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一話 異世界にて

「………………なんだ?」


 腐敗臭のような不快な臭いに、俺の意識は急激に覚醒させられた。

 いやこれは紛れもなく腐敗臭……ゴブリンの穴蔵のような臭いだ……? なんだ、料理を腐らせたか?

 ……いや、何故だか分からないがいつの間にか床に寝ているようだ。

 いや? なんだ? 駄目だ、寝起きで頭が働かない……何か異常が起きている事だけは分かるが……。

 眠過ぎて開き難い瞼を、何とかこじ開けてみた。


「………………どこだ……? 何が……起きてる……?」


 暗闇の中に斜め上から差し込む一筋の光。

 鉄の棒が並んで立っており、一番端に鉄の扉がある。

 ……異臭が辺りに漂っていて、遠くからは風の音が響いて来た。

 これは、牢屋か? なぜそんな所にいるんだ、俺は? 寝ている間に連れ去られた……いや、そんな事ある訳が無い。

 そして、周囲の様子が見えて来てからようやく、俺はそれの存在に気付いた。

 腰まで届くほどの長く綺麗な金色の髪の女がいた。壁から伸びている鎖に、両手足を繋がれている。

 酷く衰弱しており、元々は高級なドレスであったろうと思われる、破れて見る影もない程にボロボロになった布切れを身に纏っている。

 それを見て、ようやく頭が冴えてきた。

 色々と考えなければいけない事はあるのだが、まずはこの目の前の女をどうするかだ。状況だけを見れば、人攫いに拐われた良いところのお嬢様が閉じ込められている……と見えなくも無いのだが、牢が粗雑なものではなく特別な細工を施されている。ある程度の魔法は弾くようなものだ。こんなもの、山賊だとか人攫いに用意出来るものではない。

 仮にどこかの人攫いと貴族が繋がっていたとして、それならば商品をここまで衰弱させている事の説明がつかない。これだけの美人の商品価値を落とす理由は無いだろう。これだけの牢屋にも関わらず、まるで清掃が行き届いていない事も気になった。

 まるで死ぬなら死んでも構わない、というような雰囲気だ。

 助けるのは簡単だが、もし単純にこの女が犯罪者だとすれば、俺も共犯関係を疑われる。それは避けたい。


「……"時よ、この者の衣服をあるべき姿に戻せ"」


 とりあえず、女の衣服を修繕してみた。数秒とかからずに、布切れが色とりどりの宝石が取り付けられながらも気品のある絹のドレスに変化した。

 驚いた……これは並大抵の貴族どころじゃなさそうだ……。

 正直、世俗にはあまり関わりたく無いのだが……見てしまったものは仕方ない。


「"水よ、風よ、この場を清潔に保て"」


 そう唱えるとサッと魔法が飛び交い、瞬く間に清潔で汚れ一つ無い牢屋へと姿を変え、異臭も消えた去った。この場、という注文に従ったのか、俺の衣服や顔に付着した汚れも洗浄してくれただけでなく、女の汚れも洗い落とし、この牢屋内だけで良かったのに牢の向こうの方まで魔力が飛んでいってしまった。

 俺はとりあえず身なりは綺麗になった女へと声をかける。


「おい」

「……ん……」


 寝覚めの悪い女に何度か声をかける。少ししてからようやく瞼を開いた。ゆっくりと気怠げに、開かれた目から覗く暗く濁った瞳が俺を見つけた。


「…………だれ……?」

「俺に名乗る名は無い。お前こそ誰だ?」

「………………」


 女は答えずに周囲を見渡し、そして自分の着ているものを見て驚愕の表情を浮かべた。


「なんで……服、私の服……」

「俺が直しておいた。そんな事はどうでもいい、それより俺の質問に答えろ。お前はどうしてここに繋がれてるんだ?」

「どうし……て? 私は……私の事を知らない……の?」

「知らん」


 この言いよう、やはりかなり名が通っている人間のようだ。しかし顔には全く見覚えが無い。少なくとも俺が住んでいる国にはいなかったハズだ。

 とはいえ、山奥に引きこもるようになって二年以上経っている。俺の知らない間に台頭した貴族、ということも考えられるのか?


