第70話 またね
今日はガリナに帰る日だ。
ライラのお仕事が始まる前に別れの挨拶に向かう。結構早朝ではあるけど、ライラ家に向かうとライラとライラのご家族、それからガストンさんが待っていた。
「皆さん、お世話になりました」
「気を付けて帰るんだぞ」
「またいつでもおいで」
「また工場見学に来るといい」
バンスさんとランさん、ガストンさんに優しく言われ、なんだか心が暖かくなる。
ライラのご家族には何度も夕食をごちそうしてもらったし、ガストンさんには工場で貴重な見学をさせてもらった。どちらも楽しくて良い経験になったと思う。
短い間だったけど、大層お世話になった。またいつか遊びに来たいね。
「リ、リアちゃん」
一人一人挨拶をしていたら、ライラのお兄さんに話しかけられる。まともに話しかけてきたのは、これが初めてでは?
「なんでしょう?」
「えっと、その、あー……ま、また来てくれよ。あ、その、ライラも、喜ぶし」
「……はい。また来ますね」
この前ライラから、お兄さんが私に惚れているかもしれない、という話を聞かされているので、なんとも複雑な気分ではある。
まあ、知らない体で返すのが礼儀だと思うので、無難に返事をしておこう。
ちなみにライラとそのご両親は苦笑いをしている。笑ってやるなよ、可哀想だから。
お兄さんとも会話を終え、最後にライラと話をする。
「リア」
「んー?」
「あげる」
そういって落ち着かない様子のライラから服を渡される。紺色のかっこいいパーカー。マウンテンパーカーっていうのに似てる気がする。
仕事着でも持っているのかと思っていたけど、私に渡す用だったのね。
「すごい、かっこいい。ライラが作ったの?」
ライラが大きく息を吐きだして、微笑みながら答えてくれる。
「そうだよ。前に作ったやつだけど、リアでも着れそうなやつ見つけてきた」
「嘘言え。リアちゃんのために前から作ってたやつだろ? 良かったな、褒めてもらえて」
「伯父さん!」
なんと、ライラが前々から私のために服を作ってくれていたらしい。なにそれ嬉しい。
もしかしてあの時サイズを測ったのはこれの為なのか。
「ライラからの愛を感じる……」
「違うから! ちょっとその……その人に合う服っていうのを想像しながら作ってただけで、深い意味はないから!」
これはツンデレか。ライラはツンデレだったのか。可愛いな!
「言い値で買おう」
「いらないよ! それよりも服の素材になるものにしてよ」
「了解。良い物を探しておきましょう」
こうなったら、ビックリするようなすごい素材を探してやろう。見つかるといいな。
昔父が暮れたコートは結局小さくなってしまったので、今は着ていない。せっかくだからこれを着てみよう。
「サイズは良さそうだね」
「うん。すごい。いいね」
フードが付いているし、前もボタン付きで閉まるし、ポケットも付いてる。素材は柔らかくて動きやすいものみたいだ。これなら動き回っても動きに支障は出ないな。
お尻まで隠れるし、なかなか保温性もありそう。
「いい素材使ってるからね。寒さには強いと思うよ。ある程度なら濡れても平気」
「最高だね」
旅に着ていくには最適だろう。暑い場所では使わないだろうけど、寒い時期にはちょうどいい。
でもボロボロにしたら嫌だから、戦闘するときは着ないでおこう。
「これ何か刻んであるの?」
魔道具士であるライラが作った魔道服に、何も刻まれていないということもないだろう。何も刻まれてなくても着るけど。
「大したものじゃないけどね。なるべく頑丈になるようにしてあるから、魔力流して使ってね」
「ちゃんと俺が監修したからキチンと作動するぞ」
ガストンさんがそういうなら、きっとしっかりとした魔道服になっているのだろう。ライラは本当に才能があるね。
防具の代わりになるかはわかんないけど、普段使う分には十分私を守ってくれそうだ。
魔道服は魔道具の一種なので、魔石をセットして使うものと、魔石を使わずに魔力を流して使うタイプがある。
魔石無しで、魔力を流して使うタイプは、私の腕の防具がそうだ。
魔道具は『魔石を使う』か『空っぽの魔石に自分で魔力を溜めて使う』か『魔力を流し続けて使う』かのどれかになる。一番目と二番目は似ているが少し違う。まあその辺りは今はいいだろう。
こんな素晴らしい物をくれるなんて、ライラは本当に優しいね。自慢の親友だ。
「ありがとう。大事にするね」
私の言葉に、ライラは頷きながら微笑みを浮かべる。
「どういたしまして。気を付けてね。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
ライラからの「行ってらっしゃい」は、なんだか嬉しくて寂しくて変な感じ。
またいつか会えるといいな。ううん。いつか必ず会いにこよう。またね、ライラ。




