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1話 空と遊びの出逢い

森が唸り、鳥のさえずりが聞こえ、太陽が光り冷たい風が街を抜ける。

森や草原から見える街並み。

離れの森からじっと街の方を眺める少年。

「…僕やれたよ」

グレーのパーカーを着た黄色の瞳を持つ白髪の少年。

少年は手に持つ青色の瞳をした黒いロリータに身を包まれて居る割れた仮面を被る人形に話しかけていた。

「何かいい獲物は…」

少年は街を眺めながら何を盗めて何が盗めないのかを観察している様だ。

「…僕は…何でこんなことをしてるんだろう」

我に返り顔を曇らせながら呟く。

何時もしている事なのに抵抗をしてしまう少年。

自覚しない罪悪感に襲われる。

「僕なんて…誰からも必要とされないのに」

人形を抱きながら体を下ろし泣きそうな目で言葉を続ける。

「…分からない…ただ誰かに必要とされたいだけなのに」

その瞬間鼓膜が揺れる程の不快な音と共に彼の前に空間の亀裂が現れ中から何かが出てくる。

少年を迎えに来た者。

「迎えだ、雨月(あまつき) (くう)

彼は自分の名前が聞こえた時に理解した。

「きっと神様が僕を迎えに来たんだ」っと空は思い、死を悟り目を瞑り祈った。

「終わる。この世界から…開放される」





"来世は幸せになれますように"





時空の降臨者は黒い布を身にまとい、不気味な仮面越しに空を見つめる。

ギギギと重い鉄の音と同時に躊躇無く大鎌を振りかざされそうとなった…その時だった。


タタタ…

不思議にも遠くから地面と何かがぶつかる様な音が聞こえてくる。

それと同時に冷たい風が彼の背中を撫でた。


その音が真横まで来たその時、空の前でバン!と大きな音がした。

「…?」

何が起きてるのかを確認する為に目を開けると自分と降臨者の間に風に流された黒く長い髪を持つ女が何かで鎌を防いでいたのだ。

「神楽、わかっているのか」

「えぇ…わかってやっている」

「…誰?」

空の冷たい声に武器を交わらせる2人は意識を向けた。

「あんたら…まさか」

彼女は空を見て相手の目的を理解したのか目の前の降臨者に躊躇の無いの蹴りをいれた。

ドンと低く地面に伝わる音は空の足までにも絡みつく。


神楽と呼ばれる女の双剣は花が散る様な滑らかな起動を描きながら宙を舞い踊っていた。

彼女の持つ氷の刃は降臨者を切りつけ、その布と肉を削いだ。

圧倒的に早い彼女の前では降臨者の抵抗も虚しく何も出来ないで無惨にも倒れ混む。

「神楽、そいつは輪廻の対象だ。これはどれだけの事かわかっているな。いつの日かお前が裁かれる日を待つとしよう」

そう立ち塞がる彼女に言い残すと降臨者は空間に亀裂を発生させて虚空へと落ちていった。

「あぁあ…また面倒事が増えたわね…大丈夫?立てる?」


彼女は輪廻の対象を守ったのだ。

少年は重要な殺害対象になってるのかもしれないのに。

助けてしまった事に彼女の胸の中には多少の後悔があった。

「またか…」

神楽と呼ばれる女は…罪人となった。




「僕の神様になってください」

第1話 空と遊びの出逢い



空に近付き、手を差し伸べる神楽。

「大丈夫です、ありがとうございました」

あまりにも無感情…彼女が助けた少年はまで決められた言葉を喋る人形を見ている様だった。

普通の子供とは違いすぎて戸惑いう。

「あんた親は?」

「いません、産まれてからずっと独りです」

光が無さすぎる彼を見て神楽はため息を吐き、その顔を引き攣らせた。


ますます何かやらかしたのでは?

本当に助けて良かったのか?

そう言う疑念を抱き始める。

冗談じゃない。

本気で。



神楽は上手く顔を合わせられずに、横目で少年を観察していた。

…神楽は無気力で生気を感じられない顔を見ているとどうも過去の自分を思い出すようだ。

この子にとって…いっそ死んで来世に期待した方が良かったのでは…?

