胸ドキの初捜査(三)
鎌倉市へ向かう車中、穂波は、虎絵さんから家族構成や事件の状況について、詳しく聞くことができた。その概要が次の通りである。
三家家には、虎絵さんの他に、彼女の孫夫婦、曾孫の寧子さんと白牡くんが仲よく平和に暮らしている。
今日の午前十時頃、家の中にいたのは、虎絵さんと寧子さんだけだった。虎絵さんの孫夫婦は、どちらも仕事のため不在で、白牡くんも、通っている学習塾が熱海市で行う春季合宿へ、朝早くに出発したという。
寧子さんは、二階の自室に鳥カゴを置いていて、ペットの十姉妹、ピチチを飼っている。今日は、その部屋で勉強をしていたけれど、午前十時を迎える少し前に息抜きを兼ね、一階に下りて虎絵さんの様子を確かめた。そのために七、八分の間、自室を空けることになるのだった。
虎絵さんとの会話を終えた寧子さんが自室に戻ると、鳥カゴにいたはずのピチチの姿が消えていた。
穂波たちが三家家に到着し、まずは二階にある寧子さんの部屋を確認させて貰うことにした。寧子さんは在宅していて、快く自室を見せてくれた。空になっている鳥カゴもある。
少しばかり考えていたヤマネ刑事が尋ねる。
「この近くに、緑地公園はありますか」
「えっと、一番近くだと、歩いて二分のところに、モモンガ広場という名前の公園があります」
小柄で顔がシャム猫に似ている寧子さんが、不思議そうな様子をしながら答えてくれた。穂波は、スマホを使って地図を確認する。
その一方で、ヤマネ刑事が即座に方針を決める。
「今すぐに、モモンガ広場へ向かいましょう」
「私も行きます」
寧子さんが、自発的に申し出てくれた。
ヤマネ刑事が、また奇妙なことを尋ねる。
「着物の帯を、お持ちでしょうか」
「ええまあ、いくつか持っていますけれど」
「お手間をお掛けしますが、そのうちの一本を、お貸し願えますでしょうか」
「はい、分かりました」
寧子さんが、箪笥から鮮やかな青い帯を取り出し、ヤマネ刑事に手渡す。
こうして穂波とヤマネ刑事は、寧子さんと一緒に、三家家から一番近い公園へと向かうことになった。