スマホ刑事
ここは神奈川県警察本部、刑事部捜査第一課、厄介事捜査室。今年もまた年度の始まりを迎え、その翌日、四月二日である。
突如、背の高い女性が入ってくる。黒いスーツ姿で、年の頃は二十代前半といったところ。
気持ちのよい短髪で、キリリと引き締まるボーイッシュな顔立ち。切れ長の目は冷ややかのようだけれど、不思議な情熱を感じさせ、内に煮えたぎる「正義」があると見て取れるのだった。
そういう若者が立ち止まり、大声を張り上げる。
「自分は、寿間穂波巡査であります。本日づけで、ありがたくも厄介事捜査二係の係員を、拝命させて頂くことに、なりましたです!」
室内にいる者たちは、猫も杓子も穂波の姿を見つめる。そんなにも人目を引く彼女の傍へ、たくましい体格の太った男性が、ヅカヅカと歩み寄る。
この強面をした刑事は、「野獣も気絶して倒れる」とまで大袈裟に囁かれている、馬護律郎警部補なのだった。
「そうか、テメエが今日からくるって噂のハンサム野郎だな」
「あっ、あのあの、失礼でございますけれど、あなた様は、もしかして?」
「俺はマゴリ警部補だ。厄介事捜査一係で、係長をやっとる」
「マゴリケイブホ??」
「おうよ。それよりテメエは、スマホナミってんだなあ?」
「はい!」
「よっしゃあ!! テメエのことは、《スマホ》と呼ぶことにする!」
「え、寿間穂??」
「そうだ、分かったんか、スマホ!」
寿間でも穂波でもなく、氏名を中途半端に切られる形で呼ばれることになってしまった。
たとえ不本意でも、上司に逆らうことなどできない立場の穂波である。
「はいっ! 了解しましたっす!」
「おっしゃあ。なかなかに、いい返事をする野郎だ。がははは!」
これが、ここ厄介事捜査室で「スマホ刑事」が誕生する瞬間だった。