「私は……マリア・トリロス・ランベリア……わかりますか……?」

「いや。というよりそこは重要な事じゃない。お前がここで鎖に繋がれている理由を教えろ」

「それ、は……ごほっ、ごほ!」

「……気が利かないな。"水よ、この者の喉を潤し癒せ"」


 女の前に水球を生み出す。

 掠れてる喉で無理に喋ろうとしていた女に、少しだけ申し訳なく思う。世俗に嫌気が差して引き篭もってる間に、俺の対人能力は地の底にまで落ちていたようだ。


「一旦これを飲め、味はただの水だが、喉の乾きはすぐに癒える」

「……あ……」


 女は突然現れた水球に少し躊躇ったものの、すぐに必死に飲み込み始めた。その姿を見ているのも悪い気がして、俺は視線を逸らすように改めて辺りを見回す。

 久しぶりに魔法で清掃したが、やはり自分でやるのとは比べ物にならないほど綺麗になるな。対魔法を付与されている鉄格子すらも新品のようにしているのは、俺の魔力に対抗出来なかった証拠だ。この程度の檻なら出ようと思えばすぐにでも出られるだろう。

 鉄格子の外を覗いて見る。暗闇が奥まで続いており、先までは見えない。俺が見たことのある牢屋のどれとも作りが違う、完全に個室の牢屋だ。贅沢な作りだな。


「あの……」

「もういいか?」

「はい……喉の痛みが完全に引きました。これは、魔法ですか? こんな魔法があるなんて……」

「ふむ……まぁいい、それで?」

「は、はい。あの、私の名前に聞き覚えは、無いんですよね?」

「悪いが無い。その服からして、かなり位の高い貴族か……王族か」

「………………はい。私はこの国の……ごめんなさい。トリロス王国第一王女、マリア・トリロス・ランベリアです」

「…………王族か……」


 俺は深くため息を吐いた。自国ではなかったが、王族には極力近付きたくはなかったんだが……。

 俺が面倒くさそうにしてしまったのに気付いたマリアは、申し訳なさそうにしながらも続きを話してくれた。


「……私は、妹に……第三王女のレイラの罠に嵌められてしまったのです。突然、クレン王国からパーティーの招待状が届き、私は断ろうと思っていたのですが、レイラが無理にと……。あの日の移動は急なもので、極秘のルートを辿って行ったので誰にも知られていない筈だったのに、数十人の山賊に囲まれて……騎士に助けを求めたの……でも、騎士達もレイラの息がかかっていて……」


 話を聞いていくに連れ、心底気分が悪くなっていった。これだから王族は嫌いだ。貴族共も自分たちの血や功績を身に纏って自慢をしてくる所が嫌いだが、王族は内々で陰湿な騙し合い落とし合い殺し合いをしている。誰も歴史から学ばない、ただ先祖が偉かったからと自分も偉いと勘違いしている腐った奴ら。全てがそうでないとは言え、俺が見てきたうちの7割程度はそういうものだった。

 正直、この話は聞かなかった事にしてここから一人で出て行きたい。だがここで見捨てるのも寝覚めが悪い。

 それに……引っかかる事がいくつかある。


「この服、直してくださってありがとうございます……。母からの贈り物で、本当に大事にしていて……レイラに破られて、悔しくて……う、く……!」


 妹に暴行を受けた記憶を思い出しているのか、マリアは声を押し殺して泣き始めた。こういう状況には、本当に弱い。

 少なくともマリアに嘘をついている様子は無いが、一方の話だけを聞いて判断するのは危険だと言うことも、俺はよく知っている。

 マリアが自覚のない悪女で、それをレイラが成敗した……と言う事も、限りなく低そうな可能性ではあるが無くはないのだ。


「ところでその、貴方は? 何故、この地下牢にいらっしゃるのですか?」

「信じてもらえるかは知らんが、自宅で寝ていたと思ったら目覚めたらこの牢屋に入っていた。まったく理由が分からん」


 隠す事も考えたが、どう言っても嘘みたいな話にしかならない。なので包み隠さず嘘みたいな本当の話を打ち明けた。

 マリアは数度瞬きをしてから、くすっと笑みを溢す。そして慌てたように口を開いた。


「あ、あ、ごめんなさい! その、本当に変だとは思うのですけど、私は貴方のお話を信じます。いえ、信じるしかないと言いますか……」

「ほう?」

「……この地下牢は特別なものです。地下牢の奥の奥、極悪人や人目を偲んで幽閉しなければならない者を閉じ込めておくための場所なのです。王族と一部の牢番しか存在を知らず、特別な魔法でここへの入り口は見つけられないようになっています。とはいえ、長い間使われていなくて、清掃などもされていなかったのですが……こんなに綺麗に……これも、魔法で?」

