第7話 勉強がしたいの
その後の私は、父やサイラスさんに言われた通り年相応に遊んだりして過ごすことにした。
エミリーたちと遊んだり、変わった魔道具を見せてもらったり、図書館で魔力回路について勉強したりする時間は、確かに有意義で楽しい時間だった。
今までの私は意味もなく焦っていたのかもしれない。案外あっという間に二年なんて過ぎてしまった。
そんなわけで、八歳になりました。
今日も今日とて図書館へ向かい、魔力回路について調べる。
この街にある図書館はあまり大きくない。でも街の住民であれば誰でも閲覧が可能なので、とっても便利。貸出はしておらず、この図書館内でしか本が読めないがそれは仕方ないだろう。
本の並べられている棚の前で、目当ての本を探す。探すが。
「うーん……」
小さく唸る。実はあまり置いてないのだ。魔力回路に関する資料は。
少ない資料はこの二年間でほとんど読んでしまった。この図書館でこれ以上知識を深めるのは難しいかもしれない。
この世界の魔法は魔力回路がなければ成り立たない。だからそれなりに資料があると思っていたんだが……むしろ逆だったみたいだ。
広く普及しているからこそ、情報が統制されているのかもしれない。単純にこの図書館に無いだけの可能性ももちろんあるけど。
魔法発動石に関して言えば、資料が無かった。魔力回路について調べたら、その本の中に少しだけ記述があるとか、その程度。ほとんどわからなかった。
「こりゃ本格的に学校に行くことを考えないといけないかも……」
王都にこれについて学べる学校があるって言ってたなあ。年齢制限とかあるかな。でも王都に行けばもっと大きい図書館があるだろうし、そこで何とかなるかな。
魔力回路について学ぶことを諦める……っていう手もあるけどね。結構面白くてできればもっと学びたいなと思う。
魔力回路についてもだけど、それ以上に発動石についてもっと知らないと、あんまり意味がないんだよね……。
魔力回路自体に熱を持たせたり、冷たくしたりということは可能だ。ただ強力な魔法を打ち出すってなると発動石が必要になる。
魔道具の中には発動石が使われていないものもある。ストーブみたいな暖房器具とかは、別に熱を発してくれるだけでいいので発動石は必要ない。冷蔵庫も同様だ。ただ冷凍庫になると発動石が必要になる。線引きが難しいね。
そして戦いには必須の道具だ。魔法を創るんだったら発動石の知識は必要になる。やっぱりもう少し教材がないとなあ。
「リアって将来何になるの?」
「うーん? まだ考え中かなあ。エミリーは決まってるの?」
今日はお友達と遊んでいる。レオとフィンレーがチャンバラをしているので、女の子三人でお喋り中だ。そんな中いきなりエミリーが将来の夢を聞いてきた。でも正直決まってないのよね。やりたいことは色々あるけど。
「はっきり、これ! っていうのはないんだよね。ロージーは?」
「わたしのお父さんお皿とか作ってるから……お家の仕事を手伝うことになるんじゃないかなって思ってるの」
「そっかあ」
ロージーのお父さんは所謂陶芸家だ。販売もしているから、作るか売るかの手伝いをしていくことになるんだろうな。
この世界の子供は基本的に親が自営業ならその跡を継ぐのが一般的だ。まあそれは前世も大して変わらないか。
「オレは冒険者になるぞ!」
チャンバラを終えて汗をぬぐいながら近づいてくるレオ。フィンレーも汗をかいてるのに、なぜかちょっとキラキラしてるように見える。さすが爽やかイケメン。
「レオの家は布を売ってるんじゃなかったっけ?」
「それは姉ちゃんがやるからいいんだ! オレは冒険者になる!」
「それで最近棒を振り回してるのね」
剣ではない。それくらいの長さのただの木の棒だ。
「フィンレーは? 付き合わされてるけど」
「ボクは……決まってないなあ」
「フィンレーも一緒にオレと冒険者になればいいだろ。結構強いし」
「そうだなあ。それもいいかもね」
「よっしゃ!」
仲間をゲットできて嬉しそうなレオ。私も冒険者になったら入れてもらおうか。それはそれで楽しそうだ。
「冒険者もいいかもなあ」
「リアは戦えるのかい?」
「魔法は使えるよ」
「リアちゃん魔法使えるの?」
「うん。そろそろ本格的に鍛えようかな」
あの頃から二年経った。もう一度お父さんやサイラスさんに戦い方を教われないか聞いてみよう。
この街の中での生活も悪くはないけど、やっぱりせっかく異世界に来たんだもの。いろいろ見て回りたいよね。まだまだ先の話だけど。
「鍛える?」
「お父さん冒険者だし、お願いしてみようかなって」
「なんだそれ! ずるいぞ!」
そんなこと言われても。まあレオなら食いつくんじゃないかなーとは思ってた。むしろレオやフィンレーを巻き込めばお父さんもオッケー出してくれないかな。
「リアのお父さんってジェームズさんだよね。Cランク冒険者の」
「そうだよ。毎日剣の手入れしてる」
「リア! オレも! オレも鍛えてもらえないか頼んでくれよ!」
「ちょっとレオ、リアが困るでしょ」
「まあ、頼むだけならいいよ。私だって許可もらえるかわかんないし」
「よっしゃー!」
めっちゃ喜んでるけど、確定じゃないからな?
