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勇者召喚

陸が気を失う数時間前──


「成功したよう……じゃな」


安堵と不安が入り交じった覚束無い声音が青年の鼓膜を掠めた。


「…………」


視界に入っているのは、教科書やアニメなどで見た事ある程度の建造物。丸い柱に、コンクリートでは無い(・・)石造りの壁。微細に施された彫刻。それと、東京では有り得ない格好をしている人々だ。


鎧を全身に纏い、剣を腰にぶら下げている人々が青年を挟む様に立ち、列を成している。その先には数段程度の階段があり、上には豪勢な椅子に座る老人。


「言葉は通じておるか?」

「……お前達は誰だ?」


目の色や髪色から考えるに、日本人ではない。光沢のある装飾品や、重々しさが伝わる鉄の鎧、これらを鑑みてコスプレの類いって線もないだろう。


青年──大橋優斗は、訝しげな視線を目の前で座る老人に向けながらも、頭の回転を止めなかった。


つい今しがたまで、優斗は幼馴染である陸と一緒に商店街を歩いていた筈。拉致監禁をするにしても、人目につきすぎる。


「お前ッ!?国王様にそのような!!」


老人の隣で立つ男が青筋を立てると、老人は右手を軽くあげ口を開く。


「よい、ゼルハ。呼び出したのは、我々の方なのだ」


──呼び出し、た。


「我はこのデレ大陸を統治する、現国王・グランバレル=レイジェルドである。そなたの名前も聞いてよいか?」

「……俺の名前は、大橋優斗」


デレ大陸、聞いたこともない名前だ。世界地図にそんな場所あっただろうか。と言うか、現代で王の冠に就く国はそう多くなかった筈だ。


しかも、現代において銃ではなく剣。明らかにおかしい。


「うむ。ユウトであるな。早速で悪いのだが、ユウト。そなたにこの大陸を救って欲しい」

「救う?あんたは急に何をぶっ飛んだ事を言ってるんだよ」


まるで。まるでこれはそう──つい今しがた、話していた(あいつ)の小説の内容のような。非現実的でありかがらも、何処か胸擽られる異世界物語。優斗は目の前で起きている現状を小説と重ね合わせる。


「無理もない、か」


王となのったグランバレルは、配下と思しきものと目を合わせ相槌を打つ。すると一人の兵が何やら丁寧に重箱に置かれた、水晶のようなものをグランバレルの前に掲げた。


「アフィリスィア」と、手を翳し唱えると水晶が放射状に光を放ち、いつしかそれはスクリーンの形を模した。


「これは?」


投影されたのは、戦火の真っ只中。人外・魑魅魍魎の類いと戦う人間達。氷の柱が体を貫き。青白く燃ゆる焔は鎧ごと消し炭にした。激しい炸裂音・爆撃音が鼓膜を揺すり、視界には生々しい光景がモザイク無しで映し出されていた。

いよいよ、この世界が優斗の知っているものでない事が理解出来。と、同時に嬉しくもあった。


帰ったら陸にこの話をできる。手土産なんか持って帰れたら尚、信憑性が増すはずだ。凄い羨ましがるだろうな。なんて事を優斗が考えていると、グランバレルは重々しく声音を発した。


「我々人類は長きに渡り、魔族と争ってきた。だが、基礎能力も魔力量も魔族側は月日を重ねる事に増し、今まで保てていた均衡が崩れ始めてきたのじゃ」

「なるほどなぁ。でも、俺を呼び出す前にさ、居なかったのかよ?」

「居なかった、とは?」


優斗は金髪をかきながから言う。


「んーと。勇者とか英雄だとか聖女だとか??」

「……居ったよ。居たんだ。じゃがダメだった。彼等でも、魔族の牙城は崩せんかった。じゃから、そなたを呼び出したんじゃよ」

「俺がそいつらに勝る保証はないだろ??」


英雄や勇者が居たのなら、彼等は各々の職。つまりは、剣士や武道家で最強を極めているはず。女神特典──とか言うのも貰っていない優斗が勝るはずもない。


習い事も剣道をしていたが、この世界の住人は似たような事を全員やっているだろう。


「保証はある」

「なぜ言い切れる?」

「そなたの体内には四つの魂が宿っているからじゃよ」

「??何を言って」

「我が国の英雄や勇者。彼等は進んで人柱となったんじゃ。この世界を救うために。その器に選ばれたのが、そなたじゃ」

「つまり、俺はそいつらの力を使えるって事なのか??」


グランバレルは短く頷いた。


「そうじゃ。じゃから、ユウトよ。彼等と共にこの国を救う勇者となってはくれまいか?」

「全てが終わったら帰れるのか?」

「……終われば返そう」


まだ色々時になる所はあるが、この世界で生きてく上で必要な知識はグランバレル達から学べばいいはずだ。


優斗は、頷くと軽く返事をした。


「分かった」

「話がわかる男でよかった。では、ユウトよ。前へ」


グランバレルは椅子から立ち上がると、階段を一段一段ゆっくりと降り。優斗もまた前へ進んだ。


「…………」


目と鼻の距離に立つグランバレルは、優斗の額に手を翳す。小説等を資料に考えればステータスの開示とかなのだろう。


優斗は怪しむことなく、身を委ねた。


「デレイド」


青白い発光が眼をくらます。


「──ビリガルド」


次は赤い発光。と、同時に酷い脱力感が優斗を襲い、吐き気をもようしながらその場に座り込んだ。


「なに、をしやがった?」


顔を蒼白とさせ、額からは汗が浮き出る。不規則に肩を上下させる優斗を見下す様な視線で穿ち、グランバレルは口を開いた。


「記憶消去魔法と、奴隷紋を施した」

「記憶消去……奴隷……??何を言って」

「当たり前じゃろ。膨大な力を持った赤の他人(・・・・)。ましてや、他世界の住人。信用出来るはずもない。じゃから、記憶を消す。そして、真っ白になった状態で奴隷勇者として身を粉に戦ってもらう」

「ふざけ……んなよ、お前」


ふらふらと立ち上がり、野良犬の如く鋭い双眸をグランバレルに向ける。


「流石。普通ならば、数秒足らずで気を失う程の負荷が脳と体にかかっておるのだが。聖女──ミュゼの耐性か?」

「絶対に……許さ……ねぇ……」


最後は立っていたのか口に出していたか。それすら分からなかった。ただ薄れゆく意識の中で遠のいていく陸を感じていた。

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