そうは思う物のまだ若いこの子には生きて欲しい。

若くして尊き命を亡くすのはあまりにも勿体無いから。

「んぁぁぁ〜…」

何とも言えない情けない声を漏らしながら頭を抱えていた。




彼は”孤独の身”として…この世にいる。




親も居なければ殺害対象。

第三者の目線で痛い程この子の気持ちが理解出来た反面"大人のエゴ"で可哀想と思ってしまう。


彼女は座り込み頭を悩ませた。

それに合わせて空も座る。


「…なんで私をずっと見てるの」

「何か考えてるので。僕に言いたい事があるのかなって」

「(気が使えるいい子かよ…)」そんな事を思いながら彼女は冷たく少年を引き離す。

「私は不審者だよ。早く逃げた方がいいと思うけど?」

すると少年から意外な答えが帰ってきた。

「あなたからは他の大人みたいな嫌な感じがしないから逃げないだけです」


少しの沈黙と空気が流れる。

彼女の胸にその信用とも取れる言葉が響いたのか悩んでいた顔がみるみる冷静な顔色になってきた。



沈黙と森の声の中彼女の声が響く。

「行く場所無いなら私と動く?私普通の生活なんてした事無いから生活の保証出来ないけど…その辺に居て殺されるよりかはいいでしょ?」


空は諦めた様な口調で答える。

「どっちでもいいです。生きたって死んだって、誰か仲間がいる訳でもないです」

神楽は言葉に詰まる。

「やっぱそうなるか」と言いたげな顔をうかべる。


彼女は突然大切な事を忘れていた事を思い出す。

誰かと会話する事が最近は全く無く「名前を聞く。言う」と言う常識を完全に忘れていた。

「あんた…名前は?」

「雨月 空です」

「空…いい名前ね、私は虚音(うつろ) 神楽(ねかぐら)よろしくね」

「はい」

やっぱ何処と無く…ほっとけない様子。

しばらく考えて彼女は大人の微笑みをこぼしながら立ち上がった。

「よし…決めた!空、私と行動しよう」

「え?」

冷たい声が彼女の胸に刺さるがそれでも諦めない。

無理矢理彼女は手を引いて歩き始めた。



________________________


2人はさっきの場所を離れ、森の奥で影になっている細道を見つけた。

幸運にもその細道を下ると川が見えてきた。

「あ、水」

「お水…」


2人は久々に摂取出来る水を浴びる様に飲んだ。

バシャバシャと川の水が彼女の体に当たり踊り狂う。

「ぷはぁっ!最高」

神楽も空に並んで水を飲んでいたがそれ以上に彼女は頭から川の水を被っていた。

寒くないんだろうか…そんな顔で空に見られている事には全く気付いてないようだ。


「…あ、」

ようやく彼と目が合う。

だがその冷たい目線を貫通させる様に彼女は口を開いた。

「空、お腹すいてる?」

「僕ですか?大丈…」

言葉を言い切る前にぐぅぅ…っと彼から聞こえた。

「あははっ、お腹空いてるじゃない」

笑いながら神楽は水を飲んでいた。

「空の食事私が用意して上げるよ」

だが彼女の好意が気に入らなかったのか逆に顔色が曇る。

「大丈夫です、これぐらい…別にっ」

神楽何も言えずに空を眺めていた。


細胞に行き渡る程大きく息を吸った彼女は…

バシャ!

