第91話 親睦を深めようⅡ
欲望に負けてエルシーナをチラ見……とかね。やっぱり避けられないわけですよ。欲に負けるのが人間ってもんよ。違うか。
そんなわけでチラリと怪しまれない程度に見てしまったけれど、幸か不幸か背中だったのよ。
脳が沸騰するかと思いましたね。背中なのに。いやもう、背中まで魅力的というか、ね。
胸がないんだから前か後ろかわかんねー、とか笑えたらよかったんですけどね。何言っているんでしょう。失礼すぎる。
これ以上お風呂場にいたらおかしくなりそうだったので、頭から水を浴びて出てきた。
のぼせなくてよかった。この後は私の加入祝いという名目で飲み会なんだから、一応の主役が倒れていたら笑えない。
「それでは新しい仲間の加入を祝って、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
お風呂の後、用意された料理とお酒を並べ、セレニアの音頭で祝宴が始まる。
一応一杯目はお酒を注いであるけど……。
「う、うーん……」
「リアはお酒はダメか」
「美味しいのに」
一口飲んだけど、あんまり美味しいとは感じない。
お茶やジュース類が好きな私にとって、アルコールの苦みというのはどうも苦手だ。がぶがぶ飲める人はすごいなぁ。
クラリッサはあんまり飲まないらしく、料理にばかり手が出ている。
「クラリッサは飲まないの?」
「飲めますけど、それよりは食べる方が好きですね」
なるほど、私もお酒飲むくらいなら食べてお腹膨らませる方がいいな。よし、飯だ!
目の前にある肉料理を一口。
「美味しい」
「美味しいけど、やっぱり肉料理が多いよね」
「魔物から肉が取れるから安いが、それ以外は大陸の外からの輸入品ばかりで割高だからな」
毎日あれだけの量の肉が街に運ばれてきているんだもんね。肉料理が増えるのは仕方がないことだ。
『魔物の海』から発生する魔物たちから畑を守るために、街の外壁の内側に畑があるそうなので、そこまで食糧難になることはないそうだけど。
それでも今は冒険者が多いから、ここにある畑だけでは補えない。輸入品に頼らざるを得ない状況だ。
森には魔物が多いから天然のものを取りに行くこともできない。なかなか大変だ。
もしかしたらここで過ごしている間、ずっと肉料理ばっかりだったのかもしれない。
「こっちでの一年半で、何か変わったことはあった?」
私の話は色々したけれど、この三人はどうだったんだろう。エルシーナとセレニアが酔い潰れる前に訊いておこう。
魔物退治、料理は肉ばかり、何か気を休めるような出来事はあっただろうか。
「んー……特にないねぇ」
「毎日毎日魔物と戦ってましたよ」
「代り映えのない毎日だったな」
「うわぁ。お疲れ様です」
ここで魔物と戦い続けるだけの一年半……この一週間だけでもしんどかったのに、大変だぁ。
精神も摩耗するだろうし、武器や防具だって消耗するだろう。
冒険者として参加せざるを得ない戦いだし、他に方法も無い以上仕方のないことだけど、どうにかならないのかと言いたくなるね。
「早く活性化が終わるといいのに」
「本当その通りですね。さすがに戦場と街を行き来するだけの毎日はもう疲れました」
まだ終わりの兆しは見えないけど、なんでなんだろうか。これ以上酷くならないよね。
『魔物の沼』の実態は邪神と関係があるとか言われているけど、明確にはよくわかっていない。
女神様に聞いてみたら教えてくれそう。聞かないけど。別に世界の真理を知りたいわけではないし、聞いたら落ち着かなくなりそう。
それに、何度も女神様に話しかけて愛想をつかされたら嫌だし。いざという時に返事がなかったら困る。
例え悪魔みたいな女神様だとしても、私にとっては強力な助っ人のような方だからね。
その後も食べて飲んで騒いでと楽しい時間を過ごしていたけど、エルシーナとセレニアが酔い潰れて、私とクラリッサのお腹が膨れたところで小さな宴会は終わりを告げた。
エルシーナとセレニアはお酒を数杯飲み干した段階では特に変化はないが、段々と呂律が回らなくなったと思ったら、突然テーブルに突っ伏し寝息を立て始める。
酔うと急に寝るのがエルフの特性なんですかね。相変わらず酔い潰れるのが早い。
「お酒臭い」
「少し窓を開けましょう。片付けは……軽くやっておきましょうかね」
汚れたお皿をまとめて外に持っていって洗う。さすがに宿の台所を借りるわけにもいかないし、水の杖さえあればどこででも洗える。
料理は自分の持っているお皿に入れてもらったので、使い捨てではなく洗ってまた使うのだ。乾いてしまうと落ちにくくなるので、今のうちにやっておく。
空いた酒瓶は酒屋に渡せば引き取ってくれるので、明日持っていく。その他も明日でいいや。
「ふぁ……おやすみ」
「おやすみなさい」
戸締りをしてベッドに入る。
明日は街の散策にでも行こうかな。エルフ三人と一緒に行っても良いかも。
束の間の休息をしっかり堪能しないとね。
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