怪人コラーゲンの封筒(二)
笑みの浮かんでいたシベリア刑事部長の顔面は、俄かに真剣な表情となり、視線がヤマネ刑事へ向けられる。
「思うところを、率直に述べてくれるかしら?」
「承知しました」
ヤマネ刑事が立ち上がり、シベリア刑事部長を見据えて話を始める。
「これらを書いた者は、同一人物です。赤、青、黒の三色ボールペンを愛用していて、ペン字の腕に相当の自信を持っているに違いありません。封筒には、ペンを薬指と小指の間に挟んで書いたと推察できます。宛名の《親愛なる師部理亜》は、シベリア刑事部長のことであり、差出人として記載された《怪人コラーゲン》には、警視総監を侮辱する悪意が込められています。当然のこと、これを総監ご本人がお書きになったのでないことは明らかです。中に入れられていた紙の一枚目は脅迫状ですけれど、具体的に神奈川県がどのようになるのか、現時点で、見当のつけようもありません。そして遺憾ながら、肝心の二枚目が、今の私には解読不可能でございます。しかし少なくとも、この厄介な事件を解決する糸口は、二枚目にあると考えられます。以上です」
途切れることなく述べたヤマネ刑事は、一礼して、まだ立ったままでいる。
穂波は、「怪人コラーゲンが、どうして警視総監と関係あるのだろうか」と気になるけれど、口を挟みはしなかった。
少しばかり思案していたシベリア刑事部長が、短く言葉を発する。
「座って」
「はい」
「スマホ刑事も、思うところを述べて」
「了解しました」
穂波は、取りあえず立った。しかしながら、一体なにをどう話せばよいか、サッパリ分からない。
シベリア刑事部長が、こちらを見つめている。穂波は、五秒ばかり迷うけれど、胸の内で、「思うところを述べるように指示されたのだから、なにも考えないで、本当に思った通りを言葉にするだけよ」と開き直ることにした。
「スマホ刑事、どうしたの?」
「あ、済みません。思うところを率直に述べます。自分は、最初のうち、これは小学生の悪ふざけだろうと感じながら、封筒を眺めていました。でも中の紙の、一枚目に書いてある達筆な文字を目の当たりにして、怪人コラーゲンは、フェイントを掛けたのだと分かりました。柔道の試合で、寝技に持ち込まれそうになったと思った次の瞬間、一本背負いで投げ飛ばされてしまうようなものです。本当に、《一本取られた!》という驚きでした。自分の思うところは、以上であります」
「うっふふふふ。あははは!」
硬い表情をしていたシベリア刑事部長が、しばらく笑い続ける。それで穂波は、発言に不備があったのかと気になってしまう。