「このー!子供が強がっちゃって!」

バシャバシャと水が足元で水荒れる中、神楽は空に抱きついたのだ。

「何してるんですか…」

彼はドン引きているようだ。

抱きつかれるのが初めてなのか不思議そうな顔を浮かべていた。

「子供なのに暗いのよ〜!」

笑いながら自分の胸に空を埋めた。

「息、息が…神楽さん…」

「あ、マズい」

抱きつかれた事で鼻が塞がり呼吸出来なく空はむせ込んで居た。

彼はむせ込みながら強く神楽を突き離す。

「僕死にますよ」

睨む様な目を向けられて流石の彼女も少し危機感を覚えたようだ。

「あは…ごめんごめん」


空はその鋭い目を落とし、思いだすように言葉を漏らした。

「でも…なんだから神楽さんって神様みたいですよね」

「…?」

突拍子も無い言葉にキョトンとした顔を神楽は浮かべる。


「夢で見た神様と似てるっ」

「……そうね、あながち間違いじゃない、かも」

彼女の目には何か映っていたが空はそれを読み取る事は出来なかった。

彼女達は何処と無く気まずくなったのか互いに目をそらす。

「…」

胸が締められる様な空気が流れる。

無言に耐えきれなくなったのかこの空間で空が先に口を開いた。

「あ、助けてくれたんですからお礼は後でさせてください」

「子供がそんなこと考えるんじゃないわよ」

神楽の気まずそうな顔も消えていく。


さっきまでの暗い雰囲気とは違い、2人とも少し自信を持ったような声色になってきた。

「神楽さんはとても優しいんですね」

「え?」

「自分が辛い思いしたのがあるから他人を助けようだなんて」

「ただの気分屋」

子供の相手が苦手なのか思った事をそのまま口に出してしまい彼女は少しの焦りを覚える。

「あ、と言ってもあんなの見たら誰でも助けるよ!ね?」

「何焦ってるんですか?」

「…」


彼女は自分の弱点を理解していなかったが今理解した。

「(子供の相手は苦手…)」

「…まぁ、水飲んで休憩したら食べ物探しに行こっか」

「はい」



彼女は地図を広げて今後の事を計画していた。



「まずは…どこ行こうかな〜さっきの街に戻るのは危険ね…森の奥に行こうかな、それとも…」

日陰で木に寄りかかりながらお行儀悪く足を組みながら神楽は眺めていた。

「空〜行ける?」

神楽の横で人形と遊ぶ空に呼びかける。

「行けます」

「行こう」

神楽は立ち上がりこう話した「イノシシを狩りに行く」っと…。

「…神楽さん本気ですか?」

「え?本気よ。イノシシぐらい狩れるわよ。任せて!」

自信に満ち溢れた顔を見てしまったら止められるはずもなく…危険なのは解りながらも空は着いて行った。

「イノシシで死んでる人も居るんですよ」

「あんなのに負けるなら私は死んだ方がいいわね」

「はぁ…」



森の中を警戒しながら2人は歩き続けていた。


暇を持て余した空が問う。

「神楽さん、背中の鞘に入れられた刀はなんですか?」


神楽は背中に持ち手がボロボロの刀が入っている鞘を背負っていた。

彼女は彼の好奇心を無駄にしないように優しく返す。

「これ?これは私の"思い出"刀。けど私基本的に使えないの」

「どうしてですか?」

「この刀は少し特殊でね…見せてあげる」

道の途中で止まり、彼女はしゃがんだ。

しゃがんでから鞘に手を置き、刀を引き抜くとそこにはとても綺麗な外見からは想像が出来ない見た目だった。

黒く錆び、刃こぼれし、刀身の8割が無い刀だった。

もはや刀と言うべきか怪しい物。

見た彼は「こんなにボロボロなのか」と言いたげな顔を浮かべていた。

想像していたものとは違う”なにか”だったから。

「こんなのをずっと持ち歩いているんですか?」

「えぇ、これは…絶対に忘れちゃダメな物だから持ち歩いているの」

何処か悲しそうな表情を浮かべる神楽、それと同時に強い意志を感じる瞳をしていた。

「戒め…ね。復讐的な?」

「これじゃ武器としては使えないですね」

「だね、まぁ大丈夫!基本双剣で事足りる」

神楽は刀を鞘にしまい背中に戻し、空に感想を聞く。

「満足〜?」

「はい、ありがとうございます」

「良かったっ」

よく彼女は笑っている。

笑いが尽きない人…そんな事を空は思っていた。




数十分後……


「…空!しゃがんで!」

涼しい森の中を歩いていると彼女は突然空の肩を掴み無理矢理自分ごと草むらに伏せさせた。

「か、神楽さん痛いです…」

「しー!ごめんね!あれ見てみて!…大きいイノシシ!」

彼女が言う森の中に顔を向けるとそこには体長250cmほどのイノシシが歩いていた。

彼女は自分の双剣の内1本をおもむろに取り出す。

「まさかそれ1本で行くんですか?」

「まさか」

神楽さんは剣に足元が寒くなる程の冷気を放つ氷を纏わせ、獲物をしっかりとらえる為に角度を合わせていた。

氷で作られた短剣からはジリジリパキパキと触った瞬間凍結してしまいそうな音が響く。

「…よっ」彼女が氷の剣をイノシシに向けて投げるとその刃が綺麗にイノシシの首に突き刺さる。

イノシシは悲鳴を上げながら倒れ込んだ。

手馴れた物と言わんばかりに空にドヤ顔をしていた。

「ね〜?私これぐらい余裕って話したでしょ?」

「凄いですね神楽さん」

「えへへっ」

驚く顔をする空、嬉しそうな神楽。

これまで1人で動いてた2人にとってこの時間はとても楽しい様だ。

神楽はイノシシに近寄り双剣を抜き取り、イノシシの首に刺し直し空の近くまで戻っていく。

