(2)
「ハルサはさ」
ハルサは布きれを傷口に巻かれて満足そうにしている。
「人間の世界で遊んだって言ったけれど、人間イヤじゃない?」
「なんで、ニンゲン面白いよ」
ハルサは意外そうだ。
「フユカは嫌いなの?」
私は向き合った体を横に向けて、丸椅子に座った。
「うん……どうだろ。人間は私のこと嫌いって」
冬が嫌悪されていることはハルサも承知しているのだろう。ふむ、と言ったきり黙って傷をなでている。
「まあ」
ハルサがベッドから足を投げ出した。
「ニンゲンはいろいろいるよ。僕たちよりずっと、いろいろ」
「いろいろ?」
立ち上がったハルサにつられて立ち上がる。
「ほんと、いろいろ。そのままじゃお役目もイヤになっちゃうよ。人間見たほうがいいよ?」
人間を見る……人間のための星を管理していて、私は彼らに触れることで彼らのことを知ったわけではなかった。知識は官吏としての最低限のものとして存在するだけ……。
ハルサはいつもの青い服をまとって若草色のネクタイをし、扉に手をかけた。
「ああ」
ハルサがそこで振り返った。
「じゃあさ、こんど一緒に下界に降りようよ。人のフリしてさ。楽しいよ?」
ニッと笑うハルサだったけれど、私は最初、そんなバカげたこと、と正直思った。どうして? 禁じられたことでも、非常識でもなかった。ただ、私たちが彼らと連続した存在ではないという意識があっただけだったのに。
なにも言わない私に、ハルサが戸をくぐりながらあっけらかんと言う。
「まあ、気に留めといて。こんど誘うからさ。遊びは好きじゃなくても、知ること自体が楽しいかもよ?」
言ってハルサはご飯を食べに向かった。私は行かない、バカげてる、野蛮だ。そんなことが楽しいって、なに? でも……本当に触れ合ったら違うんだろうか?
外に出ると春風が色づいて流れていた。私の白色のほほをなでていった。