第90話 親睦を深めよう
調子に乗ってうっかり『魔物の沼』近くで修行をした話をしたら怒られた。再度説教されてしまった。ごめんなさい。
いやでも、あそこでの修行が無かったら父に勝てなかっただろうし……後悔なんてないというのが本音なんだよなぁ。
これから先は単独行動はしないだろうから大丈夫。大丈夫だと思う。ちなみに信用はない。
旅に出たら作ってみたいものがいっぱいあったわけだけど、ここでのお仕事が終わらない限りそんな時間は取れそうにない。
お湯を振動で沸かすやつ……振動ヤカンとでも言おうか、あの辺りそろそろ作ってみたい。
どんな術式を使うか、何の素材を使うか、案はあるのに実行できない。早く終わらないかね。
セレニアと魔道具談義とかもしてみたいのに。
セレニアは立体型魔力回路を刻めるだろうか。是非聞いてみたい。
あれはできる人が限られる上に、かなり細かい作業なので技術と集中力が必要だ。
学校では先生でさえもできない人ばかりとかで、一度だけ授業で教えられて以来一度も触れられなかった。マデリーンさんみたいな研究者として抜擢された人なら、教わる機会もできるんだろうけど。
人工で魔法発動石が作れないと魔法を創るのは不便だ。天然のものが売られてはいるが、その辺のお店ではまず見かけない。
魔術士ギルドという、魔法を創る、創った魔法を買ってくれるギルドがあるのだけど、あそこに所属すれば手に入るらしい。でも、それはそれで面倒なんだよね。
……そういえば、女神様は私にどうやって魔力回路を刻んだんだろう。あれが分かれば簡単に量産できそうなんだけどな。やっぱり神様の秘術とかなのかな。暇になったら聞いてみてもいいかもしれない。
まあ、それもまだ先の話だ。今はこのエルフたちと親睦を深めよう。
一日ダラダラと過ごした、その日の夜。
「お風呂に入った後に夕食を宿で食べる」
エルフ三人からの提案を復唱してみた。
別段おかしい話でもないけど、宿の部屋でキチンとした食事というのはあまりしたことないな。保存食を食べるくらいだ。
「遅れちゃったけど、リアの正式加入を祝おうということで」
「うむ、いい案だな」
「お酒が飲みたいだけですよ」
「ああ、なるほど」
エルシーナとセレニアはお酒が大好きなのだけど、お酒に弱い。お店で酔われると面倒なので、宿で飲んでもらうために夕食は宿にお持ち帰りしてくると。
どうせ酔い潰れるから先にお風呂と。なるほど合理的、かな?
「いいじゃない。お酒でも飲まないとやってられないよ、こんな仕事!」
「同感だ」
「別に構わないよ」
明日もお休みなんだし、存分に飲めばいいさ。宿で潰れるなら誰も困らないし。
「せっかくですし、四人で裸の付き合いといきましょうか」
「「え」」
思わず戸惑いの声が出てしまった。何故かエルシーナも戸惑っていた。
これから共同生活を送っていくんだから慣れないと、とは思いつつも、その、なんというか、なんというか! 恥ずかしい!
「恥ずかしいけど……うーん、慣れないとなぁ」
「大丈夫ですよ。慣れれば目の前で全裸になられても何とも思わなくなりますから」
「慣れって怖いなぁ」
それはそれでどうなの? というか、そんなことする人がこの中にいるの?
「誰もそんなことしてないでしょ!」
「何を想像しているんですか? 着替えの話ですよ」
エルシーナの強い否定にクラリッサがあっさりと返す。
そっちか。いや、普通そっちだよね。うん、思考がおかしかった。いきなり目の前で全裸になるなんて奇行をする人はいなかった。
「も、もう! 入るなら早く行こうよ!」
「そうだな。さっさと入って食事だ」
エルシーナとセレニアが荷物を持って先に行ってしまった。こうなったら腹を括るしかない。あまり周りを見ないようにしよう。
美女の裸なんて、私には刺激が強すぎる。大丈夫、後で酔い潰れた姿を見れば嫌でも冷めるでしょう。
宿のお風呂。ここはいわゆる家族風呂というやつで、数人で貸し切って利用することができる。もちろん宿代とは別料金だし、普通の大風呂もこの宿にはある。
その家族風呂を今はこの四人で利用する。
そしてその脱衣所にて、今私は素晴らしいものを目にしている。
「すごい……」
これは興奮する。すごいものを見ている。何という肉体美!