「おっきいイノシシ!食べよ」

「ありがとうございます。神楽さん」

少し開けた場所までイノシシを引きずりながら2人は移動した。

丁度いい場所に着いた2人は焚き火の準備を始める。

空はまきを集め、神楽は空から見えない位置でイノシシの解体をしていた。「怖いものが見えるから見ちゃダメだよ」と空に言いながら。


双方の準備が終わる頃には日が落ちて来た。

辺りは真っ暗。

光が無ければ生活が出来ない。

だが幸い空が持ってきた木のお陰で焚き火に火を付けれた。

火を囲いながら丸太の上に座る2人。

「凄い…」

自分1人では狩ることが出来なかったイノシシの肉を見た空はとても驚いた顔を浮かべる。

焚き火の上には枝に刺された大きな大きなイノシシの肉が…。

「空、これを食べれるのよ〜?やって良かったでしょ?」

「まぁ…はい」

見る物に興味津々のようだ。

油が跳ねる音、肉が縮む絵面。

あまりにも夢中になっていた様で、気付く頃には1本焼きあがっており木の棒に刺した肉を神楽が微笑みながら空に差し出していた。

「はいっ」

「あ、ありがとうございます…」

1口かじった瞬間、空の瞳孔が開き硬直する。

「…大丈夫?」

「美味しい…こんなの、初めて」

人生で初めてちゃんとした肉を食べた様だった。

いつもはゴミ箱に捨てられていたり盗んだものだったり…。

冷えていたりゴミの臭いがする物ばかりだった。


そんな彼からしたら同じ肉なのかを疑う味だ。

空はあっとゆう間にその肉を完食した。

楽しそうに笑いながら神楽は言う。

「余っ程美味しかったのね〜好きなだけ食べな」

神楽も口にしながら2人で星や街の事を喋りながら楽しい食事の時間を過ごした。

「ねぇあの星ってオリオン座っていうのよ」

「オリオン座ですか?」

「そっ。寒い時に見える星なの」

「後はね〜_」





雑談しながら休んでいたら気付くと空はぐっすりと眠ってしまった。

「全く…子供らしいじゃん」

暫く焚き火と空を眺めた後、神楽はゆっくり焚き火の日を消して眠りについた…。



次の日


日が登り日差しで目が覚める神楽と空。

「ううっ…体が痛い…私寝違えたかな…」

「…神楽さん、おはようございます…」

「おはよう〜空〜」

寝ぼけた頭を覚ます為神楽は自分で氷の塊を生成し、自分の頬に当てる。

「んーー…冷たい!!」

泣きそうな声で叫ぶ神楽、それを見て冷たい目線を向ける空。

「神楽さん何やってるんですか?」

良くも悪くも空も目が覚め、立ち上がり動き出す。

寝起き早々神楽は突拍子もないことを言い出した。

「空、私と隣の街や国に行かない?」

「国や街ですか…?」

「空の安全や互いの生活を保つ為にね。空がいたマリアじゃ危ないでしょ?」

「そうですね…少し考えさせてください」

空は難しい顔を浮かべながら頭を悩ます。

何とも子供らしくない顔だと神楽は思った。

少しの沈黙の後、彼は口を開く。

「行きましょう、僕には待つ人が居ないので」

「私の我儘にありがとう、空」

神楽は何処か安心した表情を浮かべる。


しばらく互いは支度をした後また地図を見ながら歩き始めた。

神楽はリュック、空はポーチにものを詰めて。




空と神楽は水分と食料調達をした後マリアを離れた。

森の奥へと進み新たな街へと向かう事に。

道中…足を滑らせたりツタに絡まったりと散々な目に遭いながら。

「はぁ…つ、疲れる…」

「神楽さんが不注意だからですよ」

一度も転けたりしない空は横目に何度もひっくり返る神楽を眺めていた。

「歩けますか?」

「大丈夫!だって私はお姉ry」

喋ってる途中にツタに足を持ってかれ顔から勢い良く地面にぶつけた。

ドカンと良い音がする。

「………痛い」

「…神楽さん」

顔を埋めながら泣きそうな声で小さく呟く神楽。

こんな状態で良いのか少し不思議そうな顔を空は浮かべていた。


神楽が目的にしている街は徒歩ではあまりにも遠く、あれから7日程経過するがまだ着かない。

「神楽さん…道あってますか?転けたり落ちたりし過ぎて解らないんですが」

「…よっ!あってるはずよ!地図が嘘をついて無ければね〜」

勢い良く飛び起きる神楽は元気よく地図を取りだした。

神楽が取り出した地図に空が夢中になっていると彼女は顔を上げ突然叫んだ。

「あ!道が整備されてるのが見える!もう近いんじゃない?」

それまで土道だったが少し離れた場所に綺麗なレンガの道が見えたのだ。

「街が近そうですね」

「そうね、ようやく…」

安心した様な顔を浮かべる空。

腰に手を起き自信に満ち溢れる顔をする神楽。

なんともポンコツな姉感が抜けない様子だ。

「よし!空、行こう!」

「はい、神楽さん」

しばらく道なりに進むと街が見えてきた。

石製で出来た建物が並ぶ街。

色んな石で積まれた家は最先端さを感じさせる。

窓が開き、煙突からは煙が舞い踊る。

そして1つ彼らは気付いたことがある。


森の中とはうってかわり街付近はとても寒い事だ。


彼女達が来た此処は雪の街 ハルバードVI。



(看板)「ハルバードVIへようこそ」


「空、大丈夫?」

「寒いです」

淡々と吐き捨てる様に空は言った。

その言葉には躊躇が無い。

よっぽど寒いのだろう。

「街の中に入ろう、取り敢えず…」

「はい…」

彼らは街のフェンスの内側に足を入れた瞬間目を大きく見開いた。

「え?」

「不思議ですね、暖かいです」

街の中は外とは信じられ無い程暖かったのだ。

