夢を追う君を追ってきちゃいましたテヘペロ 〜ロック歌手を夢見る恋人に無理やり着いて上京しちゃいました。他の人に任せるのは嫌なので俺がプロデュースしちゃいます。でもどうして俺の周りには女の人が多いの?〜
ご覧頂き、ありがとうございます。
構想中の物語の第一話を短編に致しました。
一度最後まで読んで頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
桜の花びらがちらちらと舞い落ちる線路。
春の日差しが暖かいと感じられる頃。
俺と彼女は無人駅のホームにいた。
「東京に行っても元気でな」
「……うん」
俺がそういうと幼馴染の春香は頷いた。
儚さを秘めた瑠璃色の瞳、形の良い眉毛、鼻筋の通った顔立ち。透明感のある白い肌に桜色の唇。
華奢で、それでいてメリハリのある肢体に白のワンピースを纏わせて淡いピンクのカーディガンを羽織っている。
その華奢なシルエットに不釣り合いとも思えるギターのハードケースを大事そうに手から下げている。
腰まで伸びた上質なシルクのような輝きを放つ黒髪が春風を受けてさらりと靡いた。
〝歌手になる〟という夢を追って今から旅立つというのに目を伏せたままだ。
今日は夢に向かっての第一歩。
旅立ちは希望に満ちていなければならない。
……だというのに、涙は自然に溢れてくる。
「……泣かないで」
「……」
春の風が俺たちの間を通り抜ける。
暖かく、儚さをはらんだ風。
その暖かさで、このポッカリと穴の空いたような寂しさで冷たくなった心まで暖めてくれたらいいのに。
「泣くなって」
「……な、泣いてなんか」
「泣いてるよ」
虚勢。
泣いてなんかない。そう強がる。
けど、ダメなんだ。
どんどん溢れてくる。
「……っ」
「あのさ、泣かないでよ」
「…………っ」
「……いい加減にしてっ」
ついに彼女が痺れを切らせて声を荒げる。
「泣きたいのは私なんだけど!?」
「は、春香ぁ! |い"く"な"よ"お"《行くなよぉ》!!」
彼女の絶叫に近い訴えを皮切りに今まで耐えていた感情のダムが崩壊し、内からどんどん溢れてくる。
俺はぐしゃぐしゃになった顔のままで春香に縋りついた。
笑って送ってやりたい。春香の門出なんだ。
幼馴染として気持ちよく送ってやりたい。
だけど、気持ちではそうしたいのに。
笑顔でさよならって言ってやりたいのに。
溢れてきちゃうんだよ。鼻水が。
「あのね、旅立つ幼馴染をかっこよく送る幼馴染! あんたは!!」
「む"り"だ"は"な"み"す"て"る"」無理だ鼻水出る
「ねぇ、せめて涙にしてもらっていいかなぁ!? 涙だったらまだ格好つくよ!? ダメかなぁ!? ダメだよね、アンタ涙より鼻水派だもんね!? うん、知ってる!!」
「ティッシュくれよ、ティッシュぅぅぅ」
「持ってないわよ! 私はギターケースひとつで上京すんの! かっこよく! スマートに、クールに!!」
「……荷物は先に出てったお父さんたちの車に全部載せたじゃないか……しかも一緒に乗っていくかって言われたのに『電車で上京するほうがポイから』とか言って無理やり電車にしたんじゃないか」
「な、なんで知ってんのよ!?」
「ギターケースは手で持っていきたいって言って高速に乗ったお父さんたちを連れ戻してさ……」
「ぎゃー!! やめて!! 売れた時に『ギター1本だけ担いで電車に乗った』っていう上京エピソードを作りたかっただけなの!!」
あ、そうだったんだ。
どうやら俺はゆくゆく大物になるであろうロック歌手の上京エピソードの裏側を知ってしまったらしい。
そんな裏側を知ってしまっては、今後彼女がどんなに格好良いことを言っても「でもこの子、上京エピソード捏造してんだよな」と思ってしまう。
春香は小さい頃から歌うのが大好きな女の子だった。
動画配信サイトで検索しては、動画投稿者と一緒になって歌っていたのをよく覚えている。
そして中学に上がる頃になると自らも動画投稿に興味を持ったようでスマホを俺に差し出して『撮って撮って』とよくせがまれた。
それに合わせて俺も動画編集を独学で学び、春香の歌声を配信する手伝いをしていくようになった。
最初は歌声だけ。
けどその天使のように可憐でパワフルな歌声に魅了されたユーザーに求められるままに顔出しをして配信する様になった。
もともと容姿端麗だった春香の人気は顔出しと同時に右肩上がり。
そして小さい芸能事務所からお声がかかり、この度晴れて上京し、本格的な歌手活動を開始する。
……んだけど。
「俺を置いて行くのかよ!? 彼氏だよな、な!?」
そう、俺たちは付き合っている。
もともと仲の良かった俺たちだけど、動画配信を始めてしばらくした中3の夏から。
今は高2……来月から高3になるんだから恋人になって、そろそろ3年になるラブラブカップルだ。
ラブラブカップルなんだよぉおおおおお!!
