第94話 嬉しい再会と嬉しくない説教
食事をとり、翌日に疲れを残さないために早めに寝る。
次の日からまた戦い続ける。これずっと続けてたら気が滅入るよ。長い間ここにいる人たちは本当にすごい。お疲れ様です。
そしてキャンプ地にある砦の食堂で、四人で食事をしていたときのこと。
「全く、毎日毎日数が多くて面倒だな」
近くを、聞き覚えのある声が通った。
バッと勢いよくそちらを見ると、見覚えのある男性の後ろ姿、そして金属製の杖、もしかして……。
「リア、どうしたの?」
エルシーナが隣で名前を呼ぶ、すると、その男性が振り向いた。
短髪に顎ひげ、少し老けただろうか。でも、元気そうな姿だ。
「サイラス先生……」
「おお? おま……何でここに」
かつて、私に魔法を教えてくれた師匠がそこにいた。
「ガッハッハ! まさかこんなところで会うとはなあ! 月日ってのは早いもんだ!」
わしゃわしゃと頭を撫でてくるサイラス先生。どうやら私のことを忘れたりはしていなかったようだ。
「サイラス先生ここにいたんですね」
「おお。確か最後に会ったのは、まだ嬢ちゃんが学校に通ってた時か。懐かしいな」
学校に通って半年くらいまでは、父からの手紙を届けに私のところまで来てくれていた。
依頼で王都から離れなきゃいけないとのことで、それ以来会えていなかったのだけど……まさかここにいたとは。
「ここの『海』が活性化したって聞いてな。正式に依頼を出されちゃ断れん。仕方なしにここまで足を運んだが……未だに終わらねぇ」
ランクBの冒険者であるサイラス先生に依頼が来るのはおかしな話じゃない。
サイラス先生が依頼で遠出をするって言っていたあの時から、ここに来ることは決まっていたようだ。
あの時は『魔物の海』の活性化がどんな状況だったか何もわかっていなかったらしい。それであんなに意味ありげな別れになっちゃったのね。
「んで? 嬢ちゃんがここにいる理由を聞こうか」
「ああ、はい。えーっと、まずは紹介しますね」
後ろで蚊帳の外だったエルフたちに、サイラス先生のことを紹介する。
納得した三人をサイラス先生に紹介して、今までのことをかいつまんで説明する。
さすがに腕の爆弾の話はできないので、森で助けてもらって意気投合したと適当にぼかしたけど。
「ほほう。未熟な弟子が世話になったようだな。感謝する」
「彼女にはこちらも十二分に助けられている。お互い様だ」
聞いてていろんな意味で恥ずかしいんだけど! 保護者同士の会話って気分だよ。
いや別にエルフたちは私の保護者じゃないけどね。サイラス先生は……違うとは言いづらい。
「それにしても、あの親バカジェームズを説得できたとはな。よく勝てたもんだ」
旅に出る許可を得るために父と試合をした話もしてある。
目を細めながら遠くを見やるサイラス先生。父のことを思い出して懐かしがっているのかもしれない。
「だいぶ力業でしたけどね」
身体強化を使ってのゴリ押しだ。あれは勝ったと言っていいのかわからない。
「あいつが自分で負けを認めたんだろ。それはもう勝ちでいいんだよ」
結果的に私は今ここにいる。ここに来れた以上、気にすることではないか。
再度私の頭を撫でてきたサイラス先生に懐かしさを感じていたら、徐々に手つきが変わって来たと思ったら片手で顔面をガシッっと掴んできた。
おっとこれは……。
「それはそれとして褒めるが、褒められない部分があったな。森でイネスターフライにやられたって?」
ぎゅうう……っとサイラス先生の手に力がこもっていく。私の顔が締まる。
これは所謂……アイアンクローってやつですね!!
