背広の周辺を洗うこと
穂波たちは、怪人コラーゲンの封筒について、もう少し詳しく聞いた後、厄介事捜査室に戻り、早速、捜査を始める。
まずは、中に入っていた紙の二枚目を読み解く必要がある。しかしながら、古代蛇竜語というのは、正式な言語として認められておらず、未解明の文字で書かれているため、一筋縄では進みそうにない。
十分ばかりが過ぎた。
「あ、マゴリ先輩!!」
「おう、スマホとヤマネ、やっとるかあ!」
近づいてきた強面の男性は、厄介事捜査一係の係長、馬護律郎警部補。
「おはようございます」
ヤマネ刑事は、チェアに座ったまま冷静に応じた。
一方、穂波が大あわてで立ち上がる。
「お、おはようございます! 挨拶が遅れまして、たいへん失礼しました!」
「そんなこたあ、気にするな。がはは!」
「おそれ入ります……」
「スマホよお、踊れる麗しき最高知能を、大笑いさせたってなあ?」
「あっ、はい、そうです」
「がっははは!」
なぜか嬉しそうに笑うマゴリ警部補である。
「おう、そのシベリア刑事部長から託された、特命の方はどうだあ?」
「あ、それがまだ進展もなく、全身全霊で奮闘しております!」
穂波が真面目な表情で話し、古代蛇竜語の文面を見せる。
するとマゴリ警部補が、また大きな声を出す。
「これを読めりゃあ、事件が解決するってえのか!!」
「は、はい。まずは解読しなければ」
「バカ野郎!!」
「ええっ??」
どうして怒鳴られたのか、穂波にはサッパリ分からない。
マゴリ警部補は、ヤマネ刑事に問い掛ける。
「おいヤマネ! テメエはどうなんだあ!」
「私も、最初は古代蛇竜語の解読を最優先に考えていました。しかし、この十分間で気づいたことがあります。私たちが一番にすべきなのは、この封筒が入れられていた、背広の周辺を洗うことだと分かったのです」
「おうよ。さっさと走りやがれえ!」
「承知しました」
ヤマネ刑事が素早く動き始める。
「スマホ、テメエもだあ!」
「はっ、了解です!」
穂波も立ち上がって、急ぎヤマネ刑事を追い掛けようとした。
しかしながら、後ろから怒号が飛んでくる。
「コラッ、こいつを持ってけえ!!」
「あっ、忘れてる!」
デスクの上に、封筒と二枚の紙が置きっ放しになっていた。それらを手に取り、駆け足で厄介事捜査室を出る。