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季節は時の終わりに  作者: 諸星中央
第一部
5/71

(5)

「しかし、ハルサは楽しそうだよね、いつも」


 アキハが下界をのぞき込んで言った。言葉に私たちもつられてのぞき込む。風が踊っていた。ぐるぐると渦巻いて、そうして柔らかくいのちを揺らしてゆく。……世界が暖色に煌めいて見える。


「そうね……楽しそう……」


「めずらしい、フユカもそう思うか!」


 ナツヤが嬉しそうに声を上げた。そんなに私は否定ばかりしていないつもりなんだけれど。


 私を見たアキハが笑った。


「ナツヤはフユカの声が聞きたいんだよ」


「会話ができるのは嬉しいじゃないか」


 確かに私は声を出すことが少なかった。……いや、少なくなったんだ。


「ごめんね、上手くしゃべれない……」


「いや、いいんだ。フユカの苦労は分かる」


「冬はいいものだと思うけどね……静かな休息のときだよ」


 私を気遣うアキハの言葉だったけれど、私は穿ったように聞いてしまう。本当にそう? そう思う? 休むっていっても、安らかにはいかないでしょう? 苦しいでしょう?


 ナツヤが黙ってうつむく私を元気づけるように柔らかな声で言う。


「なに、神は不必要を用意などしないさ。いつもそうだろう。大切なことは常には見えないものだ。人も理解するさ」


 そうかも知れない。そうであって欲しい。

 私はうなずいて言った。


「ありがとう」


 ナツヤとアキハがふたりして笑った。あたたかで、私の冷たい肌にも熱が染みとおってくる気がする。


 自分の価値への疑いを強くするに従って、私は口数を減らしていった。自問する時間が増え、仲間とのコミュニケーションもだいぶ減ったろう。負担をかけないためにもなんとかしなければならないんだ。自分探しだなんて不安定なこと、話に聞く人間みたいだ。私は神の(その)の運営者のひとりであるのに。

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