「だよな!? だよなぁ!?」
「ひっ……いや、そうだけど! な、なんなのよ! それより鼻水拭きなさいよ!」
ガタンガタン
「っ!?」
ポケットに入っていたティッシュ(正しくはティシュー)で鼻水をかんでいるとディーゼル機関の列車がホームに入ってきた。
別れの時間が来たんだと実感が湧き、胸が締め付けられる。
「……」
「……」
お互いの心に広がる寂しさ。
それを物語るように一瞬沈黙が訪れる。
「……私、待ってる。卒業したら悠くんも東京に来てくれるんだよね」
「……それは、もちろんそうだけど……」
春香を追って俺も東京へ行くと約束した。
けれどそれは一年後。
俺が通う高校を無事卒業したら、という事になっている。
列車がぴたりと止まり、ドアが開いた。
別れの時間だ。
涙が溢れる。
春香の瞳にも涙が滲んでいる。
まもなく発車を告げるベルがホームに鳴り響く。
「……電話するから。毎日。絶対に」
「……っ……春香っ」
列車に乗り込んだ春香が細くて綺麗な手を差し出してくれたので、俺は優しくもしっかりと握る。
柔らかくて滑らかな指を俺のカサカサとした手に絡めてくれた。
この指で紡ぐメロディできっと色んな人の人生を救って行くんだろう。
……俺はそんな彼女の彼氏で良かったと、心から思った。
そして、そんな彼女の負担になってはいけないのだとも。
「……」
〝いってらっしゃい〟とは言えなかった。
けれど俺は精一杯の笑顔を向ける。
頑張れと、願いを込めて。
「……いってきます」
今まで見たどの笑顔よりも明るい笑顔でそういうと、春香の大きな瞳から涙が溢れた。
春の風が桜の花びらを運ぶ。
排気音と共に自動ドアが閉まり、物理的に外部と遮断される。
カタン……カタン……
最初はゆっくり、やがて流れて行く景色。
春香が、俺が育った町。
「……」
「……」
カタン……カタン……
「……」
「……」
見つめ合う2人。
「……なんで乗ったの?」
「……え」
「え、じゃなくて」
「だって寂しいだろ!? 俺たちラブラブカップルだよな、な!?」
「いやいやいや! ダメでしょ乗ったら、空気的に!!」
ぐしゃぐしゃと黒髪を掻きむしり、愕然とした表情を浮かべる春香。
俺は春香が乗る列車に勢いのままに飛び乗ってしまっていた。
「やっぱりダメだ! 俺も東京行く!!」
「は、はぁ!? 何をバカな――学校どうするのよ、学校!」
「が、学校は行かない!」
「は、はぁ!? 何を考えて――」
「――俺は、春香に着いていく!」
春香を一人で東京に行かせるのが嫌だと駄々をこねた。
たったそれだけ。
あの頃の俺には想像も付かなかった。
そのワガママから始まった俺のプロデューサー人生を。
誰が想像できただろうか。
可憐さと美声を持ち合わせた天才ロックシンガーと、ハリウッドからやってきた超絶美人女優と、歌って踊れる人気声優アイドルのプロデュースする俺の姿を。
これは俺が春香と一緒に成長していく物語。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
こちらのお話は構想中の物語の第一話を短編にした作品です。
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