不思議そうな顔で神楽達は互いの顔を見つめあっていた。


すると近くの老人が話しかけてくる。

「お嬢ちゃん達ここは初めてかい?」

「はい、初めて来ました」

「これ、凄いじゃろ?街の整備士達が力を合わせて作ってくれたんじゃ」

「そうなんですか?…とても高度な技術、素晴らしい街ですね」

しばらく神楽とたわいの無い会話をすると愉快そうに家へと入って行く。

「ふぅー…疲れた、話長いわよ全く」

肩の力を抜きながら文句をこぼす神楽。

「お疲れ様です、神楽さん」

「ありがとう空、でもさっきの老人から良い事聞いたよ」

「なんですか?」

「なんと…!!ここでも私が持ってる通貨が使える!」

「…それがいい事なんですか?」

空は驚きもしなかった。

「え?いや…そりゃ…」

神楽は考えた。

「(そうか…子供だからこういう事が分からないのか…)」

彼女達はしばらく食事にありつけていなかった。

ようやく…ようやく食べ物にありつけると言うのに素直に喜んでいるのは彼女1人。

数少ないとはいえ、自分の持つ通貨が使える事はとても大きい。

これで長い長い飢えに苦しんだ胃袋を癒すことができるのだ。

神楽は自分の顎を指で叩きながら目を泳がせた。

どう説明するか…

「えっとね…要は…ご飯が食べれるってこと!お腹すいてる?」

「はい」

「じゃあ食べようか」

「よかったです」

全く嬉しそうに見えない彼を見てるとなんとも複雑な感情に神楽はなっていたも物の、「しょうがないか」と割り切る事に。

久々に普通に食事をする事が出来るだけで神楽達には嬉しい話だ。





神楽達は街中のレストランを見つけ、中に入った。

そこの店は少し前から子供にも来て貰えるように昼間はレストラン、夜はバーとして経営している街唯一のバーの様だ。

カウンターにはお酒が並んでいたが「20時以降提供」と書かれていた。

中は木造の暖かい雰囲気広がる。

見渡すと住人や冒険者たちの様な人達が丸い木のテーブルを囲んで談話していた。

「いらっしゃい!何名?」

「2人。だけど落ち着いてからでもいいよ、繁盛してるみたいだから」

「上に案内するよ!」

「えぇ、ありがとう」

1階はとても混んでおり賑やかだ。

2階にも多少人は居るがこっちの方がゆっくり出来るだろう。

神楽達はゆっくりとワイワイしてる雰囲気の中を渡り、階段を上がって行った。

案内された2階の席に着くと神楽がメニューを手に取り、空に見せる。

「好きなの頼みな、今はまだお金あるから」

「好きなだけ…良いんですか?」

申し訳なさそうに彼女の顔を眺めていた。

「大丈夫よ!お腹いっぱい食べていいよ、イノシシ以外の物も食べないとね!」

神楽は催促するように空の顔をじっと見つめる。

「…じゃあ…これとこれお願いします」

「はーい!私はこれにしよう。注文いい〜?」

「はーい!注文は〜?」

神楽の声に反応し、1人の半獣の少女が走って来た。

もふもふした頬や耳を揺らしながら。

「苺チョコのフィナーレと、群青オムライスと、チーズポテトお願い」

「うん!ご注文ありがとうね!待っててね!」

「ありがとう」

半獣少女は注文書を持ち、1階へと勢い良く走っていった。

「ありがとうございます」

「子供なんだから好きに食べていいのよ。我慢させた分よ」

「はい」

目を泳がせていた空はその言葉を聞き、神楽の目をじっと眺めた。

だが神楽はそれに気づいていないようだ。

注文が来るまで神楽は店の端の方を眺めている。


暫くすると注文の品が届き、彼女達のテーブルに品が並ぶ。

「おまたせ〜!群青オムライスと苺チョコのフィナーレ、そしてチーズポテトよ!熱いうちにどうぞー!あ、けど火傷しないようにね」

「ありがとうね!」

「ごゆっくり〜!」

先程の少女はお盆を持ち忙しそうにまた下に戻って行った。

「空、届いたわよ」

「…いただきます」

少し躊躇うが神楽の言葉と欲に負け、彼は群青オムライスを口にした。

「……わぁ…」

口に入れた瞬間空は硬直してしまった。

人生初めて…しっかりした料理を食べたと言ってもいいぐらい。

「ふーん、チーズのオムライス見たいね。美味しい?」

「美味しいです」

ニヤニヤしながら神楽も届いたパフェを食べているようだ。

子供のように神楽は口元に生クリームをつけて誇らしげな顔を浮かべていた。

空は美味しそうにオムライスを食べ、神楽と分けながらチーズポテトも完食してしまう。

彼女達はよっぽどお腹が空いていたのか完食後もサラッとした様子だった。

「ありがとうございました」

「気にしなくていいわ。私の責任でもあるし」


食事が終わった後お行儀も悪くテーブルに肘をつき、顎を乗せながらとある提案を神楽がする。

「ねぇ大会出てみない?と言っても、私が行きたいだけだけど」

「大会ですか?」

「内容はこう」

神楽が言う内容は戦闘系の大会の様でウィザードや能力者、エーテル等が参加出来る少し力を持つ物の遊び場の様な大会のようだ。


ただし、神や神と契約している桁外れの力を持つ者は出場出来ない。

そして明日が当日。

今日はその紹介日と書いてあった。



「理解は出来ました。しかし…」

空の顔が曇る。

「ですがそれなら神楽さんは出れないんじゃないんですか?」

会議室の様に店のライトが彼らの横顔をうっすらと照らしあげる。


「私は契約者でも神でも無いわよ。偽物の人間みたいな物。契約者でも無ければ神でもない」