「ああ」

「やっぱりそうなんですね。こんな場所に現れた貴方は、私に害をなす為に来た訳でもなく、不思議な魔法で私に良くしてくれました。だから、私は貴方を信じるしか無いんです。それがなんだか面白くて……。ついひと月前、妹に騙されて幽閉されたばかりなんですよ?」


 人間不信に陥ってもおかしくないような状況なのに、今日初めて会ったばかりのとても信じられない事を言う奴を信じざるを得ないというのは、確かに不思議な感覚だろうな。

 彼女と話していて少しだけ、閉じていた俺の心が開いていくのを感じた。

 だから、戯れについ口に出してしまう。


「ルドー」

「え?」

「俺の名前だ。偽者じゃない、正真正銘のルドーだ」

「ルドー様……」

「一応言っておくが、俺はまだお前を完全に信じた訳じゃない。出ようと思えばいつでも出られるが、まだそれを判断はできん」

「はい、分かりました。慎重なのはいい事です。考え無しに動いた結果が今の私ですから」


 俺の名前を聞いても表情一つ変えずに自戒するマリア。嫌な予感はしていたが、やはりそういう事か……。

 ……いや、それならそれでありがたいとも思う。俺の事を知らない世界なら、追いかけ回されてその度に対処する必要も――

 ぐぅぅぅ……。 

 思考が寸断される。マリアを見ると、恥ずかしそうに俯いていた。

 やっぱり、気が利かない。ろくに食事も摂れてないのだろう事は、マリアの顔を見れば察せるだろうに。

 俺はすぐに収納空間を開き中を覗いて見る。空間内は乱雑に物が散らばり、まったく整理されていない状態になっていた。前に開いたのは一年前くらいになるか……。あの頃は余裕がなくて、細かい事は気にしていられなかったな。

 いや、懐かしい気分に浸るのは後だ。この収納魔法は、かつての仲間と共に作り上げた究極の魔法だ。この中は、【この空間を開いている間しか中の時間が進まない】という特性がある。つまり作っておいた料理を入れて閉じておけば……。


「一年前に作った出来たてのスープ、と」


 収納空間から鍋を取り出すと、マリアはまたもや驚愕の表情を浮かべた。


「そ、それは?」

「俺が作ったスープだ。確か有り合わせのもので雑に作ったものだったから、味の保証はできないぞ」

「いえ、そのスープの事ではなく!」

「ん……あぁ、物を取り出した方か。そっちは悪いが秘の盟約がある。条件は生存している盟約者全員の承認だ。口外は出来ない」

「ひのめいやく……?」

「それも無いのか……。まぁ良い、食べるだろ?」

「は、はい! 是非いただきたいです!」


 空腹の音が再び鳴り、俺は思わず苦笑してしまう。一緒に取り出しておいた皿にスープを入れ、手渡そうとしてからマリアが鎖に繋がれている事を思い出した。


「"精霊よ、この者の拘束を解き放て"」


 何か問題が起きたら自分で対処すれば良い。俺はマリアの拘束を解除する魔法を使った。

 バチンッ!

 何かが弾けるような音が響く。今のは、魔法が無理やり破壊された時のものだ。最初、マリアを拘束していた手錠に付与されていた魔法が壊れたのかと思いついたが、それだけではここまでの音は出ない筈だ。どうやら、俺にも認識出来ていなかった魔法的な拘束を付与されていたらしい。


「い、今のは……?」

「気にするな。お前を拘束していた魔法が壊れただけだ。ほら」


 改めて皿を手渡そうとする。いや、待てよ?

