第73話 旅立ち
前世の卒業式のときの別れをテーマにした歌が頭の中で流れてる。今の気分がそんな感じだ。さすがに名前は忘れちゃったけど。
この世界歌とかないのかな。娯楽が少ないよなぁ。遊び道具とかほしいよ。
トランプとか作ってみようか。一人でも複数人でも遊べる万能アイテム。寸分狂いなく同じ大きさのカードを作るところで挫折しそう。
もっと別の……陣取りゲームとかどうだろう。いろいろ種類はあるけど、下手にルールを説明しなくてもわかりやすいし、四人で暇な時にやれたら楽しいかもしれない。
木を削れば作れるだろうか。カード作りよりも大変な気がする。
その辺は今度考えるとして。
自身の身体のことを知ってから数十日、もう十分かな。
「そろそろ旅に出ようと思う」
「すげえな。ジェームズさんに勝ったのか」
今日は幼馴染ズとお話だ。
そろそろ中央大陸を目指そうかなと思っているので、お別れ前に会っておこうと思って、昔よく遊んだ広場で少しだけ時間を取った。もうみんな忙しいからね。
レオがお父さんに勝ったことに驚いているが、正直微妙な勝ちだった。
「おまけで合格って感じだけどね」
「それでもすごいよ」
レオとフィンレーはお父さんの強さを知ってるからね。
Cランクってだけですごいってイメージもあるから、エミリーとロージーも驚いてるけど。
「一人で行くの? 大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
ロージーが心配してくれる。相変わらず優しい子だ。
当初はレオとフィンレーと一時的にパーティを組んで……とか思ってたけど、脚に強化魔法を刻んだから、護衛依頼を受けたりせずにまっすぐ港まで行って船に乗っちゃおうかなって思い直したのだ。
レオとフィンレーはまだEランクだし、無理に付き合わせる必要はない。
それに、中央大陸での何事かが終わる前に向かわないと、あの三人と入れ違いになってしまいそうだ。まだ終わってないみたいだけど、もう随分と時間が経っているし、ある日あっさり終了して移動とかもあり得ない話じゃない。
もうすぐそちらに向かうと手紙はすでに出したから、大丈夫だとは思うけど。さっさと合流してしまおう。
「いつごろ帰ってくるとか決まってないんだよね」
「そうだね。たぶん数年は帰ってこないけど、エミリーの料理を食べに帰ってくるよ」
「その時は今よりもっと美味しくなってるからね!」
この前エミリーの料理を食べさせてもらった。未だに料理人見習いの彼女だけど、なかなか美味しかったので、数年後が楽しみなのだ。
言葉通り、次食べるときはもっと美味しくなっているだろう。
「レオとフィンレーが旅に出るなら、次に会えるかはわからないね」
「そうだな。でも生きてりゃいつか会えんだろ」
「ガリナの外で会えるかもしれないね」
ガリナの外で旧友に会えたら嬉しいだろうな。この広い世界で示し合わせずに会うのは難しいことだけど。そんな日が来たらいいな。
どうか長生きしておくれ。
「それじゃあ、行ってくるね。みんなも元気でね」
「行ってらっしゃい」
「リアちゃんも元気でね」
「気を付けろよ」
「頑張って」
みんなと出会ってからまだ十年と経ってないけど、一緒にこの街で育った大事な幼馴染たちだ。
いつかまた会いに来て、みんなでエミリーの料理を食べながらそれぞれの武勇伝でも話して盛り上がれたらいいな。
幼馴染たちに別れを告げ、その場を後にする。
これから旅に必要な物を用意して、両親に別れを告げれば、この街でやり残したことは終わりだ。
ガスコンロとか、ヤカンとか、寝袋とか、鍋とか、お皿とか……あんまり持って行ってもなあ。
でも温かい飲み物や食べ物を食べるときに使うし、魔道袋には余裕があるし、持っていくか。割れないように木でできたものがいいかな。
どこでも火を使えるとは限らないし、非常食も多めに持って行かないとね。
常に中身の温度を維持できるような、水筒みたいなやつも探せばありそうだし、探してみるか。
あとは船に乗るから暇つぶしになるものを持っていこう。船ってどんな感じかね。すぐに乗れるといいけど。
そんなわけで、学校を卒業してからおおよそ一年と数カ月。旅立ちの時は来た!
ここしばらくは両親と一緒にいる時間を作った。一緒に家事をしたり、食事をしたり、昔話をしたり。
高々数年会えないだけで大げさな気もするが、危険の多い旅だ。仕方のないことなのかもしれない。
「それじゃあ行ってきます」
家の玄関で別れを告げる。こういうときは笑顔で行く。その方が心配をかけないから。
話は今日までにたくさんしてきたから、今話すことはもうない。帰ってきたときに、お土産話をたくさん用意してくればいい。
「行ってらっしゃい。気を付けてね。手紙待ってるから」
「うん」
少しだけ声を震わせた母にぎゅっと抱きしめられる。すると父が、私と母の両方を抱きしめるように抱きついてきた。
父は朝から片時もジッとしている時がなかったけど、大丈夫だろうか。
「気を付けて行ってくるんだよ。ちゃんと元気な姿で帰って来てくれ」
「わかった。二人も元気でね」
それでもしっかりとした声でそう告げた父。
私の両親は優しくて偉大だ。大事な大事な両親を悲しませないように、ちゃんと帰ってこよう。