「いだだだだだだ!!」
「引き際を見誤るなと言ったはずだが?」
「ごごごごごめんなさい!!」
「確かに何をするのも自己責任といったが、それを免罪符に他人に心配をかけるのはいただけないな」
いや、いや! 言い訳をさせてくれ!
あの時は森に入ったばっかりだったし、イネスターフライに気が付いた時には逃げ出そうとしてたんだよ!
もっと早く気が付け? 気が付かれてから逃げても遅い? ごもっともです! ごめんなさい!
「リアはもっと反省するべきだよ。この前だって……」
エルシーナが喋る喋る。
森に一人で突っ込んだこと、『魔物の沼』近くで修行してたことなどなど、ちょっとヤンチャしちゃったことを話される。
サイラス先生の顔が険しくなる。私の顔を掴んでいる手にも力が籠る。痛い!
「お前は失敗から学ばないな。反省という言葉はお前の中にないのか?」
「ごめんなさい……」
「仲間がいるうちは勝手な行動はとっていないようだが、だからといって単独行動しているときに無茶をしていいわけではないんだぞ?」
「はい……」
「仲間と共に過ごす中で単独行動をとるときもあるだろう。その時に無茶をして心配しないような薄情な仲間なのか?」
「そんなことはないです……」
「お前がケガをして帰って来て、困るのは本当にお前だけか? 周りの誰にも影響を与えないか? よく考えろ」
「気を付けます……」
食堂のど真ん中。アイアンクローから解放された後、延々とサイラス先生から説教を受けている。
セレニアとクラリッサが苦笑し、エルシーナがうんうんと頷いているのが見える。助けてくれはしないようだ。ちゃんと反省しろということなのだろう。
「全く……再教育するべきだろうか」
「そ、それだけはご勘弁を……」
ガリナに連れて帰られてしまう。それだけはやめてくれ! 私は旅に出たいんだ!
「そちらのエルフの三人には不出来な弟子が迷惑をかける。面倒だというのなら、ここの仕事が終わり次第連れて帰るが」
そう言ってサイラス先生がエルフ三人に向き直る。どうしよう、了承したりしないよね!?
い、いや、腕の件もあるし……でも爆弾の話ってサイラス先生にしてないんだよね。どうかごまかして!
「いや、大丈夫だ。戦力としては申し分ないからな」
「連れて帰られるのは寂しいから嫌かなぁ」
「いてくれないと困りますよ。仕事が増えます」
「うう……みんな……ありがとう」
素直にお礼を言っていいのかわからない理由もあったけど、必要とされるというのは嬉しいことだ。
腕の件が終わっても一緒にいられるだろうか。その時にお互いがそう望んでいたらいいな。たった数年だとしても、気心知れた仲間と一緒にいたいと思うよ。
「良い仲間に恵まれたな。大事にしろよ」
「はい!」
ちゃんとこの恩に報いろう。ちゃんと彼女たちの役に立てるように頑張らないと。でも無理はするなと言われたので加減を覚えなくては。難しいなあ。
サイラス先生は新しくベテランの冒険者たちと臨時パーティを組んで、ここでの仕事をこなしているらしい。
「ジェームズを始め、みんな結婚だのなんだのと危険な場所に連れていくには気が引けるようになっちまったからな」
守るものができると危険を冒せないって聞くもんね。仕方のないことなのかもしれない。サイラス先生は独り身なので身軽なんだとか。
「サイラス先生も無理しないでくださいね」
「ガッハッハ! 不出来な弟子に示しがつかないからな! わかってるさ」
返す言葉もないとはこのことよ。
その後も懐かしい思い出話や近状の報告なんかで楽しく話していたけど、私たちはここに仕事に来ているのだ。楽しい時間はあっという間に過ぎ、戦場に行く時間となった。
「気を付けろよ」
「はい。サイラス先生も」
深々とお辞儀をして、エルフ三人と一緒にその場を後にする。
楽しい時間だったけど、浮足立ったままでは危険だ。切り替えていこう。
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