マゴリ警部補
目の前に立つ警部補は、穂波より少しばかり背が低いけれど、胴体の横幅は二倍よりも太い。そんな偉丈夫に向かって、早速、質問を投げ掛ける。
「あっ、あの、ところで警部補殿、あなた様は、横浜駿馬学園高校、男子柔道部におられた、高校総体三連覇、馬護律郎大先輩ですよね?」
「おうよ。それがどうしたってんだ」
「実は、自分も同じく駿馬学園の出身で、女子柔道部に所属しておりました。ですから馬護警部補殿は、自分にとって、警察官の大先輩であると同時に、高校と柔道の大先輩でもあるということになります! まことに光栄なことでっす!」
「なんだ、そういうことだったのか。がはは!」
「はい!!」
「おう、よっしゃスマホ、テメエは特別な野郎だ。他のやつらは、俺のことをマゴリ警部補と呼ぶが、テメエに限っては、この俺に対して、なんの遠慮も杓子定規もなしに、《マゴリ先輩》と言ってくれて構わねえ。どうだ、なあスマホよ」
「えっ、はっ、はい! 身にあまるお言葉、ありがとうございます!」
穂波は、深々と頭を下げるのだった。
全国の柔道部員たちの間で、「横浜駿馬学園の馬護律郎」といえば、昔も今も、伝説的な超人気者なのである。そんなにも凄い豪傑から特別扱いをして貰えるとは、夢にすら思わなかったこと。
「まあ俺は、テメエを直接に指揮監督する上司ってえ訳じゃねえが、困ったことがあれば、なんでも相談しろ。こんな厳つい面してるが、これでも後輩の面倒見だけは悪くねえって、自他ともに認めている。がっははは!」
「はい、またしても身にあまるお言葉を頂けて、自分は感激であります!!」
所轄の交番勤務から、ここ「天下の神奈川県警本部」へと異動になり、少なからず不安があった。
けれども今の穂波にとって、マゴリ警部補から頂戴できた、二つの「身にあまるお言葉」が、まさに千人力の勇気となったに違いない。