「あんまりまじまじと見られるのは恥ずかしいのですが……」
「腹筋が割れておる。すごい。綺麗」
クラリッサは身体を鍛えているなと思っていたけど、脱いでみたらあらすごい、腹筋が割れてますよ!
さすがにあそこまで見事なシックスパックを私は持っていない。なんと見事な腹筋か。美しい!
「私ももう少し腹筋つけようかな」
さすがにプニプニとはしてないけど、ガッチリと腹筋がついているかといえば、そんなこともなく。
あれくらいのシックスパック……まではいかなくていいかな。横線薄く、縦線のはっきりした……アブクラックスだっけ? あれくらいほしいね。
走り込みとか素振りとかは欠かしてないけど、きちんとした筋トレってあんまりやってないのよね。年齢を考えて控えていたけど、そろそろ本格的に鍛えようかな。
「一緒に鍛えます?」
「いいかも」
クラリッサとトレーニング談義もいいかもしれない。前世の筋トレを一緒にやってみるのもアリだな。
明日から教え合いながら一緒にやってみようかな。今日はもうお風呂に入るから、汗をかくのも勿体ない。
それはそれとして、気になることがある。
「セレニアって筋肉つけてないの?」
てっきり脱いだらすごいんですってタイプかと思ってたら、そんなことはなかった。
この世界の魔法使いとしては珍しく、貧弱タイプだ。前世で想像していた魔法使い像はまさにこんな感じだな。
「そうなんですよ。鍛えるよりも軽い杖を研究する方がいいとか言うんです。無理矢理鍛えさせてはいますけど」
「ぐ……も、持てればいいんだ。持てれば」
珍しくクラリッサからのお小言とセレニアの言い訳を聞いた。
まあ普通、鍛えたくないというか、筋トレなんてやりたくないって人は多いもんね。
前世の私もそっちタイプだったんだけどなぁ。今は結構ストイックに鍛えてますよ。人って変わるもんだねぇ。
「エルシーナさんもどちらかというとセレニアさん寄りですね。身体強化があるからいい、の一点張りですよ」
「なんと勿体ない」
「い、いいじゃない! 事実なんだし!」
自身の筋力量と身体強化には密接な関係がある……か、どうかは研究中だけど、あるのではないかと言われている。
単純に筋力量が増えればその分、身体強化の負荷に耐えられる身体になるという話だ。身体強化を持っていても鍛えるのは良いことなのだ。
「それに、ここ一年以上は実戦ばっかりしてるんだからいいでしょ」
「それもそうだね」
気持ちはわかる。一週間戦い続けてきた上に筋トレまでやれっていうのもね。
ただでさえしんどいんだから。
「話の続きは風呂の中でもいいだろう。風邪をひくぞ」
「はーい」
脱衣所で全裸で話し込んでいた。寒いから入ろう。視線のやり場に困っていたんだ。
風邪は……ひくのかな。女神様の祝福のおかげでひかないかもしれない。今のところ一度もひいたことはない。
免疫力向上って言ってたな。あの女神様はあんまり具体的に言ってくれないから、よくわかんないや。
「やっぱりお湯につかるのはいいね……」
「向こうはシャワー室しかなかったからな」
身体を洗い湯船につかる。四人で入ってもゆったりとできるほど広いお風呂だ。
久しぶりのお風呂を堪能するように目を閉じる。こうしてあまり周りを見ないようにする。
銭湯に行ったって、そこまで他人をジロジロ見ることもなければ、思春期男児みたいに興奮したりもしない。しないんだけどなぁ。
いやもう、目の毒だよこれは。
クラリッサは鍛え上げられた肉体美に興奮するけど、それだけで済む。腹筋が割れると女らしさが消えていくのは、やっぱり否定できないよね。
それを補って余りあるほどの美人だけどね。需要は大いにあると思うよ。
セレニアは綺麗だとは思う。やばい。綺麗なんだよ。鍛えていないけど、骨が出てるような虚弱ってわけじゃない。程よい感じが、なんかもう……正直ドキドキする。
前世で言う、芸能人の写真集の場面が目の前にある感じ。これダメだわ。
そしてエルシーナだけど……視界に入れていない。見たら絶対ドキドキするので見ない。
セレニアで結構キテるのに、エルシーナなんて見たら鼻血出して倒れる気がする。
逆に不自然になるのでちゃんと慣れないといけないんだけど、今日くらいは許してほしい。
……いやもう慣れるとか絶対無理。一緒にお風呂に入らない理由や視界に入れない理由を作る方が楽だわ。考えとこう。
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