 一旦俺は皿を引いた。マリアが悲しそうな表情になり、思わず笑いそうになる。


「すぐにやるから少し待て。"精霊よ、この料理に快復の祝福を"」


 皿の中のスープと、意識していなかったが鍋の方も数秒光った。

 改めて俺は皿を差し出すと、マリアはパッと表情を明るくしておずおずと受け取る。スープを数秒見つめて、ごくりと喉を鳴らした。そしてスプーンで一掬いし、ゆっくり口に運ぶ。少しだけ躊躇う気持ちがあったようだが空腹には抗えなかったらしい。

 俺もスープを口に入れて飲み込み、そして驚いた。雑に作ったとは言ったが、一年前の俺にはまだこれだけの料理をする気力があったらしい。最近は焼いた肉を食べるだけの生活をしていたから、余計に美味に感じられた。

 マリアも一口目のスープを飲んでからずっと、両目を見開きながら硬直している。そしてしばらくそうしてから、突然涙をこぼした。


「……おいしい……」


 幸いな事に喜びの涙のようだ。ホッとする。……何だか、この十数分の間に絆されてるな……いや、昔はこんな感じだったか、俺? マリアの魅了かもしれん、恐ろしい女だ。

 そのまま無言でスープを飲み進めていたマリアは、皿に口をつけて一気に飲み干した。


「ふぅ……あ、私ったら……ごめんなさい」

「こんな牢屋にマナーも何もない。好きに食え」

「……あの……もしよければ……」


 彼女が言い終わる前に、鍋をマリアの前に差し出す。

 マリアは気恥ずかしそうにしながら皿に掬い、今度はすぐに食べ始めた。

 そして二度目の完食をしたマリアは、ほうっ、と息を吐く。


「……私、昔から食事は嫌いでした。料理はどれも冷めていて、美味しいと思った事が一度も無かったのです。でもこのスープは、本当に美味しくて……」

「ああ……王族は毒味だの何だのと忙しなかったか、そういえば」

「えぇ。ルドー様、本当に……心より感謝致します。貴方のおかげでこんなにも私は、救われました」

「俺は起きたらここにいただけで……ついでにボロボロになっている女を見捨てられない性分だっただけだ。感謝なら自分の運の良さに言っておけ」


 真正面からの感謝に居心地が悪くなり、つい顔を背けてそんな事を言ってしまう。

 どうにもマリアを相手にすると、心が動かされる。王族のカリスマというものは何度も見てきたが、それとも違うような、人を惹き付ける魅力だ。


「……ふふ。ではそのようにしておきます。主よ、この出会いに感謝致します。……なんて、ね?」


 まったく、俺が苦手なタイプの女だ……。

 マリアがおかわりをしないのを見て、俺は鍋を収納空間に戻し、マリアは感嘆の声をあげる。

 マリアの顔色は最初に会った頃からは見違える程に血色が良くなっていて、俺でも唸りそうになるほどの美人に変身していた。いや、元々のマリアがこうで、ここまで快復したという事なのだろうが。

 マリアの顔に見惚れそうになって、軽く首を振って改めて本題に入る事にした。


「……腹も満たされたな。改めて、マリア」

「はい」

「お前の話を聞く限り、お前は妹に権力争いで命を狙われた、と言うことだな?」

「……はい、その通りです。私は山賊に捕まったあと、密かにこの地下牢に運び込まれました。そしてレイラが現れて、私に言いました。「ようやく目障りな女をこの手で潰すことができた」……と。そして罵詈雑言を並べ立てながら、私の服を破き……生かさず殺さずに、とレイラの近衛騎士に命令を下し私をここに幽閉しました」

「なるほどな。そこで引っかかるんだが……」

「はい?」

「何故王族の女同士で権力争いが発生するんだ? 俺の知ってる限りじゃ、王位継承権だのを争う奴らは山ほどいたが、女には関係無いだろう」

「…………あぁ! なるほど、ルドー様はトリロス国自体知らないのですね?」

「聞いたこともない。なんならクレン王国というのもな」

「トリロス王国は、女王の国なのです」

「女王……そういうことか。盲点だった」

「母がこの国を治めていて……そして、もう時期それが終わりを迎えようとしています」

「病気か?」

「はい。長くてもあと数ヶ月、と私が囚われる前に聞いています……」

「で、次の女王はお前に決まり、命を狙われたと。今回の首謀者は第三王女なんだよな? 第二王女は?」

「メアリーは早々に王位継承権を放棄しました。元々フラフラと出歩いていた妹で、お母様が死ぬのならここにいる理由もないと」

「なるほどな……待て、もう一つ気になる事がある」

「何なりとお聞きください」

「第二王女が継承権を放棄して、第一王女と第三王女が残り、第一王女のお前が第三王女に無理を言われて遠出して、そこで襲われて死んだことになったとして……どう考えても第三王女の陰謀を疑われるだろう。息のかかった騎士はいるのだろうが全員ではないだろうし、お前が無理を言われているのは誰かしらが知っているんじゃないか?」

