大いなる未知へ
「あ……れ?」
酷い頭痛が陸の意識を手繰り寄せ、目を開くと視界一面には燦然たる星々が散らばっていた。
──気を失っていたのだろうか。でも何でだか理由は分からない。ただ、あの時。義経の名前を呼んだ時に襲った左腕の激しい痛みだけは覚えている。
陸が左腕を押さえながら起き上がると、少し離れた場所で座っていたアルカナが口を開く。
「あー。やっと目が覚めたんだね」
「やっぱ、気を失っていたのか。でも、なんで俺を置いてかなかったんだ?」
「まあ、無防備な状態で魔獣が巣食う場所に放置なんか出来ないでしょ。──ほら」と、アルカナが指さす方角には、大量に討伐された化け物が山積みになっていた。
「これ、アルカナが一人でやったの?」
「ボク以外に誰がいるのさ。まあ、正直な話。スライムよか強いけど白猿よりも弱かったよ」
白猿「ディエガ」
陸が手がけた小説内で義経とアルカナが遭遇するダンジョン内の魔獣。知能が高い彼等は、学び戦う為に苦戦を強いられた。が、それも初めの頃の話だ。
今のアルカナなら造作もないだろう。
「しかも、ボクはこの数以上に魔獣を倒していたよ。見ててよ」
「……分かった」
微風が髪を撫でる中、暫しの沈黙を陸の短い声が破る。
「あっ……」
目にした光景は、余りにも幻想的で美しいものだった。赤・紫・翡翠色。様々な光を淡く灯らせた小さい球体が、まるで自我を持っているかのようにユラユラと揺蕩いながら、ゆっくりゆっくり空へと昇って行く。球体の後には可視化できる粒子が残り、そして静かに消えていった。
「すごい綺麗だ」
「──ね。そして、これがこの世界での魔石みたいだね」と、アルカナは陸に歪な形をした石を投げ渡す。
手のひらに容易く収まる程度の大きさをした魔石は、赤い水晶の見た目をしており、中心に行くにつれ色濃くなっているようだ。
「……で、話は戻るけどさ。君は一体なにもの?どうしてボクを呼び出したのさ」
「…………」
「ボクの攻撃は君に全く効かないみたいだし。寝込みを襲ったけど無理だったから。それに」
──アルカナは一体、気を失っている時になにを。
「それに?」
繰り返すとアルカナは数歩近ずいて口を開く。
「時間が経つにつれて、ボクは君に対して不思議な感情が芽生えてるんだ」
彼女が言うには、言葉にできないものらしい。忠誠心にも似た不思議な感覚。しかし、それを良しとしない葛藤が脳内を駆け巡っている。
「……俺がアルカナ、君達を創ったのは本当だ」
「ふうん。まぁ、君が神様ならボクの攻撃を受けないのも理解出来る。けれど、なぜボクをこの世界に呼んだの?」
「俺は神様なんかじゃないんだ。本当の事を言うと、俺も何故ここに居るのか分からない。そして、君を呼び出せたのだって奇跡に近いんだよ」
「……?ごめん、ちょっと理解ができない」と、アルカナは頭を抱え溜息混じりにそう言った。
「それじゃあ、君もヨシツネと似た境遇って事?」
陸は短く頷いた。
「まあでも、いきなり魔獣に襲われてるあたり。君の方が大変そうだけれど」
「アルカナ。君にお願いがある」
「お願い?」
「ああ。俺と一緒に、ここに来た理由を探してくれないか?見てのとおり、俺は非力で弱い。君が居てくれたら心強いんだよ」
アルカナの目を真剣に見つめ、言に強い意志を乗せる。
「なんでボクがいたら」
「簡単なことだよ。俺が君達の親、みたいなものだから。どこの誰よりも君たちの事を知っているし、信頼しているから」
嘘偽りは無い。どの作品よりもアルカナ達の方が魅力的。どの物語に出てくるもの達よりもアルカナ達の方が強い。親にも似た愛情は確かにそこにあった。
ぶれることのない強い眼差しは、アルカナをただ一点に見つめる。
「……はぁ」
「お願いだよ、アルカナ。俺には、君の力が」
「分かったよ。分かった!でも、君が何か悪事を働いた場合、ボクは遠慮せずに君を魔獣の餌にする。いいね?」