(5)
「しかし、ハルサは楽しそうだよね、いつも」
アキハが下界をのぞき込んで言った。言葉に私たちもつられてのぞき込む。風が踊っていた。ぐるぐると渦巻いて、そうして柔らかくいのちを揺らしてゆく。……世界が暖色に煌めいて見える。
「そうね……楽しそう……」
「めずらしい、フユカもそう思うか!」
ナツヤが嬉しそうに声を上げた。そんなに私は否定ばかりしていないつもりなんだけれど。
私を見たアキハが笑った。
「ナツヤはフユカの声が聞きたいんだよ」
「会話ができるのは嬉しいじゃないか」
確かに私は声を出すことが少なかった。……いや、少なくなったんだ。
「ごめんね、上手くしゃべれない……」
「いや、いいんだ。フユカの苦労は分かる」
「冬はいいものだと思うけどね……静かな休息のときだよ」
私を気遣うアキハの言葉だったけれど、私は穿ったように聞いてしまう。本当にそう? そう思う? 休むっていっても、安らかにはいかないでしょう? 苦しいでしょう?
ナツヤが黙ってうつむく私を元気づけるように柔らかな声で言う。
「なに、神は不必要を用意などしないさ。いつもそうだろう。大切なことは常には見えないものだ。人も理解するさ」
そうかも知れない。そうであって欲しい。
私はうなずいて言った。
「ありがとう」
ナツヤとアキハがふたりして笑った。あたたかで、私の冷たい肌にも熱が染みとおってくる気がする。
自分の価値への疑いを強くするに従って、私は口数を減らしていった。自問する時間が増え、仲間とのコミュニケーションもだいぶ減ったろう。負担をかけないためにもなんとかしなければならないんだ。自分探しだなんて不安定なこと、話に聞く人間みたいだ。私は神の園の運営者のひとりであるのに。