「……ルドー様、身内の恥を晒すようで恥ずかしいのですが……レイラは愚かな子なのです」

「愚か……」

「何事でも一番でいたい、という欲の塊のような妹で……お母様が倒れた翌日に次の女王に私を指名した時も、公然とお母様を何も分かっていない盲目女王、自分のほうがマリアよりも優秀なのに、と罵倒しました。私が叱りつけてその場は収まったのですが……」

「そんな理由でこんな事をしでかしたのなら、確かに愚かという他無いな」


 マリアの話を聞いてようやく合点がいった。俺の知ってる後継者争いは、基本的には殺し合いだ。全部がそうではないが、死を回避してもマリアのように地獄のような日々を味わう奴もいる。

 それでマリアが生かされている理由も当たりはついた。マリアは保険なのだろう。もし自分の悪事が露呈しても、幽閉してるマリアを連れ戻してあたかも自分の手柄で助け出したようにする、と。それで騙されてくれる奴なんてそうはいないだろうが、愚かものが愚かなりに考えた浅はかな計算……。

 俺はハッとしてマリアの顔に触れた。


「きゃっ! る、ルドー様?」

「…………なるほどな、さっきのはそういう」

「あの……?」

「マリア。お前、呪われてたぞ」

「の、ろい……?」

「俺も見るのは初めての魔法だが……少し待て」


 呪いの魔法自体は既に壊れて使いものにならなくなっているが、構成は単純な魔法のようだ。解析をするのは容易だろう。

 一分程集中して解析をした結果、この魔法の真意は分かった。


「服従の呪い……対象の心を蝕み、弱らせる事で完成する呪いか」

「服従……!? それは、禁忌の闇魔法ではないですか!」

「安心しろ、魔法で手の錠を外した時についでに破壊されたみたいだ。数時間で全ての影響が消え失せる」

「あ、もしかして先程のあの音は?」

「そのようだな。そして、俺はお前を全面的に信用する事にした」

「え?」

「俺の生涯において、闇の魔法を利用する奴にろくな奴はいなかったからな」


 闇の魔法使いには散々煮え湯を飲まされてきた。最終的に勝ったのは俺とは言え、次から次へとろくでもない事を仕出かしては、誰かに危害を加えないと気が済まないような連中しかいなかった。

 マリアは深々と頭を下げた。


「……ありがとうございます、ルドー様」

「いいから、そういうのは止めろ。とりあえずここから――」


 立ち上がり脱出を宣言しようした時、俺の感知魔法が複数の人の気配を感知した。この牢屋に向かって来ているようだ。恐らく第三王女の息のかかった奴らだろう。

 せっかくだ、こういう事は派手にやるに限る。


「マリア、こっちに何人か近付いてきている。俺は隅で隠れてるから、対応しろ」

「え? え? 隠れる?」

「いいか、こういう騒動は派手なほど良いんだ。事が始まったら俺が横からレイラの側近をブチのめす。でここを出て、レイラを捕獲して女王の前に突き出す」

「は、はい! ええと、ルドー様、派手なほど良いというのは?」

「……………………いや…………」


 何を言ってるんだ俺は本当に間抜けか? 二年も怠惰に生きてまだ英雄気取りが抜け切ってないのか。物事は派手であれば派手であるほど楽しい、なんていつまで経っても変わらない。

 口篭った俺を見て、マリアは柔らかく微笑んだ。


「いいえ、ごめんなさい。そうですね、派手な催しは私も好きですから、是非派手な騒動にしてくださいませ」

「……気を使わせたな」

「いいえ! そうと決まればこの手錠をお付けください。服は……このままで良いでしょうか?」

「……クッ。牢屋がこれだけ綺麗になってるんだ、服が直ってようが誰も気にしないだろ」

「ふふ、そうですわね」


 まるで悪巧みでも企むかのようなやり取りに、懐かしさが込み上げて来る。

 何も考えずに冒険をしていた頃は本当に楽しかったな……。


「"光よ、我が身を隠せ"」


 これから始まる愉快な催しの為に、俺はマリアにただの鉄の手錠になったものを取り付け、光の隠密魔法で牢屋の隅へと身を隠すのだった。


見ていただいてありがとう。

感想などあれば是非頼む。

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