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BLINK  作者: 亜蓮 a.k.a. Sylvia
1/3

01 White Lady ホワイトレディ

「すみません、ホワイトレディください」

「かしこまりました、少々お待ちを」

 俺は笑って、カクテルを作り始めた。

「今日友達と遊びに行かないの?」

「いやー、なんだか最近残業で疲れたから、今日はいいかなって」

「仕事頑張ったな、お疲れ様!どうぞ、ホワイトレディ」


 **********


 初めてバーに来たお客さんたちは、大体注文のときにめちゃくちゃパニックになる。

 いくらメニュー上に定番のクラシックカクテルやイチオシのおすすめが書いてあるとはいえ、みんないつも無視している。

 もちろんいろんなカクテルを試しても悪くないと思うけど、本当にわからないなら、無理して注文するより、バーテンダーに聞いたら、俺達もちゃんと説明して、お客さんに合うカクテルをできるだけ提供する。

 あるいは自分の好みを説明して、あとは俺達に任せるとか、そうするとワンチャン自分と合うカクテルも見つかるかもしれない。

 今日のラッキーナンバーは4なので上から4番目のカクテルにするとか、このカクテルの名前が面白いから選んだとか、映画でこのカクテル出たから注文したけど、結局全然思った通りにならなかったとか。

又は彼女みたいに全部お連れさんに任せる人も少なくない。


 彼女が初めて来店したときはまだ彼氏さんと一緒に来ていた。

 わざと工夫してアップした髪型、丁寧に細かくやっていたメイク、さらに綺麗な白いワンピース、間違いなく前日から今日のデートを楽しみしていた。

 入店前から、ずっとニコニコして目を閉じていた。

「まーだ?」

「はい、はい!もう着いたよ、座りなさい!」

 彼氏さんの引っ張りで、彼女はようやく笑って席に着いた。

 しかし、目を開けた瞬間に、明らかに戸惑っていた。

「ここって、あんたがずっと言った特別な場所?」

「そう!ここいいでしょう!」

「あんたの心にウチはもっと特別な存在と思ってた」

 彼女はタメ息ついて、不満でつぶやいていたけど、彼氏さんはそれを全部無視して、注文し始めた。

「私はジントニック飲むけど、あんたは?」

「ウチお酒分かんないし」

「じゃ、今日珍しく白いワンピースだから、ホワイトレディにしよう!」

「何でもいい」

「すみません、ジントニック一つとホワイトレディで」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 ホワイトレディ、発祥については諸説ある、一つは1919年、ロンドンのバーテンダー「ハリー」が創作した。

 発祥当時のベースはジンではなく、ペパーミントのリキュールから作っていたらしい。ハリー氏がパリに移住したあとに、今のジンベースに変えて、広く愛飲されたみたい。 

 現在IBA(国際バーテンダー協会)により、一般的なレシピは

 ジン      40㎖

 コアントロー  30㎖

 レモンジュース 20㎖

氷と合わせて、シェークする。

最後はカクテルグラスに注いだら完成だ。

 コアントローとレモンジュースによって、色が淡い白で、すっきりとした味わいの中に甘みも感じられる、まるでエレガントな婦人みたいだから、ネーミングされたらしい。

 ぬるくなると味も落ちるので、短時間で冷たいうちに飲むのかおすすめだ。

 しかし、成分を見ると、決してアルコール度数が低いカクテルではない。

 あんまりお酒飲まない女の子にこれを注文するなんて、彼氏さんも実に悪い趣味だな。

 念のために、俺は彼女のカクテルに卵白一個と少しシュガーを入れて、先にドライシェークした。クリーミーな食感で全体の味わいを少しまろやかにする。

 ベースのジンにも、少し甘みがあり飲みやすいロンドンドライジンにした。

 俺のチョイスが正しいかどうかわからないけど。

 カクテルをもらってから、いくら彼氏さんが声をかけても、彼女はずっと無言で飲んでいた。

 最初は怖がる小鳥のように、少しずつ飲んでいた。段々大きくなって、最後はいままでの悲しみを飲み干すように、一気に、そしてわき目も振らずにすたすたと歩き去った。

 彼氏さんはただ一人で残ってぼやけていた。

 

 **********

 

 それ以来、彼女は時々店に来て、この特製の「ホワイトレディ」を注文する。

 しかし、彼女のそばに、もう二度と彼氏さんの姿は現れず。

「はいどうぞ、ホワイトレディ」

「ありがとう」

「今度別のカクテルも飲んでみたら?」

「別にいいよ!ホワイトレディがいいじゃん!」

「未だ忘れてないの?」

「うーん?なに?あーあ、もうとっくに忘れたもん」

 彼女は俺の意地悪い質問に少しぼんやけたけど、すぐいつもの笑顔に戻っている。

「なんだか、今日の酒って少し渋いね」


 人って、愛していた人を忘れ、恋した味だけを覚えるなんて、本当にできるのかな?



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