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季節は時の終わりに  作者: 諸星中央
第一部
1/71

1-(1)

 私たちは風であったような気がする。そのうちに声がかかって、気づいたらいまの自分になっていた。私は時期になれば北より風を束ねて大地に冬を連れる。それ以外に用意された役割はなく、(あま)(くさむら)で仲間たちと残りの日々を過ごしている。


「ああ、そろそろだね。それじゃ、行ってくるよ」


 そう言って、朗らかにハルサが降りていった。黄色い東の大地が眼下に広がっている。


東風(こち)は素直だからな。ハルサは気楽でいい」


 ハルサを見送ったナツヤはやれやれと言うように手を広げてみせるけれど、その芝居がかった所作の中で首はすくまる様子なく彼の肩は平らに保たれている。


「フユカもそう思うだろう?」


 振られた私は彼のほうを見やって一瞬目を合わせたあと首を戻す。正面へ向き直った私を見て彼はアキハのほうへさっきの「やれやれ」をまたやって見せていた。


 確かに北風は荒っぽい子が多い。でも、好きに動きたがる子たちを黙って睨めつけ、そうして連れて行くだけの私はそう大変なことをしているつもりもない。睨めつければあとは言うことを聞くのだ。だからこうしてウン千年の時をそのままで過ごせているのだけれど、もしかしたら本来はそれだけではないということなのかも知れない。北風は連れられたあと地で好きに暴れ、多くの人に嫌悪されていた。彼らを連れる私もまた同様で、なんと評価を受けているものか、詳しい話は聞きたくない。本来は調伏して連れた場所でさえ穏やかに過ごさせよ、と神はおっしゃっていたのかも知れない。遠い昔過ぎて私は覚えていないのだけれど。


 風を束ねる権限を与えられているのだから、私たちは風の王なのかも知れなかった。でも私も仲間たちも、特段そのことを話題にせず、自覚もなかった。季節の境目以外に風の子たちと接することもなく、ただ天上の都の外れで人の世を眺めていた。下のほうから一年ぶりのハルサとの逢瀬を楽しむ東風の笑い声が聞こえて来た。

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