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サイバーチェンジ  作者: 八瀬研
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ep4 不倫

『中学のイジメの件、そもそもあの企業のCMからして胡散臭かったし、やっぱり叩けば叩くだけボロが出てきた』『体育会系とか完全実力主義とかは個人の生産性は高めない。同じ性格の人を集めることで仕事を頑張らせるためのコラボレーションなだけ』『パワハラをパワハラと捉えない変態の巣窟』

『金銭の流れはLawmakerが完全に把握してるから、これは企業から学校に流れる金を違法として来なかった法律の問題。AIに任せっきりにしてる総理のせい』『なんでも政治の問題にするなよ』『これは政治の問題だろ』


『第三者の特許取得の件、嫁に話した』『五・一五事件は草』『特許庁ガバガバw』『次はAIに特許出願の判定が実装される』『一番悪いのは原作者でも人気創作者でも勝手に特許を取った奴』『勝ちを確信した有名人達も流れ込んでて草』


『サブスク0円で始めたくせに人気が出てから価格を上げるの、いい加減消費者庁どうにかしてくれ』『利益が0だって分かってると企業側も事業するメリットがなくなるから政府はあえて野放しにしてるんだぞ。これぞ資本主義』『最初から0円にしなければ問題にはならなかったんだよ。収益出ないって分かってただろ』『他の企業はそれで上手くいってるじゃん』『○○は十分な力を持ってるけど○○は競争に参入する力がないから仕方ない』


「こいつら何十年前から同じこと言ってんだよ…」


 どこかでみたことのある議論を繰り返してばかりいる。人間は何万年も前からずっと同じアルゴリズムで動いているのだろうか。

 結局誰にも現状を変えることは出来ずじまいの千日手はまるで将棋だ。

 大きな問題の良し悪しには興味はないが、適当な言葉でSNS上のやり取りの検索をかけるとこういった話ばかりが出てくる。

 探しているのは大きな問題ではなくもっと理不尽な状況にいる救われるべき個人だ。


『最近夫の帰りが遅く、毎日香水の匂いをさせて帰ってきます。浮気調査をお願いしたいです』


 それは一人の女性によるどこかの探偵事務所への依頼のダイレクトメッセージだった。


「……」


 よくある男女の愚痴よりも深刻さを感じる文面だ。浮気や不倫はこの世間では履いて捨てるほどあることだが、


(暇だし調べてみるか)


 この手の話は誰も幸せにはならない。

 大抵不倫をされた方は自分の盲目さを呪い、する方は慰謝料を払いながら一生独り身で過ごす。

 不倫された側が浮気を許すこともあるが、結局また浮気される。一度した人間が口約束だけで更生することは殆どない。

 問題なのは、


「『子供二人がお腹の中に』って…」


 既に愛すべき小さな命があることだ。


「このクズ」


 乾いた笑いが漏れる。

 ここで一つの正解は、互いに何も気づかない振りをすることだろう。いずれ若気の至りは収まる、それまでの辛抱だ。実際そんな夫婦も多い。


 過去の発言や職場の情報を見ても、妻の収入で二人の子供を育て上げるのは難しいだろう。SNSでは頭お花畑な幸せ投稿ばかり、つい数時間前にも子供を意識した発言をしている。そうして自我を保っている姿は哀れでしかない。

 一方で男の方は三流大学出身、卒業後は複数人の仲間と起業して人材コンサルタント、一年目で結婚、二年目で子作り。

 というか自分より年下、二十四歳。


「は、早え…」


 種を絶やす人間と存続する人間の様々の差を感じつつ、何が子供にとって一番良い選択肢となるかを考える。

 一番優先すべきはまだ生まれていない双子だ。母親は自意識に溺れた傲慢な女、父親は本能のままにしか行動できない獣、そんな奴らよりも無垢な赤子を優先して当然だろう。


 選択肢は二つ。決別させるか、そのままの関係を維持するかだ。

 決別させた場合に不安なのは金銭と子育てのトレードオフだが、ある程度は慰謝料で賄えるだろう。母親の実家を調べてみると、その父は職人、母は看護師を現役で続けているようだ。シングルマザーではやっていけないということはないだろう。

 そのままの関係を続けさせた場合、家庭環境は子供にとって望ましいものになるだろうか。不倫理の父親としても、ノリと勢いで生きている男である手前、己が子を前にして可愛がらないことはなさそうだ。ただそれでも、夫婦間に蟠る猜疑心は少なからず悪影響を及ぼすだろう。

 そうして一通り考えてから、


「まあ、結局決めるのは本人達か」


 二人の行動を制御できるわけでもない。だからここは、二人が腹に抱える一物を全て引っ張り出してやろう。

 具体的には、不倫の証拠を突き付ける。

 男の職場と借家付近の監視カメラのデータサーバーで男の顔を検索にかけると、その中で女と連れ歩いている画像はいくつも見つかった。

 丁度ホテルに連れ込んでいる映像もある。それらのホテルは部屋のなかには監視カメラはないため、その連れ込んでいる映像だけだが、良い証拠にはなるだろう。


 直近一か月の画像を集めて吟味する。ざっと三日に一回の頻度と写真の枚数はかなり多い。女の方はギリギリまで足を露出した格好、体のラインを強調した服装、濃いメイクで胸を開けていたりと様々だ。というか、


「三人…⁉」


 その大胆さに恐れ入る。せめて違う場所にした方がいいんじゃないかと余計な心配までしてしまう。他の沢山の女とも遊んでいるが、特に三人とは頻繁に会っているようだ。

 心配しながら映像を整理し、妻に送りつけた。

 メールアドレスは適当なものだが、わざわざそれが追及されることもないだろうし、素人に毛が生えた程度の人間に送信元を特定できるものでもない。


「ふう。これでよし」


 全て個室で完結する仕事は気が楽だ。

 デバッグ完了。


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