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勇敢な者と呼ばれた私  作者: ナオ
第1章 幼女時代編
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第8話 物騒過ぎる魔法

 それから数日後、サイラスさんが我が家に来てくれた。前に比べてこんなに早く都合がついたのは運がいい。

 この二年間、会う機会はあんまりなかった。知りたかった魔法についてはおおよそ聞けていたし、弟子入りしたわけでもないため会う理由がなかったのだ。


「今日はわざわざご足労頂いて……ありがとうございます」

「ガッハッハ! 気にするな! それで、王都について聞きたいってことでいいのか?」

「はい。魔力回路について勉強したいので、王都に行きたいんです」


 サイラスさんが顎鬚を触りながら呆れ顔を見せる。


「ジェームズだって王都に行ったことがあるだろうに」

「……勉学に関してはサイラスの方が詳しいだろう」


 お父さんも冒険者なんだから、王都に行ったことくらいあるわな。まあ、私に関わることだとお父さんの発言はあんまり信用できなくなる気がするから……。


「そうだな……王都にはこの街よりも大きな図書館がある。身分がはっきりしていれば誰でも利用できるところだ。それから魔力回路について学ぶ学校もある。もちろん金がかかるし、そう簡単に入学できるほど甘い場所でもない。それに最低年齢が決まっていたはずだ」


 他にも滞在するには物価が高いとか、広い分治安が悪いところがあるとか、学校には寮があるとか、詳しく教えてくれた。


「お金かぁ。ちなみに一か月滞在するのにいくらくらいかかりますか?」

「一人ならこの街の倍……とまではいかんが、まあそれくらいかかる。食べ物も高いが、それ以上に宿が高い。もちろんピンキリだが、安いところは治安も利便性もよくない」

「そんな危ないところにリアを連れていけない!」


 父はもう無視。そんなこと言ってたらどこにも行けないし、この世界は前世の日本と比べ物にならないくらい治安悪いわ。

 短期間で遊びに行くならいいけど、長期滞在には向いてないな。家を借りるとか工夫しないと難しいね。

 さてどうするか。別に学校じゃなくてもいいんだ。魅力的ではあるけれど。王都の図書館にこの街の図書館よりも多くの資料があるのなら、そこで勉強すればいい。

 うーん、そうだなぁ。


「お父さん」

「なんだい。やっぱり危ないところにはリアも行きたくないよね」

「一日だけでもいいので、王都に行きたいです。もし合わないなって思ったらもう行きません。それならどうですか?」


 結局のところ、ここでウダウダしてるより実際に見に行ってみるのが一番だろう。

 もしかしたら賑やかすぎて目が回るとか、お金がかかり過ぎて辟易してしまうとかですぐに帰って来たくなるかもしれないし。


「そりゃいいな。何事も自分の目で見るのが一番だ。ジェームズも、それくらい許してやれ」

「そうね。子供の好奇心は伸ばしてあげたいわ」

「……………………はあ~……仕方ないなぁ。わかったよ」

「やった! ありがとうお父さん!」

「うう、こんな可愛い娘を外に出すのはやっぱり嫌だなあ」

「もう諦めなさいよ」


 あの過保護な父が許可をくれるなんて! サイラスさんのおかげだな。父は少しサイラスさんに頭が上がらないように見える。いろいろお世話になっているんだろう。今日来てくれて本当によかった。


 そんなわけで王都へ行きます!


 鍛えるという話だったんだけどなぁ。どうしてこうなったのか。方向性が決まれば父が断れない理由を作ることもできるかな。





 ――さて、話し合いから数日後。

 現在時刻……は知りませんが、外は真っ暗。大人も子供も眠る時間です。

 かねてから確認がしたかったことがあります。そのためにこんな夜更けに起きているんです。

 フード付きの服を身に着け、物音を立てないように慎重に家から出る。バレたら王都行きを却下されかねない。

 慎重に慎重に、かつ迅速に。灯りはないが、月明かりと夜目が効くので移動に問題はない。

 出来れば外に行きたいのだけれど、門番を潜り抜けるのは難しいから、人気のない街の中で行うことにした。

 いつもの広場からさらに奥、できるだけ人目につかない場所へ。ここならすぐにはバレないだろう。


 試したいことはアレ。女神様からもらった力、爆弾を生成する能力。


 身体に魔力を流す訓練はもう済んだ。今じゃ指先から頭のてっぺんまで余すところなく行き渡らせることが可能だ。

 そして、その訓練を行っていた時に気が付いた。


 ――私の腕に、手に、魔力回路が刻まれてる。


 一瞬意味が分からなかったが、すぐに原因というか、これが何なのか思い至った。

 女神様がくれた、爆弾を生成する能力が、これだろうと。

 くれたっていうと欲しがったみたいに思われるな。普通にいらなかったよ。しかもご丁寧に両腕に刻まれてる。怖い。それともお腹じゃなかったことに感謝するべきなのだろうか。

 魔力回路を腕に刻んで指輪型の魔法発動石を――なんて考えていたのに、すでにこの腕は魔法が使えるようだ。発動する魔法が物騒過ぎるので素直に喜べない。


 とりあえず、今日はこれを試してみたいのだ。


「いざという時の最後の手段になるはず。一度だけでも使ってみないと」


 というわけで、いざ!


 でも怖いからゆっくり少しずつにしよう。

 右手は利き手なので万一を考えて左手で試す。万が一にもあってほしくないけど。

 左腕を伸ばし、手のひらを上に向ける。じわりじわりとにじみ出るように魔力を流す。


 しばらく流してみると……ポンっと手のひらの上に小さくて丸い何かが乗った。


 そしてゾワリとした嫌な感覚が身体を駆け巡り、すぐさま私はそれを投げ捨てた。

 その瞬間、


 パン!


 と乾いた音が鳴り響いた。


 夜の静寂の中、この音はかなり響いたように思える。周りへの被害はないと確認した私は、すぐにその場から逃げ出した。



 運よく人に会うことなく家の近くまで帰ることができ、また両親は私が無断外出をしたことには気が付いていないようで、なんとか自室までたどり着いた。

 息を整え、寝巻に着替えてベッドに入り、自分の左手をジッと見る。


「あれが……爆弾」


 あの丸い物体は大きさが大体飴玉くらいのサイズだ。その程度のサイズでも、爆竹並みの威力がある。というか、爆弾に似た現象が起こるとかじゃなくて、普通に爆弾が手から出てくるっていうね。これ本当に魔法?

 咄嗟に手のひらから離したおかげで大事には至らなかったけど、手のひらが少しヒリヒリする。火傷まではしていないと思うけれど。


「うん。怖すぎる。何考えてんのかね、あの女神様」


 使うときは手どころか身体が吹き飛ぶ可能性があるので、死ぬときか腕を捨てるときぐらいにしか使う機会がこないんじゃないかな。前世と同じ爆死ですね。

 使い方を間違えなければ強力な武器になるだろうけど、人前では使えないよ。

 うーん、やっぱりあの人、女神様じゃなくて悪魔なんじゃないかな。


「はあ……ねよ」


 女神様ももう少しファンタジーな力をくれればいいのに……。なんでこんなにリアルなの……。



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