「フィンレーはどうする?」
「そうだね、ボクもお願いしようかな」
「わかった。一応お願いしてみるけど、ダメなら諦めてね。お父さん過保護だから」
本当に過保護なんだよね……どこ行くにもついてこようとするし、ついて行けなければ詳しく話すように言われるし。
中身の年齢がすでに三十代近いからそこまでの過保護はちょっと……だいぶキツイ。
「前に一度僕たちの様子見に来たよね、ジェームズさん」
「その日はずっと様子見てたよね」
「リアちゃん恥ずかしそうにしてたのー」
「最後にはリアの母ちゃんに引きずられていったよな」
「うわぁぁぁぁ……ごめん……」
ホントに! ホンットに! もう!!
「ダメ」
「はあ……」
あの後みんなと別れて帰宅。お父さんもお母さんも帰ってきてみんなで夕食を食べて、いざお願いをしてみたら一言で拒絶された。そら溜息も出る。
「ジェームズ、少しは話を聞いてあげなさいよ」
「何を言っているんだ。可愛い娘に刃物を持たせるなんて、危険すぎる!」
「過保護すぎよ。身を守る術くらい持っていないと却って危険だわ」
「僕が守るからいいんだ!」
「「はあ……」」
私とお母さんの溜息が重なった。お父さんは一体なんなんだ。いや、心配してくれてるのはわかるけど。
「刃物がダメなら魔法ならいいの?」
「む、わざわざ戦う術を身に着ける必要なんてないだろう」
言いたいことはわからなくないけども。あれもダメこれもダメって、この人私に何をさせたいんだろう。
「お父さんは私に何を望んでるの?」
「安全なところで僕に守られててほしいな。僕たちの大切な娘だからね」
「ジェームズ、リアだっていつまでも子供のままじゃないんだから」
「わかってるさ……いつか嫁に出す日が来るかもしれないし、リアを守る役目を誰かに譲らないといけない時が来るだろう」
私が男性と結婚することはないです。男性と結婚するくらいなら一生独身でいいです。誰かに守ってもらうのだって嫌。口には出しませんけど。
「でも、わざわざ鍛える必要はないだろう?」
「リアにだってやりたいことの一つや二つあるでしょう。背中を押してあげるのが親の役目よ」
「しかしだなぁ……」
ん~まず、私のやりたいことを明確に言葉にしないとダメかな。
第一に魔力回路の勉強。そのためには王都に行きたい。一日二日じゃダメだ、長期間滞在したい。
そうなると、必然的に父や母とは離れることになる。私にわざわざついてきてもらうわけにはいかない。
母は商店で雇ってもらえてる。ここを離れるということは仕事を辞めるということになる。それはダメだ。この世界ではそう簡単に仕事につけるわけじゃないんだから。
父は冒険者だけど、その母を置いてついてくるなんて許さない。
離れてしまえば誰も私を守ってくれない。自分の身は自分で守らないと。
「王都に行きたいの。魔力回路について勉強したい」
「なら父さんと一緒に行こう」
「数日じゃなくて、もっと長い時間いたいの。その間お母さんをここに一人で残すの?」
「それは……」
「もしそうだって言ったら私お父さんを嫌いになるよ」
「か、母さんだけ置いて行ったりしないさ」
「家族みんなで行くのは無しよ。せっかく雇ってもらえたんだから」
「うぐ……じゃあ、じゃあ……えっと……」
母が味方で助かるね。だが具体的にはどうしようか。もう少し大人になってからとか言われて逃げられたら、また振り出しに戻ってしまう。
「サイラスさんに頼んでみたら? あの方は王都で仕事をしていることが多いんでしょう? 学校にも詳しいみたいだし、話を聞くだけでも」
「サイラス……サイラスかぁ」
確かに。いい案かもしれない。連れて行ってもらうのはさすがに図々しすぎるけど、王都について教えてもらうだけでも解決策が思い浮かぶかも。
「わかった。今度サイラスを呼んでこよう」
「ありがと、お父さん。大好き」
「僕も大好きだよリア! すぐに都合をつけるよう頼んでみるよ!」
ちょろいなあ。
そんなわけで、サイラスさんに王都について聞かせてもらうということで一旦この話は終了した。




