第82話 川渡りチャレンジ
ドボォン
「ぶはっ!」
これで何度目だ。川に落ちるのは。
港の近くの森で戦い続けて三日。さすがに数が多くてしんどかった。でもケガはかすり傷程度だ。
魔力が多いというのは本当に助かる。
魔法を使える回数が多いほど、倒せる数も増える。倒せば倒すほど頻繁に港まで戻る羽目になったが、それでもいい修行になったと思う。お金も増えたし。
四日目にもう少し先へ歩を進め、川までたどり着いた。
大きな川と言われていたように、向こう岸までかなり距離があるのがわかる。川には足が辛うじてつく程度、歩くには難しい深さだと思う。流れも少し速い。わざわざ泳いで渡るような川ではないことは確かだ。
まあ、泳ぐ気などないが。ちなみにこれはフラグだ。
川を渡る前に陸地で、障壁魔法で足場を作って跳んで渡る方法を思いつき実践。何度も繰り返し、ひとまず形になったところで川渡りにチャレンジした。
途中までは順調だった。だが、半分を超えた辺りでしんどくなってきたが、魔力はまだある、渡り切れるだろうと思ったときだ。
向こう岸から何かが飛んできた。危機察知が反応していたが、障壁に乗った状態では避けるのは難しい。避けようとしたら川に落ちた。
川に落ちた私に追撃とばかりに何かが飛んでくる。仕方がないので元の岸まで泳いで戻ることになったのだ。
再チャレンジしても同様の目に遭い、今もまさに川に落ちて戻って来たところだ。今世では泳いだことなどなかったけど、前世での学校の授業で習ったことが役に立って助かった。
「鳥の羽、ね……」
下ばかり見ていたからか、集中していたからか、気が付かなかった。
向こう岸の大きな木に、大きな鳥が止まっているのが二度目の川渡りチャレンジでわかった。
「ロック鳥だっけ?」
あの大きな木に巣でもあるのだろうか、近づくと執拗に攻撃される。卵でもあるのかな。ほしいな。
もう少し上流なり下流なりに移動すれば渡れるだろう。でも、せっかく修行に来ているんだ。逃げるなんて勿体ない。
「ここを、あれを避けながら渡る。いいね、追い込まれた分、得られるものは大きくなる」
あの羽に当たると痛そうだけど、目で追えるから何とかなるだろう。川に魔物がいないのも幸いだ。何度でもチャレンジできる。
「もう一回行くか」
今からそっち行ってぶった斬ってやるから待ってろよ。
障壁を足場として移動する。これは結構難しい。
この重い杖を左手で持ち、右手に武器を持たなければいけない。
腕の身体強化防具のおかげでなんとかなっているが、基本的に身体強化と魔力を通す武器は同時使用が難しいのだ。
強化と武器共に魔力を通すには、それぞれ二つの魔力を操作しなければいけない。負担も大きい。
私は魔力操作が上手いので可能だけど、できる人はそう多くない。
そんなわけで、燃費の悪い障壁魔法を足元に向けながら、前を見据えて剣を構える。足場となる位置に障壁を作り、飛び乗る。
二歩目、ジャンプで届く位置を予測し跳ぶ。身体が下降を始めたら足場を障壁で作る。これを繰り返す。そうやって少ない魔力消費で川を渡る。
思考を分ける。足場を作るのと、周囲を警戒するのを同時に行う。視界に入るものの情報をキチンと把握する。
これらがスムーズにできるようにならなければ、戦闘では役に立たない。練習あるのみ。
川渡りにチャレンジし始めてからすでに五日。つまり、港に着いてから九日目だ。
未だに川渡りは成功していない。あのロック鳥が鬱陶しすぎるのだ。
川を半分も渡れば攻撃を仕掛けてくる。羽を避けながら川を渡り続けるのがどうにも難しい。
先ほどはいいところまで行ったのだ。あとちょっと! ってところでロック鳥本体が飛んできた。当たり前だよね。渡り終えるまで待っていてくれるわけがない。
おかげでまた落ちた。もう元の岸まで泳ぐ方が大変だよ。でもそのまま泳いで川を渡り切るのは……なんというか、負けた気がするから嫌。
泳いでいるときの攻撃はどうとでもなる。杖が使えるもの。
「あとちょっとだ。だいぶ使いこなせるようになってきた」
初日に比べたらかなり成長したと思う。羽を避けるくらいなら問題なくなってきたし。
「あとはこれで空中戦ができれば最高だね」
鳥相手に空中戦だ。バカみたいだけど、楽しい。空を飛んでいると思えばやる気も出てくる。
さすがファンタジー。最高だ。
次の日、もう少しで向こう岸、というところで前と同じようにロック鳥が飛んできた。
「よっしゃあ、空中戦!」
上に向かって跳び、障壁を足元に作る。やることは同じだ。身体が下降し始めたら足元に障壁を張ればいい。焦らなければ大丈夫。
ロック鳥に近づき縦横無尽に周りを跳び回る……とかできたらよかったんだけど、生憎向こうから近づいてきた上に、縦横無尽に周りを飛び回られている。腹立つな。
障壁は張り続けるだけで魔力が減っていく。短期戦でいかなければ。
風の杖を使い攻撃をする。しかし速くて当たらない。ずるい。もっと近づけないだろうか。
剣に持ち替えロック鳥に近づくように跳び回る。しかし向こうも近寄らせまいと羽を飛ばしてくる。
「おおお!」
その場に留まり剣で羽を落としていく。いくつか掠るが、気にするほどではない。致命傷になるものは全部落とした。
羽に意識を向けている瞬間を狙って、ロック鳥が近づいてくるのを跳んで避ける。すると、旋回してこちらを向いたロック鳥が大きく翼で風を起こした。
ただの風……ではない、風魔法の風だ。危機察知が反応して、慌てて障壁を張って防ぐ。
しかし、代わりに足元の障壁が消えた。
「うわ!」
風魔法には当たらなかったが、川に落ちた。どうやらまたやり直しのようだ。
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