第83話 ようやく先へ
さらに次の日。この大陸に着いてから十一日目。疲れると港まで戻って宿で休んでいるので、一日にチャレンジできる回数はそう多くない。
もうアーロンさんたちはアシュミードまで着いただろうか。参ったね。
「でも、今更正規ルートなんて行く気はない」
今度こそロック鳥を倒して向こう岸に行かなければ。
川を渡ってしまえばアシュミードまで遠くない。一日走り続ければ着けるだろう。
「よし、行くぞ!」
気合を入れて、何度目かの川渡りを始めた。
そして何度目かのロック鳥戦だ。
「はあ!」
魔力をふんだんに使い、風魔法を飛ばしながら私自身も跳び回る。
どれだけ速く動き回れるか。空中戦も変わらない。地上と同じように速く動いて、敵の攻撃を避けて攻撃。これができれば勝てる。
私の風魔法が少しずつ当たるようになってきた。かすり傷程度だろうけど、当たらなかった時に比べたら確かな進歩だ。
「ギャアア!!」
しびれを切らしたロック鳥が突撃してくる。この時を待ってた!
近づいてきた鳥を躱しながら杖で思いっ切り殴る。杖が頑丈でよかった。
バランスを崩し落ちていく鳥、その背を見て思いつく。
「よっと」
「ギャア!?」
鳥の背中に飛び乗る。大きいから乗るくらい余裕だ。ふふん、私に背を向けたのが悪い。
「これで終わり!」
振り落そうと暴れる鳥に、持ち替えた剣を思いっ切り刺す。川に落ちていくのを防ぐために、下に障壁を張る。重い分魔力を使う。さっさと殺そう。
背中に乗ったまま剣で首辺りをザクザク刺す。しばらくジタバタしていた鳥だったが、そのうちおとなしくなった。
「ふう……疲れたぁ」
鳥を魔道袋に回収して、向こう岸に向かった。
「渡り切った!!」
川を渡るだけなのに一週間もかかってしまった。だいぶタイムロスだなぁ。
疲れたけど、気になることがある。
「巣には何かあるかなー」
ロック鳥がいた大きな巣。何かお金になるものは置いてないかな。あの鳥の習性とか知らないけど、お金になるものがあったらほしい。
障壁……は魔力を使うので、普通に登った。
「よいしょ……んー?」
いろいろあるな……ゴミばっかりだけど。むぅ、何かないかな。
ガチャガチャと漁っていると、キラリと光るものを見つけた。なんだろう、綺麗な石だ。石っていうか岩石だけど、鉱物の原石かな?
「これは貰って行こうかな。あとは……微妙。普通の石とか木の枝……あとは骨だね、これ」
一体何の骨だろうか。あんだけデカイ鳥なんだから、それなりに食べるんだろうけど。
「よいしょっと。さて、どうしようかな」
木から降り、今後について考える。川を渡ってしまったので、港に帰るのは難しい。このままアシュミードまで行ってしまう方がいいだろう。ただ問題があるとしたら、疲れたというだけだ。
「これ以上魔力使うのは避けたいな」
さすがに使い過ぎたようで、少し怠い。これは休まないとダメかな。でもここで休むのもなぁ。
ロック鳥がいたおかげか、この辺りには魔物が少ないようだ。でももう倒しちゃったし、集まってきちゃうかな。
「ちょっと休憩したら、魔法は使わずに進むか」
体力を回復させてから歩くなり普通に走るなりして進もう。まだ日は高いけど、この森を抜けるまでには夜になるだろう。あまり長居するべきじゃない。
「食事をとってから出発しよう」
あと少しだ。頑張ろう。
「重い……」
剣を振るのがつらい。
休憩を挟んで森に突っ込んだ私は、魔物に囲まれている。
その魔物たちの攻撃を避けながら、剣で葬っていく。斬って斬って突き刺して、私の腕はそろそろ限界だ。でもこれ以上軽い剣は持っていない。
ナイフならあるけど、間合いが短くなるのは却って危険だ。この剣を振り続けるしかない。
「いっっ……」
ライオンのような魔物の爪が私の脇腹を切り裂く。痛みを堪えながら気合で踏み込み、ライオンの頭部に剣を突き立てる。動かなくなったライオンを蹴り飛ばして剣を引き抜き、大きく息を吐く。
脇腹から血が出ているが、正直応急手当をする余裕もない。まだ魔物は近くにいるし、立ち止まる余裕もない。
もう辺りは薄暗い。森の中だから光が届かなくなってきている。完全に夜になれば何も見えなくなるだろう。夜目が効くとはいえ、完全な闇の中では視界の制限は避けられない。
足を止めるわけにはいかない。
ふむ、道を間違えてないよね?
想像よりも街が遠い。未だに森を抜けていない。もう完全に夜になってしまった。灯りを腰にぶら下げているが、心もとないし、少し先は真っ暗だ。
そのうち森から出られるとは思うんだけどなぁ。
もう無理、しんどい。魔物が昼間より多いせいで全然進めていない。危機察知がなかったら何度死んでいることか。
やっぱり強化を使いながら走り抜けるしかないな。魔力が尽きる前に抜けられなかったら終わりだろうけど……まあ、いいや。私が弱かったってだけだ。
脚に魔力を流して走り出す。目の前の敵を剣で薙ぎ払う。道が開けばいい、殺さなくてもいい、ただまっすぐ進んでいく、道を作りながら走る。
もう森の中で何時間過ごしただろう。ここで私が死んだら、あの人たちはずっとここで私を待つことになるのだろうか。
それは嫌だなぁ。申し訳ないや。
そろそろ魔力が尽きそう……と思ったところで、ようやく森を抜けた。
何もない平原の先に、街があるのが見える。あれがアシュミードか。ようやくだ……。
「いたいけど、ねむい……」
身体が痛い。全身が怠い。
避けきれなかった魔物の攻撃が私の身体をぼろぼろにしてしまった。でも、致命傷は避けられた。これくらいなら神殿に行けば治せるだろう。街に着いたら向かおう。
いつの間にか時刻は早朝と言っていい時間、どうやら森の中で一日過ごしてしまったようだ。本当、よく生きてたな。寝てないからか、とっても眠い。
街までの間に魔物はいなさそうだ。これならゆっくり向かってもいいだろう。脚の強化を消して歩き出した。
「じょ、嬢ちゃん大丈夫か?」
「つかれてますけど、へいきです」
ようやくたどり着いたアシュミード。街の門の辺りで門番に心配された。
そんなに酷い見た目をしているのだろうか。
身だしなみぐらい整えるべきだったかもしれない。でもところどころに血がついていて、整えようがない気もする。自慢の髪の毛も酷い有様なんだろうな。
「神殿はこの通りをまっすぐ行って、右手に見えるから行くといい。この時間なら人も少ないし空いているだろう」
「ありがとうございます」
親切にも神殿の場所を教えてくれた。街の中に入り、言われた方へ向かおうとすると――
「リア!!」
懐かしい声がした。