「そうなんですね」

「そう、まぁ…深くは気にしないで」

彼女は深く触れたくない様子だ。


空は今の話で疑問になった事を聞いた。

「神楽さん聞きたいことが」

「何?」

「神楽さんの種族はなんですか?」

「そうね…種族と言うより"神に遊ばれた人間"…って言い方かも」

「神に遊ばれた人間…」

神楽自身も自分が何者で、なんの種族なのかも理解して居ない。

彼女にとってそれはそれほど興味を示す物では無いからだ。

「参加する?しない?空が決めていいよ」

「僕が決めることでは無いと思うんですけど」

淡々とした何時もの冷たい目を神楽に向ける。

「えー」

「…神楽さんの好きな様でいいですよ。僕は合わせるので」

「なら会場に行きましょう。資金集め…ね」

彼女達は店にお金を払った後掲示板に記載されていた場所に向かった。

場所は内容が戦闘系なのもあり地下で行われる様だ。

発展して、賑わう街中を抜けてある地下鉄の様な場所まで着いた。

「深いね」

長く広い階段が深淵のように広がっていた。

「…?」

「どうしたんですか?」

突然神楽が後ろを振り返る。

「…」

……

「なんでもない」

何かを感じ取ったのか、神楽は後ろを一通り見た後、空の手を掴みながらゆっくりと階段を下って行った。

コンコン…靴底と石の階段がぶつかり合う音が大袈裟に響き渡る。

暫く下ると明るい暖色ライトと人の声が聞こえてきた。

階段を降り切ると真っ暗の階段とは対比的に目を覆いたくなるほど光が飛び込んでくる。

それと同時に大きな歓声が彼女達の耳に飛び込んできた。

「さぁ!皆様、お待たせしました!」

会場のアナウンスが鳴り響く。

真ん中には広いリングと頑丈そうな鉄の作。

それを囲おう様に観客席が段々に積み上がっていた。

「神楽さん本当にこの場所で合ってますか…?」

「えぇ、合ってるわよ」

どうしてこうもこう言う事はわかりやすいのだろう。

ドン引きしている空を横目に神楽は「まぁ子供が来るような場所ではないよね」と…後悔と何してんだろう私と言う呆れが襲って来ていた。

「よう!そこの姉ちゃん達!参加者か?傍観者か?どっちだ?」

薄気味悪い笑い声を上げながら問いかける一人の白髪の男。

2人は理解した。

関わっちゃいけないやつだ。

「よし、空あっちに行こう」

神楽が空の手を引くと焦るように男は止めた。

「まてまてまてまて!行くな!話を聞けぇ!」

「何?」

「参加者か観客かを此処に書いて行ってくれねぇか?仕事なんだ」

「私は参加者よ、受付は此処?」

「受付は俺だ!この紙にリングに立つ輩の名前と種族を書いてくれ」

「種族は…こうで、名前は「虚音 神楽」っと…付き添い?誰の事よ」

呆れた様子と言うべきかドン引きてるというべきか、神楽は気だるそうにボールペンを走らせた。


「書いたか?おう…参加者か。なら、後は自分の身は自分で守れよな」

男は神楽達に選手番号が書かれた札を渡し高笑いしながらその場を去っていった。


「空大丈夫?こんな輩しかいないと思うけど」

「大丈夫です」

「私は苦手かな」

今日までが選手受付最終日だった様で神楽達はギリギリに入り込んだ。


しばらくすると電子掲示板に神楽の名前が読み込まれ1人の選手の扱いになった。

2人は近くの選手用ベンチに座り今シーズンの御前試合の時間になるまで騒がしい会場を眺めて待つ事に。

中は大勢の人の話し声、物音、機械や鉄が擦れる音等でとても静かな空間とは言えない。

薄暗いオレンジ色のライトが一層無法地帯感を引き立てる。

2人がぼーっと周りを見ていると近くにいた男性が話しかけてきた。

「お嬢ちゃん。お前なんでこの大会に出ようとしたんだ?」

「お金が無いの、だからここで少しだけでも生活費を稼ぐつもり」

男性は顔を引き攣らせながらいった。

「なら帰ってその辺の腐ってまずい飯を食ってる方がマシだと思うぞ。ここは普通の人が来ていい場所じゃない、人が死ぬ場所だ。弟にも迷惑かけないようにな」

空を見ながら彼女を説得しようとするが彼女の耳には一切響いていない様だ。

「大丈夫、私は負けないから」

何処か探る様に神楽は男の目を凝視した。

「…その気の強さと目は普通の人間じゃ無いだろ」

「まぁね」

鼻で笑う様に言葉を吐くと男は飲み物を取りに行った。

少しきまづい空気が流れた後濁す様に口を開いたのは空だった。

「僕弟だと思われてましたね」

「そうね、周りなら見たら私が姉で空が弟かな」

「ですね、神楽お姉さん」

聞きなれない言葉に動揺し、目をぱちぱちしながら神楽は彼の顔を見た。

「お、お、お姉さん?!」

「…神楽さん」

「あっ、なんかごめん」

「急に呼びたくなっただけです」

驚きのあまり彼女の足はそそっかしい雰囲気だ。

「神楽さん顔赤いですよ?」

「うるさい」




約20分後……。



ルール説明と設備点検後に会場に会場の光がゆっくり消えて行き、アナウンスが流れ始めた。

熱狂的な実況の声が響き渡る。

「さぁこの大会の初戦に花を飾る選手は〜?」

声と同時にバンと言う音と同時にリング上に立つ1人の青年が照らされる。


「異国の風に靡かれ、その1輪の夢の花を咲かせた…」


アナウンスに合わせて青年は顔を上げて背中にあった大剣を大きく地面に振りかざす。

その目は勇気に満ちた目をしていた。

「地下リーグ第7回 優勝者…アメール!」



その声と共にリングの周りから風が放出され、プシューという音が同時に会場に広がる。

