聖女様が可愛すぎて叫びたくなるが、私は司祭なので我慢する
「あうっ!」
道を歩いていると、隣を歩いていた聖女様が突然転んだ。
その転び方がとても可愛くて、思わず「いいいいぃぃぃやっほううぅぅぅぅ!」と叫びそうになってしまった。
危ない、危ない。
人々に心の安らぎを説いてまわる司祭が叫び声なんて上げた日には何と言われるかわからない。
私は平静を装いながら聖女様に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか? サーヤどの」
「ごめんなさい、アラン。ちょっと考え事をしていて……」
そう言って私の手に触れる聖女様。
その柔らかな肌に、思わずまた「いいいぃぃぃやっほうううぅぅぅ!」と叫びそうになってしまった。
いかん、いかん。
叫びそうになるのをグッとこらえて聖女様を立たせる。
「考え事ですか?」
「ええ。清めの儀式のことで」
「清めの儀式?」
なんだ、清めの儀式とは。聞いたことがない。
18歳で司祭となって10年以上経つが、そんな儀式など文献でも見たことがなかった。
「ああ、清めの儀式というのは上位クラスの司祭様でないと開示されない情報なの」
「上位クラスの司祭? 私が知ってもよろしいのですか?」
「ええ、問題ありません。私が信頼している相手であれば不問に付すことになっていますから」
信頼している相手と言われて、また「やっふううぅぅぅ!」と叫びそうになる。
「それで、清めの儀式とはどんな儀式なのです?」
「聖なる泉で裸になって3日間祈る儀式です」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……今、なんと?」
「ですから、聖なる泉で裸になって3日間祈るのです」
ちょっと待て。
落ち着け。
聖女様はなんとおっしゃった?
聖なる泉で?
裸になって?
3日間祈る?
聖なる泉で?
は だ か に な っ て?
は だ か に な っ て !?!?!?
「うぐおおうふぷ!!!!」
思わず鼻血が出た。
聖女様の全裸姿を想像して鼻血が出た。
聖女様がビックリして私に声をかける。
「アラン!? 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫です……。ちょっと持病のハナヂデチャウ病が悪化して……」
「大変! どうぞ、これをお使いくださいまし!」
そう言って聖女様はハンカチを差し出してきた。
純白の絹のハンカチ。
可愛らしい刺繍とともに、はじっこに綺麗な文字で「サーヤの♡」と書いてある。
「おごおおぉぉぉおぉおぉ!!!!!」
「ちょ、アラン!?」
取り乱す私を見て、私以上に取り乱す聖女様。
ああ、なんてことだ。
私物に「サーヤの♡」だなんて。
可愛すぎて死んでしまう。
「本当に大丈夫ですか!?」
「は、はい、ご心配をおかけして申し訳ありません。私はこの通りピンピンしてます」
「ピンピンどころかゾンビみたいに真っ青ですよ!?」
ああ、その通りかもしれない。
ゾンビのほうがまだマシかも。
「あまり無理なさらないでくださいまし」
「お気遣いありがとうございます。して、サーヤどの。その清めの儀式はいつから行われるのですか?」
「えーと……」
聖女様はちょっと戸惑いつつもおっしゃった。
「……実は今夜からなの」
「こ、今夜?」
「はい、今夜。ですから今日、こうしてお買い物に付き合っていただいたワケで……」
そう、私は今日、教会での仕事を免除され聖女様の買い物に付き合わされていた。
何を買っているのかはわからなかったが、大量の紙袋を両手に持たされている。
「なるほど。ではこれらは清めの儀式に関係あるものばかりなのですね?」
「いえ、そうとも言えないような……」
「そうとも言えない?」
「だって3日間も裸のまま祈るわけでしょう? 絶対お腹がすくだろうし、暇だろうからお菓子を大量に……」
「お、お菓子?」
「あと替えの下着とか……」
「下着!?」
ちょっと待ちたまえ。
私が持っているこの紙袋の中に、聖女様が今後身に着けるであろう下着が入っているのか?
「サ、サーヤどの? 下着とは?」
「下着は下着です。……ブラとパンツ」
うごっほおおおおおううううぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!
なんてことだ。
私が持っているこの紙袋に聖女様の下着が入っておいでだとは!
お、お、お、恐れ多くて手放せなくなってしまった!
「サーヤどの。そんな買い物に私なんぞが付き合ってもよかったのですか?」
「何を言ってるのです? アランだから付いて来て欲しかったのです」
「私だから?」
「アランは若くして司祭となった徳の高い方。アランほどのお方なら、私の買うものにいちいち反応しないだろうと思って……」
「当然です(キリッ)」
って言うしかないだろおおおぉぉぉぉぉ!!!!
なんですか、下着って!!!!!
なんですか、下着って!!!!!
こう見えて私も健全な男なのですよ!?
理性が吹っ飛ぶことだってあるんですよ!?
「うふふ、やっぱりアランは立派な司祭ですわね。常に冷静でいらっしゃる。あなたに付いて来ていただいて正解でしたわ」
「恐れ入ります(キリッ)」
おおぉぉぉーーーのおおおぉぉぉおぉーーーー!!!!!
正解どころか大不正解ですよ聖女様!
さっきから私の心は乱れまくりであられますりますよ!
「ああ、そうだ! いっそのこと清めの儀式の付き添いもアランに頼んじゃおうかしら」
「付き添い?」
「ふふ、清めの儀式はね、儀式する人が付き添いの人員を選べるの」
「付き添いって……?」
「だって3日間祈りを捧げるわけでしょう? でもずっとじっとしてなきゃいけないわけだから、その間何もできないの。だから付き添いの人に食べ物を食べさせてもらったり、全身の身体を拭いてもらったりするのよ」
「………」
おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおぉおぉぉおおいいいいぃぃいぃぃいぃいい!!!!
この人、私を殺す気ですか!?
絶対殺す気ですよね!?
ないないないない!
出来るわけがない!
そんな、聖女様の全身の身体を拭くだなんて無理無理無理無理!
「む、無理です……」
かろうじてそう伝えると、聖女様も「えへ」と恥ずかしそうに笑った。
「よくよく考えたらダメよね。アランにそんなことされたら私のほうが反応しちゃうもの」
顔を赤く染めながら「ごめんね」とペロッと舌を出す聖女様。
だからその仕草が可愛すぎるんだってえええぇぇぇーーーー!!!!!!
その後、正式に聖女様の付き人になった私は、三日間聖女様のそばにお仕えし、ある意味生死の境をさ迷ったのだった。
くふう!