終わらせ帰ろうとしている時彼女が目に入る。

どこか落ち着かない様子で会場内を歩き回っていた。

何かやり残したことがあるのかな。

「行くよ、空。もう終わったから」

そう言われ僕は流れるように外に出た。

無事に終わったとしても1つまだ不思議な事が…。

彼女には神楽さんがどう見えていたのだろう。

そして彼女の「殺される」って…。

考えてはダメなのだろうか。

そんな事を思っていると自然と僕の足は止まった。

立ち止まった自覚はしているが何故か足が動かない。

いつもの様に早足で先に行く神楽さんに僕は置いてかれ1人階段を眺める。

何か見落としている物があるんじゃないか…?

何か彼女に関するもので見落としたものは…

「空?大丈夫?」

……


今は考える暇は無さそうだ。

それも自覚している。



____________



宿に着いてからの記憶がほとんどない。

すぐに寝てしまったのもあるだろうが、ここまで記憶に残らないのは初めてだ。

神楽さんとどんな会話をしたっけ、覚えてない。


「起きて、空くん」

あぁ、またいつもの声が…

僕はその聞き馴染みのある声に答えるべく目を開いた。

「…え?」

だが僕が目を開いた時に拡がっていた光景は想像を遥かに超える。

赤い糸が巡り周り無数に広がる白い空間。

「おはよう、起きたかな?」

神楽さんとすごく声が酷似しているが話し方少しが違う。

誰だ…?

「誰ですか?」

「私の名前は良いよ一旦。名乗らないでいさせて」

床は暗く、途方も無い白い空間と赤い糸は息苦しさを感じさせる。

「君は心を知りたい?」

警戒する僕に夢の声はそう問てきた。

「心?」

「神楽の様に笑い、波流の様に熱心に、クシュの様に楽しむ…そんな「心」を君は知りたい?」

声の主が僕に聞く内容はあまりにも現実味の無い物。

だがこの広い空間に響く様に聞こえる声自体が現実では無い事を僕に認識させる。

「僕が知ったとしてそれは何になるんですか?」

「君は神楽の様に成れる」


僕はその言葉で自分の心が揺らいだのを感じた。

「神楽さんの…様に」

「そう、それはあの()の様に強く成れるとは意味は違うけどあの娘の様に感じる力を手に入れると言うべき…かな?」

「それを手に入れるとどうなるんですか」

興味は無い、意味もない。

けど聞いてしまう。

「神楽」と言う言葉に僕はどうしても反応してしまうんだ。


「もし君が夢を観たいならそこの石を持ってくといいよ」

その言葉で僕は周りを見るが特に見当たらない。

「違うよ、後ろ後ろ…あ、左!そう、それ」

支持に従い目線を向けると宙に浮く虹色の欠片がどういう原理か浮いているのが目に入る。

「それを持って行っていいよ」

「これは…なんですか?」

「それは感情の欠片。それを君が持てば君の微かに感じた気持ち…要は感情ね。それを栄養にして君の中で根を張る。そしてやがて欠片は成長し、「感情の木」となるの」


難しい話を少しされているけどつまり僕の感情のタンクらしい。

溜め込んでそれを一気に吸収する事によって感情を覚える…という原理。

「神楽と笑え合える代物と思えばいい物に見えない?」

「…」

僕はよく分からない話をされながらも1つ確定している事が合った。

これは夢だ。

なら僕が見てるこれも夢だろう?

僕は目を閉じ覚めるように願った。


……

あれ、おかしい、起きれない。

「まさか夢だと思った?」

覗き込む様なその声は僕の耳元で囁いた。

「…」

「君は今私の手の内、君が判断しない限り出せない…いや出したらもう終わり?なの」

「そうですか」

どうやら僕に逃げ道は無いようだ。

なら…

「わかりました。それを僕にください」

「うん、わかった」

僕が受け取る答えを出した時、虹色の欠片は僕の前まで浮いて近づいて来た。

「これはすごーく、すごーく”いいモノ”だよ」

そう声の主は言いながらフフと笑う。

「取り扱いはね…下手げに殺意や憎悪を抱かないこと。頼んだよ」

その言葉と同時に僕の胸に欠片は光を放ちながら飛び込んできた。

寝起きに太陽を見たかの様なそんな光の刺激が目を襲う。


耳を劈く高音と光が僕を包んだ後、ゆっくりとそれらは溶けてい行く。

次、僕の目に映る景色は異様なものだった。

「ここは…?」


暗く足の踏み場が無い子供部屋の様な空間。

薄暗く、どこからか光が差し込む。


光の方へ目を向けると窓から蒼い満月が部屋を覗いていた。

床にはおもちゃやぬいぐるみが無数に転がっていて壁には子供が描いたような絵が貼られている。

大きなベットが部屋の中に置いてありシーツや毛布はぐちゃぐちゃだった。

そんな空間で僕の目を引いたのは出口のようにも見える1枚の扉。

冷たく、凍える様な風が部屋に差し込む中、僕はそのまま扉に向かった。

散らかり過ぎて動きにくかった物の、何とか足を置きドアノブに手をかける。

「…」

ガチャ…


赤い糸に繋がれた扉は空く事は無かった。


不気味な目と糸がこちらを覗いているのを感じた。


僕はそっと半開きの扉を閉じる。


今度は光が入る窓の方へと向かった。

なにかしなくちゃ出れない気がした僕は手当り次第試す事に。

試しに窓から顔を出し外を眺めるが月と雲しか見えない。

どうやらここは雲より高い場所の様だ。

……

僕は飛び降りてみた。


風を切る音、体に力が入り自由が無い感覚、どこか心臓を握られ血液が回らない事、その全てが僕にのしかかる。

数秒落ちた後…



グチャ…




「…」

いつもの部屋に戻った。

夢から覚めたようだ。

最後、僕は何かに当たり意識が途絶えたのを感じた。

外はまだ暗く、月が顔を出している。

冷たい風とカーテンのなびく音が夜へと僕を誘う。

僕はふと手に残る違和感を頼りに左手を開いた。

するとそこにはあの欠片と赤い糸が手に絡まっていた。

欠片は水の様に輝き、赤い糸は無造作に指や手首に巻き付き、僕を離さない。


「…終わり、か」

僕はそれを握りしめて飛び込む様にベットに横たわった。



おやすみ、世界。



変な夢だと思っていたものは厄介事を招いたのかもしれない。

最悪だ。

だけどとりあえず今は…生きないと。

また明日もあるんだから。

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