後押しする様な歓声の海が会場を包んだ。


「そしてそれに対抗すべき現れたのは…またしたも大会優勝者!だかこいつは違う!地下リーグ第6回の大会優勝者だ!つまりは〜?型落ちか?」

笑い混じりの声と共に赤髪の小柄の女戦士がハイライトされた。


「大地を駆け巡る死水の亡命者!地下リーグ第7回優勝者!刃偽音(やぎね) 波流(はる)だ!」

照らされた彼女は片手に荒波を泳がす液状の槍を構えていた。

大地を駆け巡る死水の亡命者…その2つ名にふさわしいほど荒々しい水しぶきをあげている。


彼女はその鋭い槍を向けながら実況席に向かって叫んだ。

「誰が型落ちだ!ふざけやがって!」

「おゃあ?違うか?」

「チッ」

彼女は何を思ったのか、槍を実況席に思いっきり放り投げた。

バリン!と大きな声で実況席の厚いガラスが鳴く。

「あぁ…荒いぜ?姉ちゃん」

「クソが」

「さぁ!第8回の予選試合前の花をを2人に飾ってもらおう!よーい…」

両者はその声と共に武器を構えた。

青年は大剣を、少女は何処から取り出した水のダガー2本を手に…。

「スタート!」



空はあまり状況に関心は無かったが神楽はよく観察していた。

もしかしたら自分が当たる相手かもしれないのだから。


白熱した試合は引き分けとなり、試合の御前試合としては波流という少女とアメールと言う青年はいい華を飾った。

会場は最後まで盛り上がり明日からの試合が楽しみでしょうがない様子だ。


神楽たちもあれに巻き込まれる事となるのだが…神楽本人は「これぐらい」と言った余裕な素振り。

その不気味な紫の眼で会場を見渡した。

出来るだけ情報が欲しい様だ。

ペンと紙を片手に色んな方向に目を配らせていた…。



しばらく経つと会場に安息が戻ってくる。

選手や観客が退場し、解散し始めたのだ。


それに合わせて神楽は立ち上がり体を伸ばしてた。

「さて…空、今日は帰ろう、疲れたでしょ?」

「少しは」

「帰ろう。選手な以上また来るし」

2人はこの後の事を話しながら会場の外に向かう。

「じゃあ今日はハルバードの何処かのホテル泊まろっか。ふかふかのベットよ…?絶対寝心地良い」

「ふかふかな布団…暖かそうですね」

「ぐっすり眠れるわよ」

「はい、神楽さん」

2人は薄暗い静かなカウンターを通り、またあの長い階段をあがり地上へと向かった。


外に出るともう日が落ち、薄暗くなっていた。

「もう宿は埋まったかな?急がないと」

神楽は空が着いて来ている事を確認した後早足に先に進む。


「えーと…」

街の入口の方まで歩き、看板を見ると宿やホテルの場所が書いてあった。

「見つけたよ。1番近い場所」

「はい」

無表情で笑いとは程遠いが彼だが何故か神楽は空を見てクスリ笑う。

人形をただひたすらにハグしながら自分の隣に立つ彼が可笑しかったのだ。

「どうしました?」

空はその空っぽな顔で神楽を見た。

「いや。人をこう近くで…ましては子供だなんて…。久々で可愛くてつい」

「そうですか…?」

空には理解が難しい様だ。

無理もない。

子供の空にとって「子供」が可愛いなんてわかるはずもない。

自分が可愛いと思う人間がこの世界にどれだけいるのだろうか…?


「行こうか」

2人の背中は本当に何処か姉弟の様な雰囲気を放っていた。

似たもの同士の集まりと言うべきなのだろうか。

虚空の様に空っぽな少年と悠久の理を背負う女人。

2人は何処か重なる雰囲気を持っていた。



2人がしばらく地図にそって歩くとキラキラと数箇所の窓から光を放つホテルに着く。

「これで休めそう〜…うぅ…」

背伸びをしながら入っていく神楽を空はついて行った。

2人の姿はホテルの優しいライトに包まれて消えていく。


中に入るとカウンターにいる1人の女性が話しかけてきた。

「いらっしゃいませ。何名様でしょう」

「2人よ」

「かしこまりました」

手馴れた様子で神楽は手続きを進め、部屋を借りた。

しばらくカウンターの女性と話し込んだ神楽は会話の片手間に空にとある鍵を渡した。

「はい鍵。305号室よ。間違わない様にね。先に休んでな」

「はい」

空はそれが部屋の鍵だということをすぐに理解した。


彼は言われたままに「お客様室」と言う廊下の方へ向かい305号室を探しす。

階段をあがり201…202…203……209まで行きここでは無い事を確認した後階段をまた上がった。

301…302…303…304…305…ここだ。

空は一つ一つの扉を見て回り此処だと確信してこの小さな鍵を差し込んだ。

ガチャと言う音とともに扉が開くのを感じる。


扉を開けた時、ふと廊下の方を見渡すと空は顔を曇らせた。

「…」

真っ暗で扉の上についた小さなライトで照らされてる場所以外何も見えない廊下。

風の音すらもない場所でただ1人扉の前に立っている事を認識した。

空は押し寄せる空虚に耐えきれず部屋の中へ逃げる様に入り込んだ。


空が入る時に扉を引っ張るとギーと鈍い音を立てながら彼を閉じ込めるようにその蓋を入口に付けた。

木製の壁や天井。

入口の横にはクローゼット。

角には大きなベットとテーブル、そして2脚の椅子。

そして部屋の真ん中の窓からは蒼い月が部屋の1部を照らす。

空が窓に近付くと月は顔を出して彼の瞳を照らした。

思わず彼はぬいぐるみを床に落とし、窓の縁に手を起きながらその空をじっと眺めた。

「綺麗な空…。あそこには…何が…」


ガチャ!

「っ!」

「ただいま〜。わかったのねしっかり」

いきなり扉が開いたと思ったら神楽が疲れた様子で入ってきた。

空でも足音も無くいきなり空いた扉にはさすがに少しびっくりしている。

だがそれを隠すように空は会話を繋げた。

「お疲れの様ですね」

彼の目は震えている。



「随分背伸びした言い方ね」

神楽は子供が本来言わない言い方に違和感を覚えた。

「そうですか?」

「子供らしくないというべきかな…?」

そう言いながら部屋の角に神楽さんは折れた刀が入った鞘を立てかけながら話を始める。


「ねぇ聞いて空。初戦から私だったのー。ルーキーいじめよね?」

「ルーキーいじめ…?」

どうやら明日の初戦から神楽がリングに立つことが決まっていたらしい。

「まぁ貴方じゃ通じないか…。シャワーは?入った?」

彼女は空に話しても悪影響だと思い自分から振っときながら早々に話を切りあげた。


神楽は1回のエントランスの奥に客用のシャワールームがある事を見落とさなかった様だ。

「まだです」

「良ければ行ってらっしゃい」

「はい」

空の機械仕掛けの人形の様に言われた事だけに反応して、自分からは動かない姿に神楽は少しばかり警戒する様な目を向けていた。

空は落とした人形を拾い上げ、ベットに人形をゆっくり置く。

「1階ですよね?」

「そうよ」

ガャチャンと音を立てながら空が出ていく姿を彼女は寂しい目で見送った。

「…」

神楽はテーブルの上にバックを投げ置き、ゆっくりと人形に目を見た。

「何この人形」

手を伸ばし、その人形に触れる事に…。

引き込まれるような、頭を掴まれるようなそんな感覚がする。

……


だが特に何も起きなかった。

触れたら食べられるんじゃないかとかを連想させる程いい雰囲気の物では無い。

「はぁ…」と大きくため息をついて彼女は人形をベット横の棚の上に移す。

「うん、ここに居てね」

子供を相手するように優しく話しかけ、自分の気を出来るだけ紛らわせようとするが上手くいかない。


「この人形は怖くない」そう言い聞かせた。

…彼女はどうやら"この子"に恐怖を覚えていたのだ。

この子から放たれる底知れぬ殺意が彼女の胸を刺す。

「…」

空気の圧力、見られてるような感覚。

彼女の気持ちを揺さぶるのには過剰にも取れる。

その圧力は彼女と人形の目を結びつけていた。

耐え兼ねたのは勿論神楽の方。

人形に背を向け、窓の外を眺める。

「…」

彼女は何を思ったのかしばらく部屋をはいかいしたあと突然人形の前まで戻りゆっくり腰を折り、置かれたその子と目線の高さを合わせた。


0距離に置かれた互いの眼は奇跡的にも共鳴している。

彼女はしばらくの間目を合わせ続けた。

それに対して人形は神楽の様に錯乱される事は無い様子。

神楽は…ゆっくりと人形に問う。

「あなたは…どこから来たの…?」

ガタン!

「誰!」

大きな音を立てながら突然窓が空いたのだ。

人形に質問をした瞬間、まるでこの子が反抗するかの様に荒れ狂った。

ギー…と音を立てながら窓が縁にぶら下がる。


「…ごめんよ、もう聞かないから」

そう彼女は残念を漏らしながら目をズラした。


その後は風が抜ける部屋でただただ彼が辿った扉を眺めている。

「(あの子って他の子と違うのよね。何処の街の子なのかな)」

神楽は勢い任せに疲れた体を椅子に置いた。

肘を付き、指先で自分の頬を覆い叩く。

「(ハルバードVI?マリア?シティ#277…?それとも更に離れた鶴?)」

彼女は目を泳がせながら静かな部屋の中1人で考えていた。

「(でもマリアにいたならマリアの子なのかな。あんな綺麗な白髪に黄色い目…どこの街の人間とも一致しない。あ、けど可能性としては…)」

彼女はそこまで考えをまとめるとピタリと指を止める。

一瞬の時の間、空間が止まる感覚が彼女を襲う。

「…」

約六畳間の部屋にため息と唸りが響く。

「はぁ…あぁぁ〜考えても無駄。なんでそんなこと考えてるの?」

自分にドン引く神楽。

忙しない雰囲気で机に寝そべった。

「机気持ち」

冷たくてひんやりしてる机に完全に虜のようだ。

すると神楽が寝そべって少しの事。

丁度よく扉が開く。

「戻りました」

「はい、おかえり」


彼女は空と入れ違いでシャワー室に向かう。

しばしば集中も出来なければ考え事で気がちとている様子だ。

「あ、」

声と同時だった。

ガタン!

「痛!」

足を滑らせどこかで足を持ってかれてしまった様だ。

暗くてよく見えないが階段で転けてしまったのは事はわかる。

後一歩ズレていれば彼女はそのまま階段の下に落ちていただろう。

「はぁ…早く布団入ろう」

彼女は足早にシャワーを出て部屋に戻った。

頭にバスタオルを被せながらゆっくり部屋の扉を開けると月明かりに照らされた空と部屋が目に入ってくる。

凄く綺麗で優しいこの空間に神楽は見とれていた。

「綺麗だな…」

そんな言葉を漏らしながら窓の縁に寄りかかって空を眺めた。


優しい表情ですやすやとぬいぐるみ片手に眠る彼は子供らしさを通り越して母性を擽る。

「…」

彼女はそんな空に夢を抱いていた…。

この子なら幸せになれるって。


ゆっくりと空にバレない様に窓を閉めた。

カチ…

鍵もカーテンも勿論全て。

神楽は自分で今日という日に幕を閉じた。


「(おやすみ、空)」

誤字や言葉がおかしい所があれば良